百六十五話 五人目誕生、その反応
すいません、投稿が遅れました(汗)。
今回は長めです。
迷宮が日本にも現れてから早十二年。
数多くの尊い命を失ってしまった一方で、力ある探索者が生まれ、育ってきたのもまた事実である。
そんな彼らの、日本の探索者の頂点に立つのは『四人』。
誰の力も頼らず己の力だけで、強力な存在である竜種・亜竜を倒した者達だ。
これは海外の迷宮業界と比べても最も多い人数である。
実力と同じく運にも恵まれた、日本迷宮業界に起きた『奇跡』であった。
――しかし、その奇跡が続いた中で、また一人。
日本迷宮業界に、ついに『五人目』となる『単独亜竜撃破者』が誕生した。
その名は友葉太郎。弱冠二十四歳。
『上野の迷宮』をホームに活動し、誰よりも重くてパワフルな牛の力を宿す――『ミミズクの探索者』である。
◆
《取材対象者:ズク坊、ばるたん、木本すぐる、飯田花蓮》
「ホーホゥ。よろしく頼む」
上野の探索者ギルドにて。
『迷宮サークル』+自宅警備員の計四名は、ギルドの一室に集まると、ズク坊が代表してそう言った。
机を挟んで座る相手は、二十代後半の女性。
かつて太郎と対談した事もある『月刊迷Q通信』の記者で、迷宮業界では有名な人物である。
そんな彼女にこの四人がインタビューを受ける理由は一つ。
ずばり、『ミミズクの探索者』。
単独で亜竜・妖骨竜を討伐した、彼らのリーダーについてである。
「ホーホゥ。バタローならいつかはやれると思ってたぞ。けどまさかこんなに早いとは……さすがは俺達の相棒であり家族だ。なあ、ばるたん!」
「だなズク坊。ウチのバタローは探索者として、どうも強力な運命を持っているらしい。それに亜竜も例外なく飲み込まれちまった、ってわけさ!」
ズク坊はすぐるの右肩から、ばるたんは花蓮の頭の上から誇らしげに答える。
女性記者が次々と太郎について質問を重ねるにつれて、
広げた白い翼はさらに広がり、打ち鳴らす赤い鋏はさらに大きく打ち鳴らされる。
さらに今回の件、闘牛と亜竜の『クリスマスの決闘』について。
ネットを含めて世間の反応を聞かされた二人は――ついに機嫌が頂点に。
ズク坊は「ホーホゥッ!」と飛び立って天井付近を一周し、
ばるたんはカッチカチカチ! カッチカチ! と、リズムを刻んで鋏を打ち鳴らす。
「先輩は本当に頼りになりますよ。前衛で構える姿はまさに人間要塞です! 僕達は安全な後ろからチクチクやればいいだけですから」
「あとはスーパーモーモーモード(【過剰燃焼】)が切れた時に回復してあげるくらいかな? ここ最近はバタロー、スラポン、ケロポンの三人であっさり倒しちゃってたからねー」
同じく、質問を受けたすぐると花蓮も誇らしげに答える。
太郎との出会いや今までのパーティーの活動などなど。
時にはその人間性も含めて、嘘偽りない称賛の言葉を並べていく。
……まあ、だからこそ、
「先輩が崩れるのはキレイな女性がいる時くらいです」
「あとたまに家の掃除でベッドの下をやろうとした時くらい?」という、後で太郎に怒られる失言(悪気ゼロ)を投下してしまうのだが。
「ホーホゥ。とにもかくにも、今回でバタローが大幅に強化されたからな。これで俺達パーティーの戦力はさらに上がったというわけだ」
一時は取り乱したものの、行儀よく質問に答えるズク坊は満足気な顔を浮かべると、
対面の女性記者の右肩へと乗り移り、「雑誌にはこう書いてくれ」と言ってから。
ファバサァ! と大きく翼を広げると――またテンション高く元気な声で叫ぶ。
「五人目の『単独亜竜撃破者』! 並びに『アルティメット迷宮サークル』の誕生だホーホゥ!」
◆
《取材対象者:友葉太郎の両親》
次に取材を受けたのは太郎の両親。
太郎が入院したと聞き、群馬から上京してきた二人に時間を貰い、息子について話を聞く。
「いやはや、まずは驚きましたよ。私は迷宮について深く知りませんが、さすがに亜竜くらいは知っていますからね」
「私も主人と同じです。まさかあの子が、何の取り得もない子がこんな大きな事を成し遂げるなんて……」
喜びよりも驚きが一番。
あまり迷宮を知らない世代である太郎の父と母でも、自分の息子がやった事の大きさについては理解していた。
「何と声をかけてあげたいか、ですか? ……うーん、とりあえず無事で本当によかったと言ってやりたいですかね」
「私はよく頑張ったね、と。後でギルド総長さんに聞きましたが、『他の探索者が巻き込まれないために足止めをした』との事で……我が子ながら誇らしいです」
そう答えて、安堵の息を吐く太郎の父と母。
全てが終わった今思い返しても、一人息子を失う危険があったのだから当然だろう。
そうして子供時代の話も含めて、両親への取材が終わり、帰る準備をし始めた女性記者の耳に、
「そうだ母さん。戻る前にまた太郎のところに寄ろうか。そろそろパソコンと冷蔵庫も買い替え時だしな」
「そうね。あとこの季節だから加湿器も頼みましょうか。ズク坊ちゃんとばるたんちゃんが遊びに来た時、家が乾燥していたら大変だわ」
……これも同じく本心なのだろう。
だがその声だけは……決して書かないでおこうと女性記者は決めた。
◆
《取材対象者:宿命のライバル》
「よくぞ来たな。……その通り、友葉バタローについて語るならば僕は外せないだろう」
次に取材を受けたのは、太郎が聞けば『何でだよ!』と叫ぶ人物。
どこかの何かの間違いで、女性記者が『双方が互いに認め合うライバル』と勘違いしてしまった事によって。
『農薬王の探索者』こと、小杉達郎に話を聞きにいっていた。
「友葉バタローが亜竜を倒せた理由? そんなものは『たまたま』さ。それに決闘の日はクリスマスだったと聞く。きっと亜竜のヤツも浮ついていたのだろう!」
――取材が開始して十分が経過。
いまだ『宿命のライバル』を褒める言葉が一つも出ない事に困惑する女性記者。
……これはもしや人選を間違えたのだろうか?
同行しているカメラマンも含め、そう思い始めた頃。
女性記者からの少々失礼な質問に――小杉は余裕の笑みを浮かべて答える。
「差を広げられた? 違うな。本人もすでに分かっているだろう。僕と迷宮の神から、あえてハンデを与えられたのだと!」
チッチッチッ、と指を横に動かす小杉。
続けてその口から放たれるのは、太郎ではなく自身の成長した能力についてのみ。
……やはり取材対象を間違えたらしい。完全に。
だがまあ、自業自得。
女性記者は心の中で苦笑いしながらも、何とか予定していた取材時間は頑張ったのであった。
◆
《取材対象者:吉村緑子、渡辺葵》
一つの失敗を挟んでから。
女性記者が次に話を聞いたのは、正真正銘、きちんとした探索者である。
日本有数のパーティーである『北欧の戦乙女』。
そのリーダーと副リーダーを務める、『影姫の探索者』と『女オーガの探索者』だ。
男性カメラマンがデレデレする中、早速インタビューが始まる。
「一報を聞いた時は本当に驚きました。けれど同時に、太郎君ならあり得るかなと思いましたね」
「門番を一緒に倒した時も強かったけど……。ジムに通って技もちゃんと鍛えろ!って言った甲斐があったわねん。あの頃よりもだいぶ強くなってますよアイツは」
探索者歴わずか二年での亜竜の討伐。
太郎の成し遂げた偉業に、先輩探索者の美女二人は喜び、感心していた。
実は当初、この二人に取材をする予定は特になかったのだが、
『絶対に先輩が喜びますので』と、取材終わりにすぐるが一言。
彼女達との接点も伝えられて、ならばと金沢まで足を運んでいた。
――つまりは、後輩すぐるのグッジョブである。
「またぜひ一緒に迷宮に潜りたいですね。フフッ、今度は私達が守ってもらう立場かしら?」
「おっ、いいねえ緑子。私達を守れるとしたら、そりゃ『単独亜竜撃破者』くらいなもんだしねん」
女神のように笑う緑子と、悪戯に笑う葵。
特に葵の方は腕組みをすると、さらに邪悪(?)な笑みを浮かべる。
「まあでも、その前に。太郎の今の実力――ジムで本気でやり合って試させてもらうけど!」
この時、女性記者は知らなかった。いや知るはずもなかった。
どちらも美女とはいえ、『違う方から違う形』で求められる。
太郎はただただ、探索者イチの美女から褒められたかっただけなのに……。
さすがの出来る後輩すぐるでも、そこまで読めてはいなかった。
◆
その後も五人目の『単独亜竜撃破者』、友葉太郎について多くの取材対象者に話は聞かれた。
多くのページを割いた『緊急特集』において、彼らの声もしっかり載せられる事となる。
――とある武器・防具屋の大柄な店長は、
「ワッハッハ! やりやがったな! 牛の力で亜竜を退治しやがったか!」と豪快に笑い、
さらに「よくやった。こうなりゃ大盤振る舞いだ。ウチに来たらパーティー皆の装備を一つづつ、好きなモンをくれてやる!」と嬉しそうに約束した。
――とある個人経営の居酒屋店長は、
「もう準備万端で、あとは太郎君待ちだったんですよ。クリスマス会に来ないと思ったら、まさかの亜竜と決闘でしたからね」と当時を振り返りつつ、
「ウチ一番の常連さんが単独撃破ですからね。もちろん祝賀会はやりますよ!」と、腕によりをかけて料理を振る舞うと気合いを入れる。
――とある採集専門イケメン探索者は、
「あのおっかねー竜種を倒すなんて……オラにはできない芸当だべ。よぐやった太郎君!」と称賛し、
「ご近所さんが『単独亜竜撃破者』……。田舎の父ちゃん母ちゃん、あと友達にもいっぺー自慢するんだなあ!」と、イケメンスマイルで熱く語った。
――とある大学時代の研究室仲間達は、
「自分の耳を疑いましたよ。あの頃の友葉っちは『横浜の迷宮』に潜っていたのに……本当にスゴイです」
「だよなー。『門番地獄』を抜けた時もそうだけど、ちょっともう雲の上に行っちまった感じだぞ」
「さすがは友葉っち、そして【モーモーパワー】カ。また久しぶりに飲み会を開いテ、亜竜戦の話を詳しく聞いてみたいところダナ」
「僕はそれより今の金銭事情を聞きたいし。また正直に若手芸人みたいに吐かせるんだし!」
「うむむむ……。こりゃ俺も探索者デビューしようかな? 飛び込みの営業はガチで大変だぞ……」と、それぞれに素直な思いを述べた。
――また、とある有名女性防具職人に至っては、
「うん、待ちに待ったぞ! さあ作らせろモー太郎!」という叫びから始まり、
「そっちから来ないなら私が東京に行くぞッ!」と、取材中は終始叫び倒しだった。
……などなど、多くの声が載せられた『月刊迷Q通信』一月号は。
緊急重版されるほどに多くの者が購入し――太郎の名がさらに広く知れ渡る事に。
さらに、今回の偉業達成によって。
日本だけに留まらず、『ミミズクの探索者』の名はついに世界にも轟く事となった。
改めて遅れてすいません。ちょっと体調不良でへばっておりました(orz)。
次の話は本来のペース通りに投稿できる……はず(猛汗)。