十九話 夢の金属
装備パワーアップ回です。
「買いたい時が買い替え時、だよな」
活動拠点を移して初めての『上野の迷宮』&パーティーでの探索をした翌日。
俺は都内にいくつかある、探索者専用の武器・防具屋に足を運んでいた。
「だいぶ久しぶりだな。今のやつはもらいものだし、『新人セット』を買って以来か」
「(俺は初めてだ。ホーホゥ。何か色々あってテンション上がるぞバタロー)」
いつものように右肩にズク坊を乗せて店に入る。
一応、大丈夫だと思いつつも、入口の前にいた店員に聞くと、普通に連れて入っても大丈夫との事だった。
俺みたいに【人語スキル】を覚えた動物を迷宮に入れる探索者は他にいないと思うが、
珍しい【従魔スキル】によって、安全で従順なモンスターを連れているヤツはたまに迷宮で見るからな。
少ないながらも、こういう店にはモンスター用の武器・防具も揃っている。
なので小型ならモンスターでも動物でも入店可なのだ。
「んじゃ早速、見ていきますか」
「(ホーホゥ~♪)」
小声でご機嫌なズク坊と共に、俺はあるコーナーに向かう。
ずばり、防具コーナー。
『牛の流儀』により武器を必要としない俺が、武器・防具屋に来る理由は防具以外にないからな。
横浜の探索者ギルドでもらった『一般探索者セット』こと、ビッグブルの革装備もそろそろ限界だ。
モンスター素材とはいえ低級の装備。
本気の攻撃を出さずとも、八牛力に上がったパワーには耐えられそうになかった。
――あ、そうそう。
新たな仲間のすぐるだが、今は『横浜の迷宮』で一人鍛えている。
俺が『上野の迷宮』に潜らない時は、毎日行って少しでも俺に近づこうと努力するつもりらしい。
うん、個人的にも良い考えだと思う。
だから俺も自分の実力に驕る事なく、そんな仲間と共に成長しながらもっと上を目指さないとな。
「そのためにも装備関係はきちんとするか。……さて、次のやつはどうするか」
俺はズク坊と防具コーナーを端から端まで見ていく。
『地核の鎧』に『マンティスの甲冑』、『フェンリルの毛皮ローブ』に『マッドフロッグのインナー』――。
高額なものから比較的手頃なものまで、様々な防具類が置いてある中。
俺の目を引いたのは、一際輝きが強くてゴツイ、何とも男臭い防具だった。
『ミスリル合金の鎧』。
西洋の騎士様を思わせるそれは、今までの防具と違って二の腕も太ももも首も全身を覆っている。
何よりカッコイイ! 顔も目の部分以外はほぼ隠れているので、これで剣を持ったら女子はどんなイケメンな中身を想像するだろうか!
忘れていた俺の少年心を……ものスゴく刺激してきやがるッ!
「(ホーホゥ? ちょいバタロー、何をわなわな震えてるんだ?)」
「(あ、すまん。ちょっと興奮しすぎてもうた)」
正気を取り戻し、改めて『ミスリル合金の鎧』に見入る俺。
……ほう、値段は二百二十万円とな。やはり高いな。
十年前までは空想の世界にしかなかった夢の金属の一つ、ミスリル。
銀の輝きに鋼鉄以上の強度を持つ、迷宮から出る金属系の素材だ。
「鉄との合金で、しかも鉄の方が多くてもこの値段か。まあ噂を聞くに、これでも凄まじく頑丈なんだろうけど」
うむむ、さてどうするか。
特に他に目移りはしていないし、現状この防具なら俺の八牛力、切り札の『猛牛タックル』にも耐えてくれそうだ。
俺は悩みながら一旦、『ミスリル合金の鎧』から離れて防具コーナーをもう一周してみる。
もっと高くて耐久力があるものにするかどうか。
例えば『地核の鎧』(四百九十八万円!)とかなら、【過剰燃焼】を使用した、倍の十六牛力にも余裕で耐えられるだろう。
とりあえず今出ている答えは、『ミスリル合金の鎧』より格下の防具はなしという事だ。
ちなみに、資金面に関しては問題ない。
この際もう暴露してしまうが、貯金は約『一千三百万円』あるからな。
「(ズク坊さんよ。個人的にはやっぱりミスリルのやつかと思うんだけど……。もし同意見だったら合図してくれ)」
「……、」
近くに人がいたので、俺はボソッとズク坊に意見を求める。
果てして相棒はどう思うか。
そう思っていたら、すぐにファバサァッ、と翼で頬を撫でられた。
なるほど、ズク坊も同意見か。なら決まりだな。
これと【モーモーパワー】を合わせたら、まさに重戦士百%といった感じになるはずだ。
「じゃあこれを買うか。……おっ、見た目よりは『軽い』んだな」
『ミスリル合金の鎧』一式を担ぎ、その重さ(三十キロくらい?)に驚きつつカウンターに運んでいく。
身体能力上昇の恩恵で、もうこれくらいなら牛の力に頼らなくても余裕だ。
「ほう、その顔つきと雰囲気……。背伸びしているわけじゃなさそうだな」
と、俺が『ミスリル合金の鎧』をカウンターの上に置くと、イスに座っていた店員がそう声をかけてきた。
年齢は五十代くらいか。
イカつい顔と体つきの悪○商会にでもいそうなおじさんが、鋭くて迫力ある視線を向けてくる。
「は、はい。一応は自分の稼ぎと実力を考えて……見合ったものかと」
「ああ、悪い悪い。別に兄ちゃんを責めているわけじゃないんだ。最近は金にものを言わせた若造が多いんでな」
店員のおじさんは謝ると、通常の買い物と同じように、鎧についているタグにバーコードリーダーを当てる。
本来ならかなりシュールな光景だろうが、探索者にとっては別に普通の光景だ。
で、その間ただ待っているのもアレなので、俺は気になったおじさんの言葉に質問してみる。
「最近は高い装備を買う若者が多いんですか?」
「おう。安全というより虚勢を張るために、全く実力に見合っていない装備に手を出すな。気になって活動する迷宮と階層を聞いてみりゃ、ワシの予想よりさらに下ときたもんだ」
「へえ、そうなんですか」
「ま、そういう輩には売らないけどな。だが兄ちゃんは明らかに違うようだ。若くても実力者なら、今後ともぜひワシの店をごひいきに頼む」
「ありがとうございます。――っていうか、店長さんだったんですか」
俺は店員のおじさん、改め店長さんと言葉を交わす。
それからカウンター越しに手を出してきたので、ガッチリと男の握手も交わした。
そうして俺はカードで支払いを済ませ、『ミスリル合金の鎧』をリュック型のマジックバッグに収納し、ルンルン気分で店を出る。
新たに立派でカッコイイ防具を手に入れたのも、ルンルン気分の理由なのだが……それよりも。
「実力者――か。俺も探索者として結構、良い線いってるみたいだな!」