六十五話 二体目の従魔は
「さて、んじゃ次は花蓮の番だな!」
『迷宮決壊』解決作戦を終えて、俺達は一週間ぶりに東京に帰ってきた。
俺の家のリビングには『ミミズクの探索者』パーティーが揃っている。
ズク坊指揮のオーケストラをBGMに、ポテチをつまみながらテーブルを囲んでいた。
――あ、そうそう。
ちなみに今日は月曜日で、帰ってきたのは昨日の日曜日だ。
パーティーとしてはオフの日だったが……花蓮が開いた『無事を祝う会』で、昨日も集まっていたから二日連続だな。
その時のメンツはと言うと、俺達パーティーメンバーに加えて、
花蓮が呼んだ武器・防具屋の店長の佐藤泰山さんに、個人居酒屋を経営する安井野々介さん。
さらに、ダメ元で誘ってみたら、快く来てくれた方がもう一人。
緑子さんと番号を交換したついでに教えてもらっていた、美人受付嬢で妹の日菜子さんだ。
そうなれば移動の疲れも吹き飛び、俺のテンションも大幅アップ!
……ぶっちゃけ、岐阜での『お別れ会』に続いての二日連続のドンチャン騒ぎ! である。
「うん、早く新しい子を迎え入れようっ! 私もスラポンも首を長―くして待ってたんだからね!」
で、今日からまたパーティーでの活動を開始。
そして、その活動内容というのが――ずばり、『新たな従魔の獲得』だ。
二ヶ月の鍛練で、すでに【従魔秘術(二体)】となって枠が増えているからな。
だから今度は花蓮の番。
できればもう一つ空きのある【スキル枠】も揃えたいところだが……まあとりあえず、新たな従魔を獲得してのパーティー強化といこう。
「ホーホゥ。ちゃんと考えて決めないとな」
「ですねズク坊先輩。パーティーとして何を優先するか、とても大事な選択です」
なんてズク坊とすぐるが真面目に言うも、俺と花蓮も含めた全員の顔がニヤけている。
それもそのはず、テーブルの上には『モンスター大図鑑』(探索者ギルド発行)があるからだ。
一言で言うなら『ワクワク気分』。
数多くの個性的なモンスターの姿が載っているのを見れば、敵目線では恐ろしくても、『仲間目線』で見たら楽しくてしょうがない。
というわけで、俺達は二袋目のポテチを開けながらワクワク&真剣に話し合う。
白根さんや緑子さんから受けていた助言も取り入れて、あーだこーだと意見を交わしていき――。
議論を始めて十五分。ついに新たな従魔候補が決定された。
これで行き先、俺達パーティーが潜るべき迷宮も決まった。
……だというのに、俺はついつい……別の楽しみの方を口走ってしまう。
「よし、善は急げだ! ――皆、お好み焼きと牡蠣を食べに行こうかッ!」
◆
前日のヘリコプター移動とは打って変って、今日の移動は新幹線だ。
生意気にも二十代前半の三人とミミズク一匹でグリーン車に乗り(報酬の『五千万』も入った事だし……ねえ?)、おじさん達に交じって列車旅を決め込む。
そんな俺達が約四時間かけてやってきたのは――そう、広島である。
「あ、もみじ饅頭だ! これは……すぐるよ」
「はい、美味しそうですね先輩。一箱買っていきましょうか」
「バカタレ二人共! 饅頭より先にやる事があるだろホーホゥ!」
「バカタレその二っ! お土産は後でいいでしょう! しかも何で一番大きいサイズ!?」
と、駅について即行で俺とすぐるが怒られつつも。
もみじ饅頭と決別(?)した俺達は、真っすぐ寄り道せずに目的の迷宮を目指す。
広島市内でレンタカーを借りて、すぐるの運転に揺られてやってきたのは……『呉』だ。
たしか海上自衛隊で有名なところだったはず。
迷宮で鍛えている『DRT』には及ばないが、屈強な男達が日本の海を守っているのだろう。
――って、話がズレたな。
俺達は呉市に入り、瀬戸内海が見える高台に立つ探索者ギルドの駐車場へ。
そうしてギルドにて、特定探索者は無料となる内部マップをもらい、それぞれ装備に着替えていざ目的の迷宮に向かう。
俺は『プラチナ合金アーマー』を、すぐるは『レッドアラクネの糸ローブ』を、花蓮は『一般探索者セット』を。
それを見て、そういや二人ももっと上等な装備に替えないとなー(特に花蓮)……と考えながら。
俺達は海辺を歩いていき、砂場からゴツゴツした岩場エリアに入っていく。
すると、すぐに迷宮の出入口が見えて、ほんの少しだけ空気が重々しくなった。
『呉の迷宮』。
その様相はまさに海辺の洞窟という感じだ。
造り的にも位置的にも、波で浸食されて出来上がったかのように存在している。
発見当時はあまりに景色に溶け込んでいた事から、普通の洞窟だと思って入り、命を落とした地元民が何人かいたらしい。
「それじゃあ、お邪魔するとするか」
間近に迫る波の音を聞きながら、俺は『闘牛気』を、すぐるは『火ダルマモード』の状態で迷宮に入る。
ここ『呉の迷宮』は全八層と少なく、一層一層の広さもそこまで広くはない。
また出現モンスターの強さも『上野の迷宮』とほぼ同程度なので、そこまで脅威ではないが……。
「『岐阜の迷宮』を経験したからといって、手を抜いたり気を抜いたりしてはダメ。……緑子さんの注意はしっかり聞かないとな!」
「ホーホゥ。でも顔はニヤけてるぞバタロー」
「……む、いかんいかん」
気配を消しているズク坊の指摘を受けて、俺はさらに気を引き締めて進む。
内部はそこまで暗くなく、すぐるの火ダルマがあれば光源は十分。
気になるとしたら少し風が強いかな? というくらいで、特にやりにくさは感じないな。
なのでズシンズシン! と進撃を開始。
一層ではミノタウルス級の殺人ウサギを。
二層ではガーゴイル級のモ○ハンみたいなイノシシを。
三層ではアイスビートル級の炎を纏った牡鹿を。
海辺の迷宮なのに山っぽいモンスターばかりなのは謎すぎるが……。
戸惑いを覚えつつも、俺とすぐるの交代交代で、直接触れずに『闘牛気』の飛ぶ打撃(射程二メートル)と炎で次々と屠っていく。
そうして到達した、『呉の迷宮』四層――。
敵なしの無双状態でたどり着いた俺達は、休む間もなく『捜索』を始める。
「はてさて、いるかな?」
「個体数は少ないみたいだけど……。でも、この階層にはバッチリ出るから絶対会えるよ!」
俺の呟きに花蓮は答えると、ずっと前衛で暇そうにしていた己の従魔の隣へ。
「もうすぐ新しい仲間が入るからね」と言って、スラポンの体を優しく撫でた。
「たしかにいるな。ホーホゥ。このまま真っすぐ進めばすぐだぞ」
というズク坊の報告を受けて、俺達は再び進み始める。
風の強い迷宮内を五十メートルも直進すれば――ちょうど曲がり角の手前でそいつらは現れた。
ブメェエエエ!
キュルルルゥ!
現れたモンスターは二体であり『二種族』。
灰色の毛にギロリと見開いた三つ目が特徴的な、軽トラックサイズの巨大なヤギ。
そして、その周りをひらひらと飛んでいる、淡いピンク色の羽が生えた小さな人型モンスターだ。
……この状況、普通ではないとお気づきだろうか?
迷宮は一層につき一種族が基本ルール。
なので、『迷宮決壊』でも起きない限り、二種族が揃う事はあり得ない。
だが唯一、神出鬼没な『竜』を除いて、『迷宮決壊』とは関係なくルールを破るモンスターが存在する。
それが目の前の、飛んでいる小さな方のモンスターだ。
そして何を隠そう、このルールを破っているモンスターこそ、今回の目的である。
そんな従魔候補を見て、ムフフと笑った花蓮は大声で叫ぶ。
「さあ皆! モンスター狩り――じゃなくてモンスターゲットといくよっ!」
い、一万ポイントに届いている……!
ただただ感謝、このポイントに相応しいという自信はまったくありませんが、少しでも暇つぶしになればいいなと思います。