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七話 いざ三層

「さて、苦しんだ分だけ暴れさせてもらうか!」


 己の大チョンボからどえらい目に遭った次の日。

 モンスターを倒して基本の体が強くなっていたからか、昼過ぎには回復する事ができた。


 そして、今いるのはアパートでも大学の研究室でもなく、迷宮。

 それも二層へと上がる階段の前、三層のスタート地点に立っていた。


「ホーホゥ。バタロー、体調は万全みたいだな」

「おう、お騒がせしたな。あと付け加えると、体調だけじゃなく【スキル】の方も万全だ!」


 破裂なトカゲと二足なカメを狩って一、二層と突破してきた結果。


 ついさっき【モーモーパワー】の熟練度が上がり、一頭増えて『四牛力』となっていたのだ。


 一牛力の時からそうだが、もはやパワー、タフさ、体重の三つはバケモノ級。

 瞬発力に関しては、重さもあって常識の範囲内なので、俺は完全に『重戦士タイプ』となっていた。


 もし【スキル】を使って相撲を取ったら? 横綱相手でも圧勝だろうな。

 スポーツの世界で迷宮への侵入が『ドーピング扱い』されている理由。それを俺は体感的に理解した。


「んじゃ、真正面から殴り合いますか。……ズク坊、三層は何が出るんだっけ?」

「この階層は『スチールベア』だ。サイズ的には小熊だけど、硬くてタフな相手だホーホゥ!」

「なるほど。熊対牛ってわけか」


 俺はやる気満々に両腕をブン回す。

 すでにズク坊は定位置の右肩から離れ、天井付近を飛んでいた。


 ――いざ進軍開始。


 もう三層なのであらかじめ【スキル】を使っておき、ズシンズシンと豪快な足音で進む。

 途中、モンスターより先に遭遇した探索者パーティーが驚いていたが、命には代えられないので気にしない。


 スチールベアは鋼鉄の毛で覆われ、同じく鋼鉄の爪や牙を武器とするモンスターだ。

 かなり凶暴な性格らしいが、その爪や牙が高く売れるので、積極的に戦って魔石と共にぜひ手に入れたい。


「お、いたいた――ってオイ! もうこっちに向かって来てるのかよ!?」


 体長は百七十センチくらいで俺とほぼ同じ。

 だが、厚い筋肉の上に青白く輝く太い鋼の毛を纏っているので、小兵力士以上の立派な体躯だ。


 また小熊といってもモンスターなだけはある。

 全く可愛くない牙剥き出しの捕食者な顔で、グラァ! と雄叫びを上げて突っ込んでくる。


「上等だ。牛四頭分の力を見せてやる!」


 対して俺は待ち構えて、その猛烈な鋼の突進を受けとめた。

 ズドン! と感じた事もない衝撃が全身に伝わり、肺の中から意に反した空気が押し出される。


 しかし、俺はそれを受けてニヤリと笑う。


 そりゃそうだ。自信満々で受け止めてみたら、衝撃はあれど俺の立ち位置は全く動いていないのだから。


「パワー勝負の真っ向勝負は俺の勝ちだな。やりやすくて助かるぞ小熊!」


 叫び、俺は受け止めた鋼の体を軽々となぎ倒す。

 後頭部から地面に叩きつけ、ガラ空きとなった腹に右拳を落とした。


 鋼と肉が入り混じった、何とも言えない凄まじく鈍い音が鳴る。

 相手の硬さから拳にピリッとした痛みを感じるも、大した事もないので続けて打つ。


 さらに一発、二発――三発。

 計四発の重すぎる拳を叩き込むと、スチールベアはやっと動かなくなった。


 直後。全身が少し熱を帯びたので、身体能力が上昇、つまりスチールベアが死んだと分かった。


「よし。三層でも全く問題なさそうだな」

「ホーホゥ。さすがだバタロー、もはや動物虐待だ!」

「いや動物虐待って! 人聞き悪すぎ!」


 一撃ではなくても、余裕を持って仕留められた結果を受けて俺達は笑う。


 ……ところがどっこい、勝ちはしたが予想外な事態が発生してしまう。


「うわッ!? ヤバイしまった!」


 とある違和感を覚えて、俺は両手を見て気づく。


 左右二発ずつの連打で倒したのだが……。

 革のガントレットの打撃面。その左右どちらも無残に引き千切れていたのだ。


 あまりの衝撃に耐えきれず、五万五千円の『新人セット』のガントレットが悲鳴を上げてしまったらしい。


「あちゃー、やってもうた。まだ三日目だってのに……」

「仕方ないぞバタロー。ホーホゥ。【スキル】の成長で力と防具が釣り合ってないみたいだな」

「ああ。多分だけど、剣で戦っても叩き折れるかもな」


 恐るべき牛の力。四頭集まって鋼を叩けば、そりゃ革なんざもたないか。


 でもなあ……。

 まだお金も溜まってないし、【モーモーパワー】に耐えられそうなモンスターの素材や金属を使った防具は高くて買えないだろうなあ……。


 ま、うじうじと悩んでいても仕方ない。

 ここは迷宮だ。モンスターを倒す事を、生きて帰る事を考えればいいのだ。


【スキル】のおかげで快進撃中だし、そう遠くないうちに買えるようになるさ!


「んじゃ次行くか。魔石と牙と爪はいただいてくぞ」

「ホーホゥ。焦らず地道に稼いでいこう」


 勝者の権利でスチールベアの剥ぎ取りをして、俺達は三層をさらに進んでいく。


 ◆


 三層での二度目の戦闘は二体同時だった。


 しかも、T字路に入った瞬間、運悪く『挟み撃ち』される形で。


「にゃろッ! 図ったように出てきやがって……!」


 とはいえ、パニックに陥るほどではない。

 闘牛四頭+成人男性の力vsモンスター小熊二体なら、まだまだ俺に軍配が上がる。


 なのですぐさま迎撃する。

 もちろん、ガントレットの打撃面は引き千切れたので、拳を痛めないためにも初戦とは別のやり方で。


「バタロー、『闘牛ラリアット』だホーホゥ!」

「モチのロンさ!」


 ズク坊の声とスチールベアの突撃を受けて、気分はもはやプロレスラー。

 俺も走り出し、まず左から襲い来る個体に正面衝突を試みる。


 ――寸前、右腕に力を込めて硬めると、左に抜ける格好でスチールベアの首を狙う。

 相手が飛びかかって体勢を上げてきたのも相まって、見事に俺の腕とスチールベアの首が衝突した。


 ズン! と相当な衝撃が俺の腕、肩、そして全身へと走る。


 同時、防具なしで迎え撃った腕に若干の痛みが生まれ、顔をしかめつつも一気に振り抜いた。


 結果、スチールベアは一回転して地面に激突。

 今の一撃で仕留められたかどうか――を確認する前に、俺はすぐに振り返ってまた走り出す。


 派手な足音を鳴らして右から来ていたもう一体のスチールベア。

 そいつを同じく『闘牛ラリアット』、右腕が少しジンジンするので今度は左腕で、カウンター気味に鋼鉄の首に食い込ませた。


 そしてデジャヴのごとく一回転して地面に落ちたスチールベアと、一つ前のスチールベアを見てみると……、


「お、何とか一撃でイケたみたいだ。……でもこれ、地味に痛いから連発するのは嫌だな」

「ホーホゥ。ともあれ大成功じゃないか『闘牛ラリアット』!」


 俺以上に喜び、ご機嫌でファバサッ、と翼を頬にかすめて右肩に着地してくるズク坊。


 まあ、たしかにそうだよな。

 代償としては軽く痛めただけで骨折とかはしてないし。


 俺達で考えた技、『闘牛ラリアット』。

 素人でも体重が乗せやすく、殴る蹴るよりも超重量級の重さが伝わるので、予想通りに威力が高かった。


 ちなみに、他にも技は用意してある。

 切り札的なやつもあるので、そう簡単に攻略が詰む事はないだろう。


 俺は勝利の余韻に浸るのもそこそこに、片手剣で剥ぎ取りを開始する。


 ソフトボール大の魔石。一際長くて鋭利な二本の牙。左右五本ずつの爪。

 一つ一つがデカイいため、初戦と合わせて三体分を入れたところでリュックがパンパンになってしまった。


「うん。やっぱりマジックバッグがないと全部回収するのは無理だな」

「必要なのは頑丈な防具と大収納のマジックバッグか。ホーホゥ。しばらくは貯金生活だな」


 というわけで、今日の素材回収はここまで。


 しかし、まだ時間には余裕があった俺はズク坊と相談。

 モンスターを倒して身体能力と【スキル】の熟練度を上げる事にした。


 そうしてスチールベアを狩りながら、ズク坊の案内なしで三層を気の向くまま進んでいくと――、


 洞窟型の迷宮内に、ドン! と。


 何とも立派で精巧な造りの、岩の『扉』を発見した。


「うお、実物は初めて見たぞ……。これがリアル迷宮世界の……『ボス部屋』か!」

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