表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/233

最終話 迷宮先進国・日本

第三者視点です。

「や、やべぇえええ……!」

「ウッソだろおいぃ……!」


 激しい足音と切羽詰まったような声が、草が生い茂った洞窟の中で響く。


『上野の迷宮』。

 多くのパワー型モンスターが出現する、全国的にも有名な迷宮の一つである。


 そんな迷宮の五層を腰に剣を携えた男達――探索者二人組が走っていた。

 その後ろにはズシンズシン! と、巨大棍棒片手に五メートル近い怪物の姿が。


 人型モンスター、トロール。

 ネズミ色の肌にでっぷりとした腹、頭のテッペンはハゲ散らかすという醜悪な姿。


『上野の壁』と呼ばれ、なかなか超えられないそのトロール『二体』が、巨体を揺らして大きな一歩で追いかけていく。


 ――つまりはピンチ。

 危険な迷宮内ではどこでも偶然の事故は起こりえるが……若い彼らの場合、半分は『必然のピンチ』であった。


「何で二体同時にぃい!?」

「ッとにツイてねぇえ!?」


 余裕があっても(特に慣れない迷宮ならば)下りるのは『一日一層』まで。

 今日が初めての上野だというのに、二人は迷宮界で有名な格言を破っていたのだ。


「「ッ――!?」」


 そして、逃げる彼らをさらなる不運が襲う。


 広大な五層に数えるほどしかない行き止まり。

 その一つである楕円形広場が、進む一直線の通路の先に待っていた。


「おいどうする!? もう腹くくって戦うか相棒!」

「バカ言え! 一体ならまだしも、二体は無理だ潰されるッ!」


 鋼鉄の全身鎧を纏った彼らは、先がないと知りつつもひたすら走り――流れのままに袋の鼠に。


 広いとはいえ通路よりは安全なその広場に入り、二人はじりじりと後退しながらトロールの隙を探すが……。


「だ、ダメだ。デカイから隙間が少ないぞ……」

「でも股の下なら……ッ、いや厳しいか。その前に棍棒でられちまうな」


 楕円形広場に蓋をするように、一転してゆっくりと前進してくるトロール二体。


 ……もし彼らが、探索者としての身体能力がもっと高い、あるいはスピードタイプの【スキル】を所有していたら……問題なくこの危機的状況を抜けられただろう。


 だが残念無念。

 彼らもまた上野のモンスター達と同じく、パワーや防御タイプの【スキル】しか持っていなかった。


「くっそう。せめて熟練度がもっと高ければ強引に……。ここまで順調だったってのに、さすがにデビュー四ヶ月でトロールは早すぎたのか……?」


 そう呟き、抜いた剣を片手に下がった男の背中が、トンと奥の壁につく。ついてしまう。


 と同時。鎧の首元に挟んでいた『白いあるもの』が――ヒラヒラと舞って地面に落ちた。


『幸運の羽』。


 ウソか真か、ここ『上野の迷宮』において『拾えば絶対に生きて帰れる』という、今や日本迷宮界全体にも伝わる伝説のアイテムである。


「や、やっぱり噂はあくまで噂……。お、終わった……ッ」


 もう一人の相棒の男が、その落ちた白い羽を見て絶望する。

 そして正面に迫りくる、巨大で醜悪なトロール二体に視線を戻して……絶望はより深いものに。


 ――ズズゥウン……!


 と、その時だった。


 絶望の中にいた彼らが聞いたのは、迷宮内に重く響く音と震動――。

 その音と震動を耳で聞いて足に感じて、追い詰められていた若き二人の探索者の表情は――なぜか対照的なものに。


「ハハハ……。もう勘弁してくれって。二体でも無理なのに三体目とか……ッ!」


 羽を持っていなかった男の方は、さらに『絶望的な状況』になると理解し、青ざめた顔が引きつる。


 逆に、大切に白い羽を持っていた男の方はというと。

 目を見開いたと思いきや、引きつっていた口元が緩み、『小さな笑み』を浮かべていた。


「これは……。オイ助かるかもしれないぞ相棒! それまで何とか持ち堪えるんだ!」

「は、はあッ? お前この最悪な状況で何言って……」


 叫び、羽を持っていた男は震える足に力を入れてトロールを見据える。

 そして隣で戦意喪失&困惑気味の相棒に向けて、男は笑みを浮かべたまま言う。


「まだ距離は離れてるみたいだけど……! トロールにしては足音も震動も『大きすぎる』と思わないか!?」


 それこそ、重量級であるはずのトロールが最軽量ミニマム級に感じるほどに。


 まだ鳴り続けるその地響きを感じて、男は大量の汗をかきつつも剣を構えた。


「……ま、まさかッ!?」

「ああ、多分そのまさかだ。『幸運の羽』の噂は……本当だったのかもしれないな」


 絶望の中、突如として差した一筋の光。

 上野には『鎌鼬の探索者』など実力者が多数いるが、その中でも圧倒的な知名度と実績、何より実力を持つ『彼』がくるのならば――目の前のトロールなど何体いようが話にならない。


 それこそ埃を払うがとく、鎧袖一触に葬ってしまうだろう。


 ――とはいえ、だ。

 まだ距離は離れており、自分達で時間を稼げなければ死あるのみ。


 わずか四ヶ月の探索者人生で終わってしまう事は避けられな――。


「ホーホゥ! 見つけたぞ。何かトロールが猛烈に動いてたから気になってきてみたら……やっぱりビンゴだホーホゥ!」


 瞬間、行き止まりの楕円形広場に誰かの声が響いた。


 その直後、ヒュンヒュヒュン! と。

 男二人の迷宮仕様ヘッドライトに照らされた空間を、『小さな白い物体』がとてつもない速度で飛びまわり始めた。


 結果、二人を追い詰めていたトロール二体の意識はそっちの方へ。

 その突然の光景を見せられて、彼らの反応は正直なものだった。


「ほらやっぱりだ! 上野のマスコットがいるって事は……!」

「うわ、本当だ! つうか俺、生で初めて見たぞッ!」


 高速で飛びまわり続ける白い物体、改めミミズク。

 あまりのスピードに滞空した瞬間のみ首のスカーフが視認できるほどに、高速かつ俊敏に飛びまわっている。


 ――ズズズゥウン!


 そうこうしているうちに、さっきから続く地響きが楕円形広場に大きく轟いた。

 今度はそっちに意識をもっていかれたトロール二体は、巨体ごと振り返って広場の入口の方を見る。


「――すっとんできたけど間にあったか? すぐると花蓮は置いてきちゃったけど……まあいいか!」


 広場の入口には全身鎧の一人の男の姿が。

 ズシンズシィン! と歩みを止めずに進み続けるその時すでに、広場に流れる空気の『支配権』はトロールから彼へと移っていた。


『グゴ……オォ……!』


 それを感じ取ったトロール二体は、うめき声らしきものを上げて凍りついていた。


 ……普通ならあり得ない。だが目の前の存在を見れば、誰もが納得しただろう。


 纏う鎧は薄紫色の骨の鎧。

 圧倒的な存在感とオーラを放つも、どちらかと言えば『静かなる威圧』を相手に与えている。


 そして、その上。

 骨の鎧とは色が違う、漆黒色の角の兜。


 たった一つで全てを黙らせ封じるほどの、凄まじい『暴力的な威圧』を撒き散らしている。


 そんなヤバすぎる装備とは真逆。

 追い詰めたモンスターと追い詰められた人間、そして先にいっていた仲間ミミズクの姿を確認した彼は――軽い調子で探索者二人に言う。


「おっ、まだ大丈夫そうだな。見ない顔だけど上野は初めてか? 美女じゃなくても歓迎するぞ!」


 ――次の瞬間、二回響いた足音以上の轟音。

 二つの五メートルの巨体が人形みたいに吹き飛んだその間を、彼はまたズシンズシン! と歩いていく。


 そうして二人に近づいていく途中……彼はふと自分が『自己紹介していない』事に気づいた。


 もはや知らない者など一般人でもごく少数しかいない。

 顔や名前はもちろん、その能力や人柄まで知れ渡っている。


 まして同業者なのだから、いちいち自己紹介などする必要はないのだが――。


 全身鎧な彼は、きちんと角の兜を外してから――いつものように元気よく言う。


「俺は『迷宮サークル』の友葉太郎ゆうばたろう! またの名を『ミミズクの探索者』! 【モーモーパワー】で全国各地の迷宮に潜っている者だ!」

……これで本編終了です!

あとは追加で出たキャラ分の紹介を今日か明日にちょこっと投稿して完結となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 全てにおいてすばらしい [一言] モーモーパワーは結局いくらになったんですか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ