四十三話 パーティー会議
ほのぼのしております。
「それでは、これよりパーティー会議を始めます!」
探索者ギルド本部でギルド総長と会い、『迷宮決壊』をはじめ色々な事について話した翌日。
今後の予定を決めるため、俺は宣言通りパーティー会議を開いていた。
場所は俺の部屋のリビングにて。
出席メンバーはもちろん俺達パーティーと……白根さんとクッキーもいる。
実は昨日、ギルド本部から帰ってから、白根さん達と親睦会を開いたのだ。
花蓮は弟や妹がいるので来られなかったが、酒を飲んで(もちろん俺を除く)、楽しい時間を過ごせた。
そうして、泥酔からの爆睡という流れがあって……、
白根さん達はまだホテルを取っていなかったので、そのまま俺の家に泊まって今に至っている。
「いつつ……。ちょっと昨日はハメを外して飲みすぎちまったな」
「ですね。僕と白根さんでウイスキーとワインを一本ずつは空けすぎました……」
「チュチュ、あとビールもっチュよ。――ほら二人共、太郎が会議を始めるからしっかりするっチュ!」
酒が残っているのか、頭を擦る白根さんとすぐるにクッキーが注意する。
そんな二人に花蓮が水を持っていき、コップ一杯飲んでもらったところで。
「じゃあ改めて。パーティー会議を始めます」
テーブルを囲んで座り、進行役の俺は宣言した。
議題はもちろん、二ヶ月後の『迷宮決壊』までの予定についてだ。
「とりあえず現時点で決まってるのはレベル上げだ。特にすぐるだな」
「はい先輩。僕自身としても、まだ候補で確定でないのは不甲斐ない限りです」
「【火魔術】が『レベル5』なら文句ねェんだけどな。『岐阜の迷宮』の難易度を考えると、レベル4は微妙なところだ」
「日本で三本の指に入る迷宮だっチュからな。安全に狩るならそれが最低ラインって感じっチュね」
まず初めに、俺達は候補のすぐるに関して話し合う。
俺と白根さんとクッキーは参戦確定で、ズク坊も優秀な索敵担当として参戦確定、ギルド総長によると『心強い戦力』だからな。
おのずとこの二ヶ月で重要になるのは、候補のすぐるの成長となるわけだ。
「ひたすらすぐるはトロール狩り――どう思います白根さん?」
「あァ、それがいいと思うぞ。あのクラスなら4から5に熟練度が上がるのは間違いねェな」
「なるほど。じゃあ、すぐるもそれでいいか?」
「はい。異議なしです」
……と、いうわけで。
短い相談の結果、すぐるはトロール狩りに専念し、魔術師としての腕をさらに磨く事に決まった。
「ねえねえ、私は何をすればいいの?」
そして、次なる議題となるのが質問した彼女本人。
黒髪ボブでそばかす童顔の、見た目中三女子な従魔師の花蓮だ。
今回の作戦に呼ばれてこそいないが、正真正銘、俺達のパーティーメンバーである。
ただ、この花蓮のみ強くなったと言っても……トロールの五層はまだ早い。
もし花蓮とスラポンを一緒に連れて行けば、安全を確保する自信はあるが、その分、肝心のすぐるの鍛練に集中できないだろう。
しかもそれは単独のトロールが相手の場合の話。
二体以上でいるトロールと遭遇してしまえば、集中どころか戦線を崩されて危険な状況に陥ってしまう。
「どうするかなあ。俺も確定戦力だけどレベルアップは必要だし、トロールかその次のモンスターを狩りたくあるから……」
「なら俺が見るか? ボスマラソンか四層のアイスビートルか。どっちにせよ監督役は必要だろう」
「でも、そうなると白根さんの探索に支障が……」
「別にいいさ。金にも経験値にも困ってねェし、大阪に帰るのはいくらでも延ばせるぞ」
「だっチュな。それに花蓮を従魔師にさせたのはオイラ達だし、先輩として一肌脱ぐっチュよ!」
花蓮をどうするか悩んでいたら、白根さんとクッキーがそんな提案をしてきた。
――うむ。なら二人の提案に甘えて力をお借りするか。
花蓮も白根さん達がいるなら安心して狩りをできるはずだ。
「んじゃ、花蓮はそういう方向でいいか?」
「うん、もちろんだよ。すぐポン以上に急成長しちゃうよっ!」
花蓮本人はかなりノリノリのようだった。
持ち前の天然……というより天真爛漫さで、すぐると競い合う気満々らしい。
「ぼ、僕も負けないよ! 先輩として強くなった姿を見せてあげるさ!」
「ふふう、ならば下剋上じゃ! スラポンと力を合わせて魔術師を超えていく!」
「くっ、なんてビッグマウスな……。僕の成長した猛火に恐れを抱かせてみせる!」
「やれるものならっ! スラポンが丸ごと飲み込んじゃうよ!」
と、何やかんやで楽しそうに言い争う二人。
まあ、パーティーとして強くなるのも仲良くなるのも良い事だと、俺と白根さんとクッキーはうんうんとうなずく。
……ちなみに、ここまで一切会話に入ってこない者が一人。いや一匹。
いつもなら絶対に入ってくるパーティーメンバー、ミミズクのズク坊さんはというと……。
「ホーホゥ~♪ ホーホーホーゥッ!」
いつもの定位置、俺の右肩の上ではなくて。
リビングの隅にあるマンガが詰まった本棚の上。そこで激しく夢中に『翼を振って』いた。
一体何をしているのか?
その答えは部屋に流れる、ある音を聞けば誰にも分かる。
実は、会議を始める前からずっと『クラシック』が流れているのだ。
その音源であるCDプレーヤーの隣、本棚という舞台の上で、ご機嫌に『指揮者』のマネ事をしていた。
――最近、ズク坊がハマっている遊びである。
テレビで壮大なオーケストラを見て以来、毎日必ず一回は翼という名の指揮棒を振っているのだ。
「ほらズク坊。そろそろ終われってー」
「チュチュ、そうだっチュよ。次の議題はズク坊なんチュからね」
俺とクッキーが言うと、ズク坊は「え、俺?」みたいな顔で指揮者を中断。
本棚から無音かつ華麗に飛び立ち、俺の右肩の上に着地してきた。
「ホーホゥ。もしや俺も鍛練って話か?」
「ご名答。まァ正確には鍛練というか、より索敵能力を磨くって感じだな」
ズク坊の問いに答えたのは白根さんだ。
俺から仲間達の情報はもらっているので、ズク坊についても把握している。
「ホーホゥ。索敵能力を磨く……つまり【絶対嗅覚】か」
「あァ、【人語スキル】も【気配遮断】もレベルの概念、熟練度がねェ『完成形』だが――【絶対嗅覚】は違うんだろ?」
「その通り! 脳内で【スキル】情報を見ても『レベル』表示はないけど……。どうも感覚からして絶対に『上』があるぞホーホゥ!」
「じゃァ確定だな。一見、完成形に見えてもそうじゃねェ、と。非戦闘系のレアな【スキル】には稀にある事だ」
「ホーホゥ。なるほど。やっぱり俺の感覚は間違ってなかったのか」
張本人のズク坊と、この中で誰よりも【スキル】に詳しい白根さんとで話は進む。
これまでパンクリザードやミノタウルスを倒して強くなるも、ズク坊いわく一向に現状維持のままな【絶対嗅覚】。
必要なものがモンスターを倒しての経験値なのか、【スキル】の発動時間もしくは回数なのか。
全くもって不明、いくら調べても答えが出ていなかった。
なので、すぐるの【火魔術】のレベルアップよりも時間がかかる可能性は高い。
それでもあと二ヶ月。時間はたっぷりあるから、色々試して焦らずにいこうと決まった。
「……というわけで、『迷宮決壊』まではこんな感じで」
俺は花蓮が書いてくれた小さなホワイトボード(ちなみにこれもズク坊用。お絵かきのために購入)をコンと叩く。
すぐるは五層で俺と一緒にトロール狩りを。
花蓮&スラポンは四層で白根さん監督の下、アイスビートル狩りを。
ズク坊はクッキーとの『動物組』で、クッキーの助けを借りてのガーゴイル狩りを。
以上がパーティー会議で決まった内容である。
基本はこれに沿って行動して、安全性を確保しつつ余裕があればさらに下へ、という感じだな。
決定後、俺達は軽くお菓子をつまんでから準備を始める。
防具は迷宮前で着替えるので、回復薬など細かな備品をチェックすれば――もう準備完了だ。
すでに気持ちのスイッチは自然と入れ変わっているしな。
命懸けの探索者生活も今やルーティーンの一つ、慣れたものである。
「んじゃ今日も安全第一で。頑張って迷宮探索といきますか!」




