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四十七話 二ヶ月間

「――順調順調。視界良好って感じだな」


迷宮決壊(ダンジョン=コラプス)』に向けて始まった、約二ヶ月の準備期間。

 俺達は予定通りに鍛練を進めて、各チーム共に厳しくも充実した時間を過ごしていく。


『やりました先輩! ついに、ついにですよッ!』


 とは、鍛練『二日目』でのすぐるの言葉だ。

 喜び爆発のガッツポーズ(火ダルマモード)で、焼死体となったトロールの前で叫ぶのだった。


 つまりは目標達成――【火魔術】が『レベル5』に達したのである。

 以前すぐるが言ったように、色々と『大きな変化』も起こっているしな。


 正直、『レベル4』状態で多くのモンスターを倒していたとはいえ、まさか二日目で上がるとは驚きだった。

 まあ、嬉しい誤算だからリーダーとしては全然ウェルカムだけど。


 ……というわけで、俺達チームは一番乗りで目標を達成したので、

 そこからはずっと俺とすぐるが交互にトロール狩りをしていった。


 ほぼ二ヶ月残っていたため、俺もかなり成長したのだが……それは置いておこう。


 お次は索敵担当として確定戦力となっているズク坊だ。

 こっちはすぐると違い、中々苦戦を強いられた。


 散々ガーゴイルを倒すも身体能力が上がるばかりで、肝心の【絶対嗅覚】の『さらに上』に到達できない。


 そもそも、そのために必要なものがモンスターの経験値なのか、あるいは【スキル】の使用回数や発動時間なのか。

 何も分からなかったので、苦戦するの自体は予想していた。


 が、しかし!

 鍛練開始からちょうど一ヶ月目、ついにズク坊の努力は実った。


『レベル』表示がないながらも、未完成だった【絶対嗅覚】が進化。

 その際、強くなった&『追い風のスカーフ』を装備したズク坊が、喜びのあまり空中で超高速の歓喜の舞を踊ったのは言うまでもない。


 残りの一ヶ月に関しては、すでに相手ではなくなったガーゴイルから卒業。

 クッキーの手を借りながら、ひたすら三層ボスのオーガを狩る『ボスマラソン』に挑戦していた。


 一度、休憩がてら観戦した事があったのだが、

 三メートルの赤黒い鬼に、ミミズクとハリネズミの二匹だけで挑む様は……だいぶ衝撃的な光景だったぞ。


 そして最後に、白根さん監督下の花蓮はと言うと。

迷宮決壊(ダンジョン=コラプス)』の作戦には不参戦ながら、俺達の中で最も進化していた。


 正確には花蓮の盾であり矛でもあるスラポンだ。

 出会った当初はガーゴイル二体分くらいの強さだったものが、


 今やボスのオーガを超え、アイスビートル三、四体分くらいになっている。


 五層のトロールこそ格が上がるので、まだ一対一では倒しきれないが、壁役なら十分にこなせるレベルだ。

 サイズこそ三メートルで成長は止まるも、体を構成するスライムの質(対物理衝撃力や生命吸収力)は上がり続けているので、いずれトロールを倒せるだろう。


 ――さらにもう一つ、花蓮自身の、従魔師としての成長がある。


 身体能力の話――ではなくて、ずばり『空き』が生まれていた。


 花蓮が従魔師となってから今まで、従えるモンスターはずっとスラポン一体という状況。

 その従魔の所有上限数が、ついに一つ増えたらしい。


 花蓮いわく、体に妙な違和感を覚えたため、試しに【スキル】を脳内表示させて見たら、


【従魔秘術(二体)】に変わっていたとの事だった。


 この報告は同じパーティーの俺達にとっても心強い。

 従魔師の従えられるモンスターの上限は『五体』だから、一流従魔師には及ばないとはいえ、もう一体増えるのはかなりの戦力アップだ。


迷宮決壊(ダンジョン=コラプス)』が片付いたら、二体目を誰にするかパーティーで話し合わないとな。

 従魔師と従魔は死ぬまで一心同体、途中で返品はできないのだ。


 ――とまあ、皆の成長はこんな感じだ。

 んで、今は何をしているのかと言うと……、


「さあもっと肉を、じゃんじゃん肉を持ってくるんだホーホゥ!」

「チュチュ、戦った後の肉は最高だっチュな!」

「いやズク坊先輩もクッキー先輩もさっきから肉ばかりじゃないですか。もっと野菜も食べましょうよ」

「ワッハッハ、まァいいじゃねェか。やっぱり肉を食わねば元気が出ねェしな」

「だよーすぐポン。それにいよいよ明日、お肉を食べてモリモリ力をつけないとね!」


 ほとんど肉料理に占領されたテーブルを囲み、俺達は楽しく飲み食いをしている。


 迷宮帰りに皆揃って普通に晩ご飯を食べている――というわけではない。


『決起集会』。

 今日で二ヶ月の準備期間が終わり、ついに明日、岐阜に乗り込んで作戦決行となるのだ。


 という事で自然と開かれた決起集会は、とある店で開かれていた。


 居酒屋『ののすけ』。

 この二ヶ月の間に偶然見つけた、家の近くにある個人経営の居酒屋である。


 目立たない路地裏にあって店内も狭いが、木を多く使用した内装で、落ち着きと温もりがあるお店だ。


 なぜそこら辺のチェーン店を使わないのかって? 

 そりゃ当然、ズク坊とクッキーの動物組が入店できないからだ。


 逆にここはミミズクだろうがハリネズミだろうが入店OK。

 鍛練で忙しかった最近はここに入り浸り、ほぼ常連レベルでお世話になっていた。


「へへ、本当にいつ見ても気持ちのいい食べっぷりだ。僕も料理人として作りがいがあるよ」


 そんな店の店主である、安井野之助さんがズク坊達を見て笑顔で言う。

 彼は二十九歳と若いが、個人経営の居酒屋を出すだけあって腕はたしかだ。


「いや本当、野之助さんには感謝しかないですよ」

「こちらこそさ。太郎君達が来るまでは中々、経営が厳しかったからね。……ほい、牛肉のサイコロステーキだよ」

「おお、これは美味そうですね」


 出されたサイコロステーキを前に目を輝かせる俺達。

 切り込み隊長(?)の俺の箸を皮切りに、続々とステーキの山を崩していく。


 ……あ、そうそう。

 こうやって常連になっただけあって、野之助さんは俺の【モーモーパワー】の食問題も把握している。


 基本的に肉料理は牛肉中心で、たまに鳥肉や豚肉の料理を出すも、

 俺が間違って手をつけないように、『ドクロ印のランチ旗』を刺して出してくれていた。


 その野之助さんと仲良くなるのは自然の流れ。

 同じパーティーメンバーや白根さんなど探索者以外では、武器・防具屋の店長である佐藤さんやギルド総長の柳さんに続き、携帯の番号を交換していた。


 ちなみに、そのギルド総長とはあれからもう一度会っている。

 二週間ほど前に本部に呼ばれて、作戦について詳細な情報をもらっていた。


 そこで最後に、『火ダルマの探索者』のすぐるが、候補から正式に確定戦力となった事を伝えられたのだ。


「すぐるも参戦するし、俺としてはかなり心強いな」

「はい先輩、お任せを。どんな迷宮でも援護射撃を完璧にこなしてみせます!」

「俺の索敵能力も上がったし、万全の準備ができたな。ホーホゥ。てなわけで、花蓮は留守番を頼んだぞ」

「むむぅ。私も行きたかったのに……」


 花蓮は心底、残念そうに言うが……こればかりは仕方ないしな。


 俺達の中で一番成長して、従魔自体も従魔師としても、かなり強くなったのは否定しない。

 しかし、まだまだ高難度の迷宮では力不足――。


 白根さんとギルド総長の判断で、一気に確定戦力へ! とはならなかった。


「花蓮、もしまたこんな緊急事態が起きた時は頼むよ」

「絶対だよ? 優秀な従魔師を放置するのは今回だけっ!」

「もちろんだ。出会った頃の素人従魔師はもういない。花蓮もスラポンも頼れる仲間だからな」


 言って、俺は力強くうなずいてから。

 今度はその隣、大ジョッキでビールをあおっている白根さんに顔を向ける。


「白根さん、今回は本当にありがとうございました。頼りきってしまって何とお礼を言っていいやら……」


 親しき仲にも礼儀あり。

 この二ヶ月で急速に仲良くなった白根さん(とクッキー)に、俺は頭を下げて感謝した。


「構わねェって。俺達とお前達の仲だろ?」

「そうだっチュよ。同じ人間と動物からなる同類パーティー、手を貸すのは当然っチュな」


 と、二人はあっけらかんと言うも、俺は頭を下げたまま感謝の意を示す。


 そりゃそうだ。

 この二ヶ月間、白根さん達は拠点の大阪に帰らず、ずっと東京に留まってレベルアップを手伝ってくれたのだから。


 加えて、今回の決起集会も同じく、毎回『先輩の奢り』でお金も出してくれているし……。

 せめて俺の家に泊まってください! と申し出たのだが、白根さんは気を使ってホテル住まいを選んでいた。


 そんな恩人と恩ネズミに対して。

 頭を上げた俺はコーヒー牛乳のコップ片手に、パーティーを代表して宣言する。


「白根さんとクッキーに借りた分の力――。明日からの作戦でモンスターに倍返ししてやりますよ!」

次回、閑話を一つ挟んでから岐阜の迷宮編に入ります。

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