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五十五話 ラウンジトーク

この話で毎日更新が終了です。

6/7 誤字の修正をしました。


「(……ごくり、)」


 俺は今、猛烈に緊張している。


 作戦二日目を終えて、風呂も夕食も済ませてあとはゆっくりできる時間な頃。

 初めてモンスターと遭遇した時よりも高校受験の時よりも、遥かに違う次元でド緊張していた。


 その理由と言うのが、何を隠そう目の前の――、


「時間を割いてもらってありがとう。迷惑じゃなかったかしら?」


 ここは『迷宮決壊(ダンジョン=コラプス)』解決作戦に参加する者達が泊まっているホテルのラウンジ。

 そこにあるカフェのソファに座り、ちびちびとミルクティーを飲む俺の前には、ある人が座っている。


 女神――じゃなくて吉村緑子。


 長く艶やかな黒髪を後ろで束ね、整った顔は誰もが認める正統派美人。

 視線を落とせば、モデルかと見紛うほどにスレンダーな体型があり、色気と言うより気品的なものを感じさせる。


 そして何より、彼女は女性だけのパーティー、『北欧の戦乙女(ヴァルキュリア)』のリーダーを務める凄腕探索者だ。


 あとは『横浜の迷宮』担当ギルドでお世話になった、受付嬢の日菜子さんのお姉さんでもある。

 姉妹よく似て美人も美人。俺など近寄りがたいくらいにキレイだというのに……。


「あ、いえ、全然! それはモーモーとてもヒマですから!」


 初対面の時、『また時間があったらお話しましょう』とは言ってもらえたが、まさか本当にお話できるとは。


 しかも緑子さんからのお誘い。

……たとえこれがハニートラップだとしても、おとこ友葉太郎はそれでも馳せ参じただろう!


「ホーホゥ? なんか肩が熱いぞバタロー?」


 と、右肩にいたズク坊が小首を傾げて聞いてきた。


 ……このバカチンが! そういう事を口にするんじゃないよ!

 すんごい美女を前にすんごい童貞(?)が緊張して体が熱くなる……我ながらクソ恥ずかしいわ!


「お、おほん! そ、それで緑子さん。何で俺なんかと……?」

「特に理由はないわ。……フフ、ただ太郎君とお話をしたかっただけよ」

「な、なるほど」

「日菜子からは色々と聞いていたわ。久々のスーパールーキー現れる! っていう感じでね」

「な、なるほど」


 ……い、いかん。あまりに女耐性がなさすぎて、開始二十秒で同じ返事を連呼してもうた。


 対面の席から漂う良い香りも嗅いだ事がないし――って、さっきからキモイぞ俺!


「それで太郎君、作戦も二日経ったけど、調子はどうかしら?」

「あ、はい。ここへ来る前の特訓の成果が出ていますし、白根さんとクッキーもいるので順調に狩れています!」

「フフ、それは良かったわ。実力があっても太郎君達は少数だから、ちょっと心配していたのよ」


 その何気ない一言に、俺の頭の中が瞬間的に沸騰する。

 こんな美女に! しかも出会って間もないのに! 心配してもらっていたとは!


……父さん母さん、俺はもう死んでいいかもしれません。


 と、そんな感じで一々反応する俺と、クールビューティーな緑子さんとの会話は進む。

 これまでの探索の話や、現在の『岐阜の迷宮』の状況(どのモンスターとはどう戦えばいいかとか)、あとは【スキル】構成などなど。


「へえ~。『北欧の戦乙女(ヴァルキュリア)』さんは北陸の迷宮全てに潜ったご経験が……さすがです!」

「フフ、ありがとう。けれど私達の事よりも、もっと太郎君達の事も聞きたいわ」


 まさかの緑子さんの方が興味津津で、俺もついつい気分良く、デレデレしながら喋っていた。


 ……え? 一流なキャバ嬢と金づるのオッサンみたいだって?

 別にいいじゃないかね(怒)! 年齢イコール彼女いない歴な男をナメるなよ(泣)!


「ホーホゥ? ちょいバタロー……何をわなわな震えてるんだ乗りづらいぞ!」


 というズク坊のクレームはスル―して、俺は変わらずデレデレと話し続ける。


 ちなみに、女性の中では最強の探索者、『影姫(かげひめ)の探索者』の異名を持つ緑子さんの【スキル】について。

 名称だけで詳細な事までは聞かなかったが、


 ズク坊と同じ【気配遮断】と、初めて聞いた【影舞闘(かげぶとう)】。


「ジョブで言うなら『暗殺者』かしら?」と、緑子さんはとても暗殺者になど見えない、ただの女神な笑みでそう言っていた。


 その後は右肩のズク坊を交えて、普通の世間話に花を咲かせる。


 緑子さんの興味が俺からズク坊に向かい、ちょっと寂しく感じてしまうも……。

 逆に冷静になり、何とか最後の方はリラックスして喋れたと思う。……鼻息は荒いけど。


「じゃあ、私はそろそろ戻ろうかしら。太郎君とズク坊ちゃんも、ゆっくり休んで明日に備えてね」


 そうして話は終わり、ソファから立ち上がった緑子さんは、小さく手を振って微笑んでからラウンジを出ていく。


 そんな不意打ち気味なウルトラ女神な顔を見せつけられて。


 放心状態となった俺の心が戻ってきたのは……ズク坊の翼でファバサァ! と引っ叩かれてからだった。


 ◆


「ずいぶん楽しそうに喋ってたねん? み、ど、り、こー」

「あらあおい。ずっと見ていたの?」


 太郎とのお茶の時間を終えて、ラウンジのカフェから出た緑子の背中に声がかけられた。


 その声の主に振り返らずに返事をして、緑子はやれやれ……といった表情を整った顔に浮かべる。


「ふふー、そりゃ当然でしょ。緑子の方から男と喋るなんて珍しいからねん」


 彼女、『北欧の戦乙女(ヴァルキュリア)』の副リーダーである渡辺葵が楽しそうに言う。


 たしかに事実として、緑子はその美貌から男に話しかけられる事は多い。

 だが、興味がないのか生粋の箱入り娘なのか、滅多に自分からは話しかけない。


 ――それが進んで動いた。

 あまり遅くなっては悪いからと、パパッと風呂も食事も済ませてすぐに。


 リーダーであり親友でもある緑子のその行動が、葵の好奇心に触れたのである。


「そんなに気になるの? もしかしたら日菜子ちゃんと姉妹での争奪戦かっ!?」

「バカな事を言わないの。高い実力に見合うきちんとした人柄を持っているかどうか、そういうところを見ていたのよ」

「で、その結果はいかに?」

「……全く問題なしよ。よくある不遜な態度やカン違いは微塵もないわ。まあ、初めて会った時から薄々分かっていたけどね」


 さらに緑子は、「ちょっとどこか抜けていそうだけれどね」と、付け加えて嬉しそうに笑う。


「……ふーん。なるほどねん」


 そんな緑子を見て、副リーダーとして普段から彼女を支えている葵も笑う。


 緑子が太郎を見る目は、どう見ても恋愛感情ではない。

 かといって『先輩として有望な後輩をチェックする』というわけでもない。


 葵は思う。

 緑子の目は、言うなれば世話好きの姉が可愛い弟を見るような目だと。


 と同時に、すでに自身の耳にも入っている情報から葵も興味を持ち始める。

 ……ただし、緑子とは違って人柄ではなく、純粋に探索者としての『力』の方に。


 パワー、タフネス、重量。三つ揃えば体そのものがまさに凶器!


 意外に脳筋な彼女は、それを想像してさっき以上に口元を緩ませる。


 そして、緑子がエレベーターの方に向かったのを見てから。


「荒ぶる闘牛の友葉太郎――か。いいねえ、もっと強くなるんだよん。そしたらアタシと手合わせしよう!」

この後の投稿ペースについては未定です。

次の話は二、三日後と思われます。

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