二十話 俺の名前はズク坊
主人公の相棒視点です。
ちょっと短めです。
「ホーホゥ。腹減ったなー。早く帰ってこないかなー」
俺の名前はズク坊。
【人語スキル】に【気配遮断】、【絶対嗅覚】とレアな【スキル】を三つも揃えてしまった、きっと存在がバレたら誘拐不可避だろうミミズクだ。
そんな優秀! な俺の相棒は今、近所のスーパーに夕飯の買い出しに行っている。
つまりは留守番だ。
ペット可な飲食店は少ないからな。いつもバタローに作ってもらうか、惣菜を買ってきてもらっている。
ちなみにそのバタロー、もう【モーモーパワー】の食問題は完全に乗り越えていた。
馴れとは恐ろしいものだぞ。俺もそれに合わせて飲み食いしていたら、牛肉と牛乳系の飲みものが好きになっている。
「【人語スキル】で舌も気分も人間だからな。ホーホゥ。ネズミとかの小動物なんてもう食えないぞ」
俺は冷蔵庫の上から飛び立ち、短距離滑空でリビングのテーブルの上へ。
俺専用のカレー皿にちょっと残っていた牛乳をペロペロと飲み、ノドを潤すといつもの夕方のニュース番組を見る。
と言っても、バタローと一緒に見るバラエティと比べたらつまらないし、まだ美味しそうな繁盛店の特集の時間でもない。
なので俺は一人、夕日が差し込む窓から外の街並を眺めるけど――、
こうしていると、どうしても昔の事を思い出してしまう。
「……ホーホゥ」
昔の事、それはつまり俺が飼われていた『ペット時代』であり、忘れ去りたい嫌な記憶だ。
過剰なスキンシップがウザったく、そのくせ俺の部屋を全然掃除しないクソババア。
家族は他にいなくて俺と二人暮らしで、今思えば格好からしてかなりの金持ちババアだったと思う。
けど残念、俺には全く恩恵はなかった。
常に止まり木に足を繋がれて、外はおろか部屋の外にも一度として出してくれなかったのは……本当に囚人みたいな生活だった。
そんな場所から、ある日俺は運良く逃げられた。
凄まじい強風の日で閉まりが甘くなったのか、急にバタン! と部屋の小窓が開いたのだ。
加えて、日々の生活のイライラで散々暴れていたおかげで、足に繋がれた太めのロープが傷んでいたらしく抜けられた。
そして逃走。
強風に煽られても草木の破片が当たっても、振り返らずに飛び続けた。
迷宮に出入りするようになったのはそのすぐ後だ。
外で何とかエサを見つけて、迷宮内でモンスターのスリルを楽しみながら飛び回る。
普通ならただのミミズクなど瞬殺されて終わりだろう。
けど俺は、またも運良く【人語スキル】と【気配遮断】を立て続けに手に入れられた。
全てはそのおかげだ。
気配を消せるから生き延びられ、知能が上がって言葉を話せるから――バタローと出会えた。
別に他の探索者に話しかける機会はいくらでもあったけど、不思議とそういう気にならなかったんだよな。
クソババアと比べれば皆マシではある。
それでも複数人のパーティーでいるし雰囲気も尖っていたから、俺は怖かったのかもしれない。
「ホーホゥ。その点、バタローは何か大丈夫だったんだよな」
探索者だから他のヤツと同じく、モンスターを狩り、金を稼ぐ意識満々なはずなのに。
緩いというか柔らかいというか、ミミズクにとっても親しみやすい人畜無害な感じがあった。
まあそんなこんなで出会い、共同生活を送っているというわけだ。
今ではあの地獄があったからこそ、この楽しい生活があると思っている。
「でも安心は禁物だ。探索者は死と隣り合わせ、今の生活を守るためにも気は引き締めないとなホーホゥ!」
俺も最低限の戦闘力は身につけたけどまだまだだしな。
【絶対嗅覚】もどうやら熟練度があって、さらに『上』があるみたいだし頑張らねば!
――あ、そうだ。気を引き締めると言えばもう一つ。
新たに仲間となってパーティーを組んだ、『俺とバタローの後輩』のすぐるだ。
【火魔術】は圧巻だけど、熟練度がレベル2なのは頂けない。
あと太っちょだしな。
ぽっちゃり体型と丸みのある顔は親しみやすさがあるけど、魔術師ならまず痩せないと。
我が相棒の背中を任せるには、すぐるにもまだまだ頑張ってもらわねば!
「ただいまー」
お、なんて考えていたら玄関のドアが開いてバタローが帰ってきたぞ。
手に提げた袋の中を見るに、たまねぎとにんじんとじゃがいもと牛肉と――今日はカレーか!
たしかこの後、迷宮帰りのすぐるも来る予定だからな。
なるほどなるほど。カレーなら皆でガッツリ食えるというわけだ。
俺は上がったテンションそのままに、翼を広げてテーブルを離陸。
そして、いつものポジション(バタローの右肩)へと――華麗に着陸した。
「さあさあバタロー! 食材達を調理してやろうかホーホゥ!」