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百九十一話 お久な飲み会

「おーい友葉っち! こっちこっち!」


 まだまだ暑さが残る九月中旬。

 多くの人々が行き交う土曜日の喧騒の中で、俺を呼ぶ懐かしい声が響く。


「ういーっす。久しぶりだなお前ら。ぼちぼちやってるかー?」


 振り向き、俺は人の流れに沿って声がした方へ。

 もう夕暮れに染まった駅前から、見知った顔のもとへと歩いていく。


「さあ、これで全員揃ったね」

「だな。腹も減ったし飲みてえし、さっさと行こうぜ!」

「今回はワッキーが見つけた店だナ。チェーン店じゃないけど、隠れた名店って感じらしいヨ」

「フッ、久しぶりだから超楽しみだし。飲みながら積もる話もいっぱいするし!」

「よっしゃ。レッツらゴーだ!」


 今回、俺が合流したのは、探索者仲間でもギルド関係者でもない。


 大学の研究室仲間で、一般人(?)時代からの楽しい友人達だ。


「おう行こう。俺も迷宮帰りでペコペコだぞ」


 こうやって集まるのは何だかんだで三ヶ月ぶりか。

 気楽な間柄の五人の友人と共に、俺は安全な地上の街をゆく。


「元気そうだね友葉っち。こうやって人混みの中で見ると……やっぱり『強者の雰囲気』みたいなものがスゴイね」

「そうそう。まさに『ミミズクの探索者』、蒲田かまたに上陸! って感じだぜ」

「いや、やめなさいって。恥ずかしいっての。――あ、俺を異名で呼ぶ変なノリは禁止だからな!」

「了解だヨ。……けど、さすがは有名人。だいぶ皆が振り返って見てるナ」

「でも気のせいか? ほとんど男ばっかりな感じだぞ」

「たしかにだし。これは相棒のズク坊がいないと……友葉っち単体では厳しそうだし」

「――ぐゥ! ……おいコラ。最後の二人。モンスターじゃあるまいし、俺にダメージを与えてくるんじゃねえよ……ッ!」


 ――とまあ、まさかの味方に、それも地上でいきなり傷を負わされながらも。


 俺達六人は駅前を離れて、しばらく歩いて地下のシャレた居酒屋へ。


 あ、そうそう。

 ズク坊とばるたんの紅白コンビについては心配いらないぞ。


 一つ上の階に住む探索者、超絶イケメンな猿吉さんに預けているからな。


 だから今日は夕食の準備は必要なし。

 久しぶりに会った昔からの友人達と共に、とにかくパーッと楽しむとしよう。


 ◆


「じゃあ、とりあえずビール……だと友葉っちが死ぬからね。生ビール四つと牛乳一つでお願いします」


 店に入り、奥の座敷に座ったところで幹事のワッキー(一番のしっかり者)が最初の一杯を注文。

 すぐに運ばれてきたジョッキを持ち、「「「「「「乾杯!」」」」」」と飲み会をスタートさせた。


 ――ちなみに、今さらだが俺は酒が一滴も飲めないからな。……我が相棒の【モーモーパワー】さんのせいで。


 なので、今回はわざわざ牛乳がある店を探してもらっていた。

 あとついでに言うと、ここは牛肉のサイコロステーキやホルモン味噌が絶品らしい。


「いやはやありがたい。俺は飲めないから『食』を楽しめないとな」

「相変わらずのモーモーなデメリットだね。……まあ、支払いは全部、友葉っちだからこれくらいはさせてもらうよ」

「その通りだぜ。……だからあらかじめ言っておこう。ゴチなるぞ友葉っち!」

「ゴチになるヨ!」

「当たり前にゴチになるし!」

「おう。ゴチだゴチ!」

「……へいへい。財布は俺に任せなさいって」


 と、乾杯からの五人の一斉ゴチ発言を受けて。

 別に嫌な気分にもならず、事前に決まっていた通り、すんなりと了承する俺。


 ……まあ、普通に考えたらそりゃそうだぞ。まだ皆は社会人三年目だからな。


 一般的な中小企業のサラリーマンと、『本当の意味で命懸け』とはいえ、アホほど稼ぎまくっている探索者。


 この二つなら、いくら友人で同期だとしても……支払うのは後者だろう。

 特に今回の俺のために見つけてくれた店は、普通の居酒屋と比べると少し価格もお高めだしな。


 そんなこんなで久しぶりに皆と飲み始めるが、話題はやはり――。


「さあ友葉っち。そのお通しを飲み込んだら――気になるマネーを教えるんだぜ!」

「いやお前、もう顔がほんのり赤いじゃねえか。……酔うのそんなに早かったっけ?」

「ハッ、これもサラリーマンストレスってやつ――って話を逸らすな! 『単独亜竜撃破者』となった今、稼ぎはどれくらい何だよ? ちなみに俺は手取りで月二十万ッ!」


 まるで不良に絡まれたみたいに、隣に座る友人(IT勤務)から肩を組んでの質問が。


 俺としては別に隠す必要はない。

 ただ、近くには他の客もいる(俺を認識しているっぽい)からな。


 酒も入ってワイワイガヤガヤしているが……少しだけオブラートに包むとしよう。


「まあ、プロ野球選手のトップくらいの稼ぎかな? きっちり三等分だから、すぐると花蓮も同じ額だ。無理すればメジャーリーガー並になるだろうけど……さすがに面倒だからそこまではな」

「ほほう、やるナ。やっぱりそのくらいは稼いでるのカ」

「……けど、実はそれだけじゃないし。友葉っちには『探索者以外の収入』もあるんだし!」

「あの有名焼き肉チェーンのCMだな。なぜか友葉っち一人でズク坊は出てないけど」


 ……お、おおう。意外とよく見ているなコイツら。

 たしかに以前、企業から『CM出演の依頼』がギルドにあって、つい最近、流れ始めたばかりだ。


【モーモーパワー】……だから焼き肉。

 当初はズク坊とセットでという話だったが、

「テレビは出るものじゃない。見るものだホーホゥ!」と頑なだったので、俺一人の出演となっていた。


「前に友葉っちに聞いた通り、探索者って危険だけど儲かるんだね。この前なんて有名な国体選手が競技を引退してそっちに行ったしね」

「そうだワッキー、それだし! 未来のアスリートの『迷宮界への流出』――トップの一人としてどう思ってるんだし『ミミズクの探索者』!」

「いや、だから仲間内での異名呼びはやめなさいって……」


 と、急にヒートアップした友人(工場勤務)の声を受けて。

 牛乳をグビッと飲んでから――これについては真剣に答えてみる。


「たしかに、スポーツ界から見たら大問題で面白くないと思う。実際、一度でも潜ってモンスターを倒せば、『効果が消えないドーピング』で二度と競技に戻れなくなるしな。とはいえ――」


 正直、迷宮から得られる素材の影響は計り知れないほど大きいのだ。


 稼ぐだけできちんと把握はしていないが、様々な業界や分野において。

 日本だけでなく世界中、もうその恩恵なしは考えられないほどに、経済を支えて科学の発展にも貢献しているからな。


 だからスポーツ好き(俺もまあ好きな方だが)には悪いが……この流れは仕方ないと思う。


 迷宮が地球に現れてから、およそ十三年。

 得られる素材によって数々の問題が解決し、以前の常識では考えられなかった革新的ものも生まれているぞ。


 ――なんて真面目な話をするが……そこはやはり、俺達若い男衆。


 女性関係や会社への愚痴、くだらない話などなど。

 周囲に迷惑がかからない範囲で大いに盛り上がり、皆の酒が進む進む。


 その後、しこたま飲んでから近くのカラオケへと移動。

 研究室時代に何度も聞いている皆の懐かしいアニソンやら演歌やらロックやらを聞き、俺自身も十八番(アイドル曲)などを歌い、皆で朝まで楽しく過ごした。


 そして、街を照らす気持ちのいい朝日を浴びながら。

 駅に向かった友人達と別れた俺は、一人タクシーに乗って帰ろうとして――。


「……っと、その前に。ズク坊とばるたんにポテチとアイスでも買っていってやるか!」

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