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二百七話 滅竜作戦(2)

正面チームのみ主人公視点、他が第三者視点で進みます。

「かかれ! 一発を積み重ねて削っていくぞ!」


 輝く【金色のオーラ】を纏い、チームリーダーの柊の声が響く。

 それに続いて「「「「了解!」」」」と、叫んだ『右翼チーム』の面々が黒竜へと襲いかかる。


 柊を筆頭に全十二名。震え上がるような敵意を正面チームが引き受けてくれる中、目の前の巨大生物の膨大な体力を削る事こそ、彼らに与えられた役割だ。


 ――ビキィイイ……ッ!


 まず黒竜の右脇腹に一撃を加えたのは、『魔石眼の公務員』の笹倉だ。

 女性ながら『DRT』隊長を務め、このチームの主力の一人でもある彼女は、強力な【魔石眼】で睨んで魔石化(硬化)させようと試みた。


「! やはり完全には効きませんか……!」

「いえ、それでもこの状態ならば――!」


 と、漆黒の大きな鱗一枚だけが『半硬化』したところへ。

 もう一人のチームの主力、チャンスと見た丸眼鏡の小柄な男が斬り込む。


『ぶった切りの探索者』の青芝である。

 二刀流のその包丁剣士は、オリハルコン製の包丁二本を持ち、半硬化した鱗を派手に斬りつけた。


 瞬間、硬すぎる漆黒の鱗が一枚、一直線に裂けた。

 傷は決して浅くはないものの……下の肉まではわずかに達していない。


「ッ!」


 そこへ突如として吹いた猛烈な『突風』。

 濃厚な魔力を含んだ重みのあるその風により、接近した青芝ほか数名が巨体から引き剥がされてしまう。


 ――原因は黒竜の翼。

 邪魔だと言わんばかりに振るわれた右翼によって、さらなる連撃を加える事は許されなかった。


「……この点はベルリンの赤竜と同じか。常に張り付いての攻撃は不可能。突破すべき鱗の一枚一枚もまるで鎧だな」


 ビリビリと伝う亜竜をも超えるプレッシャー。

 近くにいるだけで苦行とも言える過酷な状況で、ついに柊が動く。


 究極の装備の『魔鋼竜の鉤爪』を引っ提げ、この戦場において五人しかいない、怪物独特のオーラを放ち――。


 ザンザン! ズザザァアン! と。

 鉤爪による強烈な二撃と、それを上回る【亜竜の追撃】も同じく二撃。


 計四回の爪を当てると、青芝でさえ完全切断できなかった鱗がボトリと落下し――露出した肉部分を数センチほど抉り取った。


 そして、間髪入れずにヒット&アウェイで距離を取ると同時。

 他の右翼チームの面々が【スキル】を発動。鱗が剥がれて露出した部分を中心に、次々と容赦のない攻撃を叩き込む。


『グロロオォオァアア――!!』


 が、ここでまた翼による突風が発生する。

 多少なりともダメージを受けた黒竜は、突風だけでなく魔力の波も周囲に拡散しながら咆哮した。


「まだこれでも大人しいはずだ! ここから先は激しくなる一方――覚悟してかかるように!」

「「「「「了解!」」」」」


 正面チームと比べれば、安全ではある柊率いる右翼チーム。


 彼らがどれだけ早く削れるかどうかが、太郎達正面チームにかかる負担の大きさに関わってくる。


 ◆


「おーおう! 久しぶりに再会できたと思えば……イカレた威圧してきやがるぜ!」

「こりゃ亜竜何体分だァ? 戦闘モードは全然、違うじゃねェか!」


 柊達から黒竜を挟んだ反対側。

 全十二名で構成される『左翼チーム』を、二人の男が先頭となって従えていた。


 右手に『精竜刀』を握り左手をポッケに入れた最強剣士の草刈と、額の大きな傷が目を引く『百足むかで竜の鎧』を纏った白根だ。


 この二人の強者は好戦的な笑みを浮かべつつも、急いで手を出す事はせず、黒竜の巨体および咆哮を冷静に観察してから、


「『地堕落じだらく斬り』」

「『一極雷鳴いっきょくらいめい』」


 草の地面を撫でるような刃が静かに走り、派手な紫電が先端で爆ぜる。

 それら対極にある刀とレイピアが――黒竜を守る漆黒の鱗を狙う。


【無気力剣術】に【スタンガン】。

 どちらも熟練度が『9』に達するほど鍛えられた強力な【スキル】だ。


 直後、喉を震わしてまた黒竜が咆哮した。

 さすがに『単独亜竜撃破者』二人の同時攻撃は堪えたのか、


 立て続けに存在感ある左の翼を振るい、生み出された強烈な風で草刈と白根は吹き飛ばされてしまう。


 ――右翼チームと同様に、左翼チームも攻撃中心。

 この突風を受けながらダメージを与え続けていくのが役割だ。


 また唯一、四チームの中で『単独亜竜撃破者』が二人。

 戦力的には一番高いため、最も黒竜の体力を削ぐ事を求められるチームである。


「あの硬そうな鱗がもう剥がれ落ちて……。訓練の時は全力じゃなかったのか?」


 そんな重責を特に担う二人の背中を見て。

 左翼チームの一人、東京の上野から来た高崎は驚く。


 竜という存在は一番のバケモノだが、同業者から見て彼らもバケモノ。

 比較されれば圧倒的な差はあるが……決して悲観する必要もなければ、彼が場違いであるはずもない。


 この場にいるという事すなわち、高崎もまた日本を代表する探索者なのだから。


「呆けてないでいくぞ。我々は『完全勝利』を手にするんだろう? 『鎌鼬の探索者』!」

「は、はい!」


 左翼チームの三番手、『超合金の探索者』の異名を持つ魔術師の桐島に言われて。

 高崎は自分のももを叩いてから、代名詞でもある【鎌鼬】を発動する。


 生身なら触れただけでスパッと切れる風の奔流。

 切れ味鋭いそれを右腕に纏わせると、高崎は白根が傷つけた箇所目がけて手刀を振るう。


「『岩王弾(メテオショット)』!」


 一方の桐島も【土魔術】を使い、もう一つの【硬化】と魔術を一体化。

 熟練の技で岩の塊を金属の硬度に上げ、草刈が傷をつけた方にボーリング大の弾丸を撃ち込んだ。


「ヂュヂュウッ!」


 さらには一匹のハリネズミも。

 とっくに白根の頭から下りていたクッキーは、全身の針を逆立てて全力の【トルネード砲】を【精密射撃】で叩き込む。


 ――彼らの目にはもう、岩壁も草の絨毯も霧の天井も目に入らない。

 黒竜のあまりの存在感に、格下として嫌がおうでも見入ってしまう。


 こうして、右翼チームに続いて左翼チームも本格的に戦闘開始。


 黒竜からの反撃に注意しながら、強固な鱗の鎧と膨大な体力を削り始めた。


 ◆


「狂い咲け――『氷結の薔薇(フリージングローズ)』!」


 黒竜の背後を担当する『後方チーム』。

 そのリーダーを務める最強魔術師の若林は、黄金毛皮な『六尾竜のローブ』を揺らめかせる。


 そして位置につくや否や、息と共に自慢の『氷魔砲』を発動した。


 狙いは黒竜の尻から大樹のように伸びた尾の根元。

 強烈な破裂音と共に【真空砲】の速度で放たれた【氷魔術】は、着弾すると瞬く間に氷の薔薇を形作る。


 離れていても肺まで凍りそうなほどの冷気と魔力。

 生まれた薔薇はすぐさま砕け散り、追加ダメージを相手に与えて――鱗の一枚を『壊死』させた。


「……フッ。ぶ厚く硬い大量の魔力が通った漆黒の鱗、か。これは凍らせがいがありそうだね」


 強気に言う若林は再び魔力を込める一方で、黒竜との距離は十メートル以上を取っている。


 後方チーム=遠距離攻撃チーム。だからいかに攻撃的になろうと当然の立ち位置だ。


 この構成になった理由はただ一つ。

 竜の証の一つでもある、長く厄介な尾の存在に他ならない。


『ミミズク』、『女オーガ』、『巨人』、『老将』などが担当する最も危険な正面チーム。

 その次に危険なのが、右翼でも左翼でもなくこの後方チームなのだ。


 一発でも貰えば即死もあり得る。

 ゆえに彼らは接近戦はせず、常に距離を取って戦うのが絶対のルールだ。


「さすがは『単独亜竜撃破者』! よし俺達も続け続けッ!」

「了解ッス!」

「食らえ――『火の鳥(ホウオウ)』!」


 と、若林の強くも美しい氷と真空の一撃に続いて。


 マグナムとバレットの狙撃コンビの構えた指先から、【銃撃】の連射が一気に火を吹く。

 さらに『火ダルマモード』のすぐるからも、その纏う炎をごっそりと持っていった火の鳥が飛び立った。


「――少しうるさいわね。一瞬でいいから止まっていてくれないかしら」


 ここですぐる達、ではなく蠢く危険な黒竜の尾に向けて。

 膝から下を影に沈めた麗しき探索者、チームの主力の緑子が両腕をグイ! と後ろに引く。


 集中攻撃を受けてやり返そうとした漆黒の尾。

 それを足元から伸ばした影を絡めて、わずかに反撃の動作を遅らせる。


「ありがとうございます! 緑子さん!」

「行動の阻害は任せて。この巨体とパワーでは拘束しきれないけど、多少なら遅らせられるわ」


 すぐるの感謝に緑子は返すと、引き続き【気配遮断】で存在を消したまま。

 尾を中心に影を纏わせ、拘束を続けて一瞬たりとも完全な自由にはさせない。


『竜の尾は別の生き物だと思え』


 ベルリンの赤竜戦で生き残った探索者の言葉通り、ただの尾というより意識を持った蛇のごとく、黒竜の尾は獰猛に振るわれていく。


 叩きつけ、薙ぎ払い、あるいは刺突も。

 動きを予想しづらい尾による攻撃を邪魔し、隙あらば攻撃も加えるのが緑子の役目だ。


「今のところは順調だね。孤高にして最強の生物よ――僕達『滅竜隊(ドラゴンスレイヤーズ)』の前に美しく散るがいい!」


 若林率いる後方チームの位置から見て、右翼も左翼チームも特に問題なく攻撃を仕掛け続けている。


 討伐に時間がかかるのは確定事項。

 だがこれなら、上手くいけば一時間以内に勝てるのでは? そんな考えが数人の頭に浮かんだ――その時。


 異常なほど高まった黒竜を包む濃い魔力。

 そこから数秒の不気味な間を置いて、唸る大地と震える空気。


 耳に痛みが走るほどの凄まじい轟音が、尋常ならざる衝撃波を携えて『前方から』飛んできた。


「「「「「!?」」」」」


 尾に集中していた後方チームの動きが乱れて止まる。

 一体何が起きたのかと、山のような巨体で見えずとも、確認のため前方に視線を向けてみれば――。


 もうもうと霧の天井に届かんばかりに上がった『土埃の柱』。


 轟音と衝撃波が生まれた瞬間は皆、分からなかっただろう。

 だが数秒経った今なら、全チーム全メンバーが事態を理解していた。


「『ブレス』か! 始まって早々、もう使ってきたというのか……!」


 轟音と衝撃波の余韻がまだ残る中、戦場に響く若林の声。

 それは右翼・左翼チームも同じで、動揺したメンバーの声がちらほらと生まれている。


「せ、先輩……!」


 最も遠い位置から状況を確認したすぐるの背筋が凍る。

 これまでの探索者生活において、様々なモンスターや太郎が生む轟音と衝撃を間近で見てきたすぐるだが……。


【煩悩の命】でLPライフポイントが百八個ある花蓮は大丈夫。

 太郎は太郎で圧倒的なタフネスを有しているが、今の一撃は経験した事のないレベルの威力だと、すぐるは後方で感じ取っていた。


 もし喰らっていたら、下手をすれば鎧もろとも『消し飛ぶ』のでは?

 ……だからこそ無事なのかと、心配で全身の炎に不必要な揺らぎが出てしまう。


「皆、集中して! 正面チームはきっと大丈夫。手を止めずに私達の仕事を全うするわよ!」


 色々な意味で激震が走った中、緑子の声が飛ぶ。


 彼女自身も当然、太郎や葵をはじめ正面チームへの心配はある。

 ただその感情を押し殺し、仲間を信じて、自分の役目を果たすべく影を濃くして黒竜の動きを封じにかかった。


 ――『滅竜作戦』はまだ序盤も序盤。


 約束した『完全勝利』のためにも、日の丸を背負う彼らは黒竜に挑む。

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