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閑話八 太郎家の日曜日

前回のあとがきに書くのを忘れてました(汗)。

ほのぼの閑話を一つ挟みます。第三者視点です。

「ふぁあああー」


 太郎家の日曜日は遅い。

 土曜の夜遅くまでアニメだの何だのを見るため、起きるのは大体、朝の十時頃となっている。


 その朝十時。気持ちの良い快晴の日。

 平日と違って目覚まし時計を封印し、ベッドからむくりと起きたのは――家長である太郎だ。


 まだ少しだけ眠い目をこすり、頭には立派な寝ぐせをセット(?)して、ベッドから下りて立ち上がった。


「ホーホゥ……」

「んぬー、もう朝か……」


 同時、ズク坊とばるたんもタイミングよくベッドから起き出す。


 今日は太郎が一番最初だったが、実はこの一人と一羽と一匹。

 いつも誰かが起きると、不思議と連鎖するように目を覚ますようになっていた。


 ……ちなみに、それぞれのベッドでの位置関係については、

 太郎がベッドのど真ん中にドン! と大の字に寝て、枕元にズク坊が、太郎の腹の上にばるたんが寝ている、という感じだ。


 そうしてベッドの定位置から、ズク坊とばるたんはいつもの定位置(右肩と頭の上)へ。


 皆で仲良く洗面台で顔を洗い、太郎の歯磨きが終わるのを待ち、一度玄関の郵便受けから新聞を取ってからリビングへと向かう。


「ズク坊もばるたんもちょい待ってなー」

「ホーホゥ」

「おう、いつもすまねえな」


 朝のリビングに入ると、各自ここで別行動に移る。


 まず太郎。

 寝巻きのままキッチンに立つと、ズク坊の好物であるバナナシェイクを作るべく、慣れた手つきでジューサーにバナナと牛乳を突っ込む。


 それに平行して取り掛かったのは、ばるたんが飲むお茶の用意である。

 電気ケトルでお湯を沸かし、わざわざ急須に茶葉(静岡産の高級なやつ)を入れて、『濃くて渋め』なお茶を入れるのだ。


 次にズク坊。

 太郎の右肩から飛び立つと、即行で革張りのソファに座ってテレビをつける。


 録画したばかりの朝のアニメを見始めて……最初こそきちんと座っていたのに、徐々にソファの上で『日曜日のお父さんスタイル』になっていく。


 最後にばるたん。

 一匹だけキッチンでもソファでもなく、位置取ったのは朝日が差し込む窓の近くだ。


 ――ぺラリ、……ぺラリ。

 器用に二本の鋏を使い、めくっているのはさっき取ったばかりの新聞である。


 読○、朝○、毎○、日○、そして産○。

 全国紙を脇に置いて、かなりの速度で新聞をチェックし始めた。


 これは知識欲旺盛なばるたんのため、太郎が毎日取っているものだ。

 太郎もズク坊も一紙のテレビ欄だけで十分だが、ばるたんは毎朝、政治や経済、スポーツまで目を通すのが日課である。


「ほい、できたぞ。朝メシにしようか」

「ホーホゥ。昨日の夜は軽く済ませたからお腹ぺこぺこだぞ」

「ん、香ばしい良い匂いじゃねえか。さては隣町のパン屋のクロワッサンだな?」

「ご名答。さすがはウチ一番のグルメだな」


 太郎は用意した飲みもの&クロワッサンをテーブルに置く。


 ズク坊とばるたんは待ってました! とテーブルに乗り、遅めの朝食を皆でアニメを見ながら食べ始める。


 ……ばくばく……もぐもぐ……ごっくん。

 そうしてササッと朝食を食べ終えたら、あとはもう昼食まで自由な時間だ。


「よし、腹は満たしたぞ。それじゃちょっと空のパトロールに行ってくるぞホーホゥ!」

「はいよー」


 ズク坊は太郎に窓を開けてもらって晴れ渡る空へ。

 しっかり『暴風のスカーフ』まで巻いてもらい、もう完全に自分のものにしたトップスピードで飛んでいった。


「さて、俺は新聞の残りを読むのと……今日は囲碁の勉強をするか。この間の名人の戦いの棋譜並べといこう」

「はいよー」


 ばるたんは新聞を読みつつ、太郎に囲碁盤と石を引っ張り出してもらう。


 さらに、ばるたん専用の座布団を何枚も重ねてもらい、高さを合わせてもらってから。

 全国紙の朝刊全てを読み終えると、すぐに一人で囲碁を打ち始めた。


 パチ、パチ、パチ。

 リビングに石の小気味いい音が響きだした中、この家の主である太郎はというと、


「……よし、必要なものはこれとこれで全部だな」


 ぶつぶつと言いながら、太郎はリュック(普通のやつ)の中に持っていたクリアファイルを入れる。


――『モテる 趣味』。


 少し前に、ネットサーフィンの間にそうネットで検索してみた結果。

 スポーツだの何だのと、色々な趣味が出てきていたが……。


 迷宮に格闘技ジムにと忙しい太郎が目をつけたのは――『ドライブ』だった。


「ふっふっふ、これぞ大人の男の趣味ってやつだ!」


 太郎は現在、持っているのは原付免許だけ。

 なので今回、車の免許を取るべく非モテな男は動いたというわけだ。


 つまりは『教習所』。

 日曜日で時間があるので、これから必要な書類とお金を出しにいくつもりである。


 ……が、しかし。


 この時、不純な動機で決意した太郎は知るよしもなかった。

 誰でも入れるおバカ大学卒といえど、仮免の筆記試験は二度目で受かる事になるのだが……。


 絶望的な運転センス。まるで掴めぬ車両感覚。


 いつもの戦闘スタイルのような突進運転で、何度も教習所内で脱輪を繰り返し、

 隣に座る教官達に、何度も何度もため息とブレーキをされ続けた結果――。


 何とかこぎつけた仮免試験で連戦連敗。


 郡山で鬼ハードな試練を乗り越えたはずのパワフルな男は……あまりに本番に弱く。

 七度目の不合格により、ついに心がポキッと折れて撤退する事に。


「んじゃ、ばるたん。ちょい出かけてくるから自宅警備をよろしくな!」

「おう。車に気をつけていくんだぞ」


 そんな運命など露知らず、太郎はカッコイイ車を華麗に操る自分を想像しながら。


 一番近い教習所に書類とお金を収めて、帰りのコンビニでお菓子類のストックを買ってから、ルンルン気分で帰宅する。


 すでに戻っていたズク坊の一人オーケストラ、さらにまだ集中していたばるたんの石を打つ音をBGMに、

 太郎はネットで車(スポーツカー)を見たり、厳選した大人なDVDを購入していく。


『ピンポーン』。

 そうやって過ごしていると、お昼前になって太郎家に訪問者が。


「ホーホゥ。……来たなすぐる!」

「おっ、ぽっちゃり料理人のお出ましか!」


 玄関のドアホンが鳴った直後。

 白い翼はファバサァ! と、赤い鋏はカチカチ! と。


 テンション爆上げなズク坊とばるたんは、すぐに趣味を切り上げると太郎の頭と右肩の上へ。


 理由は今日のお昼、すぐるが作る『激ウマビーフカツ』のせいだ。

 しかも素材は『郡山の迷宮』で仕入れた、暴れ牛を使ってのビーフカツである。


 他の付け合わせやズク坊所望のイチゴ大福も含めて、ドアを開ければスーパーの袋を両手に持ったすぐるの姿が。

 相変わらず体型隠し(本人は否定)で地上でもローブを纏い、いつもの火魔術師の姿がそこにはあった。


 そんなすぐるの、「お邪魔します」の声をかき消すように。


 太郎家からズク坊が代表して、またファバサァ! と翼を広げてハイテンションで言う。


「さあさあ、すぐる! あの激ウマビーフカツを――早くキッチンの魔術師になるんだホーホゥ!」

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