六十九話 目玉の狩り場
「よし。久しぶりに潜りますか!」
パーティーの装備を揃えた後。
俺達は住宅街の中にポツンと立つ、二十メートルの大木の洞が出入り口となる、ホームの『上野の迷宮』に来ていた。
まあ、久しぶりと言っても十日間くらいだけどな。
かなりの回数潜っているから、呼吸するように慣れた感じで一層に下りていく。
「……では先輩、予定通りに僕とスラポンで進みますね」
『ポニョーン』
「おう。任せたぞ」
事前に決めた通り、前衛の俺と後衛のすぐるの位置をスイッチして俺達は進む。
新たなローブの具合を確かめるにもちょうどいいし、上層では誰が前衛を務めても問題ないしな。
というわけで、すぐるとスラポンに任せて俺達はサクサクと進む。
どれだけモンスターが固まっていても関係なし。
雑草茂る一層~四層まで(三層は空の三層だけど)、最短ルートでゴリ押しの行進である。
そうして五層、トロールの階層に到達したところでチェンジ。
俺が前衛に戻って、二十牛力の『闘牛気』で打撃を飛ばし、一切触れずに沈めていく。
別に戦うのはすぐるでもスラポンでもいいのだが……時間が惜しいからな。
すぐるもスラポンもフェリポンも温存して、俺一人で暴れ回る事にした。
ズン! ドゴォン! ドズゥウウン! と、派手な音と震動と共に進む。
そうやって一方的な蹂躙をしていけば――鍛練期間に何度も来ていた、六層へとたどり着いた。
「さて、装備で使った分を回収させてもらうとしよう」
俺は鎧を纏う体にやる気を漲らせて、迷宮を威圧するように、大股で足音を鳴らしながら歩く。
ここ六層になると、『上野の迷宮』の特徴である雑草もかなり深くなっている。
膝が完全に隠れる草の丈を見れば、まさに草原といった感じだ。
また天井も壁も同じくらいの草の丈と量なので、草に侵食されすぎて、もはや洞窟とは思えない様相だった。
「ホーホゥ。こっちに近づいて来てるからもうすぐだぞ」
と、そんな草まみれの中を、相変わらず燃え移る気配がないので、火力が増した『火ダルマモード』のすぐるの灯りで遠慮なく進んでいたら。
ズク坊の声が響いた十数秒後。
巨大で草原洞窟な迷宮の中に、『金のなる木』が曲がり角を曲がって現れる。
迷宮内を巡回するように、不気味に宙に浮いて動く――デカイ『目玉』だ。
◆
「いつ見てもクソ気持ち悪いな」
「ゲロ怖いとも言うぞホーホゥ!」
「迷宮というかお化け屋敷にでもいそうなモンスターですよね」
「ううん? そうかな? ちょっと可愛い気も……」
若干一名を除いて、俺達は現れた目玉を見て鳥肌を立てる。
六層出現モンスター、『エビルアイ』。
直径二メートル弱の球体状で、ガチで体が目玉だけのモンスターだ。
瞳は常に見開いていて、たまに桜色の皮膚部分(目蓋)が閉じて瞬きをしている。
それが草の丈ギリギリ触れない高さで、わずかなブレもなく静かに浮遊していた。
その姿を見ていると……改めて思う。
不気味や気持ち悪いという感想は、どんなに血や死体を見慣れていても至極当然なものだろうと。
で、だ。
そんなグロテスクなエビルアイだが、六層の住人だけあって五層のトロールよりも強い。
『岐阜の迷宮』で言うところのデュラハン級。
『指名首』ではないので、今のすぐるなら一対一でも勝てる相手だ。
……とはいえ、油断はできないけどな。
巨大な目玉から放つ凶悪な特性、『レーザー光線』は間合いなどお構いなしの厄介な攻撃だ。
「本音を言うならあまり戦いたくはないけど、困った事に金になるんだよなあ」
俺は呟き、鳥肌が立ったまま深いため息をつく。
素材としてのコイツは、大体百万~百五万の価値がある。
まして今は需要が高まって品薄状態らしく、百二十万ほどまで高騰していた。
医療分野で大活躍らしいが……まあそこら辺は探索者だから分かりません。
「ホーホゥ。目玉のオヤジはまだこっちに気づいてないみたいだな」
「らしいな。んじゃ先手必勝でいくか――すぐる」
「はい先輩!」
返事と同時、燃え上がるすぐるが右手を突き出して魔術の発動を開始。
火ダルマから分離するように、必殺の『火の鳥』が前方へと放たれる。
――と同時。ぐるんッ! と。
魔力を感知したエビルアイが、目玉をこっちに向けて黒眼部分を『光らせた』。
そして訪れた、チュドォオン! という甲高くて異質な衝撃音。
すぐるが放った火の鳥とレーザー光線が真正面からぶつかり合い、空中にて爆散した音だった。
……ちっ、やっぱりレーザーだけあって攻撃力だけは高いな。
耐久力は六層モンスターにしては脆く、機動力もかなり低い反面。
攻撃力の一点に関しては、十層モンスターよりも強いとされている。
熱、速度、貫通力――からの威力。
実際、装備で強化されたすぐるの『レベル6』の魔術が相殺されたしな。
「まあ、だからこその早期決着。時給に換算したら『絶好の狩り場』ってわけだ!」
俺は『闘牛気』を纏い、『牛力調整』も使って突撃しながら笑う。
これからは基本、ここ六層を狩り場にして稼いでいく。
まだ潜っていない七層、いや十層くらい? からが『鍛練の場』で、力を磨く場所と金を稼ぐ場所を分ける予定だ。
――あ、そうそう。
ちなみに今まで一度も触れていなかったが、『上野の迷宮』は十五層まで判明している。
それ以下の層は『未踏破区域』。
どれだけ続くか、どうなっているかは実はまだ調査されていない。
ギルドのお偉方達によると、
だいぶ深くて二十層くらいあるのでは? との推測らしい。
全国の迷宮の八割ほどは最下層まで調査されているから……俺達のホームは結構珍しいのだ。
「ギルド総長にもしれっと頼まれちゃったしなあ……。攻略するならだいぶ大変そうだぞ」
などと余計な事を考えながら、それでも超速度のレーザー光線を回避しまくる俺。
発動してからではとてもじゃないが避けられないので、黒眼部分がカッ! と光る寸前に射線から外れる。
別に『プラチナ合金アーマー』と【モーモーパワー】のタフさなら、一、二発くらい受けても大丈夫だろうが……。
レーザーというのは撃つものであって、決して受けるものじゃないのですよ!
結果、チュドォオン! というレーザー特有の嫌な音から迷宮内が壊れていく。
壁や足元が抉れてクレーターが生み出され、瞬く間に周囲が惨状と化してしまう。
なので、そろそろやめてもらうとしよう。
迷宮はやたら頑丈(壁も地面も、ある一定の深さから傷一つつかない)から崩れないし、
俺一人が突っ込んで、仲間が離れた比較的安全な位置にいるとしても、な。
「『高速猛牛タックル』!」
回避から一転、一気に攻撃をしかける。
直径二メートルな目玉のド真ん中、丸裸な黒眼の中心に右肩からブチ当てた。
そして響く湿った肉が潰れる音。
鎧の肩部分の円錐状の棘からメリ込み、ビクン! とエビルアイが大きく震えた。
感触といい音といい……決着の瞬間までグロテスクだ。
まあ、金のためを思えば我慢我慢。
『闘牛気』で打撃を飛ばす方法もあるが、それだとまだ調節が難しくて素材が傷つく危険があるからな。
「……ふう、」
俺は鎧についた体液をせっせとキレイに落としてから。
腰に提げた剥ぎ取り用ナイフで、手術みたいに目玉の体を切開していく。
拳大の桜色の魔石と、一番の素材となる『網膜』を剥ぎ取ってから――皆の方に振り返ってリーダーとして一言。
「さあ頑張るぞ皆! 今日の目標額は一人当たり『五百万』でいこう!」
次回、やっと正式なパーティー名が決まる予定です(遅すぎてすいません)。
あと、主人公の体重の関係から、迷宮はある一定以上は傷つけれず、崩落もしない設定にしました。




