百五十話 ウルトラ迷宮サークル
本編百五十話目~。
「よろしくなケロポン。俺はリーダーの友葉太郎だ!」
『ゲコォッ!』
晴れて新たな従魔、ボックスチャンプフロッグ改め、ケロポンが仲間に加わった。
いつも通りにまず自己紹介をして、そのケロポンにメンバー全員の顔と名前を覚えてもらう。
あ、もちろん俺達が負わせたダメージについては、すでにフェリポンに回復してもらっているぞ?
放置したままとか鬼の所業なので、体力ゲージはきちんと満タンにさせている。
それらが終われば――さてどうするか。
二十四回と時間はかかったが、ここ『土浦の迷宮』は比較的近場だったからな。
右肩のズク坊は「よし! じゃあ戻って皆で牛久の大仏を見にいくぞホーホゥ!」と言っているが……まあこれは無視するとして。
「ちょっと軽く連携を見ておくか」
「だねー。バタローとスラポンとケロポン。どんな並びが一番しっくりくるかも確認しておかないとっ!」
「なら先輩、もう少し下の層に向かいますか。相手は違う種族の方が――ってズク坊先輩。そ、そんな目で僕を見てもダメですからね!?」
というわけで、先輩ズク坊からの視線のパワハラ(?)には、後輩すぐるに耐えてもらいつつ。
俺達は二十二層より下を目指して、ひとまず螺旋階段へと向かう事に。
本格的な連携強化はあくまで上野に戻ってから。
それでも一応、ボクサーなケロポンとどんな感じかくらいは掴んでおかないと。
「やっぱりこうして見てみると、『バンテージを巻いた』みたいに硬い拳だな。道理でナイスなパンチだったわけだ」
『ゲコォ!』
改めてケロポンの拳を触って確認しながら、俺達は安全圏の螺旋階段を下りていく。
二十二層から二十五層へ。
どうせならと迷宮の最下層まで下りて、行き止まりの穴から二十五層へと入った。
出現するのは当然、ケロポンよりも格上の『指名首』だ。
一対一だとまだ成長していないから無理でも、俺かスラポンのどちらか一人でもいれば問題なし。
「それじゃズク坊、まず単体のヤツを頼む」
「分かった。ちゃんと嗅ぎ取って案内するけど……大仏は絶対に見にいくんだぞホーホゥ!」
「はいはい、了解。まあ軽い連携を見るだけだからすぐ終わるって」
ちょっぴりご機嫌ナナメ(よほど大仏を見たい……というより頭に乗りたい?)ズク坊を撫でてやり、少し機嫌を取ってから飛び立ってもらう。
――そうして一分と経たず。
いつもの倍速で案内されるがまま進めば、『土浦の迷宮』の最強モンスターのご登場だ。
「出ましたね。無念の落選をしてしまった僕の推しモン――『ディーゼルデビル』!」
『火ダルマモード』になっていたすぐるが、燃える右手で前方を指差す。
姿を現したのは悪魔の風貌をしたモンスターだ。
ドス黒い皮膚をした人型で、頭には二本のヤギのような角が生え、カラカラと奇妙な音を体から発している。
鬼とは少し違う。
もっと人間っぽい顔で、身長も百九十センチ程度でスラッとした細身だ。
けれど両目が不気味に赤く光っているなど、鬼をより『凶悪に洗練』した感じである。
誰がつけたか、業界内での呼び名は『スタイリッシュな殺し屋』。
もし新米探索者が調子に乗って潜り出会ってしまったら?
確実にビビって動けなくなり虐殺コース確定のモンスター、それがディーゼルデビルである。
「準備はいいかケロポン? まずは二人で、俺が右でケロポンが左でいこう」
『ゲコォッ!』
俺の声を受けて、ケロポンが黒い拳で自分の胸をドン! と叩く。
……うむ、従魔になっても闘志満々のようだ。
戦いたくてうずうずしているのか、ディーゼルデビルをカエルな視界に捉えたまま、今度は拳同士をガシガシとぶつけている。
「んじゃ、いくぞ!」
そんな頼もしい新たな従魔と共に――初めての連携を見ていくとしよう。
◆
――ドドンズドン……!
まるで太鼓でも叩いたかのような派手な打撃音が鳴る。
俺とケロポンの拳の共演は、音が示すように最初から上手く噛み合っていた。
相手が『指名首』で上の方のモンスターでもお構いなし。
ケロポンは身長(二メートル半)に相応しくかなりリーチがあるため、全く邪魔になっていない。
俺が真正面から攻めて、少し離れた斜め後ろから打ち下ろす感じで完璧に援護してくれている。
おそらく、俺がタックルとかラリアットで激しく動き回れば、攻撃が被ってしまうだろうが……。
さすがは名ボクサーか。パンチだけなら味方と息を合わせるのも超一流だ。
結果、ディーゼルデビルの方は早くも追い込まれていた。
うちのケロポンと比べると、耐久力も一発の重さも上ではある。
自分の魔力を『燃料』にして皮膚を硬化し、また爆発的な加速力からのノーモーションのパンチとキックを放つ、『立ち技最強』の種族だ。
まさに小さなフィジカルモンスター。
……ただ、リーチの長さやパンチの回転力に関してはそこまでではないからな。
スラポン抜きでも俺が正面で攻撃を受ければ、ほぼ一方的にダメージを与えられている。
「いい連打だケロポン! 敵が一体だけなら全然問題ないな!」
『ゲコォオッ!』
と、相棒を褒めたその時だった。
グォオオオオオ――!
劣勢のディーゼルデビルが【スキル】を発動。
まさかもまさか、効果こそ『多少違う』ものの――俺と同じ【過剰燃焼】を使ってきた。
「うおっと……!」
瞬間、間近にいるためハッキリと分かるほど敵の体温が上昇する。
またずっと鳴っていたカラカラという奇妙な音も、ガラガラと濁って音量も大きくなっていた。
これがディーゼルデビルという種族が持つ【スキル】だ。
見えずとも全身に付与された『火属性』からはじまり、『スタミナ減少無効』に『身体能力上昇』の効果。
持続時間のみ三分と、この点は俺と全く同じでも、
『一度の戦闘で一度切り&しばらく動けなくなる』という、俺以上の諸刃の剣である。
「――なら、俺も使わせてもらおうか!」
使わずとも四十四牛力+ケロポンで押し切れるが、念には念を入れていく。
【過剰燃焼】を発動させた俺は、さらに『闘牛気(赤)』も使う。
飛ぶ打撃とケロポンの長いリーチの二つで、間合いを開けてから――連打、連打、連打。
本気を出したディーゼルデビルの反撃は許さない。
『火属性』を纏った熱い拳や足を触れさせず、『スタミナ減少無効』による一気のラッシュも当然させない。
「あの強い強いと言われる黒い悪魔が……全く手も足も出てないぞホーホゥ!」
そんな後方からのズク坊の声が聞きとれるほどに。
俺とケロポンは余裕を持って、ひたすら四つの拳をアゴや腹に叩き込んでいけば――。
グォ……オ……。
互いの【スキル】の時間切れを待つ事もなく。
禍々しい黒い悪魔のスタイリッシュな殺し屋は、迷宮の中での激しい打ち合いによって命を散らした。
「……ふう、ばっちりだったな。やっぱり人間サイズの方が殴り合いはやりやすいぞ」
「さすがです先輩。……というか、前から薄々感じてはいましたが……。【過剰燃焼】を使った時の先輩って、『指名首』より威圧感がスゴイですよね」
「え? そうなの?」
「言われてみれば納得だねー。地震みたいな足音も含めたら『門番』クラスかも?」
戦闘が終わるや否や、すぐる達がそう言ってきた。
ケロポンの動きを褒める前に触れてくるあたり、よほど俺の威圧感的なアレはスゴイのだろうか? ……自分ではよく分からんな。
「とにかく、ケロポンとの初連携は良かったな。もし【閃光連打】を使ったら俺が入る余地がなさそうけど……まあそこは置いといて。次は二体同時に相手取ってみるか」
俺はまだ持続中の【過剰燃焼】を途中で切る。
フェリポンに減った体力を回復してもらってから、二十五層をさらに奥へと進む。
よし、今度はスラポンと中衛のガルポンを入れてやってみるか。
そこでも上手くいくようなら、とりあえず連携の確認はいいだろう。
「すぐ近くに二体いるな。ホーホゥ。ちゃちゃっと向かって倒しちゃうぞ」
案内役のズク坊に急かされるまま、俺達は後ろをついていく。
そして、遭遇してすぐに戦闘に突入。
結果から言えば問題なく『勝利』したものの……内容的には合格点にギリギリ届かず、といったところだった。
「ふむふむ。自分の後ろからの援護が課題みたいだねー」
戦闘を見ていた花蓮が、渋いおじさんみたいにアゴを触りながら言う。
……やはりパンチ以外の攻撃が混ざると合わせにくいようだ。
特に中衛のガルポンの『小竜巻』とケロポンのパンチが被り、長い腕にダメージを負う場面も見られた。
「まあ、焦らずゆっくりやっていこう。一体加入しただけでも戦力アップは間違いない事実だしな」
『ゲコォ』
心なしか肩を落としていたケロポンに、俺は背中を叩いて人間のように励ます。
花蓮と他の従魔達も近づいて慰めて(?)いたので、心のケアは大丈夫だろう。
さらにもう一人、いや一羽。
さっきまでちょっとご機嫌ナナメだったくせに、右肩に止まってきたズク坊が。
ファバサァ! と翼を広げて、新入りの従魔に対して――先輩らしく一言。
「ホーホゥ。元気を出せケロポン! そして誇れ! お前の加入によって、このパーティーは『スーパー迷宮サークル』から『ウルトラ迷宮サークル』に進化したんだぞホーホゥ!」
改めて、本編が百五十話に到達です。あと文字数が五十万字を超えてた……!
すべては読んでくれる人がいるからこそ。感謝感謝です!
次はイケメン方言な探索者さんの閑話を挟みます。