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七十一話 一周年と新居公開

第三者視点です。

7/26 誤字を修正しました。

「さあさあ! とくとご覧あれだホーホゥ!」


 季節は流れて――十二月の中旬。

 太郎が就活から逃げて探索者となり、何やかんやと色々あって早くも『一年』が経った。


 そんな太郎をはじめ、誰一人命を落とす事なく、今日まで順調な探索者ライフを送ってきた『迷宮サークル』。


 その内の一人、いや一匹。

 索敵担当のミミズクことズク坊は飛び回り、来客に対して自慢げに口を開いた。


「チュチュ。これはまた良いところだっチュな!」


 ズク坊に答えたのは、猫サイズなハリネズミことクッキーだ。

『ハリネズミの探索者』パーティーのメンバーで、東京に用があってやってきていた。


迷宮決壊(ダンジョン=コラプス)』以降、クッキーは相棒の白根と共に二度ほど東京に来ていたが……『この場所』は初めてである。


 かつてパーティー会議や飲み会を開いた、上野にある1LDKのマンション――ではない。


 実はちょうど一週間前、太郎とズク坊は引っ越していたのだ。


「ホーホゥ。前の家はキレイだけど、皆で集まるには手狭だったからな」


 というズク坊の言う理由により、季節はずれな二度目のお引っ越し。


 彼らは四月に引っ越したばかりだったが、金銭的にも余裕があったため(『目玉の狩り場』でガッポガッポ!)、思い切って決断していた。


 ――とはいえ、立地的にはそこまで変わってはいない。


 活動ベースは『上野の迷宮』なので、徒歩三十分圏内。

 前の家からは徒歩十分くらいだったので遠くはなっているが、探索者の身体能力からしたら大した差ではない。


 ちなみに、すぐるも川崎から上野に越してきている。

 太郎が前に住んでいた家の近くに、新築で1LDKのマンションを借りていた。


 というわけで、クッキーに新居を公開するズク坊。

 人間組はギルド本部に行っているため、今はズク坊とクッキーに――そしてもう一匹。


『キュルルルゥ』


 花蓮の従魔でパーティーの回復役を担う、スコットフェアリーのフェリポンである。

 スラポンと違って小さい上に空を飛んでいるので、『従魔帰還』を使わずに花蓮が出しっぱなしにしていたのだ。


「そういやフェリポンもこの家の中に入るのは初めてだったな。……んじゃ、俺についてくるんだホーホゥ!」


 そんな初招待な二匹に、ズク坊は説明と共に家の中を披露していく。


 まず、新たな住居は賃貸の『タワーマンション』だ。

 十五階建ての七階の部屋で、間取りは2LDKなのだが……なんと珍しいメゾネットタイプとなっている。


 リビングの天井高さが二階分あり、上にある六畳ほどのスペースを含めて、ズク坊が広々と飛べるのも決め手の一つとなった。


 また、マンションの顔であるエントランス。

 こちらも上部に吹き抜けがあるなど立派な造りで、大理石でこそないものの、上質なタイルやらを使って壁も床も高級感が感じられる。


 ――そして、肝心の部屋の中について。


「キッチンはアイランドキッチンってやつだぞ。ホーホゥ。どうだおしゃれだろ?」

「チュチュ、使い勝手も良さそうっチュな。それにこれは……生ゴミが処理できるというディスポーザっチュね! しかもキッチンの奥にはパントリーまで!?」

『キュルルゥ』


 驚きを隠せないクッキーとフェリポン(?)の反応に、ズク坊は嬉しそうに空中で一回転する。


 そのまま着地する事なく……お次は風呂場の方へ。

 ピカピカなフローリングの廊下にて、白いミミズクの後ろにハリネズミと妖精が続くという奇妙な光景が生まれる。


「驚くなかれ! なんと洗面台は二つもあるんだぞホーホゥ!」

「こ、これもスゴイっチュな! 玄とすぐるが飲み過ぎて同時に吐いても――って、お風呂にはテレビも付いてるんチュか!?」

『キュルルゥウ』


 ズク坊の翼でビシィッ! と指し示されたのは、シックなデザインの風呂に備え付けられた小型のテレビ。

 まさかの場所にまさかのものが存在するのを見て、クッキーとフェリポン(?)は衝撃を受ける。


 ……このテレビの存在により、テレビ好きな太郎とズク坊の風呂の時間が延びたのは言うまでもない。


「まだまだ紹介するぞ。ホーホゥ。今度はこっち、見てみよこの広々としたウォークインクローゼット!」

「チュっ!? そんなバカな……。大人の人間が何人も入れそうっチュよここ!?」

『キュルルゥ』


 立て続けに出てくる新居のポテンシャルに、ノックアウト寸前なクッキーとフェリポン(?)。


 クッキーに関して言えば、「これが大都会東京ってわけっチュね……!」と白旗を上げている。


 なぜここまで驚くのか?

 それはクッキーが住んでいる家とはまるでレベルが違ったからだ。


 別にケチなわけではない。

 ……というか、稼ぎだけなら白根達の方がまだ上である。


 白根もクッキーも、テレビのお宅拝見は好きなくせに、『家は寝るだけ』のものという認識があったのだ。


 大阪の堺市にある、築三十年のごく普通の木造一軒家。


 意外にもグルメで、食や服にはそれなりに金をかけている一方、

 他の超一流探索者達が建てた『探索者御殿』と比べても、『余裕で億越え』の収入面から見ても。


 家に関しては、拍子抜けするくらい大した事がなかった。


「どうだクッキーにフェリポン! これが俺とバタローの新たな城だホーホゥ!」


 ズク坊はメゾネットタイプの二階部分の手すりに立ち、下のリビングにいるクッキーとフェリポンを見下ろす。

 大きな窓からはベランダ越しに、薄暗くなった事で街の灯りが見え始めていた。


 そんなズク坊(あと太郎も)は……気づいていない。


 二十三の若造とミミズク一匹がこんな立派な家に住むとか、いくら稼げる探索者と言ってもクソ生意気である、と。


「――ただいまー。皆、留守番ご苦労様だったな」


 と、ここで。

 ガチャッ、とリビングのドアが開き、もう一人のクソ生意気――ではなくて、一流の仲間入りを果たした探索者が帰ってきた。


 後に続くのは『迷宮サークル』、その仲良しパーティーメンバーと、『ハリネズミの探索者』の白根玄だ。


「ホーホゥ!」

「チュチュ!」

『キュルルルゥ!』


 間髪入れず、ズク坊とクッキーはそれぞれ相棒の右肩と頭の上へ。

 フェリポンは淡いピンクの羽をはばたかせ、主人の顔の周りを優雅に飛び始める。


 その微笑ましい光景の中で、ただ一人。


 アイランドキッチンに移動したぽっちゃり火ダルマな魔術師が――両手に持ったスーパーの袋を掲げて一言。


「先輩とズク坊先輩の探索者デビュー一周年を祝って! 今日は肉三昧の『鍋パーティー』ですよ!」

楽しい仲間に恵まれて良い家に住む主人公。

あとは彼女がいれば……完璧なリア充です(そうする予定は微塵もなし!)。

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