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百四十一話 億超え装備の完成

「おおっ! こりゃまたスゴイのが完成しましたね……!」


 防具職人の桜さんの工房を訪れてから二日経った。


 注文オーダーしたその日に金沢まで戻った俺達は、明後日の昼の受け取りを待つ間、

 せっかくだからと『北欧の戦乙女(ヴァルキュリア)』の緑子さん達と会い、その緑子さんと念願のデートを――ではなくて。


 金沢市内の探索者専門のジムにて。

『女オーガの探索者』こと葵姉さんと強制スパーリング(ボコボコともいう)をさせられて、完成までの二日を激しく厳しく過ごす事に。


 ――そして、待ちに待った新たな鎧の完成&受け取りの日。


 俺は筋肉痛の体にズク坊とばるたんを乗せて、再び桜さんのもとを訪れていた。


「ホーホゥ。前のやつも良かったけど……こっちもカッコイイぞ!」

「だなズク坊。俺は迷宮関係は専門外だが……こりゃ一目見ただけで極上品だと分かるな」


 俺の頭と右肩の上で、テンション高く紅白コンビが翼と鋏を広げる。


 ……うむ、俺も完全に同意だぞ。

 防具やら素材やらで散らかった工房の奥で桜さんが出してきたのは、何とも立派で頑丈そうな鎧だった。


「『無顔むがん番の鎧』――。うん、どうだモー太郎? 私が精魂込めて作った『門番(ゲートキーパー)』製の鎧は!」

「はい、とても素晴らしいです。見た感じでは文句のつけようがありませんよ」


 よほど自信作なのだろう。

 両手を腰に当てて踏ん反り返っている桜さんに、モー太郎(!?)と呼ばれた俺は力強くうなずいて答える。


 正直、職人に対するお世辞は一ミリもない。

 さすがは凄腕の防具専門の職人だ。

 年は若くても防具を作りまくって、【スキル】の熟練度を上げただけはある――って、お褒めの言葉はこれくらいにしておいて、と。


 それでは本題に入るとしよう。

 桜さんが俺に作ってくれた、ノーフェイスを素材にした『無顔番の鎧』というのはこんな感じだ。


 鎧のタイプは当然、全身鎧。

 頭のてっぺんからつま先まで、全てをツルツルで光沢ある茶色の岩で守られている。


 両肩や両肘、両膝には小さな突起部分が。

 防具と防具の接合部のみ金属を使っているが、それも鎧に合わせてか黒っぽいものが選ばれている。


 見た目は相変わらず西洋の騎士風だ。

 男臭くて重戦車な感じも含めて、こういった点は初代の『ミスリル合金の鎧』や二代目の『プラチナ合金アーマー』と同じだな。


 今までと違いがあるのは『三つ』。


 一つは左胸と兜の形だ。

 左胸には器用にも『闘牛のマーク』が薄く刻まれ、兜には闘牛を連想させる『二本角』がついている。


 素材が高価で貴重なものだからか?

 本人が精魂込めて作ったと言った通り、細かい部分にも気を配ってくれたようだ。


 二つめは両肩部分の重量感。

 今回は桜さんが俺の戦闘スタイルを知っているため、『タックル仕様』でアメフトのショルダーみたいに少しゴツくなっている。


「……で、最後の『決定的な違い』が……」


 実際にベタベタと鎧に触りながら、俺は鎧をまじまじと見る。


 ――ずばり、『威圧感』。

 目の前にあるツルツルで茶色いそれは、初代や二代目とは明らかに防具としての威圧感が違っていた。


「うん、私も製作中からビシビシ感じていたな。さすがは竜種に次ぐ存在、ただ頑丈な金属製の防具とはわけが違うぞ!」

「これが強大なモンスターを使った鎧……。まるで防具となって命を吹き返したみたいだぞホーホゥ!」

「違いねえ。死してなお、生前の威圧感の欠片を残しているってか。……俺は生きているところを見た事ねえけど!」


『無顔番の鎧』を見たり触ったりして、俺以外の皆もテンションが高い。


 きっとすぐるや花蓮の二人も……休養期間明けにこれを見せたら驚くだろうな!


「うん。じゃあモー太郎、試しに纏ってみてくれ。サイズは前のと同じだからフィットするはずだぞ」

「了解です桜さん。では早速……!」


 というわけで、いざ試着を開始。

 もはや我ながら慣れた動作で、脚甲から順々に鎧を纏っていき――。


 最後に二本角の兜をカポッと被れば、全身が岩製の鎧に隠された。


「おおー、何か今までとは同じようで違いますね。スゴイ守られてる感があるというか、鎧から力が漲るというか」


 こうして纏ってみて、『無顔番の鎧』の評価が俺の中でさらに上がる。


 たしかに初代も二代目も頑丈で頼もしさはあった。

 それでもこの新たな鎧を纏った後だと、もう元には戻れないぞ。


 まさに『門番(ゲートキーパー)』の名に恥じぬ、名刀ならぬ名鎧。

 纏っていると男としても自信が沸いてくるのは……非モテ男の錯覚だろうか?


「……動作の方も大丈夫ですね。前よりほんの少し重めですが、全く問題ない範囲です」

「うんうん、だろう。何せ私が本気を出して作った傑作だからな!」


 その場でパンチやキック、ラリアットを放ってみても、特に動作に支障はなし。

 工房の中が散らかっていて狭いので、タックルの動作に関しては確認できないが……。


 まあ、この出来と纏った感じなら問題ないだろうな。


「ホーホゥ。サマになってるなバタロー。……けど、ちょっとツルツルで今までよりも乗りづらいぞ」


 と、ここで。

 俺が新しい鎧に満足していると、ファバサァ! とズク坊が右肩に乗ってきた。


 そう言って、何度も足を動かしてベストポジションを探るズク坊。

 たしかに言われてみれば……乗り心地に関してのみ過去最低かもな。


「おいバタロー。俺も頭に乗せろって。ツルツルだから脚を伝って登れねえぞ!」

「あ、はいはい」


 足元で一人バタついていたばるたんをヒョイと掴み、ご所望の頭の上へ。

 やはりこっちも少し滑るらしく、ばるたんはベストポジションを探し始めた。


 ……さてと。

 これで新たな鎧を手に入れられたし、あとはお土産を買って帰るだけか。


『無顔番の鎧』の支払いは額が額だからな。

 とはいえ、『億越え装備』でも最も高くつく素材のほとんどは持参したので、かかる費用は一千万ほどだ。


 後日、桜さんの口座に振り込むだけ。だから今日は受け取って終わりである。


「おいモー太郎。……帰る前に何か忘れてないか?」

「……おっと、失礼しました。桜さんとの『密約』を忘れていましたね」


 手をわきわきさせた桜さんの問いかけに、俺は鎧を纏ったままうなずく。


 そして、俺は『お金以外』での支払いを行う。

 右肩の上でベストポジションを見つけた相棒を優しく掴み、そのままずずい、と桜さんの方へ。


 ――俺のターン、再びズク坊を生贄に桜さんの機嫌を召喚(?)するッ!


 そんな人間同士のやりとりを受けて。

 桜さんの腕に収まったズク坊の、魂の叫びが工房の中に響き渡る。


「こらバタロー!? はかったな! モフらせるのは一度だけと言ったはずだぞホーホゥーーーーー!」

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