閑話十二 とある北国パーティー
「よし、いくぜ皆!」
「ああ。今日は四層までいってみようか。何体か倒して慣れてから帰るとしよう」
「そだねー」
――北の大地、北海道。
広大な土地ゆえに最も多くの迷宮が存在するそこに、今日もまた探索に向かうパーティーがあった。
『道産子ウォリアーズ』。
まだ結成して間もない、まったくの無名の若手パーティーの一つである。
そんな彼らは初心者向けの迷宮――『帯広の迷宮』の中へ。
夏でも溶けない純白のかまくらの出入り口から、わずかに凍って滑りやすい階段を下りていく。
「おっ、さっそくお出ましだぜ。――まずは俺に任せろ!」
と、階段を下りた直後。
待ち構えるようにいた一層モンスター、小人半漁人の『スモールマーマン』に対して。
先頭を歩いていた男が、勢いよく走り出して突撃を開始する。
『道産子ウォリアーズ』リーダー、竹ノ内満丸。
資格を取ったばかりの、なかなかのイケメンな二十歳の若き探索者は、
お決まりの『新人セット』(革製の防具一式)を纏った姿で、モンスターに一気に肉薄する。
「アタタタタタ――ッ!」
そして、某世紀末マンガの主人公のごとく。
甲高い声と共に、目にも止まらぬ怒涛のラッシュを『千の拳』で放つ。
【スキル:千手観音】
『背後から『光の腕』を出せる。一本一本の腕力は習得者本人の腕に依存する。破壊されない限り、その『光の腕』は何度でも使用可能』
本物の腕二本と、実体を持った『光の腕』が九百九十八本。
それら全てをフル活用した連打が見舞われ、スモールマーマンは成す術なく討伐される。
「……だから満丸、昨日も言っただろう。マーマン相手に何も腕全部を出す必要はないだろうに……」
モンスターを瞬殺したリーダーを見て、同じく『新人セット』を纏ったもう一人の男が口を開く。
彼の名は茨谷敦。
ヒョロヒョロで高身長な体型が頼りなく見えてしまうが、パーティーの頭脳&後衛担当だ。
リーダーの満丸を注意してから、いざ二層を目指して皆で洞窟型の迷宮を進み――また現れたスモールマーマンの姿を確認して。
「見ておくんだぞ。戦闘っていうのは必要最低限の力でいいのさ。……それでもって、弱点を突ければなおよし、と」
言って、敦は利き腕の左をスッと前へ。
そしてさっきの満丸とは逆で、木製の槍を片手に突っ込んできたスモールマーマンに向かって――。
「『水弾』――『雷玉』!」
立て続けに二つの異なる魔術名を詠唱。
まず最初に左手から放たれた『水弾』がダメージを与えて濡らし、
そこへバチバチ! と、唸りを上げた『雷玉』が襲いかかった。
【スキル:七色魔術(レベル1)】
『火・水・土・風・雷・闇・光の『七属性』の魔術を使用可能。一度に『融合』できる属性の数は熟練度に依存する』
――弱点を突いた効率のいい攻撃により、またも瞬殺されるスモールマーマン。
一つ一つの魔術の威力は単一属性の【スキル】よりも落ちるが、多くの属性を持つ分、敵の弱点を突ける可能性が高いのが強みである。
「やるなあ敦。もう完璧に扱えてるよ。あとは魔術師としてローブが買えればオッケーだね」
そんな仲間の魔術に感心するのは、紅一点の矢部紅葉だ。
黒髪で前髪パッツンの、眠そうな目でおっとりとした性格の彼女は、やはり二人と同じく『新人セット』を纏っている。
男二人に女一人。彼ら『道産子ウォリアーズ』は、最短距離で一層を進む。
現在は三層をほぼ踏破しているため、今日の目標の四層を目指す。
「――っと、だいぶ溜まってるな。ここは俺のパンチや敦の魔術よりも……紅葉の『アレ』だぜ」
「ああ、それがいい。頼んでいいかい紅葉?」
「もちろんだよ。任せなさいって」
一層の終盤にある、五角形の大きな広場に出た途端。
いつもはそんな事はないのに、今日は運悪くスモールマーマンの集団(七体)と出くわしてしまう。
そこで紅葉は二人の頼みを受けると、ドンと胸を叩き――一息深く吐いてから。
「出でよ! 私の僕達!」
そう叫んだ直後、すぐに広場に変化が起きる。
紅葉を中心に、モゴモゴモゴ……! と。
硬い地面がいくつも盛り上がったと思ったら、あっという間に一メートル半ほどの『土色の人型の何か』が現れた。
【スキル:泥んこ兵団(十体)】
『地面から泥んこ兵団を生み出す。地面の素材は土、泥、砂のいずれかでないと不可。限界人数はない』
瞬く間に現れた泥と魔力で作られし兵士達。
彼らは固まった泥の棍棒片手に、スモールマーマンの集団に突撃していく。
そうして広場の中で十七体の人外が入り乱れ、小さな合戦のような様相となる。
――ドゴッ! ドン! ドムッ!
生まれたての泥の兵団とモンスター集団の戦いは……見事、兵団の勝利に。
一対一の個の力でも勝る上に、数でも三体上回れば必然の結果だった。
「コンコンコン! さすがは【泥んこ兵団】、天晴れな戦いっぷりだったコンね!」
「……あ、コラ! また隠れてついて来てたのかよツネ義!?」
と、ここで。
満丸でも敦でも紅葉でもないもう一人、いやもう『一匹』の声が。
それを聞いた満丸が後ろを振り返り、少し視線を下げたところに――毛に覆われた四足歩行の動物が。
……一見すると犬。だがすぐに違うと気づく。
モフモフな薄茶色の皮毛に、脚とフサフサな尻尾だけが黒く染まった『キタキツネ』だ。
名はツネ義。オスの二歳。
見ての通り【人語スキル】を習得した、世に珍しい喋る動物である。
地元のヤンキーに追われて、何とか逃げるべくより危険なここ『帯広の迷宮』の中へ。
そこで奇跡的に【人語スキル】をドロップさせた満丸達と遭遇。
青白く輝く【スキルボックス】に見惚れて近づいて……何やかんやあって現在に至る。
「ったく困ったヤツだな。あれほどギルドで待ってろって言ったのに」
「コンコンコン! 僕を置いてくなんて酷いコンね。『ハリネズミの探索者』然り、『ミミズクの探索者』然り。喋る動物連れの探索者は皆、超一流になってるコンよ!」
「……いや、それはたまたまだろうに。というかツネ義は人語以外の【スキル】を持っていないんだぞ? 潜ってきたら危ないだろう」
「まあまあ二人共。もう来ちゃったんならしょうがないよ。……ほら、おいでツネ義」
「コンコンコン! ふむ、仕方ない。僕を抱っこする事を許すぞ紅葉!」
――こうして、男女三人組に一匹が加わった事で。
どこか既視感(?)のある『道産子ウォリアーズ』は、まず次の二層を目指す。
若くて明るくて仲良しで、才能溢れる彼らの探索者生活はここから始まった。
時には失敗をして大ピンチに陥りながらも、三人と一匹、力を合わせてくぐり抜けて、
ここ『帯広の迷宮』をはじめ、北の大地の迷宮全てを攻略するなど、確実に経験を積んでいく。
そして彼らは成長し、日本を代表するパーティーの仲間入りを果たすのだが――――それはまだまだ先のお話。
明日は登場人物紹介4を上げる予定です。