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四十話 続・ハリネズミの探索者

「――へェ、皆でパーティーを組んだのか」


 まさかの登場を果たした白根さんとクッキー。

 そんな二人と再会した俺達は、ボス部屋を出て近くの小部屋で休憩していた。


「ええ、一週間前に。二度も死にそうだったし、色々と放っておけなくて」

「バタローは命の恩人、本当に感謝だよ! ――あ、もちろんスラポンと出会わせてくれたシロさんとクッキーちゃんにも感謝してるよ!」

『ポニョーン』


 久しぶりの再会に、喜んでいる様子の花蓮とスラポン。

 白根さんとクッキーも嬉しそうで、特に白根さんは孫でも見るような目で花蓮を見ている。


「そりゃァ何よりだ。お嬢ちゃんとスライムもそうだが……。お前ら男組の方も、まだ一月も経ってねェのに強くなったな」

「チュチュ。ズク坊もぽっちゃりも見違えたっチュな。バタローはさらに高みへと上ったっチュね」

「いや、白根さんに比べれば俺もまだまださ」

「ホーホゥ。俺もライオンにタイマンで勝てるくらいだしな」

「……クッキー、僕の名前はぽっちゃりじゃ……」


 なんて楽しく喋っていたら――もう昼時じゃないか。


 俺達は持参したコンビニのサンドウィッチで迷宮ピクニック(?)を開始した。


 スラポンの頭の上(高さ二メートル半)にいるズク坊とクッキーの動物コンビを微笑ましく見ながら、

 俺は気になっていた事を白根さんに聞いてみる。


「そういえば。どうしてまた『上野の迷宮』に?」

「おォ、いけねェ。ド忘れしていたぞ。実はお前に用があって探していたのさ」

「え? 俺をですか……?」


 そう聞くと、白根さんの口から衝撃の事実が次々と発された。


 いわく、


『岐阜の迷宮』で『迷宮決壊(ダンジョン=コラプス)』が発生しそうだという事。

 それでギルド本部から連絡が来て、詳しく話をするために東京に呼び寄せられたらしい。


 さらに『ミミズクの探索者』、つまり俺も後で呼ばれる予定だったらしく、

 なら一緒にと上野まで足を運び、どうせ迷宮に入っているだろと当たりをつけて、四、五層を中心に俺を探していたようだ。


「てェわけだ。俺もクッキーも、そしてお前も面倒事に巻き込まれちまうが……まァ、それだけ上位の探索者になったって事さ」

「……なるほど。状況は理解できました」

「玄もオイラも忙しいっチュけど、事態が事態で『強制召集』だっチュからな」

「ホーホゥ。たしか岐阜のは難易度も高いし――何だか危ない橋みたいだな」


 話を聞いていたズク坊は、心配そうな顔でスラポンの頭から俺の右肩に下りてくる。


 まあ、話を聞く限り、かなりの大事に巻き込まれるから心配するのも当然か。

 そんな相棒の額を軽く撫でてやりながら、俺はうむ、と白根さんにうなずく。


「分かりました。アメリカやロシアの例もありますし……仕方ありませんね」

「だな。まだ詳しい事は把握してねェが、とりあえず自衛隊の『DRT』(迷宮救助部隊)と上位の探索者が狩り出されるのは確定だ」

「なら早いところ話を聞きに行きましょうか。……えっと、じゃあ花蓮達の強化はズク坊とすぐるに任せて……」


 と、そこまで言ったところで。

「あァ、そうだ!」と白根さんが思い出したように言う。


「悪ィ、また一つ忘れていた。こっちはまだ確定じゃねェんだが……すぐる、魔術師のお前も候補に入っているんだった」

「え、僕もですか!?」

「おォよ。たった二人でトロールを撃破したパーティーの片割れ。さらに『火ダルマの探索者』っつう異名まであるんだろ? それで目をつけられたみてェだな」

「な、なるほど……」


 突然のご指名に、すぐるは何とも複雑な表情をしていた。


 多分、俺と並んで実力があると思われた喜びと、徐々に広まりだした『火ダルマの探索者』という異名への困惑。


 そして、どう見ても危険な作戦に連れて行かれる不安が入り混じっているのだろう。


「何てこった。ホーホゥ。すぐるも一緒にとは驚きだぞ」

「スゴイじゃん、すぐポン! シロさん達と一緒に戦地に突撃するかもだね!」

『ポニョーン』


 花蓮とスラポンはあまり事の重大さを理解していないっぽいが、まあそれは置いておいて。


 どうやら俺は、リーダーとして負う責任が大きくなったみたいだ。


「じゃあ、なおさら早く本部で話を聞かないと。もしすぐるも召集されるなら、できる対策はしたいしな」


 俺は立ち上がり、もう今日の探索は終了だなーと思いつつ……ふと思い出す。


「……あの白根さん。その前に一つだけいいですか?」

「ん? 何だ?」


 同じく迷宮から出る気満々だった白根さんに向けて。

 ちょっと言いづらいが、抑えきれない『好奇心』のまま切り出してみる。


「白根さんの探索者としての力――【スキル】を一度見せてもらえませんか?」


 お互い東京と大阪、今度いつ会えるかも分からない。

 もし『迷宮決壊(ダンジョン=コラプス)』の件で同行する事になった場合でも、事前に把握していれば心強いしな。


 探索者というのは普通、他の探索者に【スキル】を教える事はないから……断られるか?

 そう心配していたら、


「何だそんな事か。いいぞ、ついでにクッキーの力も見せてやらァ」


 俺の願い出に、あっさりと了承する白根さん。


 こうして、戻る前に白根さんとクッキーの、気になる力を披露してもらえる事となった。


 ◆


 ……ゴクリ。

 自分で言い出した事ながら、俺は緊張の面持ちで生唾を飲み込む。


 舞台は凍える四層、アイスビートルの住処。

 白根さんの「三回戦う必要があるからな」という理由により、リポップしていたボス部屋のオーガは俺がサクッと倒し、こうして四層に下りてきていた。


「いよいよだな」

「ついにだホーホゥ」

「とうとう見れるんですね」


 俺とズク坊とすぐるの三人は、ワクワクドキドキで先頭を進む白根さんとクッキーの背中を見る。

 花蓮とスラポンは前に何度も見ているので、特に興味はなさそうだ。


 そんな中、即席ではあるが『ミミズク&ハリネズミ合同パーティー』で進んでいくと――見慣れた氷の巨大カブトムシが現れた。


「おっ、出たな。んじゃ早速、披露するから瞬きしねェでしっかり見てろよ」


 振り返りつつニヤリと笑って、白根さんは左腰に提げた剣を抜く。


 黄金色で細身の刀身に鋭く尖った先端、S字状の鍔が特徴的なその剣。

 昼食の際にしれっと聞いた、伝説の金属で造られた二本の名剣――『オリハルコンのレイピア』だ。


 それを右手に持ち、ヒュン! と。

 割と本当にそんな音を鳴らしながら。白根さんはギリギリ目で追える速度でアイスビートルに接近、右横にピタリと停止した。


「じゃァ、まずは『一つ目』な」


 静かに言って、白根さんはレイピアでアイスビートルに突きを繰り出す。


 その瞬間。『ズバチィイイッ!』と。

 身の毛もよだつ電撃音と、荒れ狂う紫電がレイピアとアイスビートルから発生した。


 直後。氷でできたアイスビートルの巨体と角が粉々に砕け散る。


 生身ではないので、本来なら電撃には強いはずのモンスターが……ただの一突きで葬り去られたのだ。


「「「……!」」」


 強い強いとは思っていた。


 しかし、想像よりも遥か上、凄まじい結果を前に俺達は愕然とする。

 これが『ハリネズミの探索者』、『迷宮元年』から活動する大先輩の力……!


 そんな反応とは正反対に、至って普通な白根さんは鎧にかかった氷の残骸を払いながら、


「――【スタンガン】。それが俺の一つ目の【スキル】だ。ちなみに熟練度は『レベル9』、多分だが雷と同じくらいのレベルじゃねェか?」


 レイピアを鞘に戻し、白根さんはまたヒュン! と俺達のもとまで超スピードで移動してきた。


【スタンガン】。熟練度『レベル9』の【スキル】の威力には度肝を抜かれたが……冷静になれば、この基本的な身体能力からおかしな事をやっている。


「す、スゴイですね……」

「まァな。伊達に『レベル9』まで育ててねェし、マイナス要素のある【スキル】だからな」

「え? 【スタンガン】にもマイナス要素が……?」

「おォ、あるぞ。【モーモーパワー】ほどキツくはねェけど、一年中静電気に悩まされるっつう地味なのがな」


 俺は興味津津で、右の指先でバチバチと紫電を出しながら遊ぶ白根さんから【スタンガン】の情報を聞く。



【スキル:スタンガン】

『対象に触れる事で電撃を見舞う。武器など他の物質を通してでも効果あり。電撃の威力は熟練度に依存し、電圧・電流の調節が可能。また習得者は【スキル】不使用時でも全身に静電気を帯びる』



 という事らしい。


 空気を引き裂くような音と迸る大量の紫電――。

 やはりさっきの攻撃を見ても、こっちの【スタンガン】は『非殺傷で気絶』なんて生易しいものではなかった。


『オリハルコンのレイピア』の刺突はただの始まり。

そこからの超電撃を流しての『感電死』こそが本質。


 そんな説明を聞き終っても、まだ圧巻かつスマートな戦闘に高揚していた俺達に、白根さんは楽しそうに言う。


「まだ終わりじゃねェぞ? もう一つの【スキル】と、クッキーのやつも残っているしな!」

やっぱり強キャラを書くのは謎の楽しさがありますね。

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