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五十一話 成果と状況

前半が主人公視点、後半が第三者視点となっています。

「いやー疲れたな」


迷宮決壊(ダンジョン=コラプス)』解決のために動き出した作戦初日。


 担当の一層にてモンスターの討伐をした俺達は、ヘトヘトになった体で、『国選探索者』に用意された迷宮近くのホテルで休んでいた。


「ホーホゥ。今日は予想以上だったな」

「ですね。まさか中があんなカオス状態だったとは……衝撃です」


 部屋のソファの上で、リラックスしたズク坊とすぐるが揃って天井を見上げる。

 白いモフモフとぽっちゃりは並び、どちらも足を放り出して座っていた。


 その緩み切った体と表情を見ての通り、疲れているのは前衛で暴れ回った俺だけじゃない。


 理由は当然、『岐阜の迷宮』の過酷な環境のせいだ。

 別にナメていたわけではないが、『迷宮決壊(ダンジョン=コラプス)』が起きそうな迷宮というのは壮絶だった。


 一にも二にも出現モンスターの数。

 獰猛で凶悪な恐ろしい生物を、親とも言うべき迷宮は凄まじい量で生み出していたのだ。


「まァ、太郎達が驚くのも無理ねェな。俺だってあんなのは初めて見たぞ。まさに地獄だな」

「チュチュ、人口密度ならぬモンスター密度が尋常じゃなかったっチュからね」


 探索者として大先輩の白根さんとクッキーでさえも、ズク坊達の意見に同意する。


 そんな誰の目にも地獄な迷宮で、一層目くらいは俺達だけで討伐するぞ! と密かに意気込んでいたのだが……。


 あまりの敵の多さに、かなり早めから白根さん達に手伝ってもらってしまった。


「くっそう、白根さん達の手を煩わせてしまうとは……」

「太郎、気にする必要はねェって。ありゃ二人で対処できる限度を超えていたからな」

「だっチュな。一回目と二回目は単体で来たくせに……そこから津波のごとく押し寄せるとはタチが悪いっチュよ」

「そう言ってもらえるとありがたいけど……。俺もまだまだだなあ」


 たしかに、今思い出しても俺達だけではどう動いても無理だった。


 沼を踏み荒らし、霧の中から現れたのはモンスターの大群。

 しかもそれが第二波、第三波と止めどなく襲来するのだから、重戦士と魔術師だけでは捌ききれない。


 結果、数という暴力に押し込まれて、本格的な乱戦に巻き込まれる前に白根さん達が出ざるを得なかったのだ。


「ホーホゥ。ぶっちゃけ、今日までの探索がお遊びに感じるレベルだったぞ……」

「まあ、あれは特殊でどうしようもなかったですからね。とりあえず飲みましょうか」


 と、一番後輩のすぐるがシャキッとソファから立ち上がり、部屋の冷蔵庫を開ける。

 中には大量の飲み物が用意されていて、お茶でも酒でも(もちろんミルク系も)何でもあった。


 食べものこそ部屋にはないが、食事に関してはホテルのバイキングがあるからな。


 高い報酬はあっても過酷な現場に強制召集するだけはある。

『国選探索者』側からしたら、まさに至れり尽くせりの好待遇だった。


 あ、ちなみにこの部屋は俺とズク坊の部屋だ。

 すぐるは一人で、白根さんはクッキーと一緒の部屋と、基本一人にツインタイプの部屋が景気よく用意されていた。


 で、なぜ集まっているのかと言うと、反省会――ではなくただの飲み会だ。


 夕食の時間まで小一時間あるので、ここ二ヶ月の鍛練生活の流れから、誰が言うでもなく迷宮終わりに飲む事になった。


 ……と言っても、明日も一層での殲滅作戦はあるからな。

 白根さんもすぐるも、酒には手を出さずにジュースを選んでいた。


 深い階層ならまだしも、別に現段階なら飲んでも問題ないだろうが……念のためだ。


 結局、白根さんが電撃と毒を同時に使う『二刀流(本気)』になる事はなかったし、

 クッキーはクッキーで、ブレスを最大風速まで出す必要がなかったとしても、だ。


 今日一日で狩り尽くせなかった分は残っている。

 もう二つの少数探索者パーティーと共に、きっちり明日で一層に安定を取り戻したいところだな。


「さて、そのためにも飲んで食って元気をつけるとしますか!」


 ◆


「……ふむ、なるほど。初日としては申し分ないスタートだな」


『岐阜の迷宮』担当の探索者ギルドにて。

 ギルド総長の柳は、当ギルドの所長から殲滅作戦の成果を聞いて、上機嫌にコーヒーカップに口をつけた。


 自衛隊の『DRT』四十名、『国選探索者』七十二名からなる、総勢百十二名の精鋭達が暴れ回った結果。

 活動を行った全ての層にて、当初の予定を上回るモンスター討伐数が叩き出されていた。


 ――まずは五層だ。

『DRT』のAパーティー(十三名)をはじめ、『遊撃の騎士団』と『黄昏の魔術団』が担当した最前線。

 最も出現モンスターが手強い場所を受け持った彼らは、精鋭の中でも特に高い実力を発揮し、それぞれが蹂躙とも呼ぶべき戦闘を繰り返した。


 そんな彼らの歩んだ沼の道には、原形を留めない死体の山が築かれたそうだ。


 ――次は三層。

『DRT』のB、Cパーティー(計二十七名)、さらに『北欧の戦乙女(ヴァルキュリア)』を筆頭に他二つの国選探索者パーティーが担当した中間チーム。

 彼らも最前線チームと同じく、一人のケガ人も出さずに一方的にモンスターを討伐していた。


 あと補足情報を一つ。

 五層も三層も、『DRT』以外の探索者達はちゃっかり素材も持ち帰っている。


 そして最後に、最上層の一層について。


 ここは『ミミズク&ハリネズミの探索者合同パーティー』と、

 もう二つの少数パーティー(共に四名)、『奇跡☆の狙撃部隊(ミラクルスナイパーズ)』と『血盟の牙』が担当したのだが……。


「モンスターのレベル的には一番楽とはいえ、数が数だったからな。さすがに素材を回収する余裕まではなかったか」


 ギルド総長はその成果を喜ぶ反面、予想以上だった一層の悪状況にわずかに顔をしかめた。


『岐阜の迷宮』は他の迷宮と比べると一層一層がかなり広い。

 にも関わらず最上層の蓋を開けたら、手前から奥まで、層の全域に渡って常識はずれなモンスター密度だった。


 ハッキリ言って、事前の調査の時よりも悪化している。

 一気に下層へと潜った者達の報告でも、一層を抜けるのには多少の戦闘を余儀なくされたらしい。


「念のために白根君を友葉君達につけたのは正解だったようだ。……だがまさか、あの子が討伐の筆頭になるとはな」


 一層に入った三つのパーティーの中で最も活躍したのは誰か?

 その答えは、『ブレス持ち』の猫サイズハリネズミこと、クッキーだった。


【スキル】の特性上、広範囲をカバーした攻撃ができるために。

 あの『電撃と毒の二刀流』の白根玄や、『超トン級重戦士』の友葉太郎よりも。


 タガが外れたように溢れたモンスター軍団を殲滅するには、これ以上ないほど適任だったのだ。


 しかし、まだ微塵も安心はできない。

 一、三、五層と作戦初日は順調でも、下層に行けば行くほど敵の強さが増し、進軍速度は落ちて最下層(十三層)まで達するには時間がかかる。


 それを理解しているギルド総長は、逞しい褐色の腕を組み、強い意志が宿った目で、『岐阜の迷宮』がある緑濃い夏山を睨む。


「モスクワやヒューストンの二の舞にはさせんぞ。日本の最大戦力をもって、このまま一気に叩き潰させてもらおう」

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