百七十四話 禁断の果実?
予定より早いですが投稿します。
短いです。
「あれ? 何だこりゃ……?」
『日向の迷宮』、探索二日目。
地上には戻らず、九層にある迷宮内ベースキャンプにて、俺達は一夜を過ごした。
その時は森川さん達見学組も一緒だ。
とりあえず地上のギルド長に無事の連絡の使いだけ出して、盛大なキャンプを迷宮内で行った。
見学組が持ってきていた宮崎牛や、森川さんの熊本土産のからし蓮根や馬刺しの燻製などなど。
他にもビールにワインにハイボールに日本酒に……。
結構な量の酒も持ち込んだようで(俺は当然飲めないが。あと馬刺しも不可)、『迷宮サークル』を接待する宴会染みた感じだった。
――で、今は泥酔組&帰還した者達を除いて、ついてきた皆が酔いを残す事なく進んでいき――。
現在十四層。
十三層までの踏破済みの階層を越えて、ついに未踏破区域に入っている。
「ホーホゥ。これは初めて見るぞ」
「ふむ。ズク坊氏の言う通り、たしかに見覚えがないな。……博識なばるたん氏はどうだ?」
「いや、俺も分からねえな。ついこの間、最新の『迷宮素材図鑑』を見たが……コイツは載っていなかったはずだぞ」
――そして、俺達は『あるもの』を発見していた。
モンスターではなく、見た事がない果実っぽいものだ。
螺旋で一本道な洞窟型の通路。
そこへ急に膝丈の草むらが現れたと思ったら、何本も生えていた一メートル半ほどの灌木に、
『白い縞模様があるリンゴ』のような赤い果実が、いくつも枝の先に生っていたのだ。
サイズはソフトボールくらいか? 感触は固めで、本当にリンゴみたいな感じだぞ。
「くだもの……みたいですね先輩。見た目的にはまあ、食べられそうですが……」
「迷宮産の食物かな? だったらスゴイ話題になるだろうけど……」
恐る恐る触った俺に続き、すぐると花蓮もその果実? を手に取る。
ニオイは……大丈夫そうだな。
というか見た目と同じくリンゴっぽくて……毒があるようには思えない。
「ズク坊氏の【絶対嗅覚】はモンスター用だからな。【鑑定スキル】持ちがいればいいのだが――誰かいるか皆の衆!?」
森川さんが後ろの見学組に聞くも、そう都合良くいるはずもなし。
……まあ、予想通りではあるか。
ほぼ全員が【戦闘系スキル】ばかりで、稀少な【鑑定スキル】持ちはいなかった。
「とりあえずパッチテストだけやって何個か持って帰るか」
「ホーホゥ。それがいいな。もし食べられるなら、また一つ迷宮産の食材が増える大ニュースだぞ」
というわけで、花蓮からダガーを借りて果実を切り、一旦、鎧の籠手を外して皮膚に少し塗ってみる。
はたして人体に影響が出るかどうか……。
だいぶ予想外ではあるが、『日向の迷宮』十四層は要チェックだな。
俺達は謎の果実をもぎ取ってマジックバックに入れて、引き続き未踏破区域を進んでいく。
◆
「おいマジか!? もうコレ迷宮じゃなくて『果樹園』だろ!」
謎の果実を発見し、鑑定するために何個か採集して、モンスターに意識を向けたのだが……。
十四層に十五層、そして十六層と。
肉体強化魔法を使う『パワーリッチ』、左右非対称な巨体の『ギガライトクラブ』、剛腕ならぬ剛翼を誇る『ステロイドホーク』など、次々に『指名首』に指定された強敵を倒していったのだが、
三層続けて俺達一行を待っていたのは、『標準的な出現率』で現れるその各層のモンスター達と、
約三十メートル進むごとに『頻繁に現れる』、謎の果実の草むらだった。
「何かもう、奥に進むにつれて密集度も上がってるし……匂いも強くなってきてるな」
『ポニョーン』
『ゲッコォ』
ぽつりと出た言葉に、同じ前衛のスラポンとケロポンが同意(多分)してくる。
……それほどに果実。……それほどに農業的。
もはや迷宮の中ではなく、本当に果樹園の中をモンスターが徘徊しているような印象だ。
「ホーホゥ。『剛腕の迷宮』から一転、『果実の迷宮』って感じだぞ」
「どうするバタロー? もう少し採集、いや収穫していくか? これだけ群生していて実は毒がありました、とかだったら笑えねえが」
「なに、この匂いからして大丈夫なはずさ、ばるたん氏よ。それに友葉氏と同じく俺もパッチテストをしたが――特に異変は起きていないからな」
いつの間にか、代名詞でもある天パアフロな頭の上にばるたんを乗せた状態で。
森川さんは常に維持していた手の銃の形を崩し、自分のマジックバックにぽんぽんと果実を入れていく。
――たしかに、あれから肌に異常はない。
痛みも痒みもなく、次に少し舐めてもみたが、ただ甘くて美味しい味がしただけ。
ちなみに、匂いと見た目はリンゴに近いが、味は全然違う。
もっと濃厚で桃に近い味で、どこかミルキーさが混ざった感じ。
まだ口に含んではいないから正確には分からないが、断面を見たり舐めた感じでは、食感はねっとり系だろう。
「まあ、もし食えなくても迷宮のものだしな。何かしらの役に立つだろうし……よし皆! 一旦、収穫タイムといこうか!」
「了解です先輩。きっとコレは食べられるはずですよ!」
「んじゃ、見学の皆さんも! ちょっとしばらく探索者から農家さんに転職だよっ!」
なぜか鼻息荒いすぐると、キラキラした目の花蓮の声を受けて。
後ろにいる見学組から、「分かりました火ダルマの兄貴!」「オーケーです従魔姫!」との元気のいい声が。
そして動き出す探索者二十数名。
鎧やローブ姿のまま、草むらから伸びた灌木、それに実った果実を収穫し始める。
……うむ、何かアレだな。
迷宮内で大勢が同じ動きをするこの光景を見ていると、大所帯パーティーみたいな錯覚を覚えるぞ。
――こうして、あまりに迷宮内が果樹園だったので。
探索よりも食(の可能性)を優先。俺達はせっせと収穫作業に移行したのであった。