百七十一話 探索状況と仲間の状況
一旦整理回(?)です。
ちょっと長いです。
「進んだねえ……進んだよ」
気の部分も体の部分もフィットはしていても、何となくまだ少し慣れない『妖骨竜の鎧』を纏って。
兜だけ外して休憩中の俺は、『火ダルマモード』のすぐるの炎で照らされた迷宮の先を見る。
――ここは『上野の迷宮』十九層。
昔、『DRT(迷宮救助部隊)』によって十五層までは踏破されていたが、そこから先は俺達『迷宮サークル』が探索していく番に。
ギルド総長からは『ゆっくりでいいから探索を』と頼まれていたので、急がず地道に進んでここまで到達していた。
「ホーホゥ。たしかにだいぶ進んだな。ただ階層で数えたら、そうでもないのが辛いところだぞ」
「まあ、そこは仕方ないって。何せこのバカデカさだからな……」
『上野の迷宮』は基本的にデカくて広い。
特に十三層以降はより巨大空間となり、とてもじゃないがすぐには踏破できないレベルだ。
通称『上野ヶ原樹海』。
七層からはジャングルみたいに木が鬱蒼と茂るため、余計に進むという点においては厳しい環境である。
「とにかく休める場所があったのは幸いでしたね先輩。戦闘面で問題はなくても、さすがにずっとでは疲れますし」
「ほいっ、受け取れバタロー! 特濃ホットミルクだよっ!」
照明担当のすぐるの言葉にうなずき、花蓮から水筒のコップを受け取る。
十九層を少し進んだ通路部分、一際高い木の根の上に座っての小休憩だ。
マップもない未踏破区域のため、この階層について持っている情報は一つもない。
「久しぶりの『空の階層』か? だったら最奥にボス部屋があるだけだけど……そこら辺はどうだズク坊?」
「ん、何体も通路部にいるぞ。ホーホゥ。どうやらここは常駐型モンスターの階層みたいだな」
「なるほど。了解した」
ズク坊の【絶対嗅覚】による報告を聞きながら。
同じ前衛のスラポンの青いプルプル巨体に寄りかかり、乾いた喉にホットミルクを一口。
相棒から正確な情報がもたらされても、初めて踏み入る奥の暗闇を見ると不気味ではあるが……まあ、大丈夫だろうな。
「ホーホゥ。さすがはバタロー、単独で亜竜を倒した男だけあるな」
「ですねズク坊先輩。迷宮の未踏破区域ほど危険な場所はないというのに……」
「モーモー烈な頼もしさだね。私達のリーダーからは不安や恐怖の欠片も感じないよっ!」
「……うん? そうか? 俺的にはよく分からんな」
と、仲間にいきなり褒められて、照れくさくて頬をポリポリと掻きつつ。
俺は改めて、十九層の暗闇の向こうを見て、探索者としてのカンを働かせる。
「とにかく、だ。……そろそろ『底』は近いかな?」
――何となく、そろそろ広大な『上野の迷宮』も終わり。
強敵指定である『指名首』の上位陣も、一つ前の十八層で顔を出したしな。
その点から見ても、この迷宮の最下層は近いはずだ。
「さて。んじゃ一休みしたら、またゆっくりと進みますか」
今日の予定は十九層の探索が中心。
来るのにも戻るのにも時間は掛かるので、あまり充分に探索時間は取れないが、最先行パーティーとして頑張るとしよう。
◆
「――おっ、いたいた。遠くからでも分かるくらいデカイやつだな」
いくつかあった左右への分かれ道を進まず、ひたすら真っすぐ爆進した俺達。
ジャングルな巨大通路を十分ほど進んだところで、出現モンスターと出くわした。
当然、高難度の迷宮をここまで潜れば『指名首』、それも上位に位置する種族だ。
木々や葉が茂った巨大通路を、通せん坊するように存在していたのは――。
「ホーホゥ。アレが『トレントサイクロプス』か。俺達にとっては初見だぞ」
現れたのは、一つ目で人型モンスターのサイクロプスだ。
十メートルはあろうかというバキバキの巨体を誇り、右手にはどこから仕入れたのか、金属製のトゲつき棍棒を持っている。
……ただ、名前の通り通常のサイクロプスではない。
『指名首』の上位に位置づけされるように、サイクロプスの亜種に当たるモンスターだ。
下半身は完全に『樹木』。
樹海な地面から極太な幹が生えていて、上半身についても、腕が通常個体よりもやたら長くて太い枝のようだ。
『樹海の王』。
ジャングルな上野のフィールドと合わせると、本当にそんな感じだぞ。
「『モンスター大図鑑』で見た通りだな。こういう『混合タイプ』自体が初めてだぞ」
巨人族の屈強な体に、トレント族の打たれ強さとリーチの長さがプラス。
また見た目通り、攻撃面では棍棒の一択ではない。
地面を叩いていくつもの小さな樹木を生み出し、絡みついて相手の動きを封じるという、厄介な『樹木生成』まである。
ハッキリ言って強い。
追い込まれれば『狂気化』もするし、最後の最後まで気が抜けない相手だぞ。
だが、あくまで門番以下であり、言わずもがな亜竜には程遠いレベルのモンスターだ。
「どうする? すぐるに花蓮。俺は出ずに控えて……って、いちいち聞く必要はなかったか」
そう俺が聞いている最中から、すぐると花蓮はすでにやる気満々だった。
……まあ、すぐるに関しては『火ダルマモード』で表情は見えないが……燃え盛る炎を見れば一目瞭然だぞ。
「ここは僕達に。先輩はまたしばらく休憩していてください」
「だね、すぐポン。バタローなしでも、もうこのレベルの相手を倒せなきゃだよっ!」
全身を炎上させたすぐるは後ろで構え、花蓮は四体の従魔にハンドサインで指示を出す。
それを見た俺は「よし」と言ってから、最前線から最後方へと位置を下げる。
「相手は強いけど、皆で力を合わせれば大丈夫だろうな」
「ホーホゥ。すぐるも花蓮も従魔達も、ここ最近はバタローに触発されて特に頑張ってたからな」
俺とズク坊は一番後ろから仲間達の背中を見る。
……ふむふむ、たしかに。
一つ一つの背中を見ても、対峙する強敵トレントサイクロプスを含めて見ても、かなりの頼もしさを感じるぞ。
――こうして、俺とズク坊を外して十九層での戦闘が開始。
前衛二体が前進する中、まず最初に仕掛けたのは――我らが魔術師のすぐるだ。
無詠唱からのレベル6の【火魔術】、『火の鳥』。
迷宮を熱し照らす強烈な炎の一撃が、右手から放出されて一直線に標的へと襲いかかった。
直後、下半身の樹木部分に直撃して炎上。
植物系との相性の良さもあり、トレントサイクロプスは悶えるように長い腕を振り回す。
すぐるの【火魔術】についてはレベル7のままだ。
これに関してはレベル10制の【スキル】のため、なかなか上がらないのは仕方ない。
だが同じレベル7でも、なったばかりと『鍛えられた』レベル7では全然違う。
熱、火の勢い、炎の濃さ。
放たれる魔術に含まれる魔力も、レベル7に上がった当時とは別物だ。
また、纏うローブも『深紅鬼王のローブ』に変わっている。
これは俺が『単独亜竜撃破者』となったお祝いに、武器・防具屋の店長の泰山さんが他のメンバーに無料でくれた装備だ。
――つまり、能力的にも装備的にも、ウチの『火ダルマの探索者』もだいぶ強くなっている、というわけだな。
「さあいくよ! すぐポンのアチチ魔術に続けーっ!」
『ポニョーン』
『キュルルゥ!』
『クルォオオッ!』
『ゲッコォ!』
次に我らが従魔師、『子供探索者』こと花蓮と従魔達について。
こちらもすぐる同様、確実に強くなっている。
壁担当のスラポンと、回復担当のフェリポンは以前から種族の『成長限界』に到達。
中衛を務めるガルポンはもう少しか? 放たれる風系の魔術も強くなっているが、まだ成長途上にあるだろう。
前衛で火力担当のボクサー、ケロポンについてはまだまだか。
唯一の『指名首』かつ最後に仲間になったため、現時点でかなり強くても成長限界は当分先だ。
花蓮の【従魔秘術】自体は、熟練度は『四体』のまま。
こっちは最高の熟練度がおそらく『六体』なので、レベル10制の【スキル】よりもさらに上がりづらいからな。
――ちなみに、その花蓮も泰山さんから新たな装備を貰っている。
『金剛茸の軽鎧』。
もう一枠の【煩悩の命】(ライフポイントが百八個。百七回まで死ねる)があるから、さほど装備は重要ではないが、こちらも立派で上等(で変テコ?)な装備だ。
「まあでも結局、やっぱり一番肝心なのは『連携』だよな」
前は新入りのケロポンが入ると正直、ぎこちなかった。
それが今や実戦訓練の成果もあり、スムーズで滑らかな感じになっているぞ。
スラポンは上手くケロポンと位置を入れ替えながらの完璧な壁役だ。
相手はモンスターとして遥か格上でも、無類の打撃への高い耐久性から仕事を全うしている。
フェリポンはそのスラポンを中心に回復を。
ベストなタイミングでベストな回復量の『精霊の治癒』を発動し、戦線が崩れない手助けをしている。
ガルポンは前衛の少し後ろの空中から、新たに発生した樹木を『小竜巻』で片っ端からぶった切る。
本体にダメージを与えるのではなく、厄介な捕縛攻撃の方を潰す事に徹していた。
そして、従魔組のエースであるケロポン。
人型カエルなボクサーが、すぐると一緒にトレントサイクロプスにダメージを与える。
連打の中に強打を交え、時折スラポンの壁から漏れた攻撃をダッキングやスウェーで回避しながら、下半身の樹木部分に拳を叩き込む。
――グォオオオッ!
その時、トレントサイクロプスが咆哮を上げた。
怒涛の連携攻撃を受けて、キレたように棍棒や『樹木生成』での攻撃頻度を上げてきたのだ。
「くッ!」
「ぐぬぬっ!」
強烈で暴風みたいな反撃を受け、積極的にいっていたすぐる達の攻撃の手が止まる。
……さすがは上位の『指名首』か。
これだけ数の差があっても、一気に押し切らせてくれるほど生易しくはないらしい。
「けど……時間の問題だな」
「フッ、もちろんだぞホーホゥ!」
絶対の自信を持って、俺とズク坊は手出しせずに戦況を見守る。
炎とパンチとスライムと回復と風の刃と。
今一度、息の合った連携を披露して、相手の激しい反撃の中でも確実にダメージを与えていく。
――そうして時間が経つ事、十数分。
ゴルォオオオ――! と。黒混じりの禍々しい赤い炎に、唸るような轟音を携えて。
すぐる最強の【火魔術】である『獄炎柱』。
前衛二体が息ぴったりに飛び退いたところでその灼熱の火柱が決まり、トレントサイクロプスの全身が黒コゲとなって、その命が燃え尽きる。
「うむ、お見事!」
仲間の勝利を見届けて、まだ炎の熱さが残る中、俺は賛辞の拍手を皆に送った。
さらに、右肩に止まっていたズク坊はファバサァ! と翼を広げると。
喜びの上空旋回から――歓喜の叫びを十九層に響かせる。
「さすがは皆だ! これこそ『アルティメット迷宮サークル』の力だぞホーホゥ!」