表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/233

百六十五話 五人目誕生、その反応

すいません、投稿が遅れました(汗)。

今回は長めです。

 迷宮が日本にも現れてから早十二年。

 数多くの尊い命を失ってしまった一方で、力ある探索者が生まれ、育ってきたのもまた事実である。


 そんな彼らの、日本の探索者の頂点に立つのは『四人』。

 誰の力も頼らず己の力だけで、強力な存在である竜種・亜竜を倒した者達だ。


 これは海外の迷宮業界と比べても最も多い人数である。

 実力と同じく運にも恵まれた、日本迷宮業界に起きた『奇跡』であった。


 ――しかし、その奇跡が続いた中で、また一人。

 日本迷宮業界に、ついに『五人目』となる『単独亜竜撃破者』が誕生した。


 その名は友葉太郎ゆうばたろう。弱冠二十四歳。


『上野の迷宮』をホームに活動し、誰よりも重くてパワフルな牛の力を宿す――『ミミズクの探索者』である。


 ◆


《取材対象者:ズク坊、ばるたん、木本すぐる、飯田花蓮》



「ホーホゥ。よろしく頼む」


 上野の探索者ギルドにて。

『迷宮サークル』+自宅警備員の計四名は、ギルドの一室に集まると、ズク坊が代表してそう言った。


 机を挟んで座る相手は、二十代後半の女性。

 かつて太郎と対談した事もある『月刊迷Q通信』の記者で、迷宮業界では有名な人物である。


 そんな彼女にこの四人がインタビューを受ける理由は一つ。


 ずばり、『ミミズクの探索者』。

 単独で亜竜・妖骨竜を討伐した、彼らのリーダーについてである。


「ホーホゥ。バタローならいつかはやれると思ってたぞ。けどまさかこんなに早いとは……さすがは俺達の相棒であり家族だ。なあ、ばるたん!」

「だなズク坊。ウチのバタローは探索者として、どうも強力な運命を持っているらしい。それに亜竜も例外なく飲み込まれちまった、ってわけさ!」


 ズク坊はすぐるの右肩から、ばるたんは花蓮の頭の上から誇らしげに答える。


 女性記者が次々と太郎について質問を重ねるにつれて、

 広げた白い翼はさらに広がり、打ち鳴らす赤い鋏はさらに大きく打ち鳴らされる。


 さらに今回の件、闘牛と亜竜の『クリスマスの決闘』について。


 ネットを含めて世間の反応を聞かされた二人は――ついに機嫌が頂点マックスに。


 ズク坊は「ホーホゥッ!」と飛び立って天井付近を一周し、

 ばるたんはカッチカチカチ! カッチカチ! と、リズムを刻んで鋏を打ち鳴らす。


「先輩は本当に頼りになりますよ。前衛で構える姿はまさに人間要塞です! 僕達は安全な後ろからチクチクやればいいだけですから」

「あとはスーパーモーモーモード(【過剰燃焼(オーバーヒート)】)が切れた時に回復してあげるくらいかな? ここ最近はバタロー、スラポン、ケロポンの三人であっさり倒しちゃってたからねー」


 同じく、質問を受けたすぐると花蓮も誇らしげに答える。


 太郎との出会いや今までのパーティーの活動などなど。

 時にはその人間性も含めて、嘘偽りない称賛の言葉を並べていく。


 ……まあ、だからこそ、

「先輩が崩れるのはキレイな女性がいる時くらいです」

「あとたまに家の掃除でベッドの下をやろうとした時くらい?」という、後で太郎に怒られる失言(悪気ゼロ)を投下してしまうのだが。


「ホーホゥ。とにもかくにも、今回でバタローが大幅に強化されたからな。これで俺達パーティーの戦力はさらに上がったというわけだ」


 一時は取り乱したものの、行儀よく質問に答えるズク坊は満足気な顔を浮かべると、

 対面の女性記者の右肩へと乗り移り、「雑誌にはこう書いてくれ」と言ってから。


 ファバサァ! と大きく翼を広げると――またテンション高く元気な声で叫ぶ。


「五人目の『単独亜竜撃破者』! 並びに『アルティメット迷宮サークル』の誕生だホーホゥ!」


 ◆


《取材対象者:友葉太郎の両親》



 次に取材を受けたのは太郎の両親。

 太郎が入院したと聞き、群馬から上京してきた二人に時間を貰い、息子について話を聞く。


「いやはや、まずは驚きましたよ。私は迷宮について深く知りませんが、さすがに亜竜くらいは知っていますからね」

「私も主人と同じです。まさかあの子が、何の取り得もない子がこんな大きな事を成し遂げるなんて……」


 喜びよりも驚きが一番。

 あまり迷宮を知らない世代である太郎の父と母でも、自分の息子がやった事の大きさについては理解していた。


「何と声をかけてあげたいか、ですか? ……うーん、とりあえず無事で本当によかったと言ってやりたいですかね」

「私はよく頑張ったね、と。後でギルド総長さんに聞きましたが、『他の探索者が巻き込まれないために足止めをした』との事で……我が子ながら誇らしいです」


 そう答えて、安堵の息を吐く太郎の父と母。

 全てが終わった今思い返しても、一人息子を失う危険があったのだから当然だろう。


 そうして子供時代の話も含めて、両親への取材が終わり、帰る準備をし始めた女性記者の耳に、


「そうだ母さん。戻る前にまた太郎のところに寄ろうか。そろそろパソコンと冷蔵庫も買い替え時だしな」

「そうね。あとこの季節だから加湿器も頼みましょうか。ズク坊ちゃんとばるたんちゃんが遊びに来た時、うちが乾燥していたら大変だわ」


 ……これも同じく本心なのだろう。


 だがその声だけは……決して書かないでおこうと女性記者は決めた。


 ◆


《取材対象者:宿命のライバル》



「よくぞ来たな。……その通り、友葉バタローについて語るならば僕は外せないだろう」


 次に取材を受けたのは、太郎が聞けば『何でだよ!』と叫ぶ人物。

 どこかの何かの間違いで、女性記者が『双方が互いに認め合うライバル』と勘違いしてしまった事によって。


『農薬王の探索者』こと、小杉達郎に話を聞きにいっていた。


「友葉バタローが亜竜を倒せた理由? そんなものは『たまたま』さ。それに決闘の日はクリスマスだったと聞く。きっと亜竜のヤツも浮ついていたのだろう!」


――取材が開始して十分が経過。

 いまだ『宿命のライバル』を褒める言葉が一つも出ない事に困惑する女性記者。


 ……これはもしや人選を間違えたのだろうか?


 同行しているカメラマンも含め、そう思い始めた頃。

 女性記者からの少々失礼な質問に――小杉は余裕の笑みを浮かべて答える。


「差を広げられた? 違うな。本人もすでに分かっているだろう。僕と迷宮の神から、あえてハンデを与えられたのだと!」


 チッチッチッ、と指を横に動かす小杉。

 続けてその口から放たれるのは、太郎ではなく自身の成長した能力についてのみ。


 ……やはり取材対象を間違えたらしい。完全に。


 だがまあ、自業自得。

 女性記者は心の中で苦笑いしながらも、何とか予定していた取材時間は頑張ったのであった。


 ◆


《取材対象者:吉村緑子、渡辺葵》



 一つの失敗を挟んでから。

 女性記者が次に話を聞いたのは、正真正銘、きちんとした探索者である。


 日本有数のパーティーである『北欧の戦乙女ヴァルキュリア』。

 そのリーダーと副リーダーを務める、『影姫の探索者』と『女オーガの探索者』だ。


 男性カメラマンがデレデレする中、早速インタビューが始まる。


「一報を聞いた時は本当に驚きました。けれど同時に、太郎君ならあり得るかなと思いましたね」

門番ゲートキーパーを一緒に倒した時も強かったけど……。ジムに通って技もちゃんと鍛えろ!って言った甲斐があったわねん。あの頃よりもだいぶ強くなってますよアイツは」


 探索者歴わずか二年での亜竜の討伐。

 太郎の成し遂げた偉業に、先輩探索者の美女二人は喜び、感心していた。


 実は当初、この二人に取材をする予定は特になかったのだが、

『絶対に先輩が喜びますので』と、取材終わりにすぐるが一言。


 彼女達との接点も伝えられて、ならばと金沢まで足を運んでいた。


 ――つまりは、後輩すぐるのグッジョブである。


「またぜひ一緒に迷宮に潜りたいですね。フフッ、今度は私達が守ってもらう立場かしら?」

「おっ、いいねえ緑子。私達を守れるとしたら、そりゃ『単独亜竜撃破者』くらいなもんだしねん」


 女神のように笑う緑子と、悪戯に笑う葵。

 特に葵の方は腕組みをすると、さらに邪悪(?)な笑みを浮かべる。


「まあでも、その前に。太郎の今の実力――ジムで本気ガチでやり合って試させてもらうけど!」


 この時、女性記者は知らなかった。いや知るはずもなかった。


 どちらも美女とはいえ、『違う方から違う形』で求められる。

 太郎はただただ、探索者イチの美女から褒められたかっただけなのに……。


 さすがの出来る後輩すぐるでも、そこまで読めてはいなかった。


 ◆


 その後も五人目の『単独亜竜撃破者』、友葉太郎について多くの取材対象者に話は聞かれた。


 多くのページを割いた『緊急特集』において、彼らの声もしっかり載せられる事となる。


 ――とある武器・防具屋の大柄な店長は、


「ワッハッハ! やりやがったな! 牛の力で亜竜を退治しやがったか!」と豪快に笑い、

 さらに「よくやった。こうなりゃ大盤振る舞いだ。ウチに来たらパーティー皆の装備を一つづつ、好きなモンをくれてやる!」と嬉しそうに約束した。


――とある個人経営の居酒屋店長は、


「もう準備万端で、あとは太郎君待ちだったんですよ。クリスマス会に来ないと思ったら、まさかの亜竜と決闘でしたからね」と当時を振り返りつつ、

「ウチ一番の常連さんが単独撃破ですからね。もちろん祝賀会はやりますよ!」と、腕によりをかけて料理を振る舞うと気合いを入れる。


 ――とある採集専門イケメン探索者は、


「あのおっかねー竜種を倒すなんて……オラにはできない芸当だべ。よぐやった太郎君!」と称賛し、

「ご近所さんが『単独亜竜撃破者』……。田舎の父ちゃん母ちゃん、あと友達にもいっぺー自慢するんだなあ!」と、イケメンスマイルで熱く語った。


 ――とある大学時代の研究室仲間達は、


「自分の耳を疑いましたよ。あの頃の友葉っちは『横浜の迷宮』に潜っていたのに……本当にスゴイです」

「だよなー。『門番地獄』を抜けた時もそうだけど、ちょっともう雲の上に行っちまった感じだぞ」

「さすがは友葉っち、そして【モーモーパワー】カ。また久しぶりに飲み会を開いテ、亜竜戦の話を詳しく聞いてみたいところダナ」

「僕はそれより今の金銭事情を聞きたいし。また正直に若手芸人みたいに吐かせるんだし!」

「うむむむ……。こりゃ俺も探索者デビューしようかな? 飛び込みの営業はガチで大変だぞ……」と、それぞれに素直な思いを述べた。


 ――また、とある有名女性防具職人に至っては、


「うん、待ちに待ったぞ! さあ作らせろモー太郎!」という叫びから始まり、

「そっちから来ないなら私が東京そっちに行くぞッ!」と、取材中は終始叫び倒しだった。


 ……などなど、多くの声が載せられた『月刊迷Q通信』一月号は。

 緊急重版されるほどに多くの者が購入し――太郎の名がさらに広く知れ渡る事に。


 さらに、今回の偉業達成によって。


 日本だけに留まらず、『ミミズクの探索者』の名はついに世界にも轟く事となった。

改めて遅れてすいません。ちょっと体調不良でへばっておりました(orz)。

次の話は本来のペース通りに投稿できる……はず(猛汗)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ