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四十五話 がんばる動物組

修行回その2です。

5/26 ズク坊の爪の数を修正しました。

「ホーホゥ。やっぱり何度見てもスゴイな」


 迷宮内の雑草を根こそぎ引っこ抜きそうな、そんな暴風が吹き荒れる二層にて。


 俺は後方でその余波を少しだけ受けながら、地面に留まって戦況を見守っていた。


「チュチュ。……うーん、まだちょっと強かったっチュか」


 とは現在、二層モンスターのガーゴイルと対峙、いや『粉砕してしまった』クッキーの声だ。

 俺とクッキーだけという、人間なしのミミズク&ハリネズミの『動物タッグ』で活動している。


 理由は言わずもがなレベルアップのため。

 身体能力よりも【絶対嗅覚】の効果を上げるべく、ひたすら索敵してモンスターを倒すのが目的だ。


 ……のだけれど、


「ホーホゥ。あちゃ、また撃破しちゃったかクッキー」

「チュチュ、すまんズク坊。もう一回索敵を頼むっチュ……」

「構わないぞ。ホーホゥ。気を落とさずに次いこう」

「うん、今度こそ成功させるっチュよ!」


 クッキーの【トルネード砲】の威力が強すぎて、ガーゴイルが全て『一発撃破』に終わっていた。


 当然ながらトドメを刺さないとモンスターの経験値は入らない。

 つまり、これでは俺はただの傍観鳥、一ミリの成長も見込めないのだ。


 俺が最初からガーゴイル相手にやれれば、クッキーに苦労はかけないのだけど……。

 岩の体は硬く、事前にある程度のヒビが入っていないと厳しいからな。


 いくら『追い風のスカーフ』で速度を上げても、爪自体がワシやタカよりも遥かに強靭になっていても。

 真正面からの真っ向勝負では、俺の飛行からの爪攻撃では倒せそうにない。


 だから風速を落として、『ギリギリ倒しきらない』ベストの威力が必要なのだけど……中々調整は難しいみたいだ。


 そんな感じでクッキーに試行錯誤してもらいながら、俺はその時を待ちつつ索敵を続ける。

 迷宮内は広くても、【絶対嗅覚】のおかげで五分とかからず次のガーゴイルを発見した。


 そして生まれる暴風の大砲。

 ゴゴォオウ! と唸りを上げて(これでも今までで一番控えめな音で)、ガーゴイルの全身にクッキーのブレスが叩き込まれた。


「――ホーホゥッ!」


 俺は思わず驚きの声を上げた。


 別にいまさら【トルネード砲】に驚いたわけではない。

 ついに、やっと。

 七体目にして一撃で屠る事なく、けれどかなりの重傷を負ったガーゴイルが、螺旋を描く暴風が消え去った後に残っていたのだ。


「チュチュ、これならどうっチュかズク坊!?」


 喜びの色が入ったクッキーの声が響く。

 対して俺は「グッジョブだホーホゥ!」と返し、すぐさまアタックを開始する。


 生身のモンスターとは違い、岩の化身であるガーゴイルの唯一の弱点は魔石のみ。

 その魔石があるのは胸の中心――。


 そこには大きな亀裂が放射線状に入り、微かにソフトボール大の灰色の玉が見えていた。


「ホーホゥ! もらったぞガーゴイルッ!」


 ブレスの影響でゴツい体をフラつかせている標的目がけて。

 俺は疾風のごとく宙を進み、突き出すように八本の爪をフル活用して突き刺す。


 直後、亀裂の隙間に上手く爪が入り、ガガッ! と魔石に直撃する。

 大きな衝撃が爪から脚に伝わり、せめぎ合う硬い感触が返ってきた。


 ……普通のミミズクなら、たとえ弱点を突いたとしても、爪での刺突などでは勝てないだろう。


 ところがどっこい、俺は普通じゃないからな!


【人語スキル】に【気配遮断】、【絶対嗅覚】という【スキル】関係だけじゃない。

 ライオンとかの猛獣なら一対一で勝てるくらいに成長した『体の強さ』と、首に巻いた『追い風のスカーフ』の効果で飛行速度(体感で百五十キロ)が上がっているから――、


 ガシャァン! と。まるでガラスが砕け散ったかのように。

 力ずくで全ての爪を突き刺し、目と鼻の先で睨み合うガーゴイルとの間に。


 胸の亀裂の隙間から飛び出した灰色の破片が――雑草茂る地面の上にパラパラと落ちていく。


 その三秒後。

 爪を引き抜き空中に佇む俺を残して、ガーゴイルは背中から倒れて絶命した。


「よしやった! 仕留められたぞホーホゥ!」


 ◆


 クッキーの力を借りて、初めてガーゴイルの撃破に成功した。


 そんな俺を待っていたのは……急激な身体能力上昇に伴う全身の発熱。

 仕留めた直後、クッキーの喜びの声が届くよりも早く、翼を中心に過去一番の熱さを感じた。


「さすがガーゴイルだな。ホーホゥ。ミノタウルスよりけっこう経験値が多いぞ」

「チュチュ、初めて格上モンスターを倒した時はそんなもんチュよ。まあでも……心地いい熱さだっチュろ?」

「ホーホゥ。たしかにな。成長したって実感できるぞ」

「じゃあ、このままどんどんやるっチュよ。オイラの方も威力調整が分かったっチュからね!」

「ホーホゥ!」

「チュチュ!」


 俺とクッキーはうなずき合い、次なる獲物を探し求める。


 まだ一体倒しただけだから、【絶対嗅覚】が『さらに上』になる事はないけど……。


 何となく、大きな身体能力上昇を経験したからか?

 感覚的にこれを続けていけば、そこに至れるイメージが生まれていた。


 だからやる気は最高潮だ。

 今や気分は、この前テレビの再放送で見た『必殺○事人』である。


 クッキーが弱らせて俺が一撃必殺! また華麗に倒してみせるぞ!


 ……まあ、欲を言えば魔石を傷つけずに倒して、岩水玉がんすいぎょくの取り出し作業もしてお金も稼ぎたいけど……そっちはバタロー達に任せるという事で。


 とにもかくにも、お昼休憩まで頑張るとするか。

 まだ本番まで二ヶ月、変に焦る必要はなくても片っ端から倒していこう。


 俺とクッキーの『動物組』はバタロー達がいなくても強気に進む。

 風のブレス(風速五十メートル級)からの滑空爪攻撃で、確実に遭遇したガーゴイルの魔石を砕いていった。


 一体目の経験値による身体能力上昇が大きかったおかげもあり、

 魔石と爪がせめぎ合う感覚もなく、二体目以降はあっさりと貫き砕く事ができた。


 逆にこっちは爪すら欠けずに無傷のままだし、万事順調だな。


 その結果を受けて――俺はついつい叫んでしまう。


「待ってろ『岐阜の迷宮』! 進化したズク坊様を見せてやるぞホーホゥ!」

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