二十一話 鍛えながら進め
「んじゃ二人共。気合い入れて二度目の探索といきますか」
新たな装備『ミスリル合金の鎧』に身を包んで。
肉体と防具どちらも重戦士な俺は、高揚した気分で『上野の迷宮』に来ていた。
「ホーホゥ。任せとけ!」
「了解です先輩。今日もよろしくお願いします!」
ズク坊とすぐるの声にうなずき、リーダー&前衛の俺は【モーモーパワー】を発動して迷宮に入る。
今日の目標は二層での探索だ。
幸い特定探索者への支援として、上野にある探索者ギルドからは迷宮内の地図をもらえたしな。
最短距離で進んで『横浜の迷宮』三・五階層相当のミノタウルスを倒して、
次なる四・五階層相当(ボルトサーペント以上ギロチンクラブ未満)のモンスターを狙っていこう。
「それじゃすぐる――頼んだ」
「はい。一体残らず燃やし尽くします!」
二層への道、俺がモーモーズンズン! と切り開くのは無駄が多い。
もうミノタウルス程度では【モーモーパワー】の熟練度(八牛力)はほぼ上がらない。
同じく身体能力上昇効果もかなり薄いし、【過剰燃焼】の方は熟練度のない【スキル】だからな。
だから、遭遇したモンスターは『全て』すぐるに倒してもらう。
この前だって何体かミノタウルスを倒してもらっているしな。
任せても問題はなく、そろそろ【火魔術】も『レベル3』に上がるだろうから余計に大丈夫だ。
……と言いつつも、そこはパーティー。
俺も並んで先頭に立ち、色々と手助けはするつもりだ。
「ホーホゥ。いきなりお出ましだ!」
ズク坊の声が聞こえた数秒後。
俺とすぐるのヘッドライト(鎧に似合わない……)の光の先に、ミノタウルスの巨体と斧が照らし出された。
「よし。まずは俺が『潰してくる』から待ってろ」
そう告げて、俺は推定六・四トン、『ミスリル合金の鎧』も纏った体でズシンズシン! と距離を詰める。
一方、ミノタウルスはブルルゥ! と荒い鼻息を上げ、斧を振るって攻撃してきた。
バゴォン! と爆発的な轟音が生まれ――岩の斧が俺の左アッパーで粉砕される。
さらに間髪入れずに磨き続けた体術、体重の乗った右ローキックを左足へと見舞う。
直後、鈍くて地味な音と、鎧に阻まれて伝うわずかな衝撃と共に。
焦げ茶色の巨体を支える、ミノタウルスの屈強な左足がへし折れた。
「ほらよ、すぐる!」
「はいッ!」
斧を失い、左足を折られて体勢を崩すミノタウルス。
そこへ右手を突き出したすぐるの【火魔術】、『三本の火矢』が襲いかかった。
隙だらけのミノタウルスのぶ厚い胸板に火矢が次々と突き刺さる。
約五十センチの火矢は前回、半分ほどしか入らなかったが、威力が増した今回はほぼ最後まで入っていた。
そして燃える。
胸の三つの着弾点から激しく燃え上がり、ミノタウルスの巨体が一瞬で火ダルマになっていく。
――これで勝負あり。
数秒間ほど巨大な火ダルマが暴れ転がるも、すぐに大人しくなって絶命した。
思うにこのミノタウルス、火耐性がないどころか、毎回の炎上の仕方を見るにかなり燃えやすくて火に弱いようだ。
逆に、本来燃えやすいはずの迷宮に茂る雑草の森は燃えないと言う……何とも皮肉な結果である。
「ナイスだすぐる。よくやった」
「いえ、先輩が最初に削ってくれたおかげですよ」
「ホーホゥ。謙虚なのはいい事だぞすぐる。俺もバタローにはこうやってもらったしな」
作戦が上手くいき、手と翼でハイタッチする俺達。
その作戦というのは――『高速レベルアップ作戦』。
まず俺が邪魔な斧を壊して、もう一つおまけに片足を潰して機動力を封じる。
そんな動けない上に隙ができたミノタウルスに対して。すぐるが持つ最大火力の魔術を叩き込むという単純なものだ。
探索者の常識その一。
モンスターから経験値を得るのは『トドメを刺した者』のみ。
つまり、どれだけ攻撃を加えたか、体力を削ったかは関係なし。
弱い新人探索者を鍛える場合、他の者がモンスターを弱らせ、最後のトドメだけを任せるのが最も効率的なのだ。
そうする事で戦闘技術は溜まらない反面、身体能力上昇と【スキル】の熟練度を早く上げる事ができる。
「ズク坊の時はもっと作業ぽかったよな。俺がパンクリザードを捕まえて、剥ぎ取り用ナイフを持ったズク坊が狩るっていう」
「ホーホゥ。懐かしいな。慣れないうちは破裂からの血のシャワーで大変だったぞ」
「ズク坊先輩もなんですね。僕はずっとソロだったから地道にやっていました」
「まあ最初はそれがいいと思うぞ? じゃないと、どこかで足をすくわれそうだしな」
すぐるに関してはその点、心配はない。
ソロの探索経験どころか、死にそうになるという厳しい経験までしているからな。
あとはそうだ。
『火弾』より三倍魔力の消費が多い、『三本の火矢』を撃ちまくる点についても心配はない。
魔力回復薬。体力ではなく魔力を回復する、小瓶に入った血みたいに赤い液体だ。
それを俺は特定探索者として、上野にある探索者ギルドに頼み、回復薬と同じく支給してもらえていた。
支給品五本+すぐるが購入した予備五本。
細かい魔力の計算はすぐるしか分からないが、これだけあれば十分らしい。ためらいなく『三本の火矢』を撃てるとの事だ。
「じゃあ二層までこんな感じで。とりあえず予定通りに最短距離でいこう」
「ホーホゥ。了解だ」
「僕もいつか、先輩みたいに特定探索者になってみせます!」
すぐるの決意を聞き、俺達はミノタウルスの死体を素通りして奥へと進む。
どうせ真っ黒焦げなので魔石しか手に入らないからな。
そもそも今回は、素材については二層で得るから別にいいのだ。
死んで放置されたモンスターは三十分もすれば迷宮に消える。
肥料になるのか何なのかは不明だが、後処理は生みの親の迷宮に任せよう。
俺は地図を片手に進み、ミノタウルスと遭遇したら同じ事を繰り返す。
一体、二体、三体と。
俺からすぐるへ、物理から魔術へのバトンリレーで、雑草が茂る地面に次々と沈めていく。
そうして重戦士、魔術師、索敵ミミズクのパーティーは奥を目指し、もうすぐ二層への階段が現れる頃。
すぐるの【火魔術】が『レベル3』に上がったのは、四体目のミノタウルスを倒した後だった。
ちなみにその時の、ぽっちゃりな腹と声を揺らして喜ぶすぐるの言葉がこちら。
「やった! これでまた探索者として成長したぞう!」
PV数を見てランキングの影響力を知る今日この頃(驚)(喜)。
主人公とは反対に、力まず書いていきたいです(汗)。