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二十五話 牛vs鬼

「さすがボス、いや鬼か。圧倒的に強そうだな!」


 一切の疑いなく、魔法陣から出現したと断定される赤黒い鬼。


 その名はオーガ。

 ミノタウルスとガーゴイルに続き、またもゲームの世界の住人のお出ましだ。


 見た目はイメージそのまま。

 鬼の形相に二本の黒い角、冗談かと思うほどの隆起した筋肉に赤黒い皮膚。

 身につけているのは腰布だけで、体長は三メートルを超え、まだ二十メートルは離れているというのに息遣いまで聞こえてきそうだ。


 ……正直、ここまでデカイと進○の巨人の世界である。


「ズク坊は安全圏でも細心の注意を! すぐるは離れた場所から援護を頼む!」

「ホーホゥ。了解だ!」

「分かりました!」


 そう指示を出した途端、仲間の動き出しとほぼ同時。


 グォオオオ! と。

 凄まじい雄叫びを上げたオーガが、俺のお株を奪う形で巨体を揺らして突撃してくる。


「へえ、お前もやる気満々みたいだな!」


『ミスリル合金の鎧』を纏った重戦士と筋肉の鎧を纏ったオーガ。


 壮絶な殴り合いを告げるゴングが今、鳴り響いた。


 ◆


 先手を取ったのはオーガだ。

 三メートル超えの巨体で普通の人間並みに動き、寸前でブレーキをかけての丸太みたいな右腕のブン回し。


 そんな暴力的な一撃を俺は避けない。

 左腕を上げて右手も添えたガードで、ミスリル合金と共に受け止めにかかる。


 ズガン! と苛烈な音と衝撃が鎧から全身に伝わる。

 一撃こそ防げたもののガードは弾かれて――九牛力の推定七・二トンの体が横に動かされてしまう。


 ……マジか。どんだけ鬼の力は強いんだよ!?


 ガードした左腕が少し痛むのは想定内でも、立ち位置はビクともしないと思っていたぞ。


「おいこれ、鎧がなかったらヤバかったんじゃないの――か!」


 驚きつつもお返しの右ストレート一発。

 的が大きく身長差から右脇腹にクリーンヒットすると、今度はオーガの巨体が衝撃に耐えきれず後ろに動いた。


 どうやらこちらの攻撃も効くようだ。

 牛のタフさや鬼のタフさがあっても、互いの攻撃力は脅威となるのか。


 人間同士と同じく、規格外なオーガが相手でも『階級差』は働いてくれるらしい。


 ならば! 俺は自信を持ってバックステップで一度距離を取り、すぐに走り出して『闘牛ラリアット』を狙う。

 さらに威力のある技を使えば、オーガといえど一気に押し込める――と思いきや。


 そうは問屋が卸さない、とばかりにスカッと。

 攻撃動作の大きいラリアットは、見事なまでに巨体を振られて避けられてしまった。


「『炎熱槍(フレアランス)』!」


 と、ラリアットを避けられた勢いで俺がオーガから離れた瞬間。


 後方で隙を窺っていたすぐるが、手持ちの魔術で最大火力の炎の槍を撃ち出した。


 激しく燃え上がる二メートルの槍がオーガを狙う。

 対して、オーガは苛立ったように、グォオオッ! と咆哮すると、


 強靭な足腰で体勢を低くして、カチ上げる格好で『炎熱槍(フレアランス)』を迎撃した。


 直後、槍を形作っていた炎が四方八方に霧散する。

 直撃すればオーガといえど無事では済まない炎の一撃を、鮮やかに対処してみせたのだ。


「チッ、隙を突いた魔術まで捌くのかよ!」


 さすがは俺達にとって過去最強、七・五階層相当の相手だ。


 それでも問題はない。

 最初から上手く事が運ぶとは思っていないし、何より今度こそ大きな隙、背中を俺に向けているからな。


『猛牛タックル』。

 その筋肉で盛り上がった赤黒い背中に、最高火力の切り札を喰らわせてやる。


 俺は低い体勢で走り出し、寸前で半身になって鎧を纏った右肩から突っ込む。

 必ず大ダメージを負わせられる、そう確信しながらオーガに迫った。


 ……のだが、


 俺の気配と重厚な足音に気づいたオーガが振り向く。

 そして一瞬、脱力した感じの棒立ちになったと思ったら、


 両足で大地を蹴り、低く速い突撃体勢の俺の体を両腕で下へと押し込んだ。


 そう、まるで跳び箱でも跳ぶかのように。


「んなあぁ!?」


 披露された予想外かつ身軽な回避に俺は度肝を抜かれてしまう。

 標的が目の前から消えて、俺は地面にダイブする形で二メートルほど滑っていく。


 ウソだろおい……!

 俺は即座に起き上がり、悔しさを噛みしめながらオーガを見る。


 するとオーガはニヤリと笑い、勝ち誇ったように赤黒い巨体を仁王立ちさせていた。


「――まだ終わりじゃないぞオーガ!」


 そこへ、先程と同じくすぐるの援護射撃が。

 今度は『炎熱槍(フレアランス)』より威力は劣るが、速い『三本の火矢(ファイアアローズ)』だ。


 さてどうなるか? 俺は射出された火矢を見ていると、

 最初の二本は太い腕で叩き消されるも、残った最後の火矢が右胸に突き刺さった。


「おっ、よし! やるなすぐる!」

「はい! 『炎熱槍(フレアランス)』よりこっちの方がいいかもしれません!」


 時間をかけて鍛えただけあって、我がパーティーの魔術士は頼りになるな。

 ダメージは少なくても一本だけでも刺さるなら、オーガも気になって戦闘は優位に運べるはずだ。


 これより第二ラウンド開始――。

 俺はオーガがすぐるの方へ向かわないように注意しつつ、正面に陣取って殴り合いに持ち込む。


 九牛力とほぼ互角に渡り合うオーガには恐れ入る。

 だが、『ミスリル合金の鎧』という防御の差か、俺が徐々に押し込んでいく。


 その最中、何度か大袈裟にバックステップした直後、俺の意図を汲んだすぐるが火矢を撃ち込む。

 前回同様二本は防がれるも、最後の一本が当たってオーガはかなりやりづらそうだ。


「六人とはいえ、さっきのパーティーはこれを八回も狩ってるのか。相当連携が取れてないと腕力とタフさに押し切られ――」

「バタロー! 『何か来る』ぞホーホゥ!?」


 と、余裕が出てきた俺の声を、戦闘開始からずっと【気配遮断】で安全圏にいたズク坊の声がかき消す。


 何だどうした? と思うのも束の間。

 至近距離にいたオーガの雰囲気が一変し、拳を引っ込めて顔を前に突き出したと思ったら――。


 グガァアアアア!


 これまでのものとは違う、背筋の凍るような咆哮が発された瞬間。

 真正面に構えていた俺の全身に、凄まじい衝撃が襲ってきた。


「ぐおッ!?」


 九牛力+鎧の防御を貫通した、目に見えない謎の衝撃。

 鎧の兜は吹き飛び、顔を晒した俺は全身を巡る痛みに悶え苦しんでしまう。


 今のは……何だ?


 咆哮がダメージ源になったのは分かるが、オーガにそんな攻撃方法はなかったはず……。


「す、『スキル持ち』です! 稀に出現する通常種よりも厄介なやつです!」

「んなっ、本当かすぐる!? 俺の【絶対嗅覚】にも引っかからなかったぞホーホゥ!」


 すぐるの言葉に、天井付近にいるであろうズク坊の驚きの声が響く。


……『スキル持ち』だと?

 たしかに知識としてはあるが、まさかそんな稀少個体にもう出会うハメになるとは……!


「くそっ、いきなり『スキル持ち』とはツイてないな!」


 こうなったら予定変更だ。


 今の一撃を喰らってハッキリと分かった。

 間違いなく、無視できないレベルのかなり強力な【スキル】だと。


 攻撃範囲はそこまで広くなく、被弾したのは真正面にいた俺だけだとしても。


 体感的にあと『三回』。

 自慢のタフさがあっても、鎧を無視して貫通する【スキル】ならそれくらいが限界だろう。


「よく気づいてくれたなすぐる。お前は休んでいてくれ。……あとは俺が『全開』でやる!」

「は、はい! 先輩ご武運を!」


 今の一言で全てを理解したすぐるが言葉を返してくる。

 うん。やはり俺達も結構、パーティーとして相互理解ができているな。


 そう思いつつ、俺は体勢を整えて構える。

 続いて、また咆哮される前に――先に呟く。


「【過剰燃焼(オーバーヒート)】」


 己の体力の三分の一を消費する代わりに、身体能力と反応速度を引き上げる諸刃の剣。

【モーモーパワー】と合わせる事で、『十八牛力』という爆発的な力を生み出す。


 ただし、制限時間は三分間。

 それまでに仕留められなければ、一気に疲労と倦怠感に襲われてジ・エンドだ。


 まあ……その心配はないけどな。


 通常時で互角以上なら、結果は火を見るより明らかだ。


「うおおおお!」


 尋常じゃないパワーの漲りを感じながら、跳びかかるようにオーガに仕掛ける。

 強引すぎる左右の連打に、力みすぎるヘッドバット。


 それら全てが迎撃してきた腕ごと押し込み、オーガの巨体に突き刺さる。

 堪らず距離を取ったオーガがあの咆哮を使おうとするも、圧力を増した『闘牛ラリアット』を先に叩き込んだ。


 胸部に受けたその一撃により、オーガの赤黒い巨体が宙に浮き、地響きみたいなうめき声が漏れる。


 ――そこへトドメの一撃を。

 俺は跳び上がり、新技のかかと落とし改め、体重が乗った『蹄落とし』を叩き込む。


 ズゥン、と静かに重い音を携えて、右のかかとがオーガの腹に深くメリ込んだ。

 鋭い牙が並ぶ大きな口からは血飛沫が舞い――力の抜けた巨体はそのまま地面へと落下した。


 そうして倒れたオーガを見て、もうピクリとも動かない事を確認し、俺は勝ち誇ったように叫ぶ。


「オーガ退治、これにて完了!」

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