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二十六話 鳥と魔術師の新装備

装備パワーアップ回その2です。

「やっぱり装備は大事ですな」


 ボスとの激しい戦い(殴り合い)で、改めて装備の大切さを実感した翌日。


 俺はズク坊とすぐるを連れて、前にも来た都内にある武器・防具屋を訪れていた。


「久しぶりだなあ。先輩と再会する前だから……この『ヒートボアのローブ』を買って以来ですよ」

「すぐるも実力が上がったから買い替え時と思ってな。額が額だからちゃんとカードは持ってきたか?」

「はい、ここに。先輩のおかげで資金面に余裕もありますしね」

「(コラすぐる。索敵担当の俺のおかげもあるぞホーホゥ)」

「(あ、もちろんですズク坊先輩)」


 ズク坊の小声の主張に小声で返すすぐるを見ながら、俺はワクワク気分で入店する。


 今回はすぐるの装備だけだが、武器・防具屋は見るだけでもテンションが上がる。

 どこを見てもファンタジー素材の装備があるから、探索者でなくても男なら楽しめるのだ。


 あ、そうそう。実を言うとズク坊の装備も欲しい。

 ただ前回来た時に一応、確認するも、【従魔スキル】によるモンスター向けの装備だけで、ミミズクが装備できそうなものはなかったからな。


 というわけで、一緒にすぐるの新装備を選ぶべく防具コーナーへ。


 魔術師ならまず杖では? 右手をかざして撃つより威力が出るだろ? という疑問についてはお答えしよう。


 迷宮、モンスター、未知なる素材、そして魔術。

 色々と現実にファンタジーがごっちゃになっているが、実は魔術についてはファンタジーしきっていない。


 杖で魔術の威力を高めるのは、十年前に世界が激変してなお『二次元の世界』だけ。

 威力や魔力を底上げするのは、なぜかローブかアクセサリ類だけなのだ。


 まあ多分、素材はあるから作ろうと思えば作れるはずだが……。


 存在しないという事は、コストパフォーマンス的なものが悪いのだろう。


「火の魔力強化と耐性で選ぶか、純粋な防御性能で選ぶか。すぐるは決めてるのか?」

「はい。一応はこのローブと同じで火の魔力を重視しようかと」

「まあ、それが無難だよな」

「先輩という圧倒的な前衛がいますからね。僕も身体能力は上がっていますし、防御面はさほど気にする必要はないかと」


 すぐるの考えに俺もうなずく。

 右肩のズク坊も同意見のようで、俺の頬を翼でファサァッと撫でてきた。


 となると、ここら辺かな。

 俺達は広い防具コーナーの奥の方、ローブがある一帯のさらに奥へと入る。


『ファイアウルフの毛皮ローブ』、『レッドアラクネの糸ローブ』、『溶岩島の鉄粉ローブ』――。

 ざっと見て、値段との相談をしたらこの三つが候補か。


 どれも百十万、百四十万、二百十万円とすぐるでも手を出せる価格帯だ。

 今まで稼いでいるし、昨日の『スキル持ち』オーガの素材も高く売れたしな。


 通常個体より大きくて純度の高い魔石と、同じく内包するエネルギーが多かった角二本で七十万弱。

 すぐるのおかげで戦いやすかったから、これに関しては六・四ではなく半々で分けていた。


 なので、念のため言っておくと、決してパーティーのリーダーで先輩な俺の無理強いではないぞ?


 すぐる本人も欲しがっていたし、その顔を見ても目を輝かせてローブを見比べている。


「うむむ、どれも捨てがたいなあ……」


 悩むすぐるを置いておき、俺は俺でズク坊と共に色々と物色し始める。

 防具は『ミスリル合金の鎧』が現役だし、変わらず『牛の流儀』で武器はいらない。


 だからすぐるに「ちょい見てくる」と一言告げて、アクセサリコーナーに行く事にした。


「おお、兄ちゃん。またきてくれたのか」


 と、品揃えを見ていたら後ろから声をかけられた。

 誰だと思って振り返ると――そこにいたのは店長だ。


 イカつい顔と体つきの、五十代くらいの迫力あるおじさんである。


「あ、どうもです。またきました」

「おう。前にも言ったが、将来有望な探索者の兄ちゃんは大歓迎だ。……で、今日はどうした?」

「ちょっとパーティーメンバーのローブを買い替えようと思いまして」

「なるほど、て事は魔術師か。……おっとそうだ。次来たら兄ちゃんにと思って仕入れたもんがあったんだ」

「え、俺にですか?」


 そう言った店長に連れられて、俺はアクセサリコーナーの一角へ。


 すると、モンスター(最低でも中型犬サイズ)用と思われるアクセサリが並ぶ中に、一つだけ。

 小さくて半透明なエメラルドグリーン色。美しい『布』みたいなものを店長は手に取って見せてきた。


「あの店長、これは……?」

「こいつは『追い風のスカーフ』だ。体の一部に巻くと飛行速度が上がるアイテムさ」

「はあ。けど店長……俺、空飛べないですよ?」

「何言ってんだ兄ちゃん。こいつは兄ちゃんの相棒、そのミミズクにと思って仕入れたのさ」

「あ、そっか。そりゃそっちですよね」


 俺の恥ずかし天然発言を受け流して、店長は右肩のズク坊に早速、スカーフを巻き始める。


 最初は嫌がるかと思ったが……。

 ズク坊はそういう素振りは全く見せずに、ただ大人しく首に巻かれている。


「……というか店長。俺がこの子を迷宮に連れて潜ってると知ってたんですか?」

「まあな。変に落ちつきもあるし、ただのペットではないとは踏んでいたぞ。それに前回兄ちゃんが来た後、『ミミズクの探索者』の情報を聞いてな」

「なるほど。そうでしたか」


 探索者やギルド関係者ならまだしも、まさか店長の耳にまで入っているとは。

 ……何か最近、『ミミズクの探索者』として有名になってきている気がするな。


「っと、これでよしだ」


 なんて考えていたら、店長がズク坊にスカーフを巻き終えた。


 と同時。いち早く試したいと思っていたらしく、ズク坊は右肩から勢いよく飛び立つ。


 ――おお、たしかに飛行速度が上がっているな。

 店内だからスピード全開とはいかないが、一目で動きに違いがあると分かる。


「これが『追い風のスカーフ』ですか」

「おう。一部ダンジョンの深い層に咲く、『風精花ふうせいか』の花びら製だ。ワシが勝手に仕入れたからな、気に入らんかったら見送ってもいいんだぞ?」

「いえ、買わせてもらいます。せっかくのご厚意ですし、何より効果も大きいようですしね」


 俺は店長が仕入れてくれたズク坊のアクセサリを即決で買う事に。

 これがあれば回避率も生存率も上がるし、本人も気に入ったらしくずっと飛び回っているからな。


 そうして『追い風のスカーフ』(五十四万円)を持って防具コーナーに戻ると――ちょうどすぐるの方も決まっていた。


 三つの火属性のローブの中で、一番『和』っぽくて匠の技を感じる、

 淡い赤色に染まる『レッドアラクネの糸ローブ』(百四十万円)に決めたようだ。


「ふむ、すぐるはそれに決めたか」

「はい。火の魔力強化と耐性はもちろん、一番動きやすかったのでこれにしました」


 というわけで、サクッと買うものが決まった俺達は店長がいるカウンターへ。


 高額なので現金で払うわけもなく、俺もすぐるもカードで支払いを済ませた。


「そうだ兄ちゃん達。また来てくれたお礼だ――ほれ」


 店長はそう言うと、俺達に名刺を手渡してきた。


 ……ほほう。佐藤泰山さとうたいざんさんって言うのか。

 名は体を表すと言うが、このイカツさにピッタリな名前だな。


 俺はサラリーマンよろしく丁寧に受け取ってから、そんな店長の意を聞いてみたところ、


「仕入れてほしいもんがあったら連絡してくれ。あと次からは値段に色をつけてやろう」と、有望なお得意様として色々と融通してくれるらしい。


「「ありがとうございます!」」


 俺達は感謝の言葉を伝え、続けて自己紹介と固い握手をしてから店を後にする。


 にしても、俺も探索者になってだいぶ色々な人との交流が増えたよな。


「探索者も人脈作りは大切――普通の社会人と同じってわけだ」

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