表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/233

百四十話 億超え装備を注文しよう

装備強化回です。

ちょっと長くなりそうだったので二回に分けました。

「こんにちわー。桜さん、お邪魔しますよー!」


『郡山の迷宮』の件から三日経った。

 東京に戻った俺はお土産片手に、プンプンカチカチ! していたばるたんをなだめて、その日に野々介さんの店で『生存を祝う会』を開き――『休養期間』に入っていた。


 期間は一週間ほどを予定している。

 ゴールデンウィークが明けて、まだ一週間も経っていないが……。


 正直、あんな鬼ハードな戦いがあったからな。

 しばらくは悠々自適、のんびり地上だけで生活しようと思う。


「おお! ここがバタローの鎧の製作現場ってやつか!」

「……ホーホゥ。俺は別にきたくはなかったぞ……」


 と、俺の頭と右肩の上の紅白コンビから対象的な声が。


 ズク坊は翼を折りたたみ、ばるたんは逆に鋏をガバッと広げている。


 今日、ばるたんも連れて足を運んだのは福井県の越前市だ。

 そこに工房(?)を構えている、防具職人の古館桜さんに会うためにきていた。


【鍛冶師(防具専門)】。

 稀少な【生産系スキル】を持つ、一つ年上の男前なお姉さんだ。


「どうせヤツはまた派手にモフるぞ! バタロー、俺は外で待ってるぞホーホゥ!」

「まあまあズク坊。桜さんもズク坊に会うのを楽しみにしてるんだしさ。少しだけ我慢してくれよ」

「ほお、そんなに桜って職人はズク坊をモフるのか。……とはいえ、バタローの鎧を作ってくれるからな。そう邪険にもできねえだろう?」


 嫌がるズク坊を肩から腕の中に強制抱っこして、俺達は桜さんの工房の中へ。


 ……うん、相変わらず散らかっている倉庫みたいだな。

 失敗作も含めて多くの鎧や兜が積まれている中、崩さないように慎重に進んでいくと――。


 ――チッ、――チッ、――チィッ……!


 桜さんが集中している証明でもある、舌打ちのリズムが聞こえてきた。


「桜さん、きましたよー。昨日、電話した友葉です」

「うん? その声は……『モーモーの探索者』だな!」

「いや『ミミズクの探索者』です。【モーモーパワー】とごっちゃになってます」


 座布団に座り、製作中の防具と向き合っていた桜さんがくるっと回る。


 見た目は金髪キツネ目の気が強そうな顔立ちだ。

 そんな桜さんは俺達の姿を確認すると、いつものオーバーオール&頭に白タオル姿で――手をわきわきしながら立ち上がってきた。


 ……なるほど。了解です。

 よほど好きなのか、ズク坊の高級シルクっぽい体をモフりたいらしい。


 まあ、ばるたんの言う通り、命を守ってくれる鎧を忙しい中で作ってもらうわけだし……ねえ?


 ――俺のターン、ズク坊を生贄に捧げて桜さんの機嫌を召喚(?)するッ!


「ホーホゥ!? こらバタロー! 何のためらいもなく俺を差し出すんじゃないぞホーホゥ!」


 という声が聞こえた気もするが、俺の耳は華麗にスル―。

 我が相棒の真っ白い体は、俺の手から桜さんの腕の中に収まっていく。


「ふっふっふ! うんうん、遥々ここまでよくきたなズク坊!」


 瞬間、優しくも激しいモフモフ攻撃が開始。

 対してズク坊は腕の中で暴れるも、やはりお世話になる職人が相手という事もあり、鉤爪を使っての激しい抵抗はできない。


 ――それから約三分後。

 たっぷりとズク坊をモフった桜さんは、そのズク坊を抱いたまま、満足そうな顔で俺の方を見る。


「うん、さてと。たしか今回は前の鎧がダメになったから、また新しいのを作るんだったな。素材は例の『門番(ゲートキーパー)』か?」

「はい。持ってきた素材で作っていただければと。……あと、そろそろズク坊の解放をお願いします」

「むっ……うん、まあ仕方ないな。モフらせてもらったし、すぐに鎧に取りかか――って、おお! こっちはこっちでカッコイイな!」


 少しぐったりしているズク坊を受け取ると、桜さんが今度は俺の頭の上を見た。


 そこには当然、もう一人の相棒のばるたんが。

 もしやばるたんも生贄に!? と思ったのも束の間、


 桜さんは鋏や背中を軽く撫でて、じっくりと体のあちこちを見るだけだった。


「あれ? ばるたんはいいんですか桜さん?」

「うん? そりゃそうさ。モフるのは文字通り、毛でモフモフしてるのだけだ。鱗や外殻のカッコイイやつは見るに限る」

「な、なるほどです」


 どうやらばるたんの方は助かったようだ。

 まあそれはいいとして……早速、本題に入るとしよう。


 俺は地獄と引き換えに手に入れた貴重な素材を、リュック型のマジックバックから出していく。


 ◆


「えーと、これがダンジョンレックスで、こっちの冷たいのがフロストテイル。……んで、こいつがダンジョンキングですね」


 俺の新しい鎧づくりが始まった。


 まずはその第一段階だ。

 持参したどの素材を使うか選ぶため、桜さんの前に全十二種類の素材を提出した。


 桜さんは俺が出した『門番(ゲートキーパー)』の素材をキラキラした目で見ている。

 前に『亜竜の素材を持ってきたらすぐにでも作ってやる』と言われたが……。


 さすがはボス以上で竜種に次ぐ『門番(ゲートキーパー)』か。

 素材としてはかなり高級・高品質で、桜さんはもう職人モードに入っているぞ。


「うんうん、実に素晴らしい。未確認だった四体のも含めて、十二種類もあるとは選り取り見取りだな」


 桜さんは鼻息荒く、一つ一つの素材を手にとって見ていく。


 何度も言うが、持ってきた素材は全部で十二種類。

 桜さんに電話で言われた通りに、それぞれ鎧一つを作るために必要な量は揃えている。


「やはり使うのはダンジョンキングですか? 実際に戦ってみて一番硬かったですし」

「うーん、アレはあまりオススメできないな。前の『プラチナ合金アーマー』よりは頑丈な鎧になるけど――」


 桜さんの説明によると、ダンジョンキングは『狂化状態(バーサクモード)』を使うせいか、どうも防具としては『不安定』らしい。


 より硬くて頑丈なものこそが最もいい素材。

 そう思っていたが、どうやら職人の目と知識によると違ったようだ。


 というわけで。

 桜さんはダンジョンキングの素材を脇にどけて、どれを使うか見極めていく。


 次に候補から外されたのはラバータンクだ。

 ……これは素人の俺でも分かる。柔らかいゴム製の鎧では、防御面ではいいとしても、攻撃面で衝撃を吸収してしまうからな。


 ――――――…………。


 そうして五分が経過した頃。

 素材を吟味した桜さんが改めて手に取ったのは、最も『ツルツル』な素材だった。


「うん。これに決めたぞ!」

「おお、ノーフェイスですか。これは少し予想外でした」


 選ばれたのは、まさかの一体目の『門番(ゲートキーパー)』だ。


 材質は岩で色は光沢のある茶色。

 ツルツル肌の顔なしで、十二種の中でも不気味さは上位にくる個体である。


「コイツは魔法にも強いからな。うん。『プラチナ合金アーマー』は表面に特殊な加工が必要だったけど、これなら特に必要ないしな」


 桜さんは何度もうなずき、素材を持ったまま力強く言う。


 さらに「じゃあコイツのを全部出してくれ」と言われたので、マジックバックから残りのノーフェイスの素材をゴロゴロと出していく。


 これで使う素材は決定だ。

 ギルド総長の柳さんにも頼まれているし、残りの貴重な十一種は、もしものためのストックはせずに換金コースとなる。


「ほう、これで全部か。桜と言ったな。バタローの新たな鎧はいつ頃できそうなんだ?」


 と、ここで。

 俺、ではなく頭の上のばるたんが、鋏を広げて興味深そうに聞く。


 その問いを受けて、桜さんは顎に手を当てて考えると、


「うーん、素材が素材だからな。きっちり細部までこだわって作りたいぞ。【スキル】での製作はイメージも大切だしな……」


 もう完全に職人の顔になっている桜さんは、ノーフェイスの素材を凝視する。


 このゴツくてツルツルした岩から生み出される鎧。

 素材は持参したからそこまでお金はかからないが……。


 性能面では間違いなく、俺にとっては初めてとなる『億超え装備』となるだろう。


「明日の夜……いや、明後日の昼にしよう。その頃に渡せるようにしておくぞ」


 言って、桜さんは頭の白タオルを巻き直す。

 キツネ目な目をさらにキリッとさせると、くるっと座布団の上で回って作業台に向き合う。


 こうなったら職人モード、作業の邪魔をするのは悪いからな。

 俺は「はい」とだけ返して、ズク坊とばるたんと共に工房から出ようとして――。


 明後日の完成を楽しみに、一歩踏み出した瞬間。

 俺の背中に、桜さんからテンション高い自信満々な声がかかる。


「『門番(ゲートキーパー)』製の『億超え装備』か。楽しみに待っとけよモー太郎ッ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ