百四十五話 ばるたんに【スキル】を(1)
長くなりそうだったので二回に分けました。
「おおっ! 良さそうなのが出ましたよ先輩!」
ばるたんの【スキル】を得るため、『福岡第二の迷宮』に潜った俺とすぐる。
その人工的で地下通路みたいな内部では、ギルド総長からの連絡通り、【スキルボックス】が高確率で出現するというフィーバーぶりだった。
……とはいえ、ほとんどハズレだけどな。
ある程度予想はしていたが、中々当たりがこない状況で、対象のサンドモンキーを砂に変え続けていたら。
二人合わせて百五十体ほどを撃破したあたりで。
少し離れた場所にいたすぐるから、ついにその報告が大声で届いてきた。
「本当か、すぐる!?」
俺はついついテンションが上がり、『牛力調整』まで使って高速移動。
ちょうど柱の松明の真下に、青白く輝く光の六面体があり、今日何十回目かの確認作業をしてみれば――。
【スキル:重石】
『全身が重くなる。変化できる重さは『十~三百キロ』まで。重くなればなるほど習得者の動きも鈍くなる』
「……ふむふむ。何かだいぶ予想外だったけど……まあコレ、いいんじゃないか?」
出現したのは非戦闘スキルだ。……多分。
体がただ重石のように重くなる。
かなりシンプルな能力で、自衛の力とはちょっと違うかもしれないが……。
誘拐対策と考えれば、『重すぎて運びづらい』という点は大きいだろうな。
「つうか、何か個人的に親近感を覚える【スキル】だな。一牛力よりもだいぶ軽いけど」
「しかし最大三百キロですからね。一枠目としては十分そうです」
「たしかにな。ハズレと捨てるには少しもったいないよな」
俺はすぐると二人、軽く相談をする。
これを発動したばるたんを誘拐するには人数が必要。時間も手間もかかるはずだ。
以上の理由から二人揃って「これでオーケー」と、【スキル:重石】が正式に選ばれる事に。
……まあぶっちゃけ、さすがにそろそろ一枠目を埋めたくなったというのも関係しているが。
「んじゃ、あとは主役のご登場だけだな」
【スキルボックス】の準備は完了。
十分ちょうどで消滅するので、その前にばるたんをここに連れてこないといけない。
さて、それでは披露しますか。
ばるたんに【スキル】を取らせるべく、俺の『秘策』を使うとしよう。
◆
ピィーヒョロロォオオオーーーン。
大きく息を吸い込み、俺は首に提げていた笛を思いきり吹く。
ただ一息吹いただけのその笛は、独特の音色を響かせて――迷宮内を駆け抜けていった。
え? まさかそれがお前の『秘策』なのかって?
――ご名答!
これこそ俺がFラン大学卒の脳みそをフル回転して考えた、ばるたんが最も嫌がらずに【スキル】を取得できる方法だ。
何を隠そう迷宮に潜る前、『DRT』の隊長さんから借りたのがこの笛である。
名前は『心音の魔笛』というらしい。
その存在は郡山での飲み会の席で、草刈さんが横穴を発見した時、他の捜索隊に知らせるために吹いたと聞いて知っていた。
素材はやはり迷宮産のもの。
見た目は普通の白い笛でも、音の大きさの割に極めてよく響く、物理法則を無視したような笛だ。
事実、一層とはいえ奥の方からでも、かなり遠くまで音は届いたようで、
「ホーホゥー!」
笛を鳴らして三十秒と経たず。
一旦、休憩でキレイな石畳の床に座っていると、静けさに満ちていた迷宮に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
きたか、ズク坊。
地上の出入り口で待機させていた相棒は、ミミズク特有の無音飛行で俺達のところまでやってくる。
そのズク坊の脚の爪には、「うおおお!? ほぼジェットコースターじゃねえか!」と叫ぶ、ばるたんの姿も確認できた。
そう、これが俺の考えた『秘策』の中身である(ドヤ顔)!
出入り口に待機させて、離れていても届く『心音の魔笛』を鳴らして呼び寄せるのだ。
名付けるなら『超高速! ピストン輸送大作戦』か。
こうすれば行きも帰りもズク坊の飛行スピード(『暴風のスカーフ』アリ)によって、ばるたんが苦手な迷宮内にいる時間が最も短くできる。
一層だけで【スキルボックス】を漁っているのもこのためだ。
深く潜れば潜るほど中身の質は上がるが、出現率に関しては同じだからな。
とにもかくにも迷宮での潜行時間の短縮。
だから今回はすぐると二人、一層だけでやるつもりだ。
「サンキューなズク坊。んで、ばるたん。早速で悪いけどこの【スキルボックス】の中身を確認してみてくれるか?」
「おお、バタローか。ったく、強引な作戦を考えやがって……。まあ、こんなところに長くいるよりはマシか」
ズク坊から降ろされたばるたんは、鋏をカチカチ! しながら前へ。
柱の真下で輝く【スキルボックス】をじーっと見ると、またカチカチ! と鋏を鳴らした。
「ふむ、【重石】ってか。こりゃ予想外だったが面白そうじゃねえか」
お、ばるたんも納得してくれたようだぞ。
特に背中を押す必要もなく、自分で右の鋏を突き出して――【スキルボックス】に触れた。
――バシュン!
青白く輝く光の六面体が光の粒子へと変わる。
そして真っ赤なばるたんの体に向かい、その体の中へと全て吸い込まれていく。
これで一枠目の【スキル】はオーケーだ。
あともう一つ揃えれば、我が家の自宅警備員の強化(?)は成功である。
「んじゃズク坊。またすぐにで悪いけど、地上まで戻って待機してくれるか?」
「了解した。ホーホゥ。じゃあ二つ目が見つかったらまた笛で呼んでくれ」
「おう。あとばるたんは外で【重石】の具合をチェックしてくれ。……あ、ズク坊との移動中には発動しちゃダメだぞ?」
「当たりめえだ、心配せずとも分かってるって。二人揃って墜落は笑えねえからな!」
迷宮は嫌いでも【スキル】は得て嬉しいのか、ばるたんはいつも以上に高々と鋏を上げる。
そんなばるたんをズク坊がわしっ、と掴み、「ホーホゥー!」「うおおおっ!」と仲良く出入り口の方へと飛んでいく。
というわけで、俺達はまたサンドモンキー狩りに戻りますか。
ズク坊がいないので効率良くは発見できないが、かなりの確率で複数行動(特に奥の方は四体以上)しているので、結果的にそこまで苦もなく遭遇していく。
――ズン――ゴゴゥ、――ズン……ゴゴゥ……。
敵が弱いため俺の牛力もすぐるの火力も抑え気味。
いつもの半分もない戦闘音で、人工的でまだ少し不気味な『福岡第二の迷宮』を進む。
そうして、もう数え忘れたが多分、また百数十体ほど葬った頃。
調子に乗って『牛頭ヘッドバット』で倒したら、『無顔番の鎧』の兜の中に砂が侵入。
慌てて外して手で払い落していると――一つの【スキルボックス】が出現した。
……ただ、その【スキルボックス】を確認して。
『中身自体は良いもの』だとしても。
俺は喜びではなく、無意識のうちに腕組みをして戸惑ってしまう。
「あれ? これって……取っていいんだけっか? いや、俺はめちゃくちゃ『羨ましい』んだけども……」