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二話 出会い

「ま、マジか!?」


 二匹目のパンクリザードの捜索と討伐を――と思っていたら。

 迷宮の神(?)は突然、俺に『とてつもない幸運』をもたらした。


 仄明るい迷宮の中、俺は青く輝くあるものを発見した。


 腰の高さくらいの宙に浮いた、光り輝くサッカーボール大の『光の六面体』。

 それは見惚れるような美しさと少しの不気味さ、妙な荘厳さを感じさせてくる。


「す、すす【スキルボックス】……!?」


 そう、【スキルボックス】。


 宙に浮き青く輝く六面体は、【スキルボックス】という名のレアアイテムだ。


 迷宮のモンスターを倒すと、稀に出現するご褒美的なもの。

 それに触れた瞬間、【スキルボックス】の中にある、【スキル】を手に入れられるという寸法だ。


 ゲーム好きの者ならすぐに理解できるだろう。

 これを運良く入手できるかできないかで、迷宮での対モンスターが大きく変わってくると。


 迷宮の出現やモンスターの存在が確認された時と同じく、この【スキルボックス】が発見された時は世界に衝撃が走ったのを覚えている。


 そんな貴重なものが今、周りに誰もいない状況で俺の前になぜかある。


 ……ゴクリ。

 おそらく俺は、セクシー女優を前にするよりも激しく生唾を飲み込んだ。


 そして、近づく。


【スキルボックス】は出現した後、約十分で消滅すると分かっている。

 いらない【スキル】だったのか、あるいは倒した者がすでに【スキル】持ちだったのか……。


 いずれにせよ、放置されたのなら誰の所有物でもないのだ。


「つっても、いきなり触れはしないけどな。まずはちゃんと中身を確認するか」


 俺は慎重に近づき、浮かぶ【スキルボックス】を凝視した。


 すると、脳内に銀色に光る文字が浮かび上がってくる。

 そして俺は、何ともリアクションに困る変テコな内容を……把握する事に。


「……【モーモーパワー】??」



【スキル:モーモーパワー】

『『牛』の力をその身に宿す。熟練度により『牛』の力は増加し、限界頭数はない。また『牛』の力を宿すと、『牛』以外の肉や『牛』の乳以外の飲み物を摂取した場合、体調に極度の不調をきたす』



 飛び込んできた情報は、見ての通りただひたすらに『牛』。

 ……ぶっちゃけて言おう。何だよこの謎の【スキル】は!?


 一層などの浅い層でありがちな【身体強化】でも【格闘術】でもなく、【モーモーパワー】。


 得られる能力もそうだが、何より気になるのがデメリットの方。

『牛』以外の肉と牛の乳以外の飲み物を摂取したら体調が悪くなる? それも極度にだと?


「おい何だこれ……。せっかくおこぼれを見つけたと思ったら、見た事も聞いた事もない【スキル】だぞ……名前もダサイし」


 ある意味、レア度の高い【スキル】なのは間違いないが……。


 相当なデメリットがあるところを見ると、いわゆる【外れスキル】ってやつなのか?


「ホーホゥ。面白いスキルだな。……お前、それ取らないのか?」


 と、俺の頭がひたすらに疑問に包まれていたら。


 背後から、それも相当近くから、誰かの疑問が俺の背中にかけられた。


「うおッ!? だ、誰だ……!」


 俺は剣を構え直しながら瞬時に振り向く。


 背後に忍び寄っていた謎の人物。

 その失礼な(というか危なそうな)ヤツの顔を確認すべく、俺は背後を振り返る。


 ――しかし、そこにいたのは【スキルボックス】の中身同様、全く予想だにしない者だった。


「ふ、フクロウ……?」


 ここは危険な迷宮内だというのに。

 俺の背後にいたのは、優雅に翼を叩いて宙に留まっている一匹のフクロウだった。


 琥珀色のつぶらな瞳に雪のような白い毛が特徴的な、どこか品のあるフクロウだ。


「何でフクロウが? というか、声の主の探索者はどこだよ!」

「ホーホゥ。他の探索者なんていないぞ。ここにいるのは俺とお前の二人……じゃなくて一人と一匹だけだ」

「んなッ!? じゃあ俺と今喋ってるのは――お前かよ!?」

「ご名答。というか、このご時世じゃそんな驚く事じゃないだろ。……あと、よく見ろ。俺はフクロウじゃなくて『ミミズク』だっつんだホーホゥ!」


 と、突然現れたフクロウ……じゃなくてミミズクが、ヘルム越しに俺の頬を翼でファバサッ! と叩く。


 さらに「耳をよく見ろ耳を!」と、着地してから器用に右の翼で尖った耳を指し、怒った様子で言ってきた。


「……お、おう。悪かった。お前は喋るミミズクだよ」

「ホーホゥ。分かったならいいぞ。お前だって日本人なのに他のアジア人と間違われたら嫌だろう」

「そ、そうだな。以後気をつけます」


 会って早々、謝罪させられた俺。


 人間がミミズクに怒られるとか情けないな……と思いつつも、この『あり得ない状況』を受けて、ただ一つの考えられる真実を尋ねる。


「お前まさか……【人語スキル】を持ってるのか?」

「ホーホゥ。当たり前だ。じゃなきゃ、どこの世界に人の言葉を話す猛禽類がいるんだ」

「だ、だよな……」


 マジか。やっぱりそうだったとは。


【人語スキル】とは、かなりレアな【スキル】の事だ。

 確率的にはもちろん、そもそも最低でも五層にまで潜らないと出てこない。


 日本の迷宮で見つかった【スキルボックス】なら日本語を。

 アメリカの迷宮で見つかった【スキルボックス】なら英語を。


 どういうわけか、その国の言葉を喋れるようになる夢のような【スキル】なのだ。


 ……ただし、対象となるのはあくまで動物だけ。

 人間には効果がなく、学習ゼロでペラペラ外国語♪ とはなりません。


 まあでも、動物が喋れるだけでも十分スゴイけどな。


 それに加えて、同じ人間と錯覚しそうな、どことなく感じる瞳に宿った知性。

 金持ちが自分のペットと意思疎通したくて、凄腕探索者に頼んでペットを連れて探索させるとか聞いた事がある。


「スゴイな。テレビで猫が喋ってるのは見た事があるけど実物は……。どこで取ったんだ?」

「ホーホゥ。この迷宮の五層でな。フラフラ飛んでたら見つけたぞ」

「いやフラフラって……。ここ迷宮だぞ? 動物にもモンスターは襲ってくるだろ」

「ま、戦わなきゃ何とかなるぞ。ホーホゥ。それよりその【スキル】は取らないのか?」

「え? ああコレか。【モーモースキル】なんてよく分からないし、何か『食のデメリット』がスゴイからちょっと――」


 その時だった。

 ミミズクに言われて思い出し、宙に浮く【スキルボックス】の方に向き直った瞬間。


 俺は右手に『剣を持ったまま』なのを忘れていた。

 そして、その剣の先が、わずかに【スキルボックス】に触れてしまい――、


 バシュン! と。

 青く輝く六面体の【スキルボックス】が無数の光の粒子となり、俺の体の中に一瞬で吸収されてしまう。


「うおええ!? し、しまッ……! 剣に当たっても触れた事になるのかぁあ!?」


 友葉太郎、二十二歳。人生最大のしくじりをしてしまったようです。


「ホーホゥ? 何でそんなに慌ててるんだ。せっかく【スキル】を手にしたのに」

「いや他人事! これ多分、【外れスキル】なんだよ! 戦闘面での効果もよく分からんし、デメリットがキツすぎるんだって!」


【スキルボックス】の内容にウソはない。


 つまり、俺は今この瞬間から、肉は牛肉のみ、飲み物も牛の乳しか飲んではいけなくなったのだ。


 それでも無視して摂取した場合……例外なく体に不調をきたしてしまうだろう。しかも極度の。


「…………、」


 俺はそれを理解したので、両手をついて絶望する。


 もう唐揚げも豚の生姜焼きも、コーラもジュースも胃に入れられないのだ。

 酒は元々飲まないし、牛肉も牛乳も好きだからいいものの……。


 特に飲み物の方が絶望的すぎるだろう。

 子供じゃないんだ、起きてすぐ牛乳なんて飲めるかい!


 そんな俺に対して、喋るミミズクは俺の背中を翼でポンポンと叩いて言う。


「まあそう気を落とすなって。ホーホゥ。牛肉も牛乳も美味いしな。……俺食べた事ないけど」


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