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二十二話 岩の化身

5/19 岩水玉の効果について修正しました。

「またもやゲームの世界、ねえ」


 俺は『ミスリル合金の鎧』の兜の下で呟く。

 目の前に立ちはだかった、『横浜の迷宮』四・五階層相当のモンスターの姿を睨みながら。


 ミノタウルスの次は――『ガーゴイル』。


 鳥と爬虫類の中間みたいな、捕食者っぽい顔をした全身岩の生物(?)だ。


 体長はミノタウルスより高く二メートル半ほど。

 岩なのに思いのほか体は角ばっておらず、愚鈍な印象は抱かなかった。


「ホーホゥ。こりゃまた硬そうだぞ」

「僕の新しい魔術ならあるいは……ってダメか。体の中まで岩ですもんね」


 俺の後ろでズク坊とすぐるがガーゴイルの感想を言い合う。


 今回の戦闘、というか二層ではすぐるは待機だ。

 ついさっき【火魔術】が『レベル3』に上がり、さらに威力の高い新魔術を覚えはしたが厳しいだろう。


 岩と火。普通に考えても相性が悪いしな。


 なので俺の出番だ。

 単純に硬いだけなら、それ以上の威力で粉砕するだけ。


『ミスリル合金の鎧』を纏っているし、拳や腕を痛める心配もない。


「お前からは来ないのか? ならこっちから仕掛けさせてもらうぞ!」


 これまでのモンスターと違い、威嚇も鳴きもせずにただ静かに待ち構えているガーゴイル。

 そんな不気味な敵に向かって、重戦士な俺は真正面から突っ込む。


 放つは大質量な渾身の右ストレート。

 対して、ガーゴイルは恐ろしいまでの反応速度をもって左腕で払ってくる。


 ガガッ! と鈍い音が響く。

 鎧と岩がぶつかり合ったにしては地味なので――上手く攻撃を流されてしまったらしい。


 さらに間髪入れず、流れるような動きで右のカウンターパンチが飛んできた。

 質量と威力のあるだろうその攻撃を、俺はのけ反る格好でギリギリ回避する。


「おおっ!? 反応が速い上に体術的なのもあるのかよ!」


 岩のくせして剛だけでなく柔も併せ持つとは……。


 俺は驚いて無意識のうちに追撃をやめ、相変わらず自分からは仕掛けてこないガーゴイルを見る。


 ……どうやらカウンター主体で守りに徹しているらしい。

 何と言うか、体の造りといいと狂気のなさといい……本当に他のモンスターとは違うな。


 まあ、だからって手は抜かないけど。


 いわゆる『ノンアクティブ』だとカン違いして、背中を見せて死んだ探索者は数多くいるらしいし。


「てなわけで本気でいくぞ。人間顔負けな技があっても、強引に叩き潰させてもらう!」


 そう宣言して、再び攻撃を開始。

 反応速度と攻撃をいなす技があるなら、そうしにくい技を見舞うだけだ。


 右肩から当てて全身で飛び込む『猛牛タックル』。


 俺の切り札を腕だけではいなせない。もちろん受け止めるなんて論外だ。

 常識はずれな重さと威力を前に、下敷きになって潰れるのがオチだろう。


 だから敵に勝機があるなら、足を使って素早く横に避けて、そこからカウンターを入れるのみ。

 反応速度があって岩の腕の扱いが上手くても、『根を張ったように構える』ガーゴイルにはまずできない芸当だ。


 ――その俺の予想は、凄まじい質量同士の衝突音で当たっていたと分かった。


 鎧越しの全身に伝わる手応えと、それが一気になくなる感覚。

 ガーゴイルの頑丈な体が砕けて、岩の欠片が派手に飛び散っていく。


「よし! さすがは二百二十万……じゃなくてミスリル合金だ。やっぱり大丈夫だったな!」


 直撃した瞬間、俺は勝利を確信していたので鎧の方を心配していた。


 だがその心配は杞憂に終わり、最も激しく当たった右肩部分には傷一つない。

 相変わらず銀のように輝き、圧巻の防御力と威厳を保っていた。


「ホーホゥ。さすがバタローだ。この程度のレベルの相手は朝メシ前だな」

「先輩、お見事です」


 勝利した俺にズク坊とすぐるが近寄ってくる。


 二人の顔と声からして、俺が負けるとは微塵も思っていないと伝わってきて……ちょっと嬉しい。


 俺は仲間の信頼に顔がニヤけるのを自覚しながらも、ガーゴイルの砕けた死体に目を移す。

 花瓶や骨董品でも割った時のような、謎の背徳感を感じつつ岩の残骸を確認して……、


「ない、か。まあ最初の一体で出たらラッキーだしな」


 一人納得し、俺は近くに転がっていたソフトボール大の灰色の魔石を回収する。


 もちろん、魔石もお金になるので大切ではあるが、目的はこれではないのだ。


 ガーゴイルが出現する『上野の迷宮』二層。

 実はここ、間違いなく今までで一番稼げる狩り場だと個人的に思う。


 俺が経験した、出現するモンスターの純粋な強さは、


『横浜の迷宮』六層・ワイルドタイガー>『横浜の迷宮』五層・ギロチンクラブ>『上野の迷宮』二層・ガーゴイルとなるが、


 得られる素材から見た場合、過去一番だったワイルドタイガーの牙や毛皮よりも稼げるのだ。


「ホーホゥ。すぐるよ、たしか『岩水玉がんすいぎょく』だったっけ?」

「そうですズク坊先輩。確率的には五、六体に一体が持っているようですね」


 俺の独り言を聞いて、ズク坊とすぐるが目当ての正体を明かす。


 そう、岩水玉。

 頑丈なガーゴイルの体内にある魔石と同サイズの漆黒の玉で、こちらはその摩訶不思議な効果から高値で取引されている。


 どこに溜めているのか、一日に五(リットル)の『真水』 を流し出す玉。

 水不足に陥る地域では何よりも重宝される、迷宮というより神からの贈りもの的な一品だ。


「普通なら狙わないけどな。一撃があって短時間で終わらせられる俺向きのモンスターか」

「しかも一つで二十五万ちょっと。俺達パーティーが狙わない手はないぞホーホゥ!」

「稼ぎに適した階層ですね。僕ももう少し強くなれば……レベルアップと稼ぎを同時に行えるのに」


 というわけである。


 なので、しばらくのパーティー探索としては、一層ですぐるを鍛えて、二層で金を稼ぐという予定だ。


 迷宮の攻略(最下層のボス撃破)をするつもりは今のところないしな。

 探索者だから普通にリスクは背負うけど、無駄に背負いすぎるつもりはない。


 俺は次のヤツに岩水玉がありますように! と願いながら。

 ズク坊の【絶対嗅覚】による案内で雑草茂る二層の道を進んでいく。


 ◆


 その後、俺達パーティーはガーゴイルを撃破しまくった。


 たまにすぐるの新魔術を交えつつも、結局は相性の問題から『猛牛タックル』で仕留める。

 余裕をぶっこきすぎたからか、出足が遅くなって二体ほどタックルを寸前で避けられるも、しっかり反省して二度目のタックルで砕く。


 とはいえ相変わらずパンチや蹴り、ラリアットは簡単にいなされるので……俺もまだまだだな。


 で、肝心の岩水玉については、無事に三つほど手に入れられた。

 ちょうど二十体倒して三つなので、概ね確率通りだったな。


 十分な成果を得たら、一層に上がって帰り道を迂回しながらすぐるを鍛える。

 そうして後輩強化&素材入手に計三時間ほど迷宮に潜った末に、近くの探索者ギルドでいつものように素材を納めて換金した。


 魔石二十個で『一万二千円』。岩水玉は三つで『七十六万五千円』。

 計『七十七万七千円』(ゾロ目!)をきっちり六:四で分けて、俺もすぐるも過去最大にガッポリ稼げた。


 普通の寄せ集めパーティーであれば、ここで解散するだろう。


 ……しかし、俺達は探索によって高校時代よりも仲良くなり、かつそもそもが公私混同。


 さらに加えて、ズク坊が結構、皆でワイワイするのが好きなので――、


「よし、ズク坊にすぐる! 今日はウチで焼き肉パーティー開催だ!」

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