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百九十六話 副隊長の力

「――では次、『チームB』!」


 柊さんの責任者らしい厳しい声が飛ぶ。

 それを受けて、また新たな四人一組が仮想空間の中に入ってきた。


 結局、さっきの一組目はあっさり終わったからな。

 この組もまた平の隊員のみの構成らしいが、ぜひ粘ってほしいところだ。


「性懲りもなくまたか! いいだろう、挑んで来るがいい愚かなる人間共めェ!」

「……ホーホゥ。もう完全に変なスイッチが入っちゃってるぞ」

「……だなズク坊。骨の鎧で外見は『ボス』っぽいが……いかんせん中身がな」


 俺が叫ぶと、何やら後ろの方で紅白コンビの声が聞こえた気もするが……まあいいか。


 とにかく集中だ集中!

過剰燃焼(オーバーヒート)】は当然として、『牛力調整』での高速戦闘も行わず、通常の六十八牛力で押すシンプルな戦いを続ける。


 ――ズドゴォン……ッ!


「む、やるな。遠い距離からの飛び込みは避けるか」


 まだ二回目の戦闘ではあるが、『DRT』の隊員達は基本、回避が上手い。

 油断をしなければ高確率で避けて、距離が遠ければラリアットだろうとタックルだろうと確実に避けてくるぞ。


「まあ当たれば終わりだからな。……なら、これはどうだッ!」

「「「「!」」」」


 俺はここで手札を一つ切る。


 全身から赤い湯気、もとい『闘牛気(赤)』を発動。

 あとついでに『ブルルウゥッ!』と、また『闘牛の威嚇』も使っておく。


「これがあの『怒れる闘牛モード』か。……もうこれで距離は関係ない。怯むなよお前ら!」

「「「おう!」」」


 と、何やら初耳なワードを言いながら。

 向こうも気合いを入れ直して、ゆらゆらと赤いオーラを出す俺(モーモーミュータントキング)と対峙する


 直後、二度目のドンパチが開戦。

 リストにあった様々な個性豊かな【スキル】(×8)に対して、俺は細心の注意を払いつつ、【モーモーパワー】一つで対抗していく。


 そうして、向こうは攻撃と回避を、俺はそれプラス防御も使う中で、


 ――ドゴォオン! と、振り向きからの赤い肘鉄を飛ばして、まず一人。

 ――ズズゥン! と、腕を掴んでの地面への叩きつけで、もう一人。

 ――ゴゴォオン! と、赤いタックルを飛ばして金属製の盾ごと潰して、さらに一人。


 ……ふむ。やはり飛ぶ打撃(射程五メートル)を使うと一気に戦闘が楽になるか。

 何度かは避けられるも、フェイントも織り交ぜればほぼ一方的な戦いに。


 どんどんと数を減らしていき――残った最後の一人についても、


「ぐは……!?」


 ズンズンと接近し、鎧任せのノーガード状態から。

 葵姉さんに嫌というほど鍛えられた、左右のコンビネーションを相手に見舞う。


 ただ、一、二発だと彼の【防御系スキル】、全身を覆える【大男の盾】で持ち堪えられそうだったので、

 インファイトもインファイト、ほとんど密着状態からの一気のラッシュで片づけた。


「当たり前だが、四人がかりでも歯が立たないか。できればもう少し粘ってほしかったが……」


 そうして、さらにもう一チーム(チームC)とも戦った後。

 柊さんは厳しい表情で言うと、順番が回ってきた次のチームDに指示を出している。


 ……あ、ちなみに言っておくが、だからって俺vs柊さんの『単独亜竜撃破者』同士の頂上決戦はないぞ?


 これは単純に【スキル】の熟練度の問題だ。

 ずっと地面に手をついて【仮想空間】を展開している彼だが、『単独亜竜撃破者』は容量が桁違いらしい。


 たった一人でゴッソリと使われるので、二人だと余裕で『容量オーバー』らしい。


「さすがでしたね先輩。『ミルク回復薬』は飲んでおきますか?」

「お、サンキューな。ダメージはもちろん、疲れもあまりないけど……。いよいよ次からが『本番』だし飲んどくか」


 一度、仮想空間から出ていた俺は、すぐるから貰った『ミルク回復薬』をグビッと飲む。


 ごく微量な疲労を全快させると、紅白コンビ&花蓮の応援を背に受けながら、また仮想空間の中に入っていく。


「よろしくお願いします。友葉さん」


 そう代表して言ったのは、装備を纏った副隊長の檜屋君だ。


 この四戦目、チームDからは副隊長が一人混ざるのだ。

 訓練に集められた有望な隊員(全員が東北の部隊に所属)と比べても、副隊長ともなると実力的にはだいぶ違うらしいからな。


 ゆえにここからが本番。ある意味、真の『特別強化訓練』ってわけだ。


「ああ、こちらこそよろしく頼む。――全力でかかってこい!」


 いよいよ一番鍛えたいヤツのご登場。

 だからか、ついモーモーミュータントキングの設定も忘れて、俺は一人の探索者として叫ぶのだった。


 ◆


 一人目の副隊長として檜屋君が入り、本格的な『特別強化訓練』が始まった。


 実際に対峙しただけで分かる高い力量。

 平の隊員とは違う存在感もビシビシと伝わってくる中――まずその檜屋君が動く。


「!? これは……!」


 瞬間、バイィーンと。

 何とも奇妙な音を鳴らし、虚空から現れた『ショッキングピンクの玉』が弾む。


 ――この一メートル大の玉には何の殺傷能力もない。

 だから無視をすればいいだけ。……なのに俺はついつい手が出てしまう。


 そして、今度はパァアン! と。

 普通に殴ったら破裂した、この謎の玉の正体はというと……。



【スキル:ヘイトボール】

『『ヘイト』を集めて固めた玉。習得者が選んだ対象にのみ効果を発する。玉のサイズ変更は熟練度に依存する』



 無視をすればいいのに、どうしても無視できない。

 そんな【ヘイトボール】を破裂させた直後、隙が生まれた俺に他三人の攻撃が一斉に襲いかかってきた。


「……ッ! なるほど、これは厄介だな!」


 名前の通り、対象となった俺のヘイトを集めた玉。

 近づかれるとどうしてもそっちに意識がいってしまい、無駄な迎撃をしなければならなくなるようだ。


 ……まあでも、とりあえず今回はセーフだ。

 俺のタフネス(+鎧の防御力)に対して、隊員三人の攻撃は火力不足で、体勢さえ崩されていな――。


「ハァッ!」

「おっとぅ……!」


 と、今度は檜屋君からの攻撃が。


 装備は金属製の黒い軽鎧だけ。

 他には何も持っていなかったはずなのに、その手にはいつの間にか『灰色のニョロニョロ』があり、長いその一本を振るってきた。


「もう一枠は【鮫肌の鞭】か! あんまりこの手の武器を相手にした事ないな……!」


 寸でで避けて、俺がいた場所がガガガッ! と削られる。

 打撃+削りの一撃の威力は予想以上で、砂利だらけの地面が深さ数十センチほどなくなっていた。


 ――さらに、今度は俺の番と前にいこうとした時。


 檜屋君の華麗なる鞭さばきによって。

 不規則な動きでウネった鞭が、またこっちに襲いかかってくる。


「!」


 予想外なタイミング&角度からの追撃。

 だから俺は回避はせずに、その場に留まって迎え撃つ。


 威力に勝る『闘牛ラリアット』で、蛇のような動き(鮫肌だけど)の鞭を破壊しようとして――。


「ん!?」


 打ち砕く寸前、灰色でザラザラな【鮫肌の鞭】がフッ、と消える。


 それに取って代わるように、またバイィーンと。

 気づけばショッキングピンクの異様な玉、【ヘイトボール】が現れて接近してきていた。


「――っとォ!」


 今度はまだ少し離れていたので『強制迎撃』は起らず、冷静にバックステップで距離を取る。

 その際、タイミングを図って仕掛けようとしていた他三人の隊員は――俺への攻撃の機会を失う結果に。


 ……ここまでの数回のやりとりだけで大体、分かった。


 確信ではない。だが何となく、俺の探索者としてのカンが言っている。


 この檜屋君は絶対、『DRT』の隊長にまでなるだろう、と。

 それも、そう遠くないうちに、だ。


 軽やかなフットワークに絶妙な距離感。また冷静さと賢さを感じさせ、二つの【スキル】の連携も上手い。


 さすがに会った事がある現隊長クラスには及ばないだろう。今いる柊さんとの比較など論外だ。


 それでも、まだ後に控えている何人かの他の副隊長と比べたら――やはり一番雰囲気があるぞ。


 元々の彼の実力がどれほどだったかは分からないが……。

 なるほどたしかに、友人である堀田幹夫の死は、彼を大きく成長させたのだろう。


「これが副隊長の力か。……面白い。ならこっちもそれに相応しい力でいかせてもらうぞ!」

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