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六十三話 頂点捕食者

「(何かいると思ったらまさかの『竜』かよ……!)」


 竜。

 その名を知らない者など、迷宮に関係あろうがなかろうが一人もいないだろう。


『岐阜の迷宮』十三層にいた巨大生物は、その姿を見ても圧力を感じても――竜以外に他ならなかった。


 言わずもがな全ての生物の中で圧倒的に最強。

 天敵など存在せず、ヒエラルキーの頂点に位置する生物だ。


 そして、突如として出現した竜は、蛇のような東洋風ではなくガッチリとした四肢を持つ西洋風の、RPGではお馴染みのやつだった。


 迷宮に関して言えば、『亜竜』と呼ばれる竜の仲間もいる。

 準最強格の存在で同じく巨体を誇るため、初見なら見間違うらしいが……どうやらコイツは正真正銘の竜らしい。


 なぜなら、下層の強力で凶悪なモンスターが『一体残らず捕食される』という力の差に加えて。


『最終アタックチーム』を代表する三人が、こちらも捕食者な顔をして口を開いたからだ。


「ついに、か。最後の最後にサプライズで竜たァ、迷宮の神様も粋じゃねェか……!」

「まさかの遭遇だぜ。俺も一度は斬ってみてーと思っていたからな……!」

「まったく、野蛮な君達は僕に感謝してほしいよ? 美しき僕がいたからこそ至高の存在である竜が現れたのさ……!」


 白根さんと草刈さんと若林さんが、巨大空間の奥で『食事中』の竜を真っすぐと見据える。


 ……いやいや待てい!

 たしかに白根さんは竜と戦いたがっているのは知っていたが……アレ見てまだ挑もうとするの!?


「(バカな事を言うな! 相手が相手だ、挑むなど正気の沙汰ではないぞ!)」


 と、そんな三人に小声で叱責したのは、【金色(こんじき)のオーラ】を引っ込めた『DRT』の柊隊長だ。


 今にも段差を下りて巨大空間に飛び出し、ドラゴンスレイヤー! し始めそうな三人に、唯一対等にものを言える絶対強者である。


「(何だよー柊。こんなの滅多にない、もう二度とないかもしれない大チャンスだぜ?)」

「(だとしてもだ。分かっているのか草刈。この状況で戦うなど愚かにもほどがあるぞ!)」

「(こちらに被害が出るのが心配ってわけだね? なら僕達四人以外を下げればいいだけさ)」

「(それでもダメだ。この迷宮は内部が広すぎる。敵の動きを制限できない上に、強力な広範囲ブレスを防げる場所もないんだぞ!)」

「(そりゃそうだが柊……。正直、俺達はやりてェなァ)」


 竜に次ぐ最強格、『亜竜』を仕留めた猛者達の間で意見がぶつかり合う。


 まあ、彼らの立場を考えれば、多少なりとも分からないでもない。

『亜竜』を仕留めて、所有する【スキル】も全員が『レベル9』相当――。


 さらに上の『レベル10』に到るには、絶対に竜を倒さなければならないからな。


 ――探索者の世界にはこんな有名な話がある。

 三年前、世界で初めて竜を倒して『レベル10』へと到達した男が一人いた。


『迷宮元年』から活躍するスイス人の探索者で、彼は当時、世界最大の探索者パーティーを率いるリーダーだった。

 ヨーロッパでも指折りの高難度迷宮、『ベルリンの迷宮』をベースに潜り――そして竜に出会う。


 そこから始まったのは類を見ないほどの死闘。

 迷宮を震わせ、戦場を赤一色に染め上げ、多くの仲間を失いつつも、一時間を超える死闘の末に見事、彼は竜を仕留めたのだ。


 だが、彼自身も多くのものを失った。


 右腕一本に右膝から先、さらに左目一つ。

 それらの重傷によって、結果的に『命』さえも失ってしまう。


 それでも死の間際、竜にトドメを刺した彼は晴れやかな顔で、たしかに言ったのだ。


『もう諦めていたのに……『レベル10』に到ったようだ。お前達よ、生きて帰って伝えてくれ。【スキル】を極めるには、やはり竜を倒さねばならないと』


 ――という事があったため、竜を倒さなければ【スキル】の熟練度はカンストできないとされている。


 もちろん、その時に伝えられた竜と今見ている漆黒の竜は違う姿をしているから、必ずそうとは言い切れない部分もあるが……やはり可能性は高いだろうな。


「(俺達四人、質を見れば挑む価値なしとは言えねェだろう。……あァそうだ。太郎に『重し』として竜の背中に乗ってもらえば、飛行能力を落とせて有利に――)」

「(だから白根よ、ダメだと言っている! そもそも竜の討伐と今回の作戦は別物だ!)」


 俺にとって超絶不穏な発言をした白根さんに、柊隊長が強く否定する。


 そうだそうだ! 挑むなんて断固反対!

 むしろ竜のおかげで十一~十三層の討伐がなくなったので、わざわざ敵に回さなくてもいいだろう。


 別に竜に興味がない、倒すところを見たくない、と言うとウソにはなるが……。


 闘牛二十頭を宿して『闘牛気』を纏い、推定十六トンの体重があるのに、初めて感じるこの小動物感。

 俺自身が死ぬのも、恩人で兄貴分な白根さんをはじめ、人が死ぬ場面を見るのは御免なのだ。


 だから今回ばかりは柊隊長側に回って、何とか説得してくだせえ! と願っていたら。


「き、消えた!? 竜の気配が完全になくなったぞホーホゥ!」


 突然、ズク坊が大声を上げて、巨大空間の先を右の翼で指し示した。


「「「「何ッ!?」」」」


 直後、小声で言い争っていた四人がその方向に視線を巡らす。


 すると、さっきまで霧の中に見えていた、全てが圧倒的な漆黒の巨体が。

 巨大空間のどこを見渡しても、まったくその姿を確認できなかった。


「そういや急に空気も重々しくなくなってるし……。食事を終えて満腹になってどこかに行ったのか?」


 そこからはもう大騒ぎだ。


 白根さん、草刈さん、若林さんの三人を筆頭に、段差を飛び降りて巨大空間へと侵入。

 各合同パーティーが霧の中をかきわけて捜索するも――どこにもいない。


 というか、この巨大空間はまさかの『行き止まり』。

 必死の捜索の結果、竜どころか人一人抜けられる道の一つもなかった。


「一体どうなっている? あれほどの存在が忽然と消えるとは……」


 巨大空間の中央に集合して、柊隊長がアゴに手を当てて考え込む。


 それから再び白根さん達三人を交えて『DRT』を中心に話し合いが行われ、とりあえず十二層へと戻る事に。

 俺も一層上がれば竜がいるかとも思ったが……空気からもズク坊の索敵からもすぐにいないと判明。


 さらに十一層に上がっていくも状況は変わらず。

 どうやら竜は何らかの方法(【スキル】とか?)で、迷宮の外に出た可能性が高かった。


「……ふう、九死に一生とはこの事かもな……」


 気づかれずに命拾いをした感覚の俺は、心の底から安堵する。


 竜との邂逅には度肝を抜かれたものの……まあ貴重な経験ができたと思おう。


 そんな俺とは対照的に、クッキーを頭に乗せた白根さんは至極残念そうに言う。


「もったいねェなァ……。竜と人間、一戦交えてみたかったなァ」

最強モンスターついに登場!(戦うとは言ってない)

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