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三十六話 女従魔師

やっとちゃんとした(?)女性キャラの登場です。

「どうだズク坊。いけそうかー?」


 俺達は今、二層での探索を行っている。


 昨日はトロールを二体仕留めて、【モーモーパワー】が『十二牛力』に上がったところで戻り、一体およそ八十万(魔石+心臓)の稼ぎを得た。

 また今日も元気に狩るべく、迷宮を下りる真っ最中というわけだ。


 で、今はせっかくだからと二層のガーゴイルにズク坊を挑戦させていた。


 一層のミノタウルスはサポート付きとはいえ倒している。なので獅子よりも強くなったズク坊がどこまでやれるかお試し中だ。


「ダメだ、硬すぎだろコイツ! 俺の必殺の滑空爪攻撃が効かないぞホーホゥ!」


 ……しかし、ズク坊は早々に諦めたらしい。


 ミミズク特有の、無音の暗殺飛行を五度ほど繰り返して終了。

 身体能力上昇&『追い風のスカーフ』の効果により、風のごとき速さで俺の右肩に帰ってきた。


「もういいのか? 自分でやるって言い出したのに」

「ホーホゥ。何事も諦めは肝心だからな。……適材適所というやつよ」


 悟ったように、琥珀色の瞳を細めて言うズク坊。

 索敵担当とはいえそれでいいのか……とは思ってしまうも、まあ岩の化身にミミズクが傷をつけただけでもスゴイか。


 剥ぎ取り用ナイフを使ったところで結果は変わらないだろうし、ここで切り上げるとしよう。


「んじゃ、すぐる。あとは頼んでいいか?」

「はい。お任せを」


 すぐるは軽く言うと、ガーゴイルに向けて『炎熱槍(フレアランス)』を放つ。


 火と岩。相性的には悪いのだが、今の強くなったすぐるには問題ない。


 加えて【魔術武装】の火ダルマモードで威力が上がるので、

 当初の二メートルから三メートルに進化した炎の槍は、あっさりとガーゴイルの硬い胴体を穿った。


「すぐるが苦戦してた頃が懐かしいな。まあ、これから本格的にトロール狩りをするパーティーなら――」

「ふきゃああああ――!」


 と、その時。

 俺の声をかき消す、甲高い女性の悲鳴が聞こえてきた。


「な、何だ!?」

「女性の悲鳴!? 一体どこから……!」

「二人共、あっちだホーホゥ!」


 何の前触れもなく、突然、迷宮内に響いた悲鳴。


 モンスターの奇襲よりも驚いた俺とすぐるに、ズク坊はすぐに鼻を利かせて聞こえてきた方向に先導し始める。


【絶対嗅覚】はモンスターしか嗅ぎ分けられないし、悲鳴自体の感じからするに……女性探索者がモンスターに襲われているのは確定だろう。


 それもかなり緊急性が高そうだ。

 俺達は張り詰めた空気を感じながら、急いで声のした方向に向かうと――、


「「「いた!」」ぞホーホゥ!」


 俺達の声が重なり、同じく重なった視線の先。


 そこにいたのはガーゴイル二体と一人の少女、そして奇妙に動く『青い何か』だった。


 ◆


「何だこの状況!?」


 とりあえずパッと見て分かるのは、ガーゴイル一体と目の覚めるような『青い何か』がやりあっている事。


 そして、もう一体のガーゴイルが本来のカウンター主体の戦いを捨てて、攻撃的に少女に迫っている事だ。


『青い何か』がよく分からないが――って、今はそれどころじゃないか!


「すぐる!」

「はい! ――『炎熱槍(フレアランス)』!」


 無からの放出、というより火ダルマから切り離される感じで炎の槍が飛ぶ。

 それは逃げ回る少女に迫っていたガーゴイルの顔面に直撃し、一撃で破壊して活動を停止させた。


「おーい! 大丈夫か、ケガはしてないか?」


 俺が声をかけて近づくと、少女は返事もなくへなへなと座り込む。


 首から上を失ったガーゴイルを見て、とりあえず助かったと安心したのだろう。


「ホーホゥ。おいお前、放心状態みたいだけど大丈夫か?」

「え、あ、うん……って喋るミミズク? もしかして噂の『ミミズクの探索者』って……?」

「ああ、俺の事だ。それはそうと、どこかケガはしてないか?」

「大丈夫。あなた達と、あなた達を導いてくれた『くまポン様』のご加護のおかげで助かったから」

「くまポ……? まあ無事なら良かった。――で、あの『青い物体』は何だ?」


 俺は座り込む彼女、懐かしき『新人セット』を纏う、そばかすが似合う黒髪ボブの少女から視線を移して質問する。


 現在も残るガーゴイル一体と戦っている、二メートル大の青い物体。

 ゼリーみたいにプルプルと震えて、時折グニュン! と形状を変えるなど、一見すると戦っているとは思えない感じだ。


 そんな様子を見ていると、質問したのは俺なのに……ゲーム好きな俺自身が答える。


「あれってまさかスライムかよ」

「そうだよ。私の可愛いモンスター、『ラージスライム』のスラポンなの!」


 という少女の言葉を受けて、隣で燃え盛ったままのすぐるは言う。


「なるほど、君は『従魔師』でしたか。そしてラージスライムが従魔だと」


 ――従魔師。

 それはすぐるの魔術師と同じく、探索者を目指す者達にとって人気の戦闘スタイル(ジョブとも言う)だ。


 俺の記憶が確かなら、従魔師となれる【スキル】はただ一つ。これだ。



【スキル:従魔秘術】

『モンスターを従えて己の矛や盾とできる。モンスターに直接触れて、心を同調シンクロさせる事で従魔となる。モンスターと術者の能力差、性格の相性などで成功確率が違う。従魔の数は熟練度が上がるにつれて増加する』



 従魔師と従魔はたまに遠目から見た経験はあったが……こうして間近で見るのは初めてだな。


 ラージスライムは決定打に欠けるも、そのゼリー状な体を活かしてガーゴイルの攻撃をほぼ無効化。

 一方の攻撃面では、打撃というより『吸収』しようとしているらしい。


 覆い被さって上手く取り込んだラージスライムの体内で、青一色に染まったガーゴイルが激しく暴れ出した。


 しかし、それも一分と続かずに……ガーゴイルはついに力尽きたようだ。

 形状はそのままなので、『生命力的なもの』を吸い取られたのだろう。


「スゴイな。これがラージスライムか」

「ホーホゥ。サイズがあるからこその戦い方だな」

「ゲームの弱いイメージとは違いますね。もし敵だったら骨が折れそうです」

「ふふふー。さすがは私のスラポンでしょ?」


 そばかす黒髪な少女は言うと、ちょうど取り込んだガーゴイルをペッ! と吐き出した己の従魔に抱きついた。


 ……その光景を見て、俺はどうも疑問に思わざるをえない。

 本当に彼女は探索者なのか? と。


『新人セット』の防具を纏い、従魔師としてラージスライムを従えてはいるが……。

 言動といい顔立ちといい、探索者試験が受けられる、二十歳以上の成人にはとても見えなかった。


 特に顔立ちの方は全くだ。

 童顔&そばかすでかなり可愛らしい容姿だが、高校生……いや『中学三年生』と言っても通用する少女感がある。


 ズク坊とすぐるも同じ事を思ったらしく、代表してズク坊が「お前はいくつだホーホゥ?」と聞くと、


「二十歳だよー。探索者になってまだ半年くらいかも」と、あっけらかんと彼女は答えてきた。


「そうだったのか。俺は友葉太郎、このパーティーのリーダーだ。んでコイツがミミズクのズク坊で、こっちの火ダルマなのが木本すぐるだ」

「私は飯田花蓮いいだかれんだよ。よろしくね『ミミズクの探索者』さん達!」


 相変わらずの少女っぽさで飯田さんは言うと、改めて助けてもらったお礼か、頭をぺこりと下げてきた。


 しかも隣では二メートルの青ラージスライム、ぽっちゃり火ダルマすぐるよりも体積が大きいスラポンまでもが、

『ポニョーン』と、エコーがかった謎の音を出して、主人に倣って頭を下げたではないか。


 目も口も鼻もないが……コイツからも何となく感謝の気持ちが伝わってきた。


 その後、従魔の知能と忠実さに感心しつつも、なぜあの状況になったのか聞いてみたら、

 飯田さんいわく、


「一対一なら大丈夫だけど、時間がかかって他の子が合流しちゃって大ピンチ」となったらしい。


 俺は、そりゃ探索者歴半年のソロならそうなるだろうな、と思う反面。

 一対一なら、難度の高い『上野の迷宮』二層でもやれるというのに驚かされた。


 従魔師とは、モンスターを倒して得る経験値を従魔と半分ずつ分け合うもの。

 だから最初は他より弱い『大器晩成型』な【スキル】なのに……もうすでにガーゴイル以上の強さがあるとは。


 恐るべしラージスライムだな。

 というか……そうなると一つ疑問が残る。


 最初の一匹に関しては、従魔師の能力上、普通はもっと弱いヤツを選ばざるを得ないはずだ。


 種族的に見ても中々強そうだし、どうやってコイツと同調シンクロしたのだろうか?


「本当にありがとう。あなた達にもくまポン様のご加護がありますように!」

『ポニョーン』

「お……おう。とりあえず奥に行きすぎるのには気をつけるんだぞ」


 と、疑問をぶつける前に、飯田さんと従魔はあっさりした感じで去っていく。


 ……結局、くまポン様って何じゃい? とも聞けずじまいで、どうにも不思議ちゃんな子だったな。


 俺は小さくなる一人と一匹の背中を見ながら、ぽつりと呟く。


「にしても従魔師か。人間とモンスターの絆、ロマンがありますなあ」

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