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百五十八話 牛vs亜竜

「(っとに――ガチで強えなオイ!)」


 自分で言うのも変だが、俺と亜竜・妖骨竜ようこつりゅうの戦いは白熱していた。


 闘牛九十六頭分のパワーと重さ、さらに『牛力調整』からの速度をもって突っ込むも、普通に耐える妖骨竜。

 ダメージは入って『小さなヒビ』自体は生まれている。だが、体を構成するその骨が折れる気配はいまだ見せていない。


 逆に攻撃面では、【モーモーパワー】のタフネスを上回って……というよりも。

 やはり、『一定のダメージ』が不自然かつ正確に、鎧とガードを『貫通してくる』のが厄介だ。


 じわじわと効くボディブロー。

 見た目の凶悪さに反して、ヤツの攻撃を例えるならそんな感じだろうか?


 それによって俺の方が多くダメージを食らっているものの、とりあえず手も足も出ないという恐ろしい状況にはなっていない。


「……よし、『そろそろ』か。あまりギリギリまで引き延ばしても危ないしな!」


 ――ズドゴォオン! と。

 俺の全力タックルみたいな轟音を生み出す、妖骨竜の最大火力の攻撃、尻尾(尾骨)のブン回しを回避した直後。


 俺は『牛力調整』からの高速移動でさらに移動。

 紫に輝く骨の巨体から離れると、すぐさま巨大ホールの壁際へ。


 そして急いで『手を突っ込む』。


 目的のポーチ型のマジックバックの一つから、大量に用意してあった青色の液体(&牛乳)入りの小瓶、『ミルク回復薬』を二本ほど取り出した。


「ッとお――!」


 と、ここで。

 爬虫類みたいな地を這うような動きで、妖骨竜が一気に接近してきたので、


 俺は『ミルク回復薬』を持ったまま回避を敢行。

 そうして安全圏まで離脱してから、【過剰燃焼(オーバーヒート)】を自ら切り、ゴクゴクと『ミルク回復薬』二本を流し込む。


 ずばり、『ガブ飲み作戦』。


過剰燃焼(オーバーヒート)】で体力の三分の一を消費した分を回復するために。

 さらに貫通効果でダメージもあるため、その分のもう一本を補給したのだ。


 ちなみに、これで二度目。

 最初は上手く隙を突いて飲めるか心配だったが、何とか二回連続で成功している。


 かつて単独で亜竜と戦った日本人は四人。

 白根さんに草刈さんに若林さんに柊隊長に、その『単独亜竜撃破者』は全員、この『ガブ飲み作戦』で亜竜を倒しているのだ。


 どんなに強い探索者でも、二枠ある【スキル】を育てていても。

 一切の回復なしで勝てるほど、人間と竜種にある差は少なくないというわけだ。


「【過剰燃焼(オーバーヒート)】!」


 だから全てを全力で。俺はすぐにまた発動し、倍の九十六牛力へ。


 推定体重七十六・二トンに戻して――今度は『闘牛気・赤』で『高速猛牛タックル』を飛ばして叩き込む。


 ――グァアルォオアア……ッ!


 一回一回のダメージは少しづつでも、確実に効いている。

 巨大ホールに響いた妖骨竜の咆哮は、最初と比べれば微妙に怒りや悲鳴が混じっている……気がするぞ。


「にしても、本当にデカイな。このヤバイ雰囲気を全部ひっくるめたら、体長十メートルどころじゃ済まないだろコレ……!」


 むしろ眩しいとさえ感じる妖しげな紫の輝き。

 そしてその骨の巨体から湯水のごとく垂れ流される、何とも言い難い独特な死のオーラ。


 正直、門番ゲートキーパーや上位の『指名首ウォンテッド』はまだいいとして。

 それ以下の屠ってきたモンスターなら、ただの小動物だったと錯覚してしまうレベルだ。


『すぐに必ず救援を呼ぶ』。

ズク坊もコイツのヤバさを知り、力強くそう言ってくれたが……きっと本人も分かっているだろう。


 中途半端な救援は逆効果。

 自分の事しか考える余裕がない、必死な俺と妖骨竜との戦いに巻き込まれて命を落とすだけだ。


「ぐおぅッ……!?」


 その時だった。

 振るわれた右の爪をバックステップで避けて、ラリアットの連打によるカウンターを飛ばそうとしたところ、


 妖骨竜は爪を振るった勢いのまま横に一回転。

 どこの軽業師か、あばら骨(?)を支点にコマのように回り、巨体に似合わぬ動きから尻尾の一撃を放ってきた。


 俺の全身を襲う容赦ない衝撃。

 闘牛のタフネスと『無顔番の鎧』が仕事をしてくれるも、さすがにノーガード状態はマズかったようだ。


 胸から腹にかけて、無数の頑丈な骨からできた一本の尻尾が接触した事で。

 これまでで一番の、五臓六腑に染みわたるような貫通ダメージが体内に入ってきた。


「痛ってえな! ちくしょう、チャンスに前のめりになりすぎたか……! つうかお前、薄々気づいてたけど――『ガチガチの物理系』じゃねえか!」


 ダメージを引きづりつつも、動けはするのでまた距離を取る。


 ここまでの戦闘時間は六分ほど。

 紫に発光するアンデッド系竜種という見た目に反して、特殊なのは『一部貫通ダメージ』という部分だけ。


 火も吹かなければ空も飛ばない。

 亜竜というのはどれも姿形が独特で、過去いろいろな能力を持った個体がいたらしいが……。


「タイプとしては俺と同類。まあやりやすい相手ではあるか……!」


 だからこそ、まだこの程度ではお互い決定打にはならない。

 九十六頭分の闘牛も亜竜一体も、息の根を止めるのは簡単ではないのだ。


 ……もしかしたら、妖骨竜の方はまだ『隠し玉』があるかもしれない。

 ほとんど全ての手の内を晒した俺とは違い、何せ相手は未知の存在なのだから。


 ただ、その時はその時だ。

 今はとりあえず殴り合って、回復手段がない相手の体力ゲージを削り続けるだけだ。


「『狂牛ラッシュ』!」


 度重なる妖骨竜の攻撃と、俺の着地や踏み込みにより、早くもデコボコになった足元の中。

 俺は慎重に相手の動きを観察しつつ、切り札の大技を赤い闘牛気として飛ばしていく。


 立て続けに発生する自らの轟音を聞いても、動き自体は悪くない。


 それでも、いつもより攻守両面において集中力が必要だからか?

 あるいは亜竜の凄まじいプレッシャーか、同じ動きをしても少し疲労が溜まるのが早い気がするぞ。


「ぬおおおお! もう一丁ッ!」


 だとしても、足も攻撃も絶対に止めない。

 爪や尻尾、時たま襲ってくる噛みつき攻撃も回避して、俺は二度目の赤い『狂牛ラッシュ』を叩き込む。


 ――こちらの打撃はかなり入っている。

 にもかかわらず骨の一本も折れず、まだダウンしそうな気配すら見せていない。


 そのあまりの打たれ強さに、俺は兜の下で苦笑いしてしまうも……今のところ『逃げる』という選択肢は頭にない。


 視線の右端。

 少し離れた位置には、死んで倒れたまま動かない、召喚者である堀田幹夫の姿がある。


 まず一番は自分の命。そこは絶対に変わらない。

 だがその次に俺の心の中にあるのは、堀田アイツの想いに答えてやりたいという気持ちだった。


 グァアルルォオオオ――ッ!


「うん!?」


 と、戦いが始まってから最も押し込んだ瞬間。

 妖骨竜は今までとは『微妙に違う』咆哮を発してきた。


 そして、『明確な変化』が起きる。


 妖骨竜の代名詞である、妖しく不気味に輝く紫の光が。

 ただでさえ強烈なものだったのに、また一段と強烈に輝き始めたのだ。


 場所は首から上。つまり『頭』だ。


「アレは……受けずに避けた方がよさそうだな」


 やたら輝き始めた妖骨竜の頭。

 これまでの荒々しさとは打って変って、動きも『ピタリと止まった』のを見ると……。


 探索者としての経験と勘から察するに、『溜め攻撃』か何かか?


 そう予想をつけた数秒後。

 急に前脚部分を突っ張り、頭の位置を静かに上げたと思ったら、


 今度は逆に、ブォオン! と。

 鈍く低い風の音を携えて、『間合いが離れている』のに『ヘッドバット』のような形で輝く頭を振り下ろしてきた。


「おいまさか――」


 動作を見て嫌な予感がしていた俺は、頭が振り下ろされる直前。

 慌ててダイブするように、妖骨竜との直線上から大きく左へと跳ぶ。


 そこへ襲いかかった規格外の一撃。


 音も衝撃も数段階上がり、まるでダイナマイトにでも火をつけたかのように。

 それらが暴力的に、巨大ホールの中で激しく荒々しく響き渡った。


 ――――――…………。


 そうして、ようやく静かになった時。

 一撃を受けた巨大ホールの一角は、派手に巻き上がった土埃と共に、くっきりと大きなクレーターが刻まれていた。


「…………、」


 視界を遮る邪魔な土埃を腕で払いながら。

 出来上がったクレーターの真横にて、俺は兜の下で滝のような汗をかいてしまう。


 今のは明らかに飛ぶ打撃、俺で言うところの『闘牛気』だ。


 とはいえ威力は桁違い、まるで自分の『食い溜めの一撃』でも見せつけられたようだった。


「……冗談じゃねえ。何だ今のは? 射程も威力も百点満点じゃねえか!?」


 突然、披露された妖骨竜の大技。

 どうやらここから先は、今の恐怖の一撃も頭に入れておかないとダメらしい。


 同じ物理系で、こっちは回復アリだから『がっぷり四つ』……そう思っていたのに。

 今の規格外の大技の存在により、相手の方が有利になったと思われる。


 連発はできるのか? 冷却時間があるならどれくらいなのか?


 猛烈な心配が生まれてしまったが、こんな中途半端なところで退くわけにはいかないぞ。


「まあいいさ。本気でヤバくなるまで――とことん付き合ってやるよ!」


 牛vs亜竜。改め俺と妖骨竜の決死の戦いはまだ続いていく。

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