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百六十話 重撃戦

「ッ! ちょっとマズったなこりゃ……!」


 一層の巨大ホールが戦場に変わって十分以上が経過。

 四度目の【過剰燃焼(オーバーヒート)】が切れた俺は、九十六牛力――ではなく、通常の四十八牛力の状態で戦っていた。


 しかも、全体力の『三分の一を消費したまま』というおまけつきである。


 ……こうなった原因はただ一つ。

過剰燃焼(オーバーヒート)】が切れそうになり、また壁際のポーチ型マジックバックの『ミルク回復薬』の入手に動いたところ、


 三つあるマジックバックのうち、狙った一つに運悪く(?)妖骨竜が接近。

 慌てて別のものに狙いを変えたものの、隙が生まれたところに長いリーチの尾骨のブン回しが直撃。


 普通の人間ならひき肉確定の一撃にバランスを保てず、無様に転がされてしまったのだ。


 さらに激戦によって地面が抉れての足場の悪化。

 結果、まごついていたらあっさりと二十秒ほどが経ってしまい……。


 そして現在の『大ピンチ』に至る。

 呼吸は乱れて全身には乳酸が溜まり、鎧の下の肉体が休憩させろと悲鳴を上げていた。


「ハァ、ハァ……! 回復薬くらいゆっくり飲ませろっての!」


 と愚痴っても相手に伝わるはずもなし。


 変わらずデタラメな存在感と陰湿な死のオーラ(少しは慣れたが)を浴びつつ、

 俺はやはりすぐにでも九十六牛力に戻すべく、戦闘を避けて『ミルク回復薬』の入手だけを目指す。


 ゆえに回避、回避、回避。

 これまでの重戦士とは程遠いやり方で、俺は俺以上にパワフルな敵の攻撃を地面を揺らして避けまくる。


「――ぃよっしゃ!」


 焼けつくような広大な砂漠で見つけたオアシス。

 割と本気でそんな感じに、俺はありがたい『ミルク回復薬』を三本、回収するのに成功した。


 そうして、即行で飲んで体力回復! したいのは山々だが。

 ダメージと疲労でキツイ体で、きっちりと安全圏まで離脱してから。


 攻撃の余波で飛び散る弾丸、改め硬い土の塊も避けて、わずかな隙を見つけて一本づつ確実に飲んでいく。


「【過剰燃焼(オーバーヒート)】!」


 ――よし、これでオーケーだ。


 ズシン! と自分の体の重みが戻ったのを感じながら。

 全力全開になった俺は呼吸を止め、鎧の下で筋肉を固めてまた正面からぶつかり合う。


 この状態に戻れば明確に押される事はない。……一つの『例外』を除けばだが。


 やたら不気味に激しく発光する『飛ぶ頭突き』。


 あの大技だけは絶対に喰らえない。

 それこそ九十六頭分のタフネス+『無顔番の鎧』でも、受け切れる自信はない。


 特殊な貫通ダメージ以外に、直接的なダメージの方もかなりヤバイ事になるはずだ。


 今、思い出しただけでも身震いしてしまう。

 まだ二度目は発動されていないが……もうこないとは思うべきではないだろう。


 ――グァアルォオァアアッ――!


「ったく、この地獄の咆哮も何度聞いても恐ろしいな!」


 戦闘の流れは分からないが、『空気』に関しては完全に妖骨竜のものだ。


 独特な死のオーラによる、重苦しくて肌に纏わりつくような嫌な空気。

 加えて恐ろしい咆哮のBGMもあり、巨大ホールは亜竜という存在に支配されている。


 ……とはいえ、だ。

 俺も負けじとブルルゥ! と、『闘牛の威嚇』で気合い一発。


 回避ばかりしていたところから一転、全身から『闘牛気・赤』を湧き出しながら激突を繰り返す。


 俺は右肩からのタックルを直撃、あるいは飛ばしてデカイ顔面付近を。

 かたや妖骨竜は爪、牙、尾骨と、この三つの攻撃手段で小さくも重い俺の全身を。


 互いに軽い攻撃など一発たりとも存在しない。

 あるのは数十トン、いや数百トンレベルの衝撃を生む重い攻撃だけ。


 ――正直、滅茶苦茶強い。

 戦えば戦うほど、地面が砕け鎧から火花が散るほどに、嫌でも強いと認識させられる。


 竜を『裏ボス』とするなら、やはり亜竜コイツが正真正銘、『ラスボス』か。

 物理で打撃系の同類で、相性がいいはずなのにコレ。


 魔法系や斬撃系と比べれば、絶対にやりやすい相手のはずなのに……。


「ぐッ、やっぱり少し押されるか! 【モーモーパワー】だったら余裕で百牛力はあるだろお前!?」


 こっちの打撃で敵の巨体はあまり動かず。

 逆に妖骨竜の打撃では、七十トンオーバーの俺の体が弾かれ、一メートルほど動かされてしまう。


 もちろん、相手は相手でダメージは溜まっている。


 大なり小なり、顔面付近を中心に入った亀裂。

 その影響もあってか、動きの速度自体は開戦時から同じでも、ラッシュの間隔は少し長くなっていた。


「ッう……!」


 ……ただ、俺の方も回復するといっても、妖骨竜を上回るダメージの蓄積がある。

 最初こそ回復薬は『二本』で済んだところ、今では三本飲んでも削られた体力は完全には回復できていない。


 どこかでまた別に摂取してフルに回復を。

 そう考えを巡らせていたら、また容赦なく襲いくる、地面を舐めるような尾骨の振り回し。


「ぬぐぅ!?」


 通常攻撃では最もリーチ、威力ともにある攻撃だ。

 きっちり腰を落としてガードをしても、凄まじい衝撃は防げる反面、厄介な貫通ダメージが鎧を抜けて入ってくる。


 というか……これだけ何度もダメージを負うのはいつ以来だ?

 門番ゲートキーパー戦でもここまでは……金沢のジムで葵さん(『女オーガの探索者』)に【スキル】なしでボコられた時くらいか。


 回復に至っては、こんなに必死になった覚えはない。

 いつもは三分以内で決着をつけるか、フェリポンに即行&一気に回復してもらっているからな。


 ようするに妖骨竜は『格上』。

 もう二年になる順調な探索者生活。それによって少なからず伸びていた俺の鼻をへし折るには、十分すぎる相手ってわけだ。


 ――ドゴォオンッ!


「ッ!」


 今も俺のタックル以上の、尾骨のブン回しが立て続けに襲いかかってくる。

 硬いはずの地面は簡単に抉られ、巨大ホールはもはや猪の群れに荒らされた畑みたいな惨状だ。


 だから気は抜けない。

 かつてないほど『当り前にダメージを喰らう』状況でも、必ず一発やられたら、こっちも一発でいいから確実に返していく。


 ――そうして、もう少しで三分が経過、五度目の【過剰燃焼(オーバーヒート)】が切れそうになった頃――。


「んなっ! またかよお前!?」


 ポーチ型のマジックバックの一つに近づこうとした瞬間。


 山の斜面が崩れた、どころではなく、山そのものが動いたかのように。

 俺の進路を塞ぐ形で、妖骨竜はその紫に輝く骨の巨体を横に動かしてきた。


 コイツ……学習でもしているのか!?

『ミルク回復薬』がこの戦いの鍵。そう分かっているのか、俺に取らせないような立ち回りをしてきたのだ。


「邪魔を……! ったく、俺の心を折りにくるんじゃないっての!」


 そう言いつつも、心が折れたら負け確定だからな。

 俺はむしろ闘争心に変えて、兜の下から妖骨竜を睨みつける。


 元々、探索者としての闘争本能は未知の強敵を前に煮えたぎっているのだ。

 生み出される震動や音で上回られようとも、逃げる気も負けてやる気もサラサラない。


 ズク坊にばるたんにすぐるに花蓮に、その他多くの人達。

 俺の帰りを待ってくれる者達が――そして今も亡骸として残っている、召喚者ファンの堀田は俺の勝利を望んでいた。


 だからこそ、今までのように必ず勝って――。


「――あ」


 一瞬、ほんの一瞬だけ。

 敵の威容をしっかりと視界に捉えつつも、思考が横に逸れた瞬間、俺は反応が遅れてしまう。


 初めて見る挙動。

 だったからか、俺はまず離れるべきところを少しだけ『見てしまった』。


 頭骨を地面につけ、全身を縦に一回転。

 骨格標本な巨体に似合わぬ速度で、いわゆる『前転』をしたと思ったら、


 地面と骨が擦れ合い、地鳴りのような音が響く中。

 ワンテンポ遅れて、長く重い柱のような、けれど鞭のごとくしなった尾骨が――頭上から降ってくる。


 俺の視界が不気味な紫一色に染まる。

 そしてそれは、まるで天からの裁きの鉄槌のごとく。


 会心とも言える轟音を響かせて――闘牛九十六頭分を叩き潰した。

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