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二百八話 滅竜作戦(3)

「――ッぶねえ!? 何だ今のデタラメな破壊力は……!」


 人類vs竜の戦い。

 最終決戦感が漂う巨大空間の中、俺は花蓮と共に正面チームの一員を務めているのだが――早くも兜の下で青ざめていた。


 ウソだろ、もうかよ。……冗談キツイぞ。

 しかも肝心の威力も想像のさらに上をいきやがった。


 直径十メートル弱、深さ五メートル大の『クレーター』。

 ただでさえ膨大な魔力が急速に高まり、大口を開けたからまさかと思ったら、


 炸裂した轟音と同時にきた黒竜のブレス攻撃。

 その凶悪すぎる一撃によって、俺がいた場所にぽっかりとクレーターができ上がってしまっていた。


「炎じゃなくて風!? でも何か違和感があるわね……!」

「ああ、この感じだと風とは違うな。撃った時の微妙な『空間の歪み』を見るに――おそらく『重力系』だろう」


 俺でも喰らえば相当にヤバイ一撃。

 それを間近で確認した葵姉さん(女オーガ)と梅西隊長(巨人)が、構えを崩さないまま黒竜を睨む。


 ……なるほど、重力か。そう言われれば納得だ。

 どこか引き寄せられる感覚もあったし、ドス黒い体色から見ても、重力のイメージとぴったりと合う。


『――グロロロォオアアアア!!』

「「「!」」」


 間違いなく黒竜最強の攻撃。爪や噛みつきと比べても別次元と言っていいだろう。


 亜竜・妖骨竜の『飛ぶ頭突き』さえ軽く凌駕する『重力ブレス』。

 それを放った事で、多少は硬直時間があって『反撃タイム』が生まれる――というこっちの希望は打ち砕かれた。


 休む間もなく大地を揺らし、前進しながらの左右の爪による怒涛の連撃。


 ガードを固めて放たれた二発を受けて俺は耐えるも、続けざまの噛みつき攻撃は急いで回避。

 そのまま大きくバックステップを踏んで黒竜から距離を取る。


「フェリポンっ!」

『キュルルルゥ!』


 そこへ『精霊の治癒(ヒール)』による回復が。

 加えて、回復を受けた俺の頭上を越えるように、バイイーン! と。


 後方にいるヒノッキーからショッキングピンクの玉、【ヘイトボール】(大玉)が弾んで黒竜のもとへ。


 ……いやはや、本当に助かるぞ。

 ブレスからギアを上げてきた感じのある黒竜相手に、こうして全員の力をもって対抗するのだ。


「今じゃ! リザにグラ!」

『シュルアアッ!』

『ギュイイイィ!』


 と、誰よりも声を張り上げた八重樫さんが、二体の従魔(爆炎トカゲと双頭のシャチ)を引き連れて突撃する。


 もうおじいちゃんなのに大丈夫なのか……とは一ミリも思っていない。

 何せ訓練の時から若者に負けない機敏かつ老練な動きだったからな。


 そんな頼もしい、ウチの花蓮が目指すべき日本一の従魔師は華麗にヒット&アウェイ。

 地面を掴む右前脚に攻撃を集めて、反撃で振り下ろされた左爪を避けると、俺達の少し後ろに位置を戻す。


「……さあ次は何がくる? 『重力ブレス』の連発とかは勘弁してくれよ!」


 少しズレていた兜を直し、俺は再びどっしりと構える。

過剰燃焼(オーバーヒート)】が切れるまではあと少しあるので、防御力は『百六十八牛力』(【気合いのビンタ】の効果)を保っている状態だ。


 だから爪攻撃は大丈夫。今のところ気をつけるべきは噛みつきと『重力ブレス』の二つだけ。


 まだ全てを出してはいないだろうが、相手の技の選択肢が少ないのに越した事はない――。


「ッ、ぐぅ!?」


 刹那、『妖骨竜の鎧』に守られた全身にドン! と衝撃が走った。


 ――オイ急に何だ!? 黒竜はピクリとも動いていないだろ!?

 にもかかわらず襲ってきた衝撃。……それは今までと比べると一番『軽い』ものだ。


 どういう理屈で今、攻撃が飛んできたのか?

 俺は初見では分からなかったが――そこはやはり頼りになる先輩達だった。


「太郎、目だ目!」

「見開いた瞬間、何か友葉君に飛ばしたようだぞ!」


 ここで葵姉さんと梅西隊長からの情報で、俺はすぐに事態を理解する。


 そういう事か! と王者の風格漂う黒竜の黄金の瞳を見てみれば、

 わずかに目蓋を閉じて細めた後、カッと大きく見開いてきた。


「!」


 そして再びの衝撃が全身に。

 攻撃力よりも速度重視のノーモーション攻撃を、当然ながら俺はガードして受け止める。


 ズガガガガッ……!


 まるで笹倉隊長の【魔石眼】のごとく視線から放たれる重力弾。

 最初こそ驚きはしたが、特に問題なくその連射攻撃を対処する。


 ……とはいえ、あくまで最強の竜による攻撃だ。


 肉体が強化されるタイプの【スキル】を持つ俺、葵姉さん、梅西隊長の『フィジカルトリオ』を除けば、骨の一本でも普通にへし折る威力はあるだろう。


 名づけるなら『重力眼』か。

 まさか巨大最強生物のくせにこんな小技も使えるとは――。


「ふぎゃぁあああ!?」

「!?」


 と、突然、戦場に響いたのは人間の悲鳴。


 聞き覚えのありすぎるその声は――我らが従魔師の花蓮のものだった。


 ◆


「なッ! 何だどうした!?」


 俺は即座に振り返る。

 兜の下でブワッと嫌な汗をかきつつ、正面チームの後方を確認してみれば、


 軽鎧を纏う花蓮の体から、『青白い霊体』みたいなものが背中からヌルッと抜けていく。


 ――つまりは一定以上のダメージを受けてのLPライフポイントの消費。

 フェリポンの方は花蓮に隠れて無事だが、主人である花蓮の方が喰らってしまったらしい。


「しまった! 俺の鎧で『弾かれたやつ』が当たったのか……!?」

「だ、大丈夫っ! 相手が竜ちゃんだろうとオケラだろうとアメンボだろうと、マイナス百八分の一は一だよっ!」


 そんな花蓮らしい返事を聞き、俺は安堵しながら黒竜に視線を戻す。


 すると眼前にはすでに迫る巨大な刃――もとい右爪が地面スレスレから振り上げられようとしていた。


「チィ!」


 反応が遅れたせいでわずかにガードが甘くなる。

 重いはずの両腕は弾かれ、俺は万歳するような格好となってしまう。


 また威力と角度的に体も数センチほど浮上。

 両足が地面から離れて、絶対に与えたくない『隙』を至近距離で与えてしまった。


 前後左右から皆の猛攻撃を受けてなお、こうしてガンガンくる黒竜。

 まさにその姿は最強の名に相応しい――なんて隙だらけの俺が悠長に考えられる理由は一つ。


「任せろ! 今度こそキレイに決めてやる!」


 叫び、一気に飛び出してきた四メートル級の巨人。

 瞬間的に格好の的となった俺の前に出ると、飛び上がって横一線にハンマーを振るう。


 ――パコォオオン!


 巨人の腕力からの重い打撃音……とは程遠い音が鳴る。

 どう考えても大したダメージがなさそうな一撃の音だが、梅西隊長だけはコレでいいのだ。



【スキル:ピヨピヨハンマー】

『攻撃の威力全てが『スタン値』に変換される。発動条件は『ハンマーでの顔や頭への攻撃』のみ。熟練度が上がるにつれて付与される『特別スタン値』が増加する』



 ダメージではなく、『脳を揺らす』。

 それを証明するように角の根元、側頭部あたりに一発を貰った黒竜がグラついた。


 ……と言っても、ほんの少しだけ。

 門番ゲートキーパークラスが相手でも十秒近くピヨらせられるらしいが、圧倒的な耐久力を誇る竜には一瞬だけだった。


「どうも助かりま――ッ!」


 ただ、その一瞬でも俺にとっては充分な時間だ。

 万歳状態から体勢を戻して、『牛力調整』で『高速猛牛タックル』を叩き込む。


 そして無理な追撃はせず、ズシィン! と大きく一歩後退する。


「花蓮! 頼む!」

「あいよっ! フェリポン!」

『キュルルルゥ!』


 三分が経過し、【過剰燃焼(オーバーヒート)】が切れたと同時に回復を。

 間を空けずに百四十牛力(防御のみ百六十八牛力)に戻してから、空中を蹴って棍棒を叩き込む葵姉さんの援護射撃を下から行う。


『グロロォオアア――!!』


 するとたまらず(?)黒竜が咆哮。

 踏ん張る柱のごとき前脚の動作が変わったので、またブレスか何かを放つ……事はなかった。


「ほう! 今度はそうきおったか!」


 最後に八重樫さんの従魔、ツインヘッドグランパスの『集束水圧レーザー』を受けて、黒竜の四十メートルにも及ぶ巨体が持ち上がる。


 ――ったく、早めのブレスに始まって次から次へと……!

 だが相手が竜である以上、これは別に不測の事態でも何でもない。


 黒竜のとった行動は、ある意味、『重力ブレス』や『重力眼』よりも厄介なものだ。

 後方チームは大丈夫でも、ほかの正面、右翼、左翼チームにとっては、一部のメンバーを除いて……。


 戦場に吹く濃密な魔力が乗った強風。

 二枚ある漆黒の翼が力強く羽ばたき、ゆっくりと『巨大な影』が広大な草原に生まれる。


「早速、飛んできたか! 空中戦は面倒だってのに!」


 バッサバッサと何度も強風を浴びながら、全員が視線を上げざるをえない。


 立派な二枚の翼があっても、巨体ゆえにそう長くは飛べないとしても。

 こうして空に浮かばれてしまうと……黒竜あっちのフィールドで戦わなければならなくなる。


 探索者の身体能力全開で、強引に飛び上がっての攻撃は可能。

 ただそうすると与えるダメージ以上の、大きな隙を落下中に与えてしまう。


 浮かぶ高さは二十メートル程度。それでも地上にいる時よりも遥かに増した竜の圧力。


 戦場は四、五百メートル四方の広さがあるというのに、まったくその広さを感じな――。


「! 気をつけろ太郎!」

「はい! またアレですね……!」


 葵姉さんの注意が飛ぶ直前。空に上がって霧の天井を背にした黒竜の魔力が急速に高まる。


 長く太い漆黒の首もわずかに膨張し、周囲の空気の禍々しさが増していく。


 高まった魔力の中心は、言わずもがな大きく開かれた口。

 恐ろしい無数の牙を見せつけ、地獄の入口のようなそこから放たれるのは当然、アレだ。


 黒竜最強の技と思われる『重力ブレス』。


 喰らえば即死を免れたとしても、まず瀕死になるだろう壊滅的な一撃だ。


「――ッ……!」


 ヒノッキーの【ヘイトボール】(大玉)のバウンドは届かない。

 後方チームの若林さんを中心とする強力な遠距離攻撃も、ブレスの動作を止めるには至らず。


 そうして、一瞬の不気味な静寂を経て。


 超重力砲な黒竜の『重力ブレス』が――また俺を狙って降ってきた。

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