百九十二話 お宅探訪とBBQ
引き続き日常回です。
前半が第三者、後半が主人公視点です。
「ホ、ホーホゥウウ!?」
「な、なんじゃこりゃぁああ!?」
山や街の木々が赤く色づき始めた頃。
東京を離れた『迷宮サークル』+ばるたんは、兵庫県の姫路にまでやってきていた。
朝早くに家を出発し、新幹線で移動して――到着してすぐ、姫路城を観光。
その後、今回の目的である場所に着いて――ズク坊とばるたんは、姫路城を見た時以上に度肝を抜かれてしまう。
『遊撃の騎士団』本部。
日本が誇る剣士集団であり、盛岡の『黄昏の魔術団』と双璧をなす大所帯パーティー、その本部を訪れていたのだ。
そして、話には聞いていた『探索者御殿っぷり』を見て。
車から下りて門が開いた直後、ズク坊は白い翼を広げ、ばるたんは赤い鋏を上げて驚いたというわけである。
「ははは。まだまだ序の口ですよ。これから案内してあげますね」
と、ここで。
興奮する紅白コンビを頭と右肩に乗せてそう言ったのは、小柄で七三分けで眼鏡をかけた男だ。
彼は『ぶった切りの探索者』、または『六番目の男』こと青芝優太。
『遊撃の騎士団』の副団長を務め、太郎達とは郡山の『門番地獄』を共に切り抜けた戦友である。
その青芝は、武器の包丁ではなく読みかけの文庫本を片手に持ったまま。
遊びに来た紅白コンビを乗せて、自慢の騎士団本部を案内し始めた。
――と、その前に一つ。
それ以外の太郎にすぐるに花蓮ら人間組はというと、団長の草刈や兄貴分の白根と一緒に街で買い出し中だ。
実は今回、姫路まで来た目的は『BBQ』。
初めての太郎達と、何度か来ている白根達を招待し、飲めや食えや歌えやをするのである。
「チュチュ。オイラは二回くらい見てるけど……やっぱりスゴイっチュねここは」
なので白根の相棒、喋るハリネズミのクッキーも。
空いている青芝の左肩……に乗るとチクチクさせてしまうので、一人足元を歩いている。
そんな一人と一羽と二匹は、立派な門をくぐって広大な『庭』を進む。
この正面の庭はキレイに芝が刈り揃えられている。
ところどころにセグウェイがあって乗れるほど広く、ここだけで何件も家が建ちそうなほどだ。
「ホーホゥ。さっきの駐車場もスゴイ大きかったし……これは中も楽しみだぞ!」
「だなズク坊。何せガルウィングの外車もあったしな。こりゃきっと相当なこだわりの本部だろうよ!」
大きな庭に駐車場に高級外車(複数台)に。
早くも驚きのトリプルパンチを喰らった紅白コンビは、青芝やクッキーと共についに本部の中へ。
門と同じく立派で背の高いドアを開けると、当り前のように吹き抜けの広い玄関と大きなシューズクローゼットが。
正面には金の龍と虎の置物がドドン! と構え、客人や団員達を迎えてくれる。
「ホーホゥッ!」
「うむむぅッ!」
その先に進み、これまた立派なドアを開ければ、現れたのは『リビング』だ。
騎士団員二十四名が全員、集まっても余裕があるこのリビングは、
わざわざ海外から取り寄せたというシャンデリア、暖炉、絨毯をはじめ、高級でも悪趣味には走っていない家具が揃っている。
「けど、オイラ的にはこっちの方が驚きっチュよ、ズク坊にばるたん!」
豪華なリビングを抜けて、さらに奥にあったのは――『トレーニングルーム』だ。
ただし、普通のトレーニングルームとは違う。
広さも天井の高さも設備の数々も。もはやルームというよりジムで、それも市営ではなくゴー○ドの方である。
そして、また奥に進めば……リビングやトレーニングルームと比べれば小さな部屋が。
そこにはビリヤード台や卓球台、ダーツの的やポーカーテーブルなどなど。
大人も遊べる『プレイルーム』が存在していた。
「ホーホゥ!? こ、これは……ホーホゥッ!」
「……んなバカな。『遊撃の騎士団』……お前ら只者じゃねえな!?」
だが、紅白コンビにとって最も驚きだったのは――本部の中庭にあったもの。
ずばり、『プール』である。
学校の二十五メートルプールには及ばないものの、充分に広くて大きいプールが存在していたのだ。
「プールは団員皆が絶対欲しいと言っていましたからね。きちんと掃除も消毒してあるので、入って遊んでも大丈夫ですよ」
そう言って微笑む青芝に連れられて、次に紅白コンビが見たのは『風呂』。
――否、というよりもサイズ的には『浴場』だ。
運動部が合宿で使いそうな大量の湯を湛えたそれが、
一緒についているこれまた立派なサウナとともに、紅白コンビの目に飛び込んできた。
「……ホーホゥ。我が家もなかなかのものだと思ってたけど……」
「完敗だ。これが真に日本を代表するパーティーの力ってえわけか……」
「チュチュ。オイラと玄の探索者御殿も大きいけど、さすがにここまで規格外ではないっチュね」
……一体全体、この本部を建てるのにどれほどの費用がかかったのか?
二階建てなのにエレベーター(緊急用の電話付き)まであり、『遊撃の騎士団』の強いこだわりが伝わってくる。
――こうして、驚きの連続だった紅白コンビのお宅探訪(本部探訪)は終了。
買い出し組の太郎や草刈達が遅れて合流するのを待って――――今日の目的のBBQへと移行する。
◆
「さー食え食え! じゃんじゃん焼いてくから遠慮なくいけよーお前ら」
買い出しが終わり、『遊撃の騎士団』本部の豪邸っぷりにひとしきり驚いた後、BBQが始まった。
場所はセグウェイがあった正面の庭にも負けない、ウッドデッキ付きの裏庭の方。
そこで俺達と白根さん&クッキーは、草刈さんら騎士団員達からおもてなしを受けている。
「う、美味い! 自分達でやるより焼き加減とか絶妙ですよ。……けど、くっそう。友達との飲み会もそうでしたけど、こういう時はいまだに酒が飲みたくなりますね」
「ワハハハ! だろォな。まァその分、誰よりもたっぷり食えよ太郎!」
と、ビール片手の草刈さんや白根さんに次々と皿に肉を盛られるので。
ラグビー部とか柔道部みたいに、モリモリバクバクと。
ソーセージだけは避けて、俺はカルビにロースに野菜にとひたすら食っていく。
結構、イケる口のすぐるとクッキーは他の団員達と酒を中心に飲み、
ズク坊とばるたんと花蓮は、俺と同じく食べる方に専念している。
ここまでの規模(約三十名)でのBBQは初めてだが……これはこれでアリだな。
ぶっちゃけ、平の団員とは岐阜で一度しか会っていないが……。
団長副団長とは何度か会っているし、特に副団長の青芝さんとは『門番地獄』を経て仲良くなっているから、居心地が悪い事はない。
「どうですか太郎君。楽しめていますか?」
「はい、青芝さん。ワイワイしてていいですね。こういうのはよくやるんですか?」
「そうですね、月に一回はやります。基本的にパーティー全員では潜らないので、残った者に用意しておいてもらって、迷宮帰りにすぐドンチャン騒ぎですよ」
「へえー。そう聞くと大所帯パーティーっていいですなあ」
仲良くなった青芝さんを中心に、草刈さんや他の団員とも親睦を深める俺達。
しばらく飲んで食ってをやって、あと腕相撲なんかもやったりして。
シラフでも楽しくなってきた俺は――皿とコップ(コーヒー牛乳)を持ったまま、ズク坊とばるたんを連れてプールの方へ。
「よっしゃプールだ! せっかくあるんだし泳ぐか!」
「だなバタロー。俺も派手に体を濡らしてえと思ってたところだ! ズク坊はどうするよ?」
「もちろん入るぞ! ちょいそこの団員! 俺に浮き輪を用意してくれホーホゥ!」
――そんなこんなで、BBQからプール遊びへ。
すでに入っていたほろ酔い団員達に混じり、パンツ一丁となった俺が先頭でバシャン! と飛び込む。
「さあ来い、ズク坊にばるたん! 今日は温かいからめちゃ気持ちいいぞ!」
「おうよ! じゃあ俺も――ていやッ!」
「おっ、ばるたんも派手にいったな! コラそこの団員! だから早く俺用の浮き輪をくれってホーホゥ!」
上がっていたテンションはさらに上がり、まさに最高潮だ。
俺達はバシャバシャ! と子供のようにはしゃぎ、学生時代以来のプール遊びに全力を尽くす。
……が、しかし。
時の流れを忘れるほどの楽しい時間の中で――――その『悲劇』は突然に起きた。
筏みたいな大きな浮き輪に寝そべり、俺が一人、優雅にプカプカと浮いていたら。
近くではしゃいでいたズク坊&ばるたん、さらにクッキーも加わり、
その一羽二匹のマスコットに気を取られた他の団員達(+すぐる)に、図らずも邪魔な? 浮き輪をひっくり返されてしまい――。
プールの中へとドボン! ……からのゴックン!
鼻歌まで歌って、完全に油断していた俺は見事に水没。
さらには水中でうっかり“大量の水を飲んで”しまい……!
「し、しまッ!? の、飲んじゃったぁああ!」
ミルク系以外は絶対に口にしてはいけないというのに。
思いきり摂取してしまった俺は、慌ててプールサイドに上がろうとする……が。
「ぐ、ぐぎゃぁあああああ……!」
間髪入れずに【モーモーパワー】の強烈デメリットが発動。
お久しぶりの熱に頭痛にめまいに節節の痛みにと、“極度の不調”が体に襲いかかってきた。
「ホーホゥ!? ば、バタロー!」
「おい待てバタロー、お前まさか……!?」
「チュチュ!? 太郎!?」
「せ、先輩!? み、皆さんすぐに先輩の救助を……!」
俺の盛大な悲鳴に、ワイワイから一転、驚くズク坊達。
苦しみの中で水中に沈みゆく俺は、近くにいた数人に引っ張り上げられて――……気づいた時には救急車に乗っていた。
こうして、皆が楽しんでいたBBQは……最後の最後に緊急事態が発生。
裏庭にいた花蓮が急いでフェリポンを従魔召喚して『精霊の治癒』を使わなければ、飲んだ水の量から結構、危なかったという。
――ちなみに、余談ではあるが。
『最年少『単独亜竜撃破者』、プールで死にかける!』という、とてつもなく不名誉な記事が世に出まわってしまったのだった。