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百七十二話 招待

「ホーホゥ? 『招待』とな?」


 二月上旬。

 春の訪れの気配はなく、寒さがまだまだ厳しい頃。


 上野のバーコード頭……じゃなくてギルド長から、俺達『迷宮サークル』はある話をもらっていた。


「その通り。ぜひ俺の超パワーをはじめとした、パーティーの力を披露してくれってさ」

「へぇ、珍しいな。実績と実力が認められての『ご招待』ってか。探索者っつうのは基本、自分で選んで潜るからな。こっちが選ばれるとはスゴイじゃねえか」


 右肩からの問いに答え、頭の上からは解説が。

 ともにスティック状のポテチ(最近のお気に入り)をポリポリと食べながら、一緒に俺のスマホを見ている。


「活躍するとこういう話も来るんですね。僕達というより、さすがは先輩です」

「しかも交通費も滞在費も出るらしいねー。これは本当にキング・オブ・モーモーのバタローに来てほしいんだね」


 同じく俺の話を聞いていたすぐると花蓮も、新発売のカ○トリーマ○ムを食べながら感心するように言う。


 他の迷宮の担当ギルドからのご招待――。

 俺も突然の事にびっくりしたのだが、兄貴分の白根さんに聞いてみたら、『たまにあるなァ(単独亜竜撃破者限定)』との事だった。


「んー、どうするかな。別に今は忙しくないし……」


 我らがホーム、『上野の迷宮』の探索は順調だ。

 十九層はある程度調べ上げて、すでに二十層への階段も見つけている。


 おそらく最下層は近く、そもそもとして、こっちの探索はゆっくりで大丈夫だからな。


「もちろんいくぞバタロー! せっかく招かれたんだし、ご当地の名物も食べるんだホーホゥ!」

「おっ、いいなズク坊。……よし、なら今回は自宅警備員の俺も行こうじゃねえか!」


 俺がまだ決断しないうちに、完全に行く気になっている紅白コンビ。


 ……まあ、別にいいか。

 これまで色々な迷宮に潜ってきたし、また新たな場所を開拓しても面白いよな。


「鎧も威圧もチェックしたし、五十牛力の『新能力』も昨日、把握できたしな。――おっし、せっかくの機会だから行ってみるか!」

「ですね先輩。調べてみたら、あそこの迷宮も面白そうでしたよ!」

「私もオーケーだよっ! 二、三日くらいならもう家を空けても大丈夫だしねー」


 すぐると花蓮も特に異論はなし。

 むしろ長年の付き合いで顔や声色から察するに、だいぶ楽しみにしている感じだぞ。


 ――と、いうわけで。

 他の担当ギルドから、探索の招待を受けるという名誉を受けて。


 翌日、俺達『迷宮サークル』は東京を離れて、招待された地へと出発した。


 ◆


「さあ来たぞ! 福岡以来の二度目の九州――日本の南国、宮崎県!」


 ズク坊とばるたんには悪いが、距離が距離なので飛行機でひとっ飛び。

 相棒達を貨物室行きにして遠路遥々やってきたのは、雲一つない快晴の空となっていた宮崎県だ。


 東京と比べれば温かい日差しを受けて、俺達三人+一羽+一匹は招待された地へと降り立った。


「どうもどうも友葉さん! 『迷宮サークル』の皆さんもご足労いただきありがとうございます!」

「おお、やはり若いですね。その右肩の白いミミズク――本当に『ミミズクの探索者』だ! ……あとザリガニ?」


 空港を出てすぐ。

 空を見上げて伸びをしていた俺達のもとへ、二人の男性が駆け寄ってきた。


「あ、どうもです。こちらこそご招待いただきありがとうございます」

「ホーホゥ。短い間だけどお世話になるぞ」

「つうか……そっちもそっちでずいぶんと若えじゃねえか」


 現れた二人の男性こそ、今回、潜る事となった迷宮のトップとナンバー2だ。


 つまりはギルド長と副ギルド長。

 担当する迷宮のホームページに載っていたから間違いはない。


 ただ、ばるたんの言う通り、おじさんとかおばさんが多い中で……実物はかなり若い印象を受けるぞ。


「私がギルド長の桂仁(かつらじん)です。そしてこっちが、副ギルド長の菊池翔吾(きくちしょうご)です」

「私達は同期なんですよ。今年で三十三になりますが、二十四で『単独亜竜撃破者』になった友葉さんほどではありません。――とにもかくにも皆さん、改めてようこそお越しくださいました!」


 そう言って、俺達全員と握手をする桂さんと菊池さん。


 謙遜はしてはいるが……ギルド関係者って結構、エリートが多いからな。


 まして『有名な迷宮』を担当するギルド長と副ギルド長だ。

 良い大学を出て、仕事面でもかなり優秀なのは間違いないだろう。


「では早速、参りましょうか。もうご存知かもしれませんが、私達の迷宮もなかなかのものですよ!」

「みたいですね。調べてみたら、以外にも初見のモンスターが多かったので楽しみです!」


 挨拶を済ませて、俺達『迷宮サークル』は桂さん達が用意したマイクロバスへ。


 色々とお互いの迷宮について情報を交換しながら、まずは招待された担当ギルドへと向かっていく。


 ◆


 宮崎空港から車を走らせて一時間ほど。

 到着したのは、県内でも有数の人気を誇る迷宮の担当ギルドだ。


 木造でも二階建ての立派な建物で、普通の鉄筋コンクリート製と比べて、趣があるそのギルドが担当するのは――。


日向ひゅうがの迷宮』。

 その特徴はずばり、パワー系モンスターである。


「俺らのホームと同じですね。『西の日向・東の上野』。だから俺達を招待してくださったんですか?」

「はい、仰る通りです。ウチもシンプルなパワー系で人気はあるのですが、やはり難易度が高くてですね……」

「そこで『ミミズクの探索者』こと、友葉さん率いる『迷宮サークル』の皆さんに声をかけた次第です」

「ホーホゥ。なるほどな。たしかにバタローなら力負けはしないからな」

「ネットで軽く調べたが、ここ半年ほどはあまり探索が捗ってないみてえだな。……よし任せろ。ウチのバタローはじめ、『迷宮サークル』の進撃を見せてやろうじゃねえか」


 桂さんと菊池さんの言葉を受けて、翼や鋏でドン! と胸を叩く紅白コンビ。


 別名、『剛腕の迷宮』。


 難易度は上の下レベルと、これまた上野ホームと同じな一方で、

 出現モンスターの強さだけに限れば、若干、日向こっちの方が上らしい。


「私達の迷宮は『一本道』の迷宮です。階段から次の階段まで、螺旋状にひたすら中心に向かっていく造りなのです」

「そのようですね。これならバカでかい上野と違って、ガンガン進んで踏破できると思います」

「おお、頼もしい限りです。……それでですが友葉さん、事前にお願いしていた『あの件』についてなのですが……」

「はい、問題ないですよ。この前も似たような状況を経験しましたしね。自己責任なら俺達は構いません」


 言いづらそうなギルド長の桂さんに、俺は即オーケーの返事をする。


 ……うん? 何の話かだって?

 それについては、今いる日向の担当ギルド内を見ればすぐに分かる事だ。


 ――ざわざわざわ……!


 俺が亜竜・妖骨竜を倒した後、久しぶりに上野の担当ギルドに入った時と全く同じ。

 ギルド内にいた多くの探索者達が、俺を中心に『迷宮サークル』へと熱い視線を送っていたのだ。


 実はギルド長の桂さん、日頃からお世話になっている探索者の彼らに、

『ぜひ『ミミズクの探索者』から探索の見学許可を!』と頼まれていたのだ。


 ……え? んでその見学希望の中に……女子はいるのかだって!?


 ――おのれ貴様! 冗談でもそのセリフは見逃せんぞッ!

 全員が見事なまでに野郎共で、可愛い女子おなごがいるわけが……いるわけがねえだろうッ!


「ゆ、友葉さん? 急に震えて大丈夫ですか!?」

「待て桂。これは頂点に君臨する『単独亜竜撃破者』として――戦いと血を求める武者震いだろう」

「……ホーホゥ。気にするな二人共。この震えはたまにある事だから」

「……そういう事だ。んなカッコいいもんじゃねえからノータッチでいいぞ」


 ――っと、いけない。俺とした事が取り乱してしまったか。


 他の探索者連中や受付嬢組も見ているし、リーダーとしてシャキッとせねば。


 俺達は図らずもギルド内のど真ん中で、各自装備へと着替えていく。

 まずズク坊に『暴風のスカーフ』を巻いてやり、最後に俺が『妖骨竜の鎧』姿となって――やはり始まってしまったスマホでの撮影会を経てから。


 今回は一緒に潜るつもりのばるたん(【スキル】を得て迷宮嫌いを少し克服?)を、花蓮の頭の上に乗せてやれば、準備完了だ。


「うむ。ではでは――」


 俺は見学希望の周囲の探索者達を見回し、ギルド長の桂さんと副ギルド長の菊池さんを見てうなずいてから。


 最後にいつもの頼もしい仲間達を見て、リーダーらしくビシッと言ってみる。


「時は満ちた。西を代表するパワー系モンスターの巣窟――いざ討ち入らん!」

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