五十六話 新たな鎧
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6/8 新装備について大幅に修正しました。
「っあー。激しくなってきたな……」
作戦開始三日目。
俺達は二層の深くまで進攻して、激しい戦いの中に身を置いていた。
その証拠が俺の『ミスリル合金の鎧』だ。
二日目午後の戦いで右腕部分が大きくへこみ、初めて重度の損傷を負ったのだが……、
奥へ奥へと進むにつれて、三層に近づくにつれて。
その損傷を負わせた原因、二層最強格のローズタンク(本来は五層モンスター)の割合が増していた。
結果、ただの『薔薇祭り』。
幸い『スキル持ち』に当たる事はなかったが、その耐久性と数から白根さんとクッキーも含めた激戦となる。
そうなれば自然と一対一が多くなり、鎧の方は順調に損傷個所を増やしていく。
あの五本の蔓を一本に集束させた必殺の槍は、どいつもこいつも個体差なく強烈だった。
……まあ、その点については想定済み、すでに手は打ってあるけどな。
お世話になっている武器・防具屋の店長、佐藤泰山さんに連絡をしていた。
緊急で『新たな装備』を用意してもらい、さらにギルド関係者も動いてくれるらしく、今日の午後には届く予定になっている。
「だからそれまでの辛抱! ――で、ズク坊。次はどっちだ?」
「二十メートル先の丁字路、その左右どっちにもいるぞ。それぞれ二体づつ、全部薔薇の怪物だホーホゥ!」
「くっ、またかい!」
俺は『ミルク回復薬』をがぶ飲み、ダメージというより疲労を軽減させる。
まだ【過剰燃焼】は温存しているものの、『狂牛ラッシュ』で突撃と後退を繰り返しているからキツイのだ。
とはいえ、別にマイナスな事ばかりでもない。
――『十八牛力』。
ひたすら薔薇の蕾と花びらを散らせていたら、ここに来て二牛力も上がっていた。
「さァ、また一戦といこうじゃねェか。昼までには最終ポイントまで到達するぞ!」
白根さんの言葉を受けて、再び気合いのスイッチを入れ直す俺達。
すでに緑の霧の先にある丁字路からは、不気味に揺らめく蔓がいくつも見えている。
美味しいホテルの昼食にありつくためにも、あとひと踏ん張り。
敵の姿を確認した瞬間、電撃と竜巻と爆炎と激震が迷宮内に響く。
もう何度目かも分からない、派手な開戦の狼煙は上がった。
◆
「ふぉ、ふぉおおおお!」
薔薇狩りを終えた三日目の午後。
昼食を取ってから戻ったホテルの部屋で披露された『それ』を見て、俺はバ○タン星人みたいな声を上げてしまう。
まあそれも無理はない、と言わせておくれ。
なぜなら久々に、俺の少年心をくすぐるものが目の前にあるのだから!
「ほほォ、こっちはこっちでカッコイイじゃねェか」
興味を持って見に来た白根さんが唸る。
同じくズク坊、すぐる、クッキーも、ベッドの上に置かれたそれに視線を注いでいた。
東京の泰山さんから送られてきた、俺の新たな装備――『プラチナ合金アーマー』。
白根さんのレイピアの素材である『オリハルコン』と比べたら少しだけ落ちるものの、
特殊加工によって、『ミスリル』以上に硬いさらなる夢の金属『アダマンタイト』を含んだ、プラチナをベースに造られた鎧だ。
また鎧の表面には、モンスターの特殊な唾液で薄いコーティングもされているらしく……魔法にも強いらしい。
形状については『ミスリル合金の鎧』と同じく西洋の騎士風。
露出しているのは目の部分だけで、ガッチリと全身を纏ってくれそうだ。
光沢ある明るい銀色も同じで、違うとすれば『突起部分』か。
両肩、両肘、両膝の計六ヶ所に、円錐状の棘みたいなものがついている。
そして、気になるお値段の方はと言うと――『八千九百万円』。
かなり高く、『ミスリル合金の鎧』(二百二十万)と比べたら一気にハネ上がったが……命を預けるものだからな。
それにこれでも泰山さんに色をつけてもらった結果だ。
貯金もあるんだし、今回の作戦の報酬(五千万)も入ってくるから全く問題ない。
「んじゃ早速、身につけてみますか!」
おもちゃを与えられた子供のように、俺はテンション高く装備を手に取っていく。
胸、腰、脚、腕、最後に兜と、全てハメていけば重戦士の完成だ。
「「「「おおおー」」」」
そんな俺の姿を見て、見物人達からたまらず感嘆の声が上がる。
ホテルの部屋の一室にて、ちょっとしたお披露目会が行われましたとさ。
◆
――さて、では気を取り直して。
装備を一新させた俺は、午後の部も元気に迷宮内を進んでいく。
「『高速猛牛タックル』ゥウウ!」
遭遇したデュラハンを剣もろとも屠り、『プラチナ合金アーマー』の具合を確かめる。
……うん、何の問題もないな。
足も腕も動きを阻害されないし、返ってくる衝撃に対しても頑強の一言。
足の裏の部分も十八牛力、推定『十四・四トン』の重さをしっかり支えてくれている。
さすがはアダマンタイト……含まれる量は少なくても、防具としてとても素晴らしい。
「前のやつより良さげだな。じゃァ、残りも少ねェしノンストップでいくか!」
白根さんの号令で、『ミミズク&ハリネズミ合同パーティー』は進撃を開始。
午前中までに切り開いた(もちろん『奇跡☆の狙撃部隊』と『血盟の牙』のおかげもある)道を進み――最終ポイントの広場へ。
もう残り少ない二層、ここが終わればまず第一段は階終了だ。
最前線チーム(五、六層)と中間チーム(三、四層)も、俺達と同じく仕事を完遂できるらしく、もう三~六層まで上がっても仕事は残っていない。
その後の事、『岐阜の迷宮』後半となる七層以降は、ギルド総長の判断を待つ事になる。
最前線に組み込まれるか、中間の方に組み込まれるか。
とにかく最後方チームはこれで『解体』なので、白根さんとクッキーとは最後かもしれないから頑張らねば!
そんな感じで気合い十分、空回りする事もなくモンスターを撃破していく。
装備を新調させる原因となった、ローズタンクのあの必殺の一撃もギャィイン! と弾き、傷一つ受けずに『狂牛ラッシュ』で萎ませる。
その進撃の途中、久々に青く輝く光の六面体、【スキルボックス】が出現するも、
俺も含めて全員の枠が埋まっているので、泣く泣く断念するハメになった。
【白銀のオーラ】。
全身に白銀色のオーラを纏うという、せっかくカッコイイ【スキルボックス】が出て女子にモテそ……いや何でもない。
とにかく、あと少しなんだから引きずらずにいこう。
白根さんの「おォ、こりゃ『アイツ』と同系統の【スキル】じゃねェか」という発言は気になったが、薔薇が咲いていたので思考を戻す。
……と、ここで。
後方で索敵に大忙しだったズク坊が――勝利を確信したような声で叫ぶ。
「確認できる敵はあとわずか! 皆の者いくぞホーホゥ!」
次回は閑話となります。
すでに書いてあるので明日投稿の予定です。