三十九話 再会その2
「うおお……。だいぶ成長したもんだな」
パーティーに従魔師の花蓮とラージスライムのスラポンが加わり、早くも一週間が経った。
五層のトロールで金を稼ぐ一方、新メンバーを空の三層の『ボスマラソン』で鍛えていたのだが……、
断言しよう。スラポンの『成長速度』が尋常ではないと。
それこそ昨日『十三牛力』に上がった俺や、まだ【火魔術】が『レベル4』のままのすぐるとは比べものにならないほどに。
「ホーホゥ。こりゃたまげたな」
「モンスターの成長は人間よりも早いんですかね?」
ボス部屋にて、ズク坊とすぐるも唖然とした表情で驚いている。
それもそのはず、俺達が弱らせたボスのオーガにトドメを刺すたびに。
毎回毎回、スラポンの体に目に見える変化があるからだ。
二メートルあった体高は二メートル半に達し、横幅も大きくなり体積が倍近くなっている。
目の覚めるような青い体色は変わらないが、肌のつや(?)が良くなって表面がツルツルになっていた。
そして何より『威圧感』。
本当に同じラージスライムかと思うほどに、一週間前とは雲泥の差になっている。
「すごい逞しくなったねスラポン! 本当にバタロー達のパーティーに入れて良かったよ!」
己の従魔、というより友達が強くなって喜ぶ花蓮。
パーティーを組んだ成果が予想以上に早く出たのは……俺達にとっても何よりだ。
これなら相手がトロール以外なら、安心して盾役をこなせるだろう。
――あ、ちなみに強くなっただけではないぞ?
きちんと花蓮とスラポンとの、最も大切な仲は深められていると思う。
迷宮内での探索から始まり、探索後の俺の家での食事やゲームなどなど。
家が思ったより近所(徒歩三十分くらい)とはいえ、花蓮は弟や妹がいるから遅くまではいれないが、結構親しくなれたと思う。
特に、昨日のすぐるお手製『牛肉のトマト煮込み』は効果抜群。
余ったものをタッパーで持ち帰った花蓮によると、家族にも大好評で大喜びだった。
「ホーホゥ。にしても従魔師ってのは不思議だな」
「ですね。従魔と『一心同体』になれるとは驚きです」
「へっへーん。ズク坊ちゃんくらいのサイズなら出しっぱなしでもいいんだけどねー」
花蓮は誇らしげに言うと、隣にいるスラポンを撫でる。
カンの鋭い人なら……気づいているだろうか。
こんな巨大な二メートル超えのモンスター、人間を襲わない従魔といっても、迷宮の外に出すわけにはいかないと。
モンスターの存在が認知された世界でも、さすがに従魔を街で連れていたらパニックになるからな。
『迷宮決壊』なんて言う恐ろしい現象もある。
人間とモンスター、地上と地下での住み分けは必須なのだ。
「スラポンサイズだとちゃんとしまわないとね。私も初めてやった時はビックリ仰天だったよ!」
それを解決するのが、従魔師が使える『従魔帰還』。
己の体を器として、大小および数を問わず従魔を収納できる摩訶不思議な技だ。
これにより従魔の移動の問題は一切なくなる。
再び出したいのであれば、逆の『従魔召喚』で体の外に出すという具合だ。
「まるでポ○モンだな。本当、改めて【スキル】ってのはとんでもないぞ」
「あるいはド○えもんかな? 夢の世界が広がってるね!」
ボス戦直後だというのに、花蓮は気分が高揚しているのか楽しそうだ。
まあ、そんな彼女の明るい性格+天然の不思議ちゃんキャラだからこそ、急激に仲良くなれたんだけどな。
二十二、二十一、二十歳と、俺達は一つ違いで年齢のギャップもない。
家族にとっては大黒柱だろうが、俺達にとっては見た目も相まって『妹』みたいな感じだ。
……だからだろうな。
先輩後輩に厳しいあのズク坊が、花蓮については特例で許している。
タメ口から始まり、リーダーの俺を『バタロー』、ズク坊を『ズク坊ちゃん』、すぐるを『すぐポン』と呼んでいる事。
俺とすぐるは全く気にしないが、ズク坊が注意するかと思いきや……華麗にスル―したのだ。
まあ多分、言っても分からんタイプだというのもあるだろうが。
あと、余談として一つだけ。
なら僕も! と思ったのか、すぐるが意を決したように「ズク坊」と呼び捨てた瞬間。
「すぐるのくせに生意気だホーホゥ!」と。
ファバサファバサファバサァッ! と三連続で頬を叩かれ、ズク坊から厳重注意を受けていた。
……哀れすぐるよ。
獅子より強いミミズクの翼で理不尽に叩かれ、あげく「ちゃんとダイエットしろ! 未だにぽっちゃりじゃないかホーホゥ!」と、体型についても怒られていた。
「にしてもスラポンは強いよな。花蓮と『経験値は半分』なのに、さすがは元から強いモンスターだけあるよ」
『ポニョーン』
俺の言葉にスラポンが嬉しそうに体を震わせる。
【人語スキル】と違って話せないものの、従魔になるとある程度は言葉が理解できるのだ。
ラージスライム。
『従魔帰還』だの『従魔召喚』だのと説明しても、やはりコイツ自体の情報が最も重要だろう。
俺達は名前を知っていただけで、仲間になった後にネットで調べて――驚かされた。
ラージスライムとは、日本最大級の『八王子の迷宮』、その四層にいるモンスターだ。
強さ的にはガーゴイルより少し上で、十分に強いモンスターと言える。
当然、従魔師の最初の従魔にしてはモンスターの『格』が上すぎる。
ならなぜ花蓮は従えられたのか?
平均的な女性探索者で、別に身体能力も戦闘技術も高くないというのに。
その答えは新パーティー結成初日、ギルドで素材の換金待ちの時間に判明していた。
花蓮によると、
探索者となって初探索の日。とりあえず都内で一番有名な『八王子の迷宮』に行ったところ。
ビビって入れずにいたら、『ハリネズミを連れた探索者』に声をかけられ、その優しさに甘えて同行してもらったらしい。
そして、運良く出た【従魔秘術】を取って従魔師となり、四層まで潜って成功するまでラージスライムを狩ってもらったのだ。
「俺並に、いや俺以上に最高のスタートダッシュだな。白根さんが一緒ならまず安全だろうし」
まさかの人物の名前に驚くも……俺はすぐに納得する。
あの人、戦闘は見ていないが明らかに強いからな。
すごい人が良さそうなのに強者独特の雰囲気がハンパじゃないし、醸し出す余裕も本物だった。
あれから俺も強くなったとはいえ、まだまだ差は大きいだろう。
それに加えてハリネズミのクッキーもいるし――と、そう思った時。
「あァん? 俺の名前を呼んだか?」
突然、ボス部屋奥の扉の向こうから足音と共に声が聞こえてきた。
その聞き覚えのある声と、続けて聞こえてきた「チュチュ?」という鳴き声に、俺達は一斉にそちらを向く。
「「「あ!」」」
「ホーホゥ!」
『ポニョーン』
話をすれば何とやら。
ボス撃破により開ける状態となった扉から現れたのは、たった今話題に上がっていた人物。
白根玄。
『迷宮元年』から活動する四十歳の男で、ペーペーな俺より遥かに経験があるお方。
『ハリネズミの探索者』の異名で知られ、ハリネズミの相棒クッキーと共に、大阪にある『堺の迷宮』をベースに活動する凄腕探索者だ。
「よォ、久しぶりの顔ばかりだな。元気しているみてェで何よりだ!」
「チュチュ! また会えたっチュな。『ミミズクの探索者』パーティーとスライムのお嬢ちゃん!」
右手を上げて挨拶する白根さんと、跳びはねて喜ぶハリネズミのクッキー。
歴戦の証の額の傷に、相変わらずの強者の雰囲気。
さらには高価そうな『何かの鱗の鎧』を纏い二本の細剣を提げて、ボス部屋中央にいる俺達に近づいてくる。
『スキル持ち』オーガが出現する何倍もの衝撃の登場。
俺はまさかの展開、というか再会に驚き、一人と一匹に声をぶつけるように叫ぶ。
「白根さんにクッキー! 何でまたここに……!?」