表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
191/233

閑話十一 夢のパーク

閑話ですがちょっと長めです。

「父ちゃん早く! 何で歩いてるのさ急いでっ!」

「はっはっは。大丈夫だってマサル。別に逃げやしないんだから」


 今年もやってきたゴールデンウィークの季節。

 その初日となるこの日、埼玉のとある場所には大勢の人々が集まり賑わっていた。


 ――間違いなく今の埼玉、いや日本で一番のホットなスポットだ。

 大型連休に入って、普段より活気が溢れる数ある名所の中でも――人々の熱狂度は群を抜いている。


『迷宮パークランド』。


 迷宮とつく施設自体は、刑務所や病院などもあるが……それらは探索者専用。

 今回、ゴールデンウィーク初日に合わせてオープンした『巨大テーマパーク』は、一般人が迷宮に触れて楽しむための場所である。


「スゴイよ父ちゃん! 人も建物もいっぱいあるよ!」

「そうだなマサル。マサルみたいに皆、今日のオープンを楽しみにしていたようだな」


 テンションが上がった五才児の息子を見て、手を引っ張られる父親はニコリと微笑む。


 とはいえ少々、戸惑いも。

 あまりの人気と人の多さ(メディアも含む)に、思わず圧倒されてしまう。


「……さて、まずはどこにいこうか。一番近いのは『迷宮アスレチック』だけど……」

「違うよ父ちゃん! 公園じゃないんだから! 最初は『モンスター館』にいこうよ!」

「んー、あそこか。でもあそこは『一番の目玉』があるからな……。かなり混んでるはずだぞ?」


 真っ先に人気の場所へ行くのは効率が悪くなるな……。

 入場時に貰ったマップを広げて、どこから攻めるか悩む父親。


 そこで目に入ったのは――一人の女性だ。


 探索者ギルドの受付嬢の格好をした、『迷宮パークランド』の従業員キャストである。


「あの、すいません。ちょっといいですか?」

「はい! 何でしょうか?」


 制服の胸に自分の好きなモンスターのワッペンをつけた女性キャストに、父親は頭をポリポリと掻きながら、


「人も見るべき場所も多くて何が何やら……。やはり『モンスター館』は外せないですが、どう動けば効率よく見て回れますかね?」

「そうですね……。『モンスター館』は確実に人気ナンバーワンだと思いますので、まず整理券を取った方がいいかと。その後に『迷宮歴史館』など、比較的人が少ないだろう場所に行くのがいいですね」

「なるほど、そうか整理券でしたか。ありがとうございます」


 女性キャストの助言を受けて、行動計画を立てる父親。


 ……その間、五才児の息子マサルはというと、


「ねえお姉さん! お姉さんはどの探索者が好き?」

「私? そうだなあ……探索者さんだと『老将の探索者』さんね。私もたくさんの従魔を連れて探索してみたいかな。そういうボクは誰が好きなの?」

「僕は『火ダルマの探索者』さ! だって火は正義、赤はヒーローの色だからね!」

「へえー、あのぽっちゃ……『火ダルマの探索者』さんかあ」

「うん! 火が一番カッコいいからね。……でも、ウチの父ちゃんは僕とは全然、趣味が違うんだよ」


 そう言って、まだマップと睨めっこしている父親の服を引っ張りながら、


「父ちゃんは『影姫の探索者』と『女オーガの探索者』が一番好きなんだよね!」

「!? こ、こらマサル! それは秘密で……! 今はいいけど母さんの前では絶対に言うなよ!?」


 と、慌てふためく父親に手を引かれて、五才児マサルは『迷宮パークランド』をゆく。


 まず大勢の人でごった返す『モンスター館』で整理券を受け取り、比較的人が少ない(それでも多いが)『迷宮歴史館』で、3D映像も交えた歴史を学ぶ。

 その後はすぐ入れそうな場所から入っていき、小腹が減れば早めのフードコートで、『郡山の迷宮』産の牛モンスターの肉串を堪能する。


「ねえ父ちゃん、『ダンジョン=ホブアップル』は? 僕はアレも食べてみたいよっ!」

「そうは言ってもだなマサル……。アレは効果が効果だから、優先的に探索者さんの方にいくんだよ。美味しいらしいけど、マサルに属性耐性アップとかいらないだろう?」


 五才児らしく、駄々をこねるマサルをひょい、とおぶる父親。


 ただ、その程度では機嫌が完全に直るわけはないのだが……父親には余裕があった。


「そんな事より、いくぞマサル! そろそろあそこに入れるはずだ!」

「ほ、本当か父ちゃん!? やっと入れるの!?」


 これまでも充分、『迷宮パークランド』を楽しんでいたマサルであったが。

 ついに巡ってきた順番チャンスに――おんぶされながらガッツポーズをする。


 つまりは『モンスター館』。


 ファンタジー世界の住人達の模型が展示される、敷地内で最も大きな建物だ。


 ◆


「「おおおおーっ!」」


 整理券を係員に渡して、マサルと父親は『モンスター館』へと足を踏み入れた。


 目の前に広がる十二年前までは考えられなかった光景を見て、マサルも父親も、他の多くの入場者も感嘆の声を上げた。


 入場口の正面に出迎えた、人気モンスターの『スコットフェアリー』の模型を先頭に、

『ミノタウルス』に『スチールベア』に、『グリムレオ』に『バーサクトレント』に。

 他にも数多くのモンスターの精巧な模型が、広い『モンスター館』の中に存在している。


「父ちゃん見て! あっちは『トロール』だよ! ゾウさんより全然大きいよっ!」

「す、スゴイな……。一部の探索者はアレを倒すんだよな……」


 巨大モンスターの迫力ある模型を見て、喜ぶマサルと気圧される父親。


 ……だが、迫力で言えばトロールなどまだまだ序の口。

 軽く百体以上の模型が展示される中でも、特に迫力があるのは――やはり『指名首(ウォンテッド)』ゾーンと『門番(ゲートキーパー)』ゾーンだ。


 父親は当然として、さすがのマサルも他の子供達も、見上げて一歩、後ずさるほどの存在感と迫力だった。


 ――そうして、様々な感情を抱きながら。

 人混みの中でゆっくりと、マサルと父親は『モンスター館』の奥へと進んでいき――。


「と、父ちゃん……ごくり」

「ま、マサル……ゴクリ」


 不思議と手に汗を握り、親子揃って生唾を飲み込む。


 そんな二人の視線の先には、アーチ状の『重厚な扉』が開かれている。

 さらにその扉の向こうからは、得も言われぬ独特な空気と、先に入って見ている人々の声が漏れ聞こえていた。


 ダントツ一番人気の『モンスター館』、その最奥の部屋。

『迷宮パークランド』自体はこれからもオープンし続けるが――この重厚な扉の先の部屋のみ、ゴールデンウィーク期間中だけ。


 ――すなわち、『一番の目玉』。

 今日ここを訪れた人々のお目当ては、この『期間限定』の特別な部屋と言っても過言ではない。


「「「「おおおおおおお……ッ!」」」」


 マサルも父親も他の者達も、入った瞬間、一人残らず声を上げた。


 分かっていてなお、感じてしまう衝撃。

 一般人の彼らが『実物』を拝めるとすれば、この期間限定のチャンスくらいだろう。


 広大な『迷宮パークランド』で一番の熱気。――その最奥の部屋に待っていたのは、『五つの装備』と『五体の巨大模型』。


 特殊なガラスケースに入れられた装備の一つ一つ。

 そこには警備員(『DRT』隊員)が二人づつ付き、その真後ろには元となったモンスターの模型が。


 ――開かれた扉の入口近くから順に、この空間を『支配』するのは、


『魔鋼竜の鉤爪』と魔鋼竜の模型。

『百足竜の鎧』と百足竜の模型。

『精竜刀』と妖精竜の模型。

『六尾竜のローブ』と六尾竜の模型。


 そして最後に、『妖骨竜の鎧』と妖骨竜の模型。


 それら豪華な展示品、『究極の装備』を見て。

 部屋に入った多くの人々が圧倒され、カメラやスマホで写真を撮る事すら忘れている。


「うわあ……こ、これが亜竜と亜竜の……」

「……驚いた。まさかこんなものが存在するとは……」


 実物大の精巧な模型と、ガラスケースの中から圧倒的な存在感を放つ装備。


 日本が誇る五人の『単独亜竜撃破者』。

 彼らが死闘を繰り広げた相手と、そして特別に展示品として貸し出された装備は――一瞬で見る者の心を奪っていた。


「父ちゃん、これ僕……どれでもいいから欲しい」

「ば、バカを言うんじゃないマサル……。値段なんてつけられないし……もしつけても父ちゃんの給料じゃ無理だ」


 目を輝かせるマサルと、アゴが外れそうな父親。

 その反応は他の家族、カップル、友人グループも同様で、厳重に展示された『究極の装備』と、その後ろに構える亜竜の巨大模型に見入っていた。


 ――そんなファンタジーな国のオープン初日は、大盛況も大盛況――。

 万単位の入場者を記録し、満足度的にも売上的にも、予想を遥かに上回るものだったという。


 ……そして、良いか悪いかは別として。


『究極の装備』や亜竜をはじめとしたモンスターの模型を見て――『探索者になりたい』と、そう思う子供が増えたのは言うまでもない。

迷宮紹介の方は明日上げる予定です。

本編の再開は、1月の5日(土)か6日(日)のどっちかだと思われます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ