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十八話 【火魔術】

「んじゃ、すぐる。今度はお前の番だ」


『上野の迷宮』一層に入り、ミノタウルスとの三度目の交戦を終わらせたところで。

 俺は剥ぎ取り用ナイフで魔石と角を剥ぎ取りつつ、後ろに控えていたすぐるに言った。


「はい。やってやります!」

「その意気だぞすぐる。バタロー以外の牛なんか狩っちまえホーホゥ!」

「もしヤバくなったら俺が入るからな。心配はいらないぞ」


 緊張の面持ちのすぐるの肩を叩き、俺は後輩、じゃなくて新たな仲間に先頭を渡す。


 大丈夫、すぐるなら苦戦したとしても勝てるはずだ。

『横浜の迷宮』は三層でつまずいたものの、スチールベアとは『相性』が悪いからな。


 単純な強さは三・五階層相当のミノタウルスが上でも、こっちの方がよほど戦いやすいだろう。


「では、行きます。ズク坊先輩、索敵をお願いします!」

「おう、任せとけホーホゥ!」


 すぐるの後ろに俺とズク坊が続き、巨大で雑草茂る迷宮内を進む。


 ちなみに、すぐるの武器は左手に持つ三十センチのダガ―のみ。

 後は特徴的な紅色のローブを纏っただけと、極めて身軽な装備だ。


「(ま、これがコイツの『戦闘スタイル』だからな)」


 ぽつりと呟き、俺はそんな仲間の背中を見ながら進んでいくと――ブルルルゥ! と。


 特に緑の濃い、ちょっとした広場みたいな場所に足を踏み入れた瞬間。

 相変わらずの屈強さと獰猛さの、ミノタウルスが鼻息を荒げて姿を現した。


 さあ、いよいよだ。


 新たな仲間のその力、改めてじっくり見させてもらおう。


 ◆


「――『火弾(ファイアボール)』!」


 広場に入ってミノタウルスと遭遇した直後。

 すぐるは右手を前に突き出すと、そんな厨二的なセリフを発した。


 別に彼はふざけているわけではない。

 事実、そう叫んだ瞬間に右手の前に火が現れ、直径三十センチほどの火球となって前方に放たれた。



【スキル:火魔術】

『魔力を消費して『火の魔術』を行使可能。熱・サイズ・速度は【スキル】の熟練度に比例し、上がるごとに新たな魔術を覚える』



 ――これが新たな仲間、木本すぐるが持つ唯一の【スキル】だ。


 俺も憧れ、最初は狙っていた【魔術系スキル】の一つ。

 その中でも王道とされる火は、最も男らしくて派手な属性だろう。


 そんなロマン溢れる火魔術からの『火弾(ファイアボール)』が、唸りを上げてミノタウルスに直進していく。


「「おおおー」」


 と、のん気な俺とズク坊の声が重なると同時。


 狙われたミノタウルスは軽々と斧を振り回し、迷宮を照らす『火弾(ファイアボール)』を叩き消してしまった。


「くッ! さすがに真正面からは当たらないか……!」


 先制攻撃を潰されたすぐるは行動を開始。

 紅色のローブを揺らめかせ、素早く動き回って『火弾(ファイアボール)』を次々と撃ち込んでいく。


 これこそすぐるの、と言うより魔術師の戦い方だ。

 パーティーでやる場合は安全な後衛からの狙撃。一対一の場合は動き回って距離を取りながらの戦いだ。


 だから重い防具はつけずにローブだけ。

 あれ自体も多少は耐久力があるが、それよりはローブの色(紅色)から見ても、『火属性強化&火耐性アップ』が主な効果だ。


 あと左手に持つダガ―に関しては、接近を許した際に使う緊急的なものだ。


「ぽっちゃり体型の割によく動けるよな。……動けるデブってやつか」

「ホーホゥ。見た目だけならバタローとすぐるは【スキル】が逆だな」


 魔術が飛び交う戦場にて、俺とズク坊は少しだけ離れた位置から観戦する。

 まあミノタウルスはパワー系だし、今のところは捕まる気配もなく大丈夫そうだ。


 そんなこんなで魔術と斧の戦いは進んでいく。

 すぐるは『火弾(ファイアボール)』の連打で攻勢をかけ、三発に一発が斧の迎撃をすり抜けて直撃する。


 魔術を撃つには魔力が必要だ。

 俺は【魔術系スキル】を持っていないから分からないが、前に聞いたら『水分みたいなもの』と言っていた。


 体内にあっても体力とは違う、筋肉の疲労などよりも感じづらい感覚。

 魔力が減ってくると、ノドならぬ体が『渇き』を覚えるらしい。


 と、そうやって俺が魔術について思考を割いていたら。


 かなり火傷を負って動きが鈍り、的になったミノタウルスに向けて――すぐるが動いた。


「『三本の火矢(ファイアアローズ)』!」


 叫び、離れていても分かるくらいに、すぐるの右手から今までで一番の熱が生まれる。


 すぐるの【火魔術】は、正確に言うと【火魔術(レベル2)】。

 つまり、熟練度が一つ上がっているので、もう一種類の魔術を撃てるのだ。


 それがこれ。

 放たれた燃え盛る三本の矢が、『火弾(ファイアボール)』を上回る熱と速度で飛んでいく。


 片や弱っていたミノタウルスは、何とか斧を振るって一本の火矢は叩き消すも、残る二本が次々とぶ厚い胸に突き刺さった。


 そして、炎上。

 屈強な体を貫きこそできなかったものの、逆にそれが良かったのか、燃え盛る炎にミノタウルスの全身が包まれる。


 威圧的だった血管浮き出る焦げ茶色の肌は、炎一色で激しく染め上げられた。


 ブルルウゥ――――…………、


 最初こそ鼻息を鳴らすも、すぐに収まって炎の音だけが響く。

 焦げくさい臭いが立ち始めたところで、ミノタウルスの巨体はドスン! と後ろに倒れた。


 ……よし、無事に勝てたな。

 時間と手数がかかっても、やはり単独で倒せるようだ。


 無傷での完勝。初戦闘にしては上出来だろう。


 唯一、迷宮内が雑草だらけなので火事になるのが心配だったが、

 地下だけあって湿っているのか、燃えたと思ってもすぐに消えて大事には至らなかった。


 なのでホッとしつつも。

 俺は火が消えて黒コゲになった、無残なミノタウルスの死体を見て言う。


「よくやった、すぐる。……けど、角まで燃えたら素材にならないじゃん!?」

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