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六十話 駆け抜ける

前半が主人公視点、後半が第三者視点となっています。

「行くぞ! 副隊長に友葉氏よ、俺と共に流星のごとく突っ込むのだッ!」


 作成開始五日目。

 森川さんのハイテンションな声が響く中、二十牛力に達して得た、闘気ならぬ『闘牛気』の力を引っ提げて俺は進む。


 階層は八層に到達している。

 バジリスクが姿を消してヴァンパイアは残り、そしてまた新たな強力モンスターが姿を見せて立ちはだかる。


 名は『ホワイトスコーピオ』。

 本来は十層の住人であるコイツは、どこか神々しく感じる真っ白い体のモンスターだ。


 体長は優に十メートルを超える。

 サソリの代名詞である尾の毒針とノコギリ状の鋏を武器として、近くにいるだけで寿命が縮まりそうなほどだ。


 事実、神々しさがありながらも、昆虫型特有のグロさと恐ろしさも相まってか、ヴァンパイアさえ嫌って避けるほどの存在である。


 真っ白いその巨体を一言で例えるなら……『重戦車』だな。

 あまりの大きさなので、下の沼を這った状態でも、普通に毒針と鋏が岩の柱の上まで届いてくる。


「了解ッス! んじゃ行くッスか友葉斬り込み隊長!」

「はい!」


 俺、森川さん、副隊長で、三方から警戒しながら突っ込む。


過剰燃焼(オーバーヒート)】に【光の盾】に【銃剣】に。

 それぞれが手札を全て駆使して、巨大な白サソリに攻撃を敢行する。


 そんな全力の猛攻を仕掛ける理由は単純明快。

 ホワイトスコーピオが『滅茶苦茶強いから』だ。


 実はこの戦闘、ホワイトスコーピオは二体目となるのだが――。

 最初の戦闘にて、俺達は、特に俺はコイツの力を思い知らされていた。


 圧倒的な火力を誇っていた【モーモーパワー】の『二十牛力』。

 それがホワイトスコーピオ相手になると、とてもじゃないが圧倒的とは言えなくなった。


 むしろ普通に押されている。

 こうして複数で戦うならまだしも、一対一では『牛力調整』の高速移動だけでは無理。


 たとえ荒々しく全身から湯気、『闘牛気』を出しても【過剰燃焼(オーバーヒート)】なしは考えられない。


 パワーの階級差で当てはめるならヘビー級とミドル級だろうか?

 絶望的な差というほどではないにしろ、ほぼ一方的に叩き潰される相手なのだ。


 あと一つ。もし今の『プラチナ合金アーマー』ではなく、前の装備の『ミスリル合金の鎧』だったら……すでに重傷を負っていただろう。


「『四十牛力』――『高速猛牛タックル』ゥウ!」


 だから反動覚悟で全力で挑む。

 複数で戦っても【過剰燃焼(オーバーヒート)】を使うのは、短時間での決着を考えての事だった。


 一度の戦闘時間はバジリスクやヴァンパイアと比べても格段に伸びている。

 そうなれば結局、気力体力共に削れてしまうし、何より安全面からこういう手段を取っていた。


『もうこのレベルでは前衛も後衛も関係ないわ。全員が一戦一戦を全力で当たるのよ』


 とは今日迷宮に入る前、同じ階層を戦う『北欧の戦乙女(ヴァルキュリア)』の美しきリーダー、緑子さんからもらった言葉だ。


指名首(ウォンテッド)』ゆえに強力な『スキル持ち』。

 下手に使われれば、そこから一気に形勢逆転! もあり得るらしい。


 さらに、最前線を行く我らが恩人の白根さんからも、


『あのサソリからは俺も気は抜けねェから気をつけろ』との注意を受けていた。


 なので、ズドォオオン! と凄まじい音と手応えがあっても気は抜かない。

 体勢が崩れようが悲鳴を上げようが、命が尽きるのを確認するまで、誰一人として手を緩めない。


 打撃、銃撃、魔術。

 早急に体力ゲージをゼロにすべく、白い鎧のような全身に集中攻撃を叩き込んでいく。


 キシャ、ァア…………。


 絶え間ない破壊的な攻撃を前に、凄まじい巨体と圧力を誇っていたホワイトスコーピオから弱々しい声が上がる。


 その五秒後。

 炎に包まれ宙に浮いていた二つの鋏と尾の毒針が、力を失ってズズウン! と沼に落ちた。


「……ふう。何とか【スキル】を使われる前に倒せたか……」


 勝負がついてやっと一息。だがそれも束の間の休息だ。


 ここまで下層に潜ると『量よりも質』で、戦闘自体は少なくなるが……それでも、いつ襲い来るか分からないからな。


 俺達は全員、マジックバッグの中から回復薬(俺は『ミルク回復薬』)を取り出してガブ飲みする。

 そうして次の戦闘への備えが終われば、また全員で岩の柱をピョンピョンと跳ねて進んでいく。


 そんな常に緊張状態が続く中――ヴァンパイアやホワイトスコーピオとの交戦を繰り返していたら。


 五日連続で頑張ってきたご褒美か。

 運良くホワイトスコーピオにトドメを刺したすぐるの【火魔術】が、ついに『レベル6』に達したのだった。


 ◆


「――むむう。さすがに厳しくなってきたか」


 夜。作戦五日目の報告を全て聞き終えたギルド総長は、褐色で屈強な腕を組みながら唸った。


 作戦の成果自体は極めて順調。

 だがその一方、迷宮に対してしっかりと代償は支払わされていたのだ。


 いくら凄腕探索者しか参加していないと言えど、日本を代表する高難度の迷宮をここまで下層に進んでしまえば……さすがにケガ人が多く出ていた。


『最前線チーム』も『中間チーム』も、まだ一人の死者こそ出していない。

 それでも軽傷者から重傷者まで、準備を整えた凄腕を持ってしても全員無事とはならなかった。


 ……ただ、だとしても致命的なダメージで作戦続行不可能、とまでは全くいかないのだが。


 当初の予想通り、突出した凄腕達は相も変わらず圧倒してくれている。

『遊撃の騎士団』の草刈浩司に『黄昏の魔術団』の若林正史、『DRT(迷宮救助部隊)』Aパーティーの隊長に『ハリネズミの探索者』の白根玄――。


 規格外な彼らの存在が、大きく崩れない要因となっていた。


 そして逆に、予想外だったのが……。


「ふむ。こっちの方は思った以上にやるな」


 ギルド総長は『中間チーム』の報告書に再度目を落とす。

『DRT』のB、Cパーティーに『北欧の戦乙女(ヴァルキュリア)』、その他三つのパーティーの方――ではなくて。


『ミミズクの探索者』と『奇跡☆の狙撃部隊(ミラクルスナイパーズ)』の合同パーティー。


 一番の若手と変わり者集団な彼らの活躍は予想以上で、ギルド総長をはじめ、関係者達の頬を思わず緩ませていた。


 アフリカの高難度迷宮ではお馴染みの、ホワイトスコーピオ相手でも問題なく対処したらしい。

 凶悪な【固有スキル】、溜め時間が必要な【絶対貫通針(ぜったいかんつうばり)】を一度も発動させずに倒しきったのだ。


 出たケガ人も後衛の狙撃手一人だけ。

 しかも軽傷であり、その原因も『うっかり仲間の火ダルマに近づいて火傷した』というものだった。


 つまり、実質被害ゼロで七、八層を切り抜けたのだ。

 まあもちろん、彼らには優秀な索敵ミミズクがいて、危なそうな場所を的確に避けていたのも大きいが。


「被害はあれど、全体的に見れば順調だな。これなら『最終アタック』も万全の布陣を敷けそうだ」


『最前線チーム』と『中間チーム』により、この二日間で七~十層は制圧できた。

 下層では護衛付きで研究者チームも入っており、『迷宮決壊(ダンジョン=コラプス)』の原因究明作業も始まっている。


 残るは十一、十二、最下層(十三層)の制圧――。


 いよいよ作戦も大詰めとなってきて、ギルド総長は最後の仕事に入る。


『最終アタックチーム』の編成。

 これが終われば後は彼らを送り出し、ギルドのトップとして信じて待つのみ。


 ギルド総長はここ毎日の日課である、『岐阜の迷宮』の方角を睨みながら――強い決意で呟く。


「もう一踏ん張りだ。一日も早く平時に戻さなくてはな」

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