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三話 【モーモーパワー】

「ホーホゥ。とりあえず食の問題は置いといて、【モーモーパワー】を試してみないか?」


 俺がいつまでも絶望していると、ミミズクが気楽な調子でそう言ってきた。


 ……くそう、他人事だと思いおって。

 大体、そのホーホゥって何だよ! ミミズク本来の鳴き声なのか、【人語スキル】による言葉なのかどっちだよ!


 なんて思いながらも、たしかにミミズクの言葉もごもっともである。


 ここは迷宮で、俺は探索者なのだ。

【スキル】を試さないのは取った(正確には取ってしまった)意味がないし、戦闘に及ぼす効果は気になるしな。


「だな。じゃあ早速【モーモーパワー】、クソデメリット持ちの『牛』の力とやらを見せてもらいますか」

「ホーホゥ。その意気だ。意外に滅茶苦茶強いかもしれないぞ」


 俺は立ち上がり、手放していた剣を握って歩き出す。


 すぐ後ろにはミミズクが続き、安全圏なのか五メートルの天井ギリギリを飛んでいる。


「そういや自己紹介がまだだったな。俺は友葉太郎、今日が初めての新米探索者だ」


【スキル】のためにパンクリザードを探すも、長い一本道に入っても奥に見えなかったのでミミズクに話しかけた。


 思えばサラッと流してしまったが、迷宮に普通のミミズクがいるって変だしな。

 迷い込んだのか何なのか、かなり謎なミミズクだ。


「ホーホゥ。今日が初迷宮だったのか。俺は……名乗る名はないな。色々あって迷宮の中で遊んでたんだ」

「ん? 色々あったって……。ペットが迷い込んだんじゃないのかよ?」

「元ペット、な。【人語スキル】を覚えて知能が増す前は、たしかに迷い込んだペットだったけど……。ホーホゥ。俺の意志で戻らないのさ」


 そう言うと、少しだけテンションが下がった様子のミミズク。

 まだパンクリザードが見えないので色々聞いてみると、ミミズクはミミズクなりに大変だったらしい。


 ミミズクいわく、


 元飼い主は厚化粧のクソババアで、頬ずりなどスキンシップが激しすぎたとの事。

 力加減を知らない上に臭いはキツく、苦痛すぎて突き殺すぞテメエ! と何度も思っていたらしい。


 にもかかわらず、そうやって溺愛するくせに、クソババアはミミズクの部屋を掃除しない汚ギャルならぬ汚クソババアだった。


 そんな飼い主失格の結果。

 部屋は糞尿の臭いがキツく、衛生状態が下水道並だったようだ。


 だから逃げ出した。

 運よく窓が開いたので、必死の思いで自由を求めたのだ。


 名前も捨て、着の身着のまま迷宮に入り、時々外に出たりはするが、ほとんど迷宮生活をして今に至るらしい。


「……というわけだ。まったく、思い出したくもないぞホーホゥ!」

「おお、お前はお前で大変だったんだな……」


 元飼い主にすんごい毒を吐くミミズク。

 内容は可哀そうだけど、かなりシュールな光景だったぞ。


「で、そっちはどうして探索者に――って、それはまた後だぞホーホゥ!」

「え?」


 突然、会話を切り上げ、琥珀色の大きな瞳を細めたミミズク。


 何かと思ってババッ! と前方を見ると、二体のパンクリザードが姿を現していた。


 右の壁と左の壁に一体ずつ。

 挟み打ちでも狙っているかのように、全力ダッシュで向かってきている。


「やっと来たか! んじゃ、使わせてもらうぞ【モーモーパワー】!」


 俺は意識を集中して、体の内に入ったばかりの【スキル】を呼び起こす。


【スキル:モーモーパワー(一牛力)】。


 という銀色の文字が脳内に浮かび、間髪入れずに『変化』は起きた。


 漲るパワー。迸るエネルギー。

 それらが全身を走り、同時に妙な自信と闘争心が掻きたてられる。


「うおッつ……! こりゃ結構、何かスゴそうな感じだぞ!」

「ホーホゥ。本当か、やってまえ!」


 ミミズクの言葉と同時、俺は迎え撃つべく走り出す。

 動きの速さはそう変わらなかったが――ズシンズシン! と明らかに一歩一歩の重みが違う。


 どうなってるんだ? そう思っても足は止めない。


 まず俺は左の壁のパンクリザードを狙い、剣が届く距離になったところで下から上へ斬り上げた。


 剣先がパンクリザードの尻部分に当たるも、素早さから刃の進入角度が悪くて斬り裂けない。

 間違いなく傷が浅い。……しかし、問題はなかった。


 灰色のブツブツ表皮を叩き潰すかのごとく、俺が振るった剣は力任せにパンクリザードを弾き飛ばし――五メートルの高さの天井に直撃させた。


 そこで絶命。パァン! と破裂して血の雨を降らし、俺は頭から真っ赤に染まる。


 どうやら一歩の重み同様、【スキル】習得前と比べて一撃の重みも増していたようだ。


 さっきまでの俺を『軽量級』とするなら、今の俺は確実に『重量級』だった。


「うお、マジか! ――ってぬおォッ!?」


 一匹の最期を見届けた瞬間。

 右壁のパンクリザードが、俺のガラ空きの脇腹目がけて突っ込んできた。


 完全なる素人探索者の油断。

 上半身を守る防具は胸当てなので、ちょうど防具がない弱点となる場所だった。


 ――が、これまたしかしな展開だった。


「軽ッ……!?」


 あまりの衝撃の軽さに、俺は別の意味で衝撃を受けた。


 一層のパンクリザードとはいえ、相手は歴としたモンスターである。

 普通に攻撃を喰らえば、身体能力が上がっていない新米探索者などかなりのダメージを負うはずだ。


 それこそ当たり所が悪ければ、三、四発で死んでしまうだろう。


 なのに問題なし。全くもって無問題モーマンタイだった。


「異常に打たれ強いな。これも【スキル】の影響か。二匹倒しただけでここまで身体能力が上がるわけないし――なッ!」


 着地寸前のパンクリザードを狙い、剣を思いきり叩きつける。

 地面ごと勢いよく叩き斬ると、初討伐時よりも凄まじい震動と音が迷宮内に発生した。


「ホーホゥ。やるじゃないか。全く相手になってなかったぞ」


 二匹目の破裂からの血の噴射を華麗に避けて、ミミズクは天井付近で一周回る。


 それから大きく翼を羽ばたかせると、未だ力漲る俺の体、右肩の上にピタリと止まった。


「おう、完全に【スキル】のおかげだな。熟練度は上がってないのにこの強さ……。デメリットがある分だけ強いみたいだ」

「なるほど。ならこれでバリバリ狩れるぞホーホゥ!」


 恐るべし牛の力、いや【モーモーパワー】か。

 これで俺の死亡率はぐッと下がり、安全に狩れると分かった。


 ミミズクもそれを理解したのだろう。

 それゆけ探索者! 的な感じで、肩の上から翼でビシッと迷宮の奥を指す。


 俺はそのおかしさと可愛さを見て笑い、魔石を回収してから再び動き出した。


 まさかの【スキル】習得と種族を超えた奇妙な出会い。

 心配の種は思いきりあるが、探索者デビューとしてはこの上ない好スタートを切れたと思う。


「まあ、とにかくだ。モーモーやって頑張りますか!」

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