閑話十 ダンジョン=コア~神々の箱庭~
『キタァアアアアア――ッ!』
一月下旬。
日本に五人目の『単独亜竜撃破者』が誕生してから、約一ヶ月が経過した頃。
現実とは違うネットの世界にもまた、その影響が現れていた。
『ダンジョン=コア~神々の箱庭~』。
今や若者の間では知らない者の方が少ない、超人気オンラインゲームだ。
有名な若手女優を起用したCMなども大々的に流され、多くのヘビーユーザーを抱える、三年連続で日本オンラインゲーム大賞を受賞している。
『本物の偉業達成で……ついにアイツも日の目を見るか!』
『出た! ナル林(ナルシスト若林)以来の『強化バージョン』!』
『俺、あの戦闘スタイル自体は好きだったからな。今度こそ頼むぞ運営!』
そんなゲーム世界の住人の多くが、揃ってこうした喜びの声を上げた。
定期メンテナンスが行われる前日。お祭り騒ぎな専用掲示板の期待を一身に受けながら。
『それ』はついに姿を現し――多くの『ダンコア民』の注目を浴びる事となった。
『闘牛重戦士(竜種を超えし者)』。
――半年前、そのあまりの使いづらさから『ゴミクズ』認定されたそいつが。
『使い手ゼロ』、『ガチャの無駄遣い』、『ノロノロ芋牛』などと散々、こき下ろされたあいつが。
見違えるような強化が行われて、再びダンコアの世界に舞い戻ってきたのだ。
『つ、強ぇええええ!?』
『何コレ反則だろ!? めちゃ硬いじゃんコイツ!』
『まだ他と比べれば使いづらさは残ってるけど……それを補って余りあるこの性能ッ!』
早速、ガチャを回して引き当てた者達が使用してみた結果。
かつての罵詈雑言はどこへやら、今度は驚きと称賛の声だけが生まれていた。
――このダンコアの世界において、圧倒的な性能を持ち、『Sランク』と評価されるキャラは六つ。
『竜人』、『聖騎士』という完全オリジナルキャラ二つと、
『黄金の爪』、『雷毒人間』、『惰流剣聖』、『氷の賢者(竜種を超えし者)』という、実在する探索者をモデルにした四つのキャラだ。
そして今、実際に使用した彼らの反応を見てもお分かりの通り。
新たに登場した『闘牛重戦士(竜種を超えし者)』は、最高の『Sランク』相当の強さを持つ強キャラに生まれ変わっていた。
『この攻撃と防御の両立はヤバイ。こんなんモンスターにとったらモーハラだよモーハラ! モーモーハラスメント!』
後にナンバーワンプレイヤーの口からその言葉は放たれ、すぐに定着するほどに。
この日から『闘牛重戦士(竜種を超えし者)』は多くのプレイヤーに使用され、特にパーティー戦では必ずと言っていいほど前衛に入られる事となる。
「よし、やるぞ! 新生・俺のデビュー戦だ!」
そして、また一人。
おそらく誰よりも楽しみにしていた、東京在住の一人と一羽と一匹は。
必要となる『金魔石』を消費し、ガチャを回してわずか一回目。
これも運命からか見事に引当てた彼らは、興奮冷めやらぬうちにキャラを変更、いざ迷宮へと挑む。
――が、しかし……。
「ギャァアアアアーーッ!?」
「ホ、ホーホゥーーーッ!?」
「また……またボコられてんじゃねえかバタロォオオーーッ!?」
凄まじい強化が成されたとはいえ、所詮は『レベル1』。
また、改善はされても基本は『使い手を選ぶキャラ』であり、『本人の腕の問題』も発生。
――何より、調子に乗って高難度の迷宮(『天空の迷宮』)を選択して突っ込んだせいで。
半年前の悪夢再び。
ガチガチ鎧なキャラ名『友葉太郎』さんは……上級天使兵の軍勢を前に、見事なまでの集団リンチにあってしまう。
画面いっぱいに広がる白い翼の刃。叩き出される被ダメージの数字の嵐。
結果、育てればどのキャラよりも頑丈なはずの彼は。
何もできずに体力ゲージを削られて――おどろおどろしい音と共に、不名誉な戦死という運命を辿ってしまった。
「く、くそう!? ほ……本物の俺なら問題なく突破できたんだからなッ!」
そんな悲痛で醜い叫びが、リビングに響いたのは言うまでもない。
この後の新たな防具編(?)が終わったら、もしかしたら週一ペースになるかもです。
閑話などのちょこっとした話のみ、引き続き四~五日でやると思われます。