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二十三話 ハリネズミの探索者

ジャンル別日間ランキング一位!?

感謝、感激、驚愕、恐怖。ぐちゃぐちゃな精神状態で投稿しています。

「おおー、前よりもかなり熱いな」


 唸りを上げたすぐるの『火弾(ファイアボール)』を間近で見て、俺は率直な感想を述べた。


 二度目の『上野の迷宮』探索から一週間。

 予定通り一層にて『高速レベルアップ作戦』ですぐるを鍛え、二層で金稼ぎをした結果。


 まだ『レベル3』ながらも、基本となる魔力上昇で見違えるような【火魔術】をすぐるは披露した。


 斧で叩き消そうとするも、力負けして直撃したミノタウルス。

 その巨体は炎と共に、巨大な雑草通路の壁際まで吹き飛ばされていく。


「ホーホゥ。熱だけじゃなくてデカさも速さも上がってるぞ」

「やりました先輩にズク坊先輩。特訓の成果が出ました!」


 魔術を撃ったすぐる本人も喜んでいる。


 特訓では威力と効率の関係から『三本の火矢(ファイアアローズ)』ばかりだったからな。

 久しぶりに撃った『火弾(ファイアボール)』の威力を見て、誰よりも成長を実感しているだろう。


 ……ただし、


「すぐる、まだだぞ。派手に吹っ飛んだけど死んでないな」

「あっ!」


 体から煙を上げながら、むくりと立ち上がってきたミノタウルス。

 ブルルゥ! と怒りの鼻息を鳴らし、戦意と殺意ムンムンで睨んでいる。


 かなり進化しているとは思ったが……結局は最低級の魔術の限界か?


「こうなりゃアレだ! すぐるよ、アレを叩き込むんだホーホゥ!」

「はい! 見舞ってやります!」


 ズク坊の指示、というか願いを受けてすぐるが動く。


 発動のために再び右手を前に突き出すと、凄まじい魔力の高まりみたいなものがすぐるの全身から溢れ出る。


「――『炎熱槍(フレアランス)』!」


 魔術名が叫ばれた瞬間。

 すぐるの右手から迷宮内を激しく照らす、燃え盛る槍が生まれて射出される。


 全長二メートル近い円錐状の炎の槍が、時速百キロを超える速度で一直線に飛んで――ミノタウルスの胸に突き刺さった。


 そして、お馴染みの大炎上。

 ミノタウルスの断末魔の悲鳴が全く聞こえないほどに、業火の音だけが迷宮に響いた。


「……オーバーキルだな」

「オーバーキルだぞホーホゥ」

「……みたいですね」


 調子に乗って火遊びした子供みたいに、予想以上の火力に驚く俺達。


 槍だけあって貫通力もあるし、無駄で気軽にホイホイ使うような魔術じゃなかったか。

 そもそも、すぐる自体がもう立派に火の魔術師である。


 ……あと一つ、実は他に気になる点が。


 湿っているとはいえ、これでもまだ燃え広がらない迷宮の雑草はどうなってるんだ?


 まあとにかく、以後気をつけよう。

 俺もこの一週間で【モーモーパワー】が『九牛力』に上がったし、過ぎる力は考えて使わないとな。


 などと反省して、すぐるの特訓場をそろそろ二層に変えるかな? ――と思ったその時。


「チュチュ? まさかお前、オイラと同じっチュか?」


 突然、俺達の後ろから『妙に甲高い声』が聞こえた。


 不思議に思って全員で一斉に振り向くと――そこには。


 燃えない雑草の上にぺたりと座りこんだ、一匹の『ハリネズミ』らしき生物がいた。


 そんな唐突で意味不明な、けれどどこか懐かしいデジャヴな光景を見た俺は耐え切れずに口を開く。


「何だお前ぇえ!?」


 ◆


 ミノタウルスではなく、まさかのハリネズミ登場。

 未だ焦げた臭いが漂う中、俺は死体そっちのけでそいつに意識を向けた。


 ズク坊と同じく、ただの動物とは思えない知性の宿った瞳。

 そして何より、聞こえてきた声の発生源が……。


「お前もしか……しなくても【人語スキル】を覚えてるのか!」

「そうだっチュ。もう話せるようになって長いっチュな。……で、その相棒の反応からするに、右肩のお前もオイラと同じだっチュな?」


 ハリネズミ(にしてはデカイ。猫サイズ)は俺からズク坊へと視線をズラす。


 話しかけてきた時といい、どうやらコイツはズク坊に興味があるらしい。


「ホーホゥ? たしかにそうだけど……何ヤツだお前は!」

「そう警戒しないでほしいっチュ。怪しい者ではないんチュよ」

「だから何ヤツだと聞いてるんだホーホゥ!」

「オイラは見たまんまハリネズミだっチュ。お前と同じく相棒と――」


 ハリネズミの言葉は途切れる。

 なぜならハリネズミが何かを感じて振り向き、そして別の声が前方から飛んできたからだ。


「ったくクッキー。いきなり置いていくのは酷くねェか?」


 声の主は俺とすぐるのヘッドライトに照らされて現れた。


 ヒョロッとした百八十センチくらいの男で、『何かの鱗製』の首元まである鎧を身に纏っている。

 また左右の腰には一本ずつ、シンプルながらも上等そうな細剣レイピアを提げていた。


 年齢は四十前後だろうか。どこか若々しくも白髪としわがそれなりにある、おでこの派手な傷を除けばどこにでもいそうな人だ。


「悪ィな、俺の相棒が。クッキーには他の探索者の邪魔はするなと言っているんだが……」

「あ、いや邪魔ってわけでは……って、クッキー?」

「おォ、そのハリネズミの名前だ。クッキーが好きだからクッキー。どうだ可愛いだろ?」

「な、なるほど」


【人語スキル】を覚えたハリネズミ改め、クッキーの相棒探索者はそう言うと、ワハハハ! と高らかに笑う。


 会ってすぐだけど……間違いない。この人、かなり快活で豪快なおっさんだ。


「ふむ、そういう命名方法もありますね。その場合だと……ズク坊先輩はバナナシェイクかイチゴ大福となります」

「コラすぐる! 先輩をイジるとは生意気な。翼で引っ叩くぞホーホゥ!」

「チュチュ? じゃれ合うならオイラも混ぜてほしいっチュ!」


 と、人間とミミズクとハリネズミの種族を超えたじゃれ合い(?)が始まったのを横目に。


 俺は早速、出会った探索者の男に自己紹介をする。


「俺の名前は友葉太郎です。もう一人が木本すぐるで、ミミズクの方がズク坊です」

「俺は白根玄しらねげんだ。周りにゃ『ハリネズミの探索者』と呼ばれているが……へェ、お前が『ミミズクの探索者』か」

「あ、はい。一部ではそう呼ばれてます」

「俺以外に喋る動物を連れた探索者に会ったのは初めてだな。まァあれだ、これも何かの縁だしよろしく頼む」


 俺は差し出された白根さんの手に固く握手をする。

 それからどう見ても経験豊富な、先輩探索者の白根さんの事を聞いてみると、


 普段は関西にある迷宮がメインで、今日はたまたま東京に用事があり、そのついでで『上野の迷宮』に潜ったらしい。

 俺こと『ミミズクの探索者』の情報は上野の探索者ギルドで知ったようだ。


 気になる探索者歴はもう十年。

 迷宮が発見された年に探索者になった、いわゆる『迷宮元年』の探索者らしい。


「――じゃァ、俺らはもう行くぜ。思ったより長く潜っちまったし、新幹線に乗り遅れるわけにいかねェしな」

「チュチュ、またどこかでっチュな! お互い無事でいれば、きっと必ず会える気がするっチュ!」


 そう言うと、白根さんとクッキーは足早に地上へと戻っていく。


 その後姿が見えなくなり、再び静寂が戻ったところで……俺達は口を開く。


「あの人、『相当』だよな?」

「ホーホゥ。俺も最初は驚いたけど……間違いないと思うぞ」

「まさかここで先輩以上の人に会うなんて……」


 先輩探索者で『ハリネズミの探索者』の白根玄。

 全員一致の意見で、彼は間違いなく俺なんかよりも強かった。


 装備一つを見ても、『何かの鱗製』の鎧も二本の細剣も、極めて高価な代物だろう。

 近頃の金持ち若造探索者みたいに見栄を張っている可能性は――漏れ出ていたオーラからもあり得ない。


 ……俺も探索者として命のやりとりの経験を積んでいるからな。


 そこら辺は第六感的な、野性のカンで何となく分かるようになっている。


「俺以外に喋る動物を連れて潜る物好きがいるとは……」


 もし出会ったとしても、そこまでの強者だとは全く思っていなかったぞ。

 そもそも今まで出会った探索者で、パーティー全体ならまだしも、サシで俺以上と思える者はいなかった。


 高難度の迷宮ならゴロゴロ会いそうな気もするが……。


 上の下クラスの『上野の迷宮』とはいえ、まさかいきなり【モーモーパワー(九牛力)】&【過剰燃焼(オーバーヒート)】の全力で当たっても敗北必至な猛者に会うとは。


 真正面の接近戦で、かつ小細工なしで戦ってもらったらあるいは……と思っている時点で負けだろう。


「それにあのハリネズミだ。ホーホゥ。じゃれ合って分かったけど、すぐるよりも強いと思うぞ」

「……それは僕も思いました。まさかこの体格差でそう感じてしまうとは……」


 ズク坊とすぐるの話を聞くと、どうやら相棒の方も強いらしい。

 基本の身体能力に加えて、底知れぬ何かを感じたようで、おそらく【戦闘系スキル】も覚えているっぽい。


 なるほど。色々と上には上がいるのか。

 こりゃ調子に乗る前に運良く出会えて良かったかもな。


 探索者の世界は、どうやら思っている以上に広く深いようだ。


「俺もまだまだ甘ちゃん、精進しろって事だな」

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