表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/233

百七十四話 禁断の果実?

予定より早いですが投稿します。

短いです。

「あれ? 何だこりゃ……?」


『日向の迷宮』、探索二日目。

 地上には戻らず、九層にある迷宮内ベースキャンプにて、俺達は一夜を過ごした。


 その時は森川さん達見学組も一緒だ。

 とりあえず地上のギルド長に無事の連絡の使いだけ出して、盛大なキャンプを迷宮内で行った。


 見学組が持ってきていた宮崎牛や、森川さんの熊本土産のからし蓮根や馬刺しの燻製などなど。

 他にもビールにワインにハイボールに日本酒に……。


 結構な量の酒も持ち込んだようで(俺は当然飲めないが。あと馬刺しも不可)、『迷宮サークル』を接待する宴会染みた感じだった。


 ――で、今は泥酔組&帰還した者達を除いて、ついてきた皆が酔いを残す事なく進んでいき――。


 現在十四層。

 十三層までの踏破済みの階層を越えて、ついに未踏破区域に入っている。


「ホーホゥ。これは初めて見るぞ」

「ふむ。ズク坊氏の言う通り、たしかに見覚えがないな。……博識なばるたん氏はどうだ?」

「いや、俺も分からねえな。ついこの間、最新の『迷宮素材図鑑』を見たが……コイツは載っていなかったはずだぞ」


 ――そして、俺達は『あるもの』を発見していた。


 モンスターではなく、見た事がない果実っぽいものだ。


 螺旋で一本道な洞窟型の通路。

 そこへ急に膝丈の草むらが現れたと思ったら、何本も生えていた一メートル半ほどの灌木に、


『白い縞模様があるリンゴ』のような赤い果実が、いくつも枝の先に生っていたのだ。


 サイズはソフトボールくらいか? 感触は固めで、本当にリンゴみたいな感じだぞ。


「くだもの……みたいですね先輩。見た目的にはまあ、食べられそうですが……」

「迷宮産の食物かな? だったらスゴイ話題になるだろうけど……」


 恐る恐る触った俺に続き、すぐると花蓮もその果実? を手に取る。


 ニオイは……大丈夫そうだな。

 というか見た目と同じくリンゴっぽくて……毒があるようには思えない。


「ズク坊氏の【絶対嗅覚】はモンスター用だからな。【鑑定スキル】持ちがいればいいのだが――誰かいるか皆の衆!?」


 森川さんが後ろの見学組に聞くも、そう都合良くいるはずもなし。


 ……まあ、予想通りではあるか。

 ほぼ全員が【戦闘系スキル】ばかりで、稀少な【鑑定スキル】持ちはいなかった。


「とりあえずパッチテストだけやって何個か持って帰るか」

「ホーホゥ。それがいいな。もし食べられるなら、また一つ迷宮産の食材が増える大ニュースだぞ」


 というわけで、花蓮からダガーを借りて果実を切り、一旦、鎧の籠手を外して皮膚に少し塗ってみる。


 はたして人体に影響が出るかどうか……。

 だいぶ予想外ではあるが、『日向の迷宮』十四層は要チェックだな。


 俺達は謎の果実をもぎ取ってマジックバックに入れて、引き続き未踏破区域を進んでいく。


 ◆


「おいマジか!? もうコレ迷宮じゃなくて『果樹園』だろ!」


 謎の果実を発見し、鑑定するために何個か採集して、モンスターに意識を向けたのだが……。


 十四層に十五層、そして十六層と。

 肉体強化魔法を使う『パワーリッチ』、左右非対称な巨体の『ギガライトクラブ』、剛腕ならぬ剛翼を誇る『ステロイドホーク』など、次々に『指名首(ウォンテッド)』に指定された強敵を倒していったのだが、


 三層続けて俺達一行を待っていたのは、『標準的な出現率』で現れるその各層のモンスター達と、

 約三十メートル進むごとに『頻繁に現れる』、謎の果実の草むらだった。


「何かもう、奥に進むにつれて密集度も上がってるし……匂いも強くなってきてるな」

『ポニョーン』

『ゲッコォ』


 ぽつりと出た言葉に、同じ前衛のスラポンとケロポンが同意(多分)してくる。


 ……それほどに果実。……それほどに農業的。

 もはや迷宮の中ではなく、本当に果樹園の中をモンスターが徘徊しているような印象だ。


「ホーホゥ。『剛腕の迷宮』から一転、『果実の迷宮』って感じだぞ」

「どうするバタロー? もう少し採集、いや収穫していくか? これだけ群生していて実は毒がありました、とかだったら笑えねえが」

「なに、この匂いからして大丈夫なはずさ、ばるたん氏よ。それに友葉氏と同じく俺もパッチテストをしたが――特に異変は起きていないからな」


 いつの間にか、代名詞でもある天パアフロな頭の上にばるたんを乗せた状態で。

 森川さんは常に維持していた手の銃の形を崩し、自分のマジックバックにぽんぽんと果実を入れていく。


 ――たしかに、あれから肌に異常はない。

 痛みもかゆみもなく、次に少し舐めてもみたが、ただ甘くて美味しい味がしただけ。


 ちなみに、匂いと見た目はリンゴに近いが、味は全然違う。


 もっと濃厚で桃に近い味で、どこかミルキーさが混ざった感じ。

 まだ口に含んではいないから正確には分からないが、断面を見たり舐めた感じでは、食感はねっとり系だろう。


「まあ、もし食えなくても迷宮のものだしな。何かしらの役に立つだろうし……よし皆! 一旦、収穫タイムといこうか!」

「了解です先輩。きっとコレは食べられるはずですよ!」

「んじゃ、見学の皆さんも! ちょっとしばらく探索者から農家さんに転職だよっ!」


 なぜか鼻息荒いすぐると、キラキラした目の花蓮の声を受けて。

 後ろにいる見学組から、「分かりました火ダルマの兄貴!」「オーケーです従魔姫!」との元気のいい声が。


 そして動き出す探索者二十数名。

 鎧やローブ姿のまま、草むらから伸びた灌木、それに実った果実を収穫し始める。


 ……うむ、何かアレだな。

 迷宮内で大勢が同じ動きをするこの光景を見ていると、大所帯パーティーみたいな錯覚を覚えるぞ。


 ――こうして、あまりに迷宮内が果樹園だったので。


 探索よりも食(の可能性)を優先。俺達はせっせと収穫作業に移行したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ