表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
229/233

二百九話 滅竜作戦(4)

《右翼チーム》



「くっ! 今度は上から撃ってきたか……!」


 再び放たれたブレスの余波で黄金色のオーラが激しく揺れる。

 右翼チームを率いる柊は、上空にいる竜を視界に入れつつも正面チームの方を確認した。


 込められた魔力だけでも分かるオーバーキルな一撃。

 よほど耐久力に優れる者以外、当たれば即死の黒竜の大技だ。


「まさかもう二発目とは……。友葉君は大丈夫で――『双魔眼』!」


 盾役をこなす太郎を心配しつつも、やるべき事をやる笹倉。


大地滑走(グランドスケート)】で草の大地を滑ってポイントを移動。

 両目から紅蓮色の視線の【魔石眼】を発動し、射程圏内にいる黒竜の腹を下から狙う。


 ――ズン、ズン、ズズゥン……!


 その時、正面チームの方から激しい足音と震動が。

 豪快かつ細かなステップからのそれを感じて、柊達はホッと胸をなで下ろす。


「さすがです。どうやら無事のようですね。……我々も負けていられませんか!」


 包丁二本を持つ青芝がダン! と高く跳躍する。

 同じく黄金に染まる柊も跳び、敵意が太郎に集中している間に包丁と鉤爪が腹に叩き込まれる。


 ……だが、まだ漆黒の巨体が落ちる気配はない。


 リスク承知の攻撃は反対の左翼チームからも放たれている。

 それでも高い耐久力と足場のない空中というせいもあり、思ったようなダメージを与えられてはいなかった。


 両翼を広げて滞空する黒竜。

 このやりづらい状況において、真価を発揮するチームがあるとすれば――。


 ◆


《後方チーム》



「やれやれだらしない。ここはやはり僕の出番のようだね」


 後方から味方の跳躍攻撃を確認して、若林は端正な顔でニヤリと笑う。


 そして高まる凍えるような魔力。

 近くにいた『火ダルマモード』のすぐるや銃撃中のマグナムがたじろぐほどに、『六尾竜のローブ』を纏う若林の全身からこれまで以上の魔力が溢れ出る。


「……尾が届かないほど距離をあけるとはな。おまけに僕に時間を与えるなど――愚かなり黒竜よ!」


 狙いは黒竜の左後ろ脚。

 上空から咆哮が届いてくる中、若林は両手で『ダイヤの形』を作る。


 続けて、胸が大きく膨れるほど深く息を吸い込むと、

 口の前にセットした両手ダイヤに――【真空砲】を思いきり吹き込む。


(『永久青蒼氷(エターナルブルー)』)


 瞬間、いつも通りの乾いた破裂音が響く。

 その音が戦場に生まれたと同時、翼を羽ばたかせて宙に浮く黒竜に変化が起きた。


 左後ろ脚全てを包み込むように出現した深い青の氷塊。

 凄まじいまでの魔力と冷気を有するそれは、本来なら一ミリたりとも溶けも砕けもしない。


 しかし、わずか『二秒』。

 青すぎる氷塊はその短時間で砕け散り、鮮やかな青の氷片が空中に散らばっていく。


「――それでも、効いただろう?」


 レベル9で習得する氷系の超高等魔術。

 日本最強の魔術師のその最強魔術を受けて、黒竜の巨体がゆっくりと高度を下げ始める。


 若林の渾身の魔術のダメージによって縮まった滞空時間。

 そうして、黒竜の巨体があと少しで地上に戻ろうとする寸前。


「『黒炎走蛇(ダークフレアマンバ)』!」

「ドカンドッカァン!」


 すぐるはレベル8の新魔術、一月前にズク坊立ち会いのもとで完璧に仕上げた黒炎の蛇を。

 マグナムは声での効果音つきの、もはや銃撃を超えたバズーカを。


 二人揃って発動・発射し、着地した黒竜の左後ろ脚を今度は灼熱の爆炎が包み込む。

 尾での迎撃は緑子の【影舞闘】に阻害されて遅れ、これ以上ない完璧な形で技が決まった。


『グロロォオア……ッ!!』


 直後、ブルッと巨体を支える左後ろ脚が震える。

 ガクンと崩れ落ちこそしないものの、たしかなダメージが漆黒の鎧(鱗)の上から見て取れた。


「まだまだ! この程度で満足してたらズク坊先輩に引っ叩かれてしまうよ!」

「これだけ撃ち込んでも全然振り向かないとは……。黒竜をここまで釘づけにするとは、改めてスゴイな友葉氏よ!」


 間髪入れず、離れた位置から猛攻を仕掛ける後方チーム。

 地上に降りた事で尾の脅威が戻り、細心の注意を払いながら攻撃を加えていた……まさにその時。


「「「「「!?」」」」」


 黒竜の挙動が大きく変わる。

 常に正面を向いていた巨体が、土埃を上げて『時計回り』にズレたと思いきや――。


 後方チームに走った悪寒。もし当たればただ事では済まないだろう。


 突然、漆黒の巨体を回転させて放たれたのは――尾の『ブン回し』攻撃だった。


 ◆


《正面チーム》



「そう、きたか!」


 恐れていた攻撃の一つがついにきた。


 丸太などよりも遥かに太くて重い尾のブン回し。

 ブレスよりは数段落ちるも、威力もリーチも文句なしの通常攻撃だ。


 俺は覚悟を決めてそれを受けにいく。

 もし受けずに一回転を許せば、まだ通過していない右翼チームにも攻撃がいってしまう。


「ぐおお……ッ!?」


 だから避けずにガッシリと受けて――見事なまでにふっ飛ばされた。

 こちとら推定体重『百十二トン』もあるというのに、距離にして五、六メートルほど飛ばされてしまう。


 ウソだろ!? 全力の態勢で止めにいって失敗したのか!?

 そう焦りながら素早く起き上がると……尾はすぐ近くで止まって残っていた。


「竜ちゃんが止まった! バタロー、グッジョブっ!」


 さらに喜び爆発な花蓮からの声もあり、どうやら尾のブン回し攻撃を途中で止める事には成功したようだ。


 ――ただし、その代償として俺には結構なダメージが。

 とはいえ即行で『キュルルゥ!』と、鳴いたフェリポンに回復してもらって事なきを得る。


『グロロォオオアアア――!!』


 と、ここで黒竜がトカゲみたいに動いて方向転換。

ズズズゥン! と巨体を揺らして俺達正面チームの方を向く。


 ……ふむ、よほど俺が気に食わないってか。

 あのまま前後が反対になった状態だと、チーム全体が移動し直さなければならないからな。


「まあ、こっちとしてはありがたいぞ――『ブルルゥウッ』!」


 そこからはまた油断できない綱渡りの戦いが続く。


 正面なら爪、牙、魔眼、たまに尾、そして極悪な『重力ブレス』。

 俺はひたすらガードに徹し、他のメンバーに膨大な見えない体力ゲージを削ってもらう。


 ダメージの蓄積や【過剰燃焼(オーバーヒート)】が切れれば即座に回復。

 常に万全の状態を保ってもらい、山のような黒竜を相手取っていると――――。


「微妙に落ちたか!? めちゃくちゃ強いは強いけど……!」


 黒竜のパワーも硬さも耐久力も変わらない。

 力の源だろう濃厚な魔力も、漆黒の巨体から無限のごとく湧き出ている。


 だが一点、繰り出す技のスピードが『少し落ちている』ように感じるのは気のせいではないはずだ。


『グロロロォオオアアア!!』


 咆哮も威圧も変わらず凄まじい。いちいち生命の危機を覚えるほどだ。


 それでも一撃、強烈な爪を俺はまたガードすると……やはりわずかに遅くなっている。


「ついに『回り始めた』か? さすがはアニキだ!」


 黒竜の動きが多少、鈍った理由。

 それは各チームが与えたダメージのおかげだが、左翼チームの白根さんの『毒』の効果も大きいはずだ。


万毒ばんどくの牙】。


 世にも恐ろしいありとあらゆる猛毒を駆使する【スキル】で、その熟練度は『9』。

 白根さんの強力な二刀流のうちの一つが、黒竜の体内に回り始めたと思われる。


 右翼・左翼チームはある時から翼での『竜巻攻撃』(ガルポンの超上位互換な技)が襲い始めた中で、

 六日間の訓練通り、草刈さんの刀で深く斬り裂いた箇所から、白根さんが毒を注入する事に成功したようだ。


 ――黒竜討伐のために、俺の盾役と同じく重要な毒の『浸食』。


 相手が強大すぎて毒の侵攻速度は遅くとも、放っておくだけで確実なダメージ源となってくれるだろう。


「このまま地道に削りきれ――ってオイ、マジか!?」


 だが、相手はあくまで迷宮界の『頂点捕食者』。

 いけると思ったところでまた、俺達の目には好ましくない事態が目に入ってくる。


 まるで怒った大蛇のごとく暴れ回る、黒竜の尾の向こう側。


 若林さんや緑子さん、すぐるや狙撃コンビなどがいる後方チームの方から――『赤い煙』が立ち昇っていた。


 ◆


《後方チーム》



 突如として戦場に現れた真っ赤な煙。

 その正体は後方チームのメンバーが投げた、『緊急事態』を知らせる『発煙筒』だ。


「大丈夫か!? ここから少し動けるか!」

「ああ、何とかな。……すまない、俺はここまでみたいのようだ」


 右腕を押さえて苦悶の表情を浮かべるメンバーの一人。

 後方チームを担当する遠距離タイプの男は、悔しそうに謝罪の言葉を口にした。


 男の腕が折れてしまった原因は黒竜が出した『初見の技』。

 暴れる尾が何もない地面を叩いたと思ったら、【土魔術】のごとく複数かつ均等なサイズの岩弾が飛び散ったのだ。


 それが籠手に覆われていない上腕に直撃して骨折。

 幸い命に別状はないが、『滅竜作戦』が始まって一人目の負傷者となってしまう。


 男の【スキル】は利き腕の右を動かして使うタイプのため……こうなると無力化されたも同然である。


「――お待たせしました。ではすぐに離脱しましょう」


 と、発煙筒の煙が上がってすぐの事。

 男の五メートルほど後方に突然、一人の女性がパッ、と姿を現して冷静な声で言う。


 地面そこにあったはずの不自然な『小さな藁人形』。

 その代わりに現れた二十代後半の女性――椿由江つばきよしえは現れてすぐ、男の体を支えるように触った。


 直後、負傷した男と共にその場からパッ、と消えた椿。

 と同時、今度はなくなったはずの『小さな藁人形』がパッ、と虚空から現れる。


【ヘイトボール】使いの檜屋と同じく、彼女もまた作戦に選ばれたもう一人の副隊長だ。


「『交代(チェンジ)』――『交代(チェンジ)』」


 訓練を共にした太郎いわく、『地味モテ学級委員長』な椿は【変わり身人形】の能力を連続で発動。

 仲間が位置につく際、皆で最初に『戦場にバラまいていた』藁人形と位置を交代していく。


 椿の仕事は『滅竜隊(ドラゴンスレイヤーズ)』で唯一、黒竜に向かうものではない。


 こうして発煙筒が上がった時、最も近くの藁人形と『交代(チェンジ)』して負傷者に接近。

 その負傷者に触れた状態でまた別の藁人形と『交代(チェンジ)』し、戦場から速やかに離脱させるのが役割だ。


【転移】と比べれば一度の距離が出ない分、瞬時に移動できるのがこの【スキル】の強み。

 すでに椿は負傷者と共に、黒竜の攻撃を受ける事なく大階段まで移動していた。


「気を引き締めるんだ! 多少、動きが鈍ったからといって油断するなよ? 美しくない!」


 破裂音を伴う凍てつく魔術を撃ちながら、氷の王と化した若林がリーダーとして注意を飛ばす。


 攻撃に盾に回復に行動阻害に救助に。


 あらゆる面で抜かりない『滅竜隊(ドラゴンスレイヤーズ)』の戦いは――一人の退場者を出しただけでまだ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ