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閑話 白と黒の衝突

岐阜に向かう前に差し込みました。

時系列的には決起集会の一週間前です。

「ホーホゥ。……来たか」


 ズク坊は琥珀色の瞳を細める。

 その視線は窓の外に向き、まるで迷宮内にいるかのように険しい。


「どうしたのズク坊ちゃん? 外に何かあるの?」

「……花蓮か。ホーホゥ。よくぞ聞いてくれた」

「うん。で、どうかしたの?」

「ホーホゥ。よく聞くんだ。今この周辺には――危機が訪れている!」


 ズク坊は窓の外に視線を向けたまま告げる。

 もはや目つきだけでなく、醸し出す雰囲気も険しさを帯びていた。


「えっ危機? ――はっ、まさか! テロとか通り魔とかそういうのっ!?」


 ズク坊の重々しい言葉に、エプロンをつけた花蓮は目を見開く。


 ……ちなみに今この場所、太郎の部屋にいるのはズク坊と花蓮だけだ。

 太郎とすぐるは夕食の買い出しに、白根とクッキーはギルド本部に用があって外に出ている。


 いつも通りに迷宮に潜って鍛えて、今は夕日が赤とんぼ色に染まる頃――。


 花蓮がいるのは、日頃の感謝を込めて得意の掃除を行うためだ。

 弟や妹達には今日は店屋物を取らせて、好きに食べてと伝えてあった。


「いや違う。けど、ある意味それと同じくらい凶悪だホーホゥ!」


 ズク坊は唸り、真っ白い体と耳をピンと伸ばして目を閉じる。

 わなわなと全身を震わせて……打って変って静かに言う。


「ホーホゥ。花蓮。俺は打って出るぞ」

「え?」

「止めてくれるな。ホーホゥ。これは男の戦い、決して引けない戦いだ」

「ほ、ほほお……?」


 花蓮は謎に思うも、ズク坊の固い決意を見て口をつぐむ。


「ホーホゥ。とりあえず花蓮、窓を開けてくれないか?」

「あ……うん」


 そうして、花蓮が窓の鍵を開けたとほぼ同時。


「じゃあ行ってくる。花蓮、留守は任せたぞホーホゥ!」


 叫び、ズク坊は開け放たれた窓から勢いよく飛び出していった。


 ◆


 そこはすでに無法地帯と化していた。


 黒、黒、黒――。

 夕日に染まる街の一角は、蠢く黒に塗り潰されていた。


「ホーホゥ。おのれ、ここの空域を侵犯しにくるとは……!」


 ズク坊は怒る。

 その怒りのまま、『追い風のスカーフ』まで装備した状態で、ミミズク特有の無音高速飛行で一気に距離を詰めていく。


 カァアアアアッ!


 敵の中の一匹が咆哮を上げる。

 対してズク坊も「ホーホゥッ!」と、威嚇の声を上げて敵陣に突っ込んだ。


 刹那、一つの白と大量の黒が――交錯した。


 戦場は太郎のマンション近くの雑居ビルの屋上。

 高度二十メートルの上空にて、乱れ飛ぶミミズクと黒の集団五十数羽。


 突然の奇襲を受けた彼らは一斉に飛び立つも、数の利を理解しているのか逃げずに襲いかかってきた。


「小癪なマネを! 所詮は野良の動物、戦力差も分からないとは片腹痛いぞホーホゥ!」


 時間こそかかるものの、今や単独でガーゴイルを倒せるようになったズク坊。

 圧倒的なスピードとパワーで、軽傷で留める程度に飛び交う黒を蹴散らしていく。


 その光景はまさに蹂躙。

過剰燃焼(オーバーヒート)】を使った太郎並に、全くよせつけずに一方的に力を振るう。


 ちなみに、こうしてズク坊が打って出た理由。

 それは自分の家の近くを侵害されて汚されるという理由からなのだが……、


 実は一番の理由は、暗黒のペット時代、自分は閉じ込められているのに、コイツらは自由に飛び回っていたからだった。


 ……ただの八つ当たりである。

 しかも今は自由で幸せな身なので、むしろどっちが悪か分かったものではない。


 カァアアアアアア――……。


 悲鳴に似た鳴き声が赤く染まった空に響く。

 ただねぐらに帰る前の『休憩地点』として利用していた彼らは、散々に痛めつけられた結果、回れ右で急いで雑居ビルから離れていった。


 そうして訪れた戦場跡の平穏の中。

 惜しみなく力を発揮して、全てを追い払ったズク坊は――夕日に向かって高らかに叫ぶ。


「やった、勝ったぞ! 猛禽類の威厳は保たれたんだホーホゥ!」

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