閑話二 花蓮は見た。
ちょっと短めです(あとちょっとふざけました)。
「よし、それじゃ始めようかな」
太郎、ズク坊、すぐる達が岐阜で奮闘している頃。
ただ一人東京に残されたパーティーメンバー、飯田花蓮は腕まくりをしながらそう呟いた。
現在、彼女がいるのは太郎の家だ。
鍵を渡されて、主人とミミズクのいない部屋の掃除をするために来たのである。
結果的に男の家に一人上がり込む。
いくらパーティーのリーダーの家で、頼まれたと言っても普通なら躊躇するだろうが……花蓮は違う。
やる気満々、気分は家政婦!
まあ、そもそもの前提として、花蓮は一人だとは微塵も思っていない。
【従魔秘術】の『従魔帰還』により、常にスラポンを体内に宿しているからだ。
そしてもう一つ、真っ先にソファに置かれたクマの人形、『くまポン様』の存在もある。
だから花蓮は特に思う事もなく作業を始める。
パーティーに入ったおかげで生活も安定(というか裕福)したので、その感謝を込めての大掃除だ。
玄関を掃き出し、トイレと風呂を磨きあげ、リビングとキッチンも隅から隅までキレイにしていく。
「ふうー、」
そこでひとまず休憩。
『勝手に漁っていいぞー』と言われていた黒毛和牛の肉まんを、同じく冷蔵庫に残っていた手作りバナナシェイクで流し込む。
そうして小休憩を挟んだ後。
花蓮は最後に残った寝室に入り、さてどこから手をつけようかな――そう思った矢先。
「ありゃ? ここは特に汚いなあ」
大きなダブルベッドの下に、『みかん』と書かれたいくつもの段ボールを発見。
埃まみれな床からまず一つ引き出してみれば、大量のDVDがぐちゃぐちゃに収納されてあった。
それを見て、ついつい手に取りタイトルを確認する花蓮。
『決戦! メガシャークvsヤマタノコブラ』。
『ああ、闘牛士の人生よ』。
『芸人大運動会~夏の陣~』。
「――むむぅ?」
その中で、毛色の違うものが一つ――否、たくさん出てくるわ出てくるわ。
計三つの『みかん』の段ボールの内、およそ『二・五箱分』がそれだった。
『神の舌を持つ女子大生』。
『ザ・青空ハーレム~ボリューム⑧~』。
『淫乱迷宮二十四時』。
……女子ならドン引きの光景である。
加えて、自分で掃除を頼んでおいて、『ノータッチエリア』を指定しておかないとは……太郎の詰めも甘すぎる。
だがしかし!
ド天然な花蓮は何を血迷ったのか、そのDVDの山を見て大きくコクリとうなずいた。
「なるほど。バタローはこういうのを見るんだね。リーダーの趣味趣向は……メモメモ」
彼女の頭の中では、【モーモーパワー】の『食問題』並の扱いになっている。
こういうのも把握しておけば、パーティーでの探索でも何か役に立つと本気で信じて。
……一応、彼女の名誉のためにも一つだけ。
天然でズレているおバカだと思われがちだが、天然でズレてはいても、決しておバカではない。
彼女は家庭事情で大学を中退したと言っても、エロDVDを放置したままの、どこかの元バカ大学生なリーダーとは違う。
通っていたのは誰もが知る有名私立大。
しかもストレートで入学した、偏差値にして『67』という才女である。
まあ、その『中三女子』な見た目(黒髪ショート&そばかす&童顔)に加えて、こういった言動のせいでとてもそうは見えないが。
ともあれ、相変わらず花蓮は張り切って片づけていく。
キレイに整理整頓して、色々と詰まった『みかん』をベッドの下に戻す。
そこから十分とかからず、花蓮は一切の見落としなく寝室をキレイさっぱりに。
これにて掃除完了――。
一家の大黒柱だけあって、しっかりしている部分もあるのだ。
迷宮風に言えば、【掃除スキル】『レベル7』くらいはあるだろうか?
そんな花蓮はソファで見守っていたくまポン様を抱き上げ、さらに自分のお腹をポンポン叩きながら言う。
「ようし終わったよ! それじゃ帰ろうかスラポンにくまポン様!」
今後の投稿は3~5日ペースくらいを予定しています。