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二百一話 竜の居城

遅れてすいません。(汗)

先週の分です。

「で、出た……。ホントの本当に出やがった……!」


 紀伊水道に島が出現してから二日。

『DRT(迷宮救助部隊)』によって上陸調査が行われ、その『DRT』から発表された『重大情報』は、瞬く間に日本中――いや世界中を駆け巡った。


 海底火山の常識を遥かに超えた、たった一夜で爆誕した謎の島、改め『紀伊水道の迷宮』。


 美しい白い砂浜から上陸し、真っすぐな大階段を上がっていった先。

 そこに広がる草原のような巨大空間に、ただ一体だけのモンスターが存在していたらしい。


 迷宮界の頂点捕食者――すなわち『竜』が。


「ホ、ホーホゥ……」

「またどえれえ形で登場してきやがったな……」

「既存の迷宮ではなくて……『専用の居場所』ってわけですか」

「……つまり、『竜ちゃんのねぐら』だね」


 金沢での緑子さん達『北欧の戦乙女(ヴァルキュリア)』とのパーティー間の交流を終えて。

 東京に帰ってきた俺達『迷宮サークル』がいるのは、俺の家のリビングだ。


 そこですぐると花蓮も一緒に、皆で夕方のニュース番組を見ている。

 チャンネルをどこの局に回しても、ニュース内容は今回の件一色となっているぞ。


「完全に予想外だな。もしいるとしても、他のモンスターも普通にいると思ってたのに……」


 現実とファンタジーが入り混じった二十一世紀。

 夢と過激な世界に慣れた人類にとっても……さすがに衝撃すぎるファンタジーな現実だ。


 そんな『DRT』の発表から、ネットやSNSも含めて加熱の一途をたどる竜関連のニュース。


 それを聞いた俺達もかなりの驚きを受けている。

 だが、実は世間一般の人ほどではなかったりもする。


 理由はつい昨日、ギルド総長の柳さんから送られてきた一通のメール。


 個人間の柔らかい感じではなく、組織の長としてのお堅い文章で、

『竜の存在の可能性』と、『その際のギルドの対応について』連絡を貰っていたのだ。


 だから現在、こうして俺達は集まってパーティー会議を開いている。


 いつも通りにテーブル一杯に広げたお菓子やジュース類。

 ただ今回に限って言えば……あまり減ってはいない。


「ホーホゥ。こうなった以上、やっぱり『アレ』をやるつもりなのか」

「とはいえ、相手が相手だし規模が規模だからな。そう上手くいく保証もねえだろう」


 冷静沈着なばるたんはともかく、基本テンションの高いズク坊までもが重く静かに言う。


 ……まあ、そりゃそうか。

 竜が現れて、『紀伊水道の迷宮』に留まって、状況的にねぐらにしているとなれば、柳さんからの連絡通り――。


「『滅竜作戦』、か。ノア=シュミットがベルリンでやった人類初の大作戦――あれから大体、六年になるな」


 かつて一度だけ行われた、人類vs竜の戦い。

 ヨーロッパの一流探索者達が集結し、多くの犠牲を出しながらも勝利した、迷宮界で最も有名な戦いだ。


 その対象となった恐ろしき竜がいる島(迷宮)。

 しかも発表によれば、その竜は『漆黒の竜』らしい。


 もう遠い昔に感じる、岐阜での『迷宮決壊(ダンジョン=コラプス)』解決作戦。

 あの時に最下層で出会った、巨大な黒竜と同じ個体の可能性が高いようだ。


「再会したかったような、したくなかったような……。はたして皆はどうするんだろな?」


 ニュースキャスターと有識者の熱い議論を聞きながら。

 スタジオに用意された精巧な島の模型を見て、俺は腕組みをして考え込む。


 ――もし、ここで二度目となる『滅竜作戦』を本当に行うのならば。

 それ相応の戦力をかき集めなければ……待っているのは悲惨な結末のみ。


 正直、これ以上ないほどにリスクの高い作戦だ。

 それこそ『迷宮決壊(ダンジョン=コラプス)』解決作戦なんて、これと比べればだいぶイージーな部類だろう。


(たしかに、竜を討伐すれば数多くの超貴重なドロップ品が手に入るけど……)


 油田を掘り当てるほどではないにしろ、名誉に加えて手に入る『莫大な恩恵』。

 それをドイツに続いて日本は受け取る事になる――といってもだ。


「やるのかやらないのか。集まる戦力とか色々とクリアすべき問題はありますが……反対意見は絶対出るでしょうね」

「そういえば、ドイツの時は色んな人が反対してたって聞くね。竜ちゃんは神聖な生き物だから殺しちゃダメとか、経済に貢献してる探索者を失ってもいいのかとか」


 俺と同じく、すぐると花蓮もお菓子に手をつけずに考えている。


 二人の言う通り、よっしゃいけ! やっちまえ! ――という単純な空気の流れには日本もならないだろう。


 まず当然、リスクとリターンを天秤にかける必要がある。

 全滅でもすれば大打撃も大打撃――。迷宮先進国である日本が、大きく後退してしまうのは避けられない。


 そして、実際に作戦を成功させられるほどの戦力を集められるかどうか。


 ベルリンの時は勝ったものの、面子的には完璧ではなかった。

 要請を受けた有力な探索者が、『まだ死にたくない』と何人も辞退したらしい。


 それに対して、『情けない』とか『薄情者』とか『仲間を見放すのか』とか。

 かなりバッシングをする人もいたそうだが……そういう批判は違うと個人的には思う。


 ぶっちゃけ、一流の探索者が恐れるくらい竜ってヤバイからな。ガチのマジで。


『至高の探索者』ノア=シュミットを筆頭とした、一流探索者達による一時間を超える死闘。

 彼らの多くが命を落とした末に、やっと討伐できるような『超ド級の存在バケモノ』なのだ。


「望む戦力が集まらなければ行わない、って柳さんは書いてたけどな。俺は正直、ビビってるぞ。岐阜の時の、遠くからでも感じたあのプレッシャーは本気でヤバ――」


 と、俺が悩みまくっている時だった。


 モオォーモオォー! と、俺のスマホの着信音がリビングに鳴り響く。


 ……はて誰だろうか? そう思いながら、俺はいくつかの顔を思い浮かべながら画面を確認してみると、


「……んげ」


 画面に表示されていた名は、別に自称・宿命のライバルとかそういう面倒なヤツではない。


 むしろその逆だ。

 二十歳近く離れているがたまに遊んだりもする、仲のいい兄貴分的な人である。


 ……ただ、今の日本のこの状況だと……。


『白根のアニキ』。


 電話をかけてきたのは、日本が誇る『単独亜竜撃破者』の一人であり、確実に俺と同じくお呼びがかかる人物だった。


 ◆


「よォ、元気か太郎。柳さんからのメールはもう見たかァ?」

「え、ええ。読みました。読みましたけど……どうしましょう?」


 逡巡した末に、白根さんからの電話を取った。

 すると予想通り、かけてきた目的は今回の竜の件についてだ。


 俺個人としてはまだ全然、決心がついていないが……。

 もう長い付き合いもあって、白根さんの考えはいちいち聞かなくても分かるぞ。


 絶対、作戦に参加すると。

 そもそも俺以外の探索者の『単独亜竜撃破者』は全員、参加を即表明すると思う。


「岐阜の時の黒竜らしいなァ。あの時はすぐに消えて戦えなかったから……三年ぶりの正直ってか」

「……やっぱりやる気満々ですか。そういえばあの時も危うく参加させられそうになったなあ……」

「ん? どうしたんだ太郎。らしくねェな。あまり乗り気じゃねェみたいだが、俺達が参加しないで誰がするんだァ?」


 めちゃくちゃウキウキした声で、白根さんが電話の向こうで言う。


 ……白根さん、相変わらずだぞ。

 あとついでに言うと、草刈さんと若林さんもか。


 この強者三人に関しては、『竜限定で』戦闘狂気味だからな。


 さらには、まさかの白根さんの相棒のハリネズミのクッキーまでも、

「太郎も竜とやるっチュよねー?」と、可愛らしい声で怖い事をサラッと電話の向こうで言ってきた。


「……うーん正直、まだ現時点では気持ちの整理がついてないですよ。もう少し考えたいところですね……」

「そうかァ。けどたしかに、今回ばかりは俺達にとっても普通にヤバイ相手だからなァ。無理強いはできねェか」


 悩む俺の声に、白根さんは責める感じもなく優しく返してくれる。


 現時点だと、六・四くらいで戦いたくない気持ちが勝っている感じだ。

 あまりに急な事だったので、俺自身ちょっとフワフワしているぞ。


 ――とにもかくにも、だ。

 日本初の『滅竜作戦』がどうなるかは分からないが……確実に言える事は一つ。


 柳さんからも『戦いの鍵を握る』と言われた、俺達『単独亜竜撃破者』五人。

 その多くがもし参加を拒否すれば、『滅竜作戦』は行われないだろう。


 ……でも多分、それはなさそうだけど。

 何せ五分の三(ハリネズミ・剣聖・氷魔砲)がやる気満々なのは確定だしな。


「とりあえず考えておきます。自分で言うのもアレですが、俺も立場的にも重要アレですしね」

「おォ、分かった。できれば前向きな返事を待ってるぞォ太郎」

「チュチュ。それじゃまたっチュよ太郎。ズク坊とばるたんにもよろしく言っておいてくれっチュね!」


 そうして電話を切り、俺はフーッと一息つく。


 ……さて、本当にどうするかね?

 というか、さっきから俺一人が悩んでいるが……別に俺だけの問題ではないぞ。


 実力的に考えても、我らが魔術師と従魔師にも話がくる可能性は充分にあるからな。


(まあ、だからこうしてパーティー会議を開いて――)


 と、そう思いつつ頼りになる仲間の顔を見ていたら。


 またすぐに、モオォー! モオォー! と。

 手に持ったままのスマホが鳴り、俺の思考を中断させてきた。


「ホーホゥ。今日は忙しいな」

「ふむ、次は誰からだバタロー?」

「ん、ちょっと待ってな」


 休む間もなく、俺は着信相手の名前を確認。

 そこで『葵姉さん』との表示をして鳴き声を上げるスマホに対して――割と本気でツッコんでしまう。


「今度は誰かと思えば……! 竜とか関係なしでガチの戦闘狂じゃねえか!」

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