六十七話 回復役IN=安定
ちょっと短めです。
「いっけえフェリポン! バタローに『精霊の治癒』だよ!」
花蓮の指示が迷宮内に響く。
続いて、早速『フェリポン』と名付けた新たな従魔、スコットフェアリーから俺の体に癒しが届いてくる。
「うおおっ……!」
『プラチナ合金アーマー』を纏った重戦士な俺の全身に、淡いピンク色の霧みたいなものが纏わりつく。
湿気も臭いもない、けれど少しだけ温かくて心地いい感覚。
そんな不思議な霧状のものに、身を任せて包まれていたら。
見る見るうちに体力が戻り――ものの数秒で完全回復してしまう。
これは……思っていた以上にスゴイな。
実は今、俺は『過剰燃焼』を使って体力の三分の一を消費していたのだが……。
淡いピンクの霧は鎧の上から体に染み込むように消えて、あっという間の回復劇!
小瓶に入った『ミルク回復薬』を飲むよりも早く、消費した分の体力が即行で戻ってきたのだ。
「どうだったバタロー? フェリポンの『精霊の治癒』は!」
「うん、さすがだな。強力な回復系の特性……スコットフェアリーを選んで大正解だと思うぞ」
ハイテンションな花蓮の問いに、俺は大きくうなずいて答える。
スコットフェアリーのフェリポンを従魔にした後、俺達はそのまま四層にて、『精霊の治癒』の効果のほどを試す事に。
グレアゴートを相手に体力を削られ……はしないので、『過剰燃焼』を発動して自分から体力を削ったのだ。
その結果がこれ。
回復量は凄まじく、また前衛と後衛で十メートルも離れていたのに問題なく届いてきた。
疲労の回復がここまで可能なら、同じく傷の回復も相当なものだろう。
「ホーホゥ。俺の索敵と同じくらい優秀な回復担当か?」
「みたいですねズク坊先輩。これは何とも心強い存在です」
『ポニョーン』
ズク坊、すぐる、スラポンも(?)感嘆の声を上げる。
新たなジョブについた新たな仲間は、体のサイズとは裏腹にとても頼りがいがあるぞ。
――あ、そうそう。
今は『過剰燃焼』で消費した分を回復してもらったが、これはあくまで実験だからな。
基本は壁担当のスラポンの体力を第一に、次が援護担当のすぐるの魔力で、最後に火力担当の俺という感じ。
実戦では『過剰燃焼』が必要なレベルの強敵と戦わない限り、俺が回復のファーストチョイスになる事はない。
特に、前衛のスラポンにとっては極めて重要だ。
いくら耐久力がある種族で、パーティーを組んでから順調に成長して強くなっていても。
ラージスライムの種族的な限界はトロールより『少し上』、どう頑張ってもデュラハン級まで。
これからさらなる上位のモンスターと殺り合うには、スラポン&フェリポンの連携は必須だろう。
ともあれ、俺の方もこれで諸刃の剣の『過剰燃焼』を使うハードルが下がったのも事実だ。
回復薬を取り出す手間も省けるし、そうなれば後衛の二人と一匹への危険も減るしな。
もし花蓮一人だけのソロなら、遠近どちらかの火力担当の従魔を選んだだろうが……。
そこは俺とすぐるがいるから、パーティーの適材適所というやつですよ。
「グッジョブだフェリポン。これからは皆の体力と魔力の管理を頼むぞ!」
『キュルルルゥ!』
俺の声に、従魔となった事で言葉を理解できるようになったフェリポンが嬉しそうに鳴く。
それから全メンバーの周囲を飛び回り、主人である花蓮の顔の近くにピタッと静止した。
……よし。『精霊の治癒』の具合も確かめられたし、これで仕事は終わったな。
ただ、時間はまだあるから――あとは迷宮内で一暴れするとしよう!
◆
『呉の迷宮』を楽しんだ(?)俺達は、担当ギルドで素材を換金した。
その収入に関してはまあ置いておいて……結局、戦闘においてはかつてないほどに『安全』だった。
フェリポンが後ろから支えているから、予想通りに回復薬の出番はなし。
全員が全員の仕事に集中できて、狩る効率も向上していた。
ダメージだけでなく、疲労もろとも取り除いてくれるからな。
ゲーマーとしては分かっていたつもりでも、やはり回復役が入るとパーティーは安定するらしい。
……あと一つプチ情報を。
やはり全国共通で、探索者ギルドの受付嬢は美人しかいなかったですハイ。
というわけで、迷宮とギルドを出た後は、お楽しみの一つでもある遅めの昼食を取る事に。
広島風……と言うと広島の方に怒られるか。
本場のお好み焼きを、事前に調べていた有名店で(食えない豚肉のみすぐるにあげて)心ゆくまで楽しんだ。
そうして広島市内に戻ってからは、中学の修学旅行以来となる原爆ドームを訪れた。
観光に軽めの食事(牡蠣料理専門店!)にと、最終の新幹線の時間ギリギリまで広島を満喫する。
ちなみに、ズク坊だけ店内には入れないので、こっそりタッパーに入れたものを外に出てからあげたが……本人も「美味いなホーホゥ!」と翼を広げて満足していたのでよしとしよう。
そんなこんなで、『従魔獲得弾丸ツアー』から帰る前に――超重要な事を一つ。
もちろんアレですよアレ!
自分達の分とお世話になっている人達の分、お土産のもみじ饅頭をアホみたいに買い込みましたとも。
「さて、んじゃ新たな仲間と共に――東京へとゴーホームだ!」